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悲願と天命

登場人物


ロット・ステイメン…主に回復や防御をおこなう僧侶、常に冷静沈着で戦術指示も出すチームの頭脳的な存在

ギャレット・ゼファー…カードキャスターという珍しい職業だが非常に優秀、自分からチームに売り込みに来たが自分の事は話したがらない、いつも冗談を言って場を和ませるチームのムードメーカー

徳川家康…三河、遠江の戦国大名、信長の同盟者であり後の天下人

石川数正…徳川家康の側近で智勇兼備の勇将

武田信玄…甲斐、信濃を治める戦国武将、兵法に精通し部下からの信頼も厚い、配下には

”武田二十四将”と呼ばれる勇将がおり無敵の騎馬軍団を従え戦国最強の大名といわれている


ゼファーとステイメンが激しい戦いを繰り広げていた頃、石川数正の


報告を今か今かと待ちわびていた家康、数正の姿が見えると


表情がパッと明るくなる


「おっ、ようやく来たか数正、で どうだったのだ


 上手くいったのか!?」


ワクワクしながら問いかける家康とは対照的に数正は渋い表情で目を伏せる


「狙撃自体は成功しました、しかし標的を仕留める事叶わず


 武田信玄は今だ健在にございます・・・」


「そうか・・・であれば仕方がない、また別の手を考えるまでの事じゃ


 ご苦労だったな数正、ゆっくり休むとよい・・・」


すると数正は鋭い視線を家康に向け静かな口調で語りかけた


「実はその件でステイメン殿とゼファー殿からの伝言がございます


 ”武田信玄は既に人にあらず、我らが対処します故


 余計な手出しは無用”との事にございまする」


驚愕の事実を知らされた家康の表情は険しく変わり


周りの人間もざわつく


「それは誠か?」


「はい、お二方はそう申しておりました」


「ではたった二人で信玄の元へ向かったと申すのか!?」


「はい、その通りにございます」


しばらく考え込む家康、そしてボソリと独り言のように


「ステイメン殿とゼファー殿は兄上の大事な御方達、何かあったら


 兄上に顔向けできぬ・・・」


その時、別室で治療を受けていた織田家家臣の滝川一益、佐久間信盛が


部屋に入って来た、両者とも髪を乱し額の包帯には血がにじんでいて


激闘の後を物語っていた


「心配はいらぬでござるよ家康殿、あの二人は大丈夫でござる」


「左様、あの者達の何とも不可思議な力に我等は何度も


 助けられておりまする、きっと無事で戻ってくるでござるよ」


二人の言葉に思わずうなづく家康、しかしその際にある事に気が付く


「そういえば平手殿の姿が見えませぬが・・・」


滝川一益と佐久間信盛は先ほどとは違う沈痛な表情を浮かべ目を伏せる


「平手殿は、討ち死にいたしました・・・」


家康を始め皆言葉を失う、徳川軍も夏目吉信を始め有能な部下達を


何人も失っている、重い空気の中、無言のまま天井を見上げる家康は


ステイメンとゼファーが無事に帰ってくることを願っていた





ゼファーと山本勘助が激しい死闘を繰り広げていた頃、ステイメンも


武田信玄の猛攻に耐えていた


「ワハハハハ、どうした異国の僧侶よ、守っているだけでは


 戦には勝てぬぞ!?」


信玄は右手に持っている軍配を激しく振るう、するとどこからともなく


発生した闇の渦が激しい波のようにステイメンを襲った


右手の掌をかざし結界を展開して必死に守るステイメン


「何という圧力ですか、真祖吸血鬼《トゥルーヴァンパイア》が凄い


 事は知っていましたが、これほどとは!?」


次々と襲い来る黒い闇はまるでそれ自体に意思があるかのように


何度もステイメンを飲み込もうと襲い掛かる


その時、周りにいた武田兵にも黒き闇の余波が接触すると


兵達はあっという間に骨と化していた、意識のないまま闇に飲まれ


骨と化す武田兵を見て思わず目を伏せるステイメン


「惨いことを・・・彼らはあなたの部下でしょう?」


険しい表情を浮かべ反論する様に口を開く信玄


「戦に犠牲はつきもの、ワシが天下を治め戦のない世を作れば


 犠牲者は少なくなろう、お主の様な異形の者を捨ておく訳には


 いかぬ、ここで死んでいった者達も太平の世のための


 礎となるのだ!!」


赤く光った瞳をギラギラさせながらそう語る信玄、それを諭すように


「形式は違えどあなたも私と同じ僧侶なのでしょう?人の命は


 そんな風に扱うモノではありません・・・ところであなたは


 どうやって吸血鬼化したのですか?血を吸われ眷属として


 吸血鬼化したというならともかく、自ら真祖として


 吸血鬼になるにはかなりの専門的な知識が必要となります


 たまたま偶然できるようなものではないんです、どこでそれを


 知ったのですか!?」


信玄はクックと小刻みに笑う


「知りたくば攻撃を加えてみよ、少しでもこのワシに損傷を


 与えることができたのなら教えてやらんでもないわ!?」


「その言葉忘れないでくださいよ、ホーリーバインド!!」


ステイメンの目つきが変わり今までの防御一辺倒から攻撃に転じた


ステイメンの放った聖なる光の輪が何重にもなって信玄を捕える


ステイメンが掌を握り始めるとそれと連動するかのように


光の輪の塊が徐々に収束していく、しかしある一定の小ささになった時


収束がピタリと止まると急に光の輪がはじけ飛び、中から信玄が姿を現す


聖なる光の輪によって全身に火傷の様な傷を負っていた信玄であったが


みるみるうちに回復していき数秒後には何事もなかったかのような


姿に戻ってしまっていた


「満月の恩恵というのは凄いものですね、でもそれなりのダメージは


 与えたと思いますが、どうです約束通り喋ってくれませんか?」


先ほどまで余裕の態度を見せていた信玄が少し苛立つ様な素振りを見せる


「なるほど、防御に徹し味方の援軍を待っているのかと思っていたが


 ちゃんと攻撃手段は持っているという訳だな、よかろう話してやる


 ワシがなぜ吸血鬼になったかをな・・・」


先ほどまでの激しい戦闘が嘘のように信玄は静かに滔々《とうとう》と語り始める


その目はどこか遠くを見つめるかのような落ち着いたモノであった


「ワシは”戦国最強”、”甲斐の虎”などと呼ばれながらも京に上洛し


 天下に号令を下すという夢を果たせずにいた、地理的な事と


 周りの状況がそれを許さなかったからだ、そんな忸怩たる思いを


 ずっと胸に秘めながら何年も生きている内にワシの体は病に


 侵されていたのじゃ、そんな時、たまたま時世に乗って好機を掴んだ


 だけの織田信長という若造が天下に近づいていると聞いたのじゃ


 その時のワシの気持ちがわかるか!?たまたま尾張という国に生まれ


 偶然今川義元を討っただけの成り上がり者が天下人!?


 ワシは胸に湧き上がる憤りを抑えることができなかった


 その時じゃ、あ奴が現れたのは・・・」


「あ奴?」


思わずステイメンが眉をひそめる


「ふっ、どこのどいつかはよく知らぬ、なにせ奴は銀の仮面を付け


 黒い外套を着ておったからの」


「外套?マントの事ですか・・・銀の仮面に黒マント


 一体何者なのですか?」


信玄は自嘲気味に笑い首を振る


「全く知らぬ、いきなりワシの寝所に現れこう言ったのじゃ


 ”力が欲しくはないか?”と”病などで死なない不死身の体を


 欲しくはないか”とな、最初はどこの狂人かとも思ったが


 いきなりワシの寝所に姿を現すというだけでも不可解じゃ


 そのような面妖な者を素通りさせるほどワシの屋敷は甘くない


 しかし護衛の兵はおろかいくら呼んでも誰一人駆け付けぬ


 そうしたらそ奴はこう言ったのじゃ”まだ信じられないのであれば


 私を刀で貫いてみろ”とな百聞は一見に如かずとも言うておった


 ワシは枕元に置いてある”三日月正宗”を手に取り奴の体を貫いた


 しかしあ奴は何事もなかったかのように平然としておったのじゃ


 もはや疑う余地は無いと判断し話を聞くことにした、考えてみれば


 誰にも邪魔されることなくワシの寝所に忍び込み刀で貫いても


 死なない体を持っているのであれば、ワシを殺そうと思えば


 いつでもできた、という事じゃからな・・・」


信玄は一旦話すのを止め、ふと夜空を見上げた


「あの日もこんな満月の夜じゃった・・・不死身の体


 吸血鬼になる為の儀式は全てあ奴がやってくれた


 当然ワシは”見返りはなんだ?”と聞いたのだが


 奴は一言こう言った”見返りはいらぬ織田信長を討ち


 天下を治めよ”と・・・」


「信長公を・・・」


わかってはいたことだが、正体不明の敵はやはり信長を


標的としていた事がここでハッキリと判明した


すると信玄は何かを思い出したかの様に笑みを浮かべる


「あの頃は尾張の織田信長なぞ歯牙にもかけてはおらなかったが


 まさか本当に天下に近いところまで行くとはな・・・


 わからぬものよ、しかしそれもここまで、このワシ自ら


 織田信長を叩き潰してくれるわ!!」


大きく口を開け邪悪な笑みを浮かべる信玄、二本の鋭い牙が


月夜に照らされ怪しさを際立たせていく、背中から飛び出した


蝙蝠の様な巨大な羽根で上空へと舞い上がる


「さあどうする異国の僧侶よ、空からの攻撃では貴様には


 手も足も出まいて」


満月をバックに勝利を確信している信玄は高い場所から勝ち誇る


「そうでもないですよ、イクスパンシヴ ホーリーバインド!!」


ステイメンがそう叫ぶと信玄の周りに巨大な光の輪が発生する


それは直径10m程もあり、今までモノとは比べ物にならない程大きく


まるで信玄を取り囲む罠のように展開した、ステイメンが掌を握ると


巨大な無数の光の輪は信玄を捕えグイグイ締め上げる


「どうですか?イクスパンシヴ ホーリーバインドは通常の


 ホーリーバインドよりも威力、効果範囲共に5倍近くあります


 これでどうですか!?」


無数の巨大な光の輪が収束し球体状の物へと変わる、光の繭に


閉じ込められたかの様な形の信玄は中で必死の抵抗を見せる


徐々に収束してはまた大きくなるというせめぎ合いがしばらく続く


ステイメンの額にも汗がにじんでいた、一気に収束し押しつぶそうと


するがどうしても決めきれないことにやや焦りを感じていた


「うおおぉぉぉーーー!!」


激しい雄たけびと共に光の繭を引きちぎり信玄が姿を現した


全身は焼けただれ息を荒げながらも鋭い眼光とあふれ出る殺気が


まだ戦闘を継続できるという事を物語っていた


「はぁはぁはぁ、今のは危なかったぞい、しかし今のが貴様の


 切り札か・・・もう二度と同じ手は食わない、じっくりと


 切り刻んでやるわ!!」


信玄は再び翼を大きく広げ上空高く舞い上がる、月光を全身に浴び


焼けただれた体は急速に回復していく


「ゼファーの言葉じゃありませんが、随分と卑怯な体ですねぇ」


半ば呆れ気味に首を振るステイメン、そんな事はお構いなしとばかりに


高速で飛行する信玄、その速さは正に目にも止まらぬといったモノであり


しっかりと姿を捕える事すら困難であった、そして上空高くから一気に


急降下してきて鋭い爪で攻撃を加えそのまま飛び去って行くという


戦法に切り替えたのだ


「一撃離脱戦法《ヒットアンドアウェイ》ですか・・・随分と


 手堅い戦法出来ましたね」


「フハハハハハ、何とでも言うがいいわ、貴様の結界を維持する魔力も


 どこまで持つかな?ワシは満月が出ている限り無限の魔力がある


 そして不死身のこの体、いくら貴様でも朝までは魔力が持つまい


 今謝って降参するというのであればワシの忠実な僕として


 眷属にしてやっても良いぞ、どうだ!?」


もはや勝ちを確信し従属を申し出てくる信玄、その誘いを自嘲気味に


笑うステイメン


「吸血鬼の僧侶とか・・・シャレになりませんよ


 せっかくのお誘いですが遠慮申し上げます」


「そうか、ならば死ね!!」


更に速さを増し連続攻撃を加える信玄、ステイメンは結界で何とか


防いでいるモノのかなり厳しい状況にある事に違いはなかった


『う~ん参りました、これではジリ貧です・・・ならば仕方ありませんね


 あまり使いたくはない手ですが、致し方ありません・・・』


ステイメンは何かを決意したが状況は一向に変わらなかった


信玄による攻撃は緩慢なく続き、鋭い爪が結界を攻撃する音が


満月の夜に何度も鳴り響く、そしてついに結界が崩壊した


「ぐあぁぁぁ~~!!」


ステイメンは肩を押さえてうずくまる、肩には真新しい傷と


大量の血がにじんでいた、それでも信玄の攻撃は続く


徐々に切り刻まれていくステイメン、既に全身はボロボロで


もはや立つことすらできない状態にまでなっていた


「貴様もよく頑張ったが、もはやここまでのようじゃな


 これが最後の忠告だ、我が眷属となり我に仕えよ


 断れば殺す!!」


ステイメンの目の前に降り立ちゆっくりと近づいてくる信玄


片膝をつき満身創痍のステイメンを見下ろしながら


右手を高々と上げた


「だから言ったでしょ、吸血鬼の僧侶なんてシャレにならないと


 丁重にお断りしたはずですが・・・」


「ならば死ね、天下はワシが治める、さらばじゃ!!」


信玄がその右手を振り下ろそうとした瞬間、ステイメンの体が


まぶしく光った


「な、なんじゃ!?」


正体不明の光に戸惑う信玄、しばらくして光が治まるとそこには


驚愕の光景が待っていた、それは何事もなかったかのように


無傷のステイメンがそこに立っていたからである


「な、馬鹿な、貴様も不死身だとでもいうのか!?」


「まさか、私は普通の人間です、不死身なんて有り得ませんよ


 でも私は僧侶です、回復魔法を少々たしなむものですから」


その時信玄は気づいた、自分が無防備で敵の前に立っていることに


「まさか貴様、ワシをおびき寄せるためにワザと魔力切れのふりをして


 満身創痍になるまで耐えたというのか!?」


ステイメンはその問いかけには答えなかったが口元が緩み


冷たい視線をぶつけてきたのだ、信玄は背中がゾッとし


慌てて羽根を広げ飛び立とうとする


「おのれ、おのれ~!!」


その時信玄の足元に巨大な白い魔法陣が発生した


「これは私が使える最大の魔法です 死者蘇生《リアニメーションオブザデッド》!!」


ステイメンが叫ぶと信玄の目の前に巨大な三人の女神が現れた


それは自愛の女神 ミューゼ


真理の女神 ファルム


規律の女神 ドラーヒム であった


三女神たちは両手を広げ信玄を囲むように微笑む、まばゆい光が


天空から降り注ぎ信玄を包んでいく


「ぐあああぁぁぁぁーーー!!」


信玄の体は煙を出し焼かれていく、満月の効力で再生してはいるのだが


再生能力より早く焼かれているのだ


「なんだこれは!?私は不死身のはずだ、なぜ焼かれる!!」


「この魔法は死者蘇生《リアニメーションオブザデッド》といって


 私の持つ最大のモノです、本来は死んだ者を生き返らせる為の


 魔法であり攻撃力はありません、しかしアンデッドである


 貴方には最悪の魔法として作用するでしょう、三女神による


 聖なる力は絶大です、全てを救済し魂ごと浄化します」


もがき苦しむ信玄、何とか逃れようと必死で抵抗するがもう


身動きすらとれなかった、手足は既に灰となり宙に霧散し始めていた


「そんな馬鹿な、ワシは天下を治めるのだ、ワシこそ天下人に


 ふさわしい、それがなぜ、どうしてこうなった!?」


悲しげなまなざしで信玄を見つめるステイメン


「人の世を治めるのは人でなくてはなりません、貴方は人であることを止め


 アンデッドである吸血鬼になることを選んだ、それが間違いなのです


 貴方はこの世界にいていい人間ではないのです、もう帰りなさい


 貴方のいるべき場所、幽世《かくりよ》の彼方に・・・」


「おのれ~ワシは死なん、ワシは・・・」


断末魔ともいえる叫びを残し、戦国最強と呼ばれた武田信玄の野望は


ここに潰えた、あれほど激しい戦闘がおこなわれていたとは思えないほど


静かな夜、かがり火も消えかけ暗くなりかけてきたその時


ステイメンの元にゼファーが帰ってきた


「ようステイメン、そっちも終わったみたいだな」


「お疲れ様です、ゼファー そっちも大変だったみたいですね」


「全くもう勘弁してほしいぜ、ここのところアンデッドの


 おっさんばっか相手だしな、もうアンデッドともおっさんとも


 戦わないからな、大体本来この手の相手はステイメンかルキアだろ


 戦い大好きライオスでもいいしな、もう嫌だ、絶対もう戦わない!!」


そう言って拗ねるようなしぐさを見せるゼファーをほほえましく


見つめるステイメン、先程まで二人の敵にすら思えた満月が二人を


優しく照らしていた。









 


 

今回は三方ヶ原の戦いの最終章です、前話に引き続き完全なファンタジー系のお話でしたが

いかがだったでしょうか?今回は信玄との対決のみでしたのでいつもより短い話になってしまました

さて次話からまた新しい展開に行こうと思っていたのですが、先日書いたコメディ話がありまして

それを先に載せたいと思います、今度は二話構成になっておりますのでまた懲りずに

お付き合いください、では。

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