夜の帝王
登場人物
ロット・ステイメン…主に回復や防御をおこなう僧侶、常に冷静沈着で戦術指示も出すチームの頭脳的な存在
ギャレット・ゼファー…カードキャスターという珍しい職業だが非常に優秀、自分からチームに売り込みに来たが自分の事は話したがらない、いつも冗談を言って場を和ませるチームのムードメーカー
徳川家康…三河、遠江の戦国大名、信長の同盟者であり後の天下人
石川数正…徳川家康の側近で智勇兼備の勇将
武田信玄…甲斐、信濃を治める戦国武将、兵法に精通し部下からの信頼も厚い、配下には
”武田二十四将”と呼ばれる勇将がおり無敵の騎馬軍団を従え戦国最強の大名といわれている
武田信玄の見事な采配により大敗を喫した徳川軍、家康は命からがら
浜松城に逃げ帰り武田信玄という男の恐ろしさを嫌という程味わった
そしてこの敗戦を忘れないようにと城に帰るとすぐに絵師を呼び
今の自分の惨めな姿を絵に描かせた、それ以来家康は武田信玄を
心の師と仰ぎこの戦いをしっかり心に刻んだと言われている
そして次々と家臣達が浜松城に帰還したが皆ボロボロで
その表情は暗く重たかった、夜になると浜松城の前に陣を構える武田軍
そんな中、家康に石川数正がこっそり近づきある提案をした
「殿、もはや正攻法では信玄を討ち取ることはかないません
ならば別の手段を使ってみたらどうでしょうか?」
その提案に険しい顔を浮かべ怪訝そうに問いかける家康
「別の手段だと!?一体何をするつもりなのだ?」
石川数正が後ろの部下に合図すると男一人、女一人の二人の者が
家康の前に姿を見せた、男は長筒の鉄砲を持っており
女は横笛を持っていた、二人は家康の前で深く頭を下げる
「この二人は笛の名手と鉄砲の達人でございます、今宵は満月
この者の笛の音色で信玄を油断させ鉄砲にて狙撃するのです
もし失敗したとしても大した痛手にはなりませんし
やってみる価値はあるかと」
「正攻法で無理なら搦め手か、それも常道ではあるが・・・」
難しい顔をして決断しかねる家康にステイメンとゼファーも後押しする
「家康公、その作戦、是非やってもらえませんか?我々にも
少し気がかりな点があり確認のためにもお願いしたいのです」
「もし我らの予想が当たっていた場合、私達が直接武田信玄の元に
向かわなければならないかもしれぬのです、何卒!!」
家康は目を閉じ少し考えたが大きくうなづきその作戦の許可を出した
「あいわかった、数正やってみよ、そしていざとい時は
ステイメン殿、ゼファー殿よろしくお頼み申す」
家康は二人に深々と頭を下げた
一方武田の陣営では勝ち戦に奢ることなく浜松城攻略のための
作戦会議を開いていた、夜が訪れ辺りは既に暗くなっていたが
大量に置かれたかがり火と空の月が明るく照らしてくれていた
その時どこからともなく笛の音が聞こえてくる、その美しい音色は
満月の夜と相まってとても幻想的な雰囲気を漂わせた
「何でしょうな、この笛の音は?」
「どこから聞こえてくるのかはわかりませぬが何とも心地の良い
美しい調べにござるな・・・」
「まるで我々の勝ち戦に花を添えてくれている様ではありませんか!?」
武田の家臣達は揃ってその笛の音に聞きほれた、その時
信玄はおもむろに立ち上がり笛の音の方向にフラリと歩き出す
「殿、危険です、あまり前に出られますと・・・」
その瞬間である、”パーン”という銃声が夜の闇に轟き信玄の胸に
弾丸が直撃した、慌てて立ち上がり信玄に近づく家臣達
「殿!!ご無事ですか!?」
「医者じゃ、早く医者を呼べ!!」
「殿、お怪我は!?」
慌てる家臣たちをあざ笑うかのように何事もなかったかのような
口調で話し始める信玄
「慌てるでない、少し甲冑にかすめた程度である、医者も無用じゃ」
信玄の無事な姿に一同は安堵する、しかし武田家家臣の一人
小山田信繁がある事に気づく、それは信玄の甲冑の胸の部分に
鉄砲によるものと思われる真新しい穴が空いていたのだ
ギョッとした表情で信玄を見つめる、その時、信玄の甲冑の下から
ポトリと落ちるモノがあり、そちらに視線を移すとそれは
紛れもない鉄砲の弾であった、呆然とその弾を見つめる小山田信繁
すると信玄が振り向き小山田信繁に向かってニヤリと笑う
「信繁、他言無用じゃ 良いな」
小山田信繁は何も言えず只々呆然と立ち尽くした
その頃、徳川側では鉄砲を撃ち終えた狙撃手が石川数正に向かって報告する
「手応えはありました、信玄に致命傷ともいえる一撃を
食らわせる事が出来たと思います」
その言葉に思わず喜びの顔を浮かべる石川数正
「そうか、やったか!?・・・でどうなのでしょうステイメン殿
ゼファー殿?」
喜びの表情を浮かべている数正とは対照的に険しい表情を崩さない
ステイメンとゼファー
「武田信玄は死んではいません、というより嫌な予想が
的中したようです・・・」
「ああ、それも予想される中でも最悪のモノかもしれないね」
その言葉に表情が一変する数正
「それは一体・・・!?」
「まだハッキリとは断言できないので何がどうなっているとは
断定できません、しかしこれは間違いなく我々の案件です」
「そうだね、ちょっと今から二人で信玄さんに会いに行ってくるよ」
その言葉に驚きを隠せない数正は思わず
「たったお二人でですか!?」
その問いに無言でうなづく二人、そして
「家康公にお伝えください、武田信玄は既に人ではありません
我々の方で何とかしてみるつもりですのでくれぐれも軽率な
行動は慎んでくださいと」
「それは一体!?・・・」
言っている意味がよく理解できずに戸惑う数正を尻目に
二人はあっという間に夜の闇に消えていった
武田陣営では敵からの狙撃に肝を冷やしたものの信玄の無事に
胸をなでおろし更に警戒を強めたところであった
「敵襲に備えよ、怪しい奴は絶対に殿に近づけるな
徳川には優秀な忍びも多いと聞く、怪しいと思った奴は
捕える必要はない即刻斬り捨ててかまわん、良いな!!」
「御意!!」
ピリピリとした雰囲気が武田陣営を支配する、その時警備の兵が
何かに気が付いた
「おい、何かいい匂いがしないか?」
「そういえばそうだな・・・これは一体何の匂い・・・」
そう言い終わる前には警備兵の目は半開きになりトロンとした
目つきで立ったまま意識を失っていた
「ハイハイ御免なさいよ~斬り捨てられたらたまらんから
皆さんお寝んねしてて頂戴ね~」
立ちながら意識を失っている武田兵の中をそそくさと進んでいく
ステイメンとゼファー、もはやオブジェと化した武田兵を尻目に
武田信玄のいる本陣へと急ぐ二人、物音一つしない陣の中で
かがり火の燃える”パチパチ”とした音だけが唯一の音である
ようやく信玄のいる本陣に着くと幕の中から声がした
「一体誰じゃ?コソコソと鼠がごとき賊共か!?」
ステイメンとゼファーは幕をたくし上げるように中に入り
信玄と対面する
「はじめまして、武田信玄公ですね」
「夜分遅くにお邪魔するよ、夜這いの相手がおっさんというのが
イマイチだけどね」
突然現れた二人の姿に動揺することもなく椅子に腰かけたまま
堂々と対峙する信玄、少しの間ジッと見つめていたがニヤリと笑い口を開いた
「お主たちがレスティアレ・ラドスからの刺客という訳か」
信玄の口にした“レスティアレ・ラドス”という言葉にピクリと反応する
ステイメンとゼファー
「そこまで知っているなら話は早いですね」
「まあゴチャゴチャと問い詰める手間が省けて助かるよ、まあ
俺たちにしてみればあんたの方が刺客なんだけどね
それはどうでもいいや」
ゼファーの言葉にフッと笑い不意に立ち上がる信玄
そして右手に持っていた軍配を素早く横に振った、すると
何処からともなく大量の蝙蝠が発生し二人に襲いかかって来たのだ
満月の夜空を覆いつくすかのような黒い集団が塊となって迫ってくる
「なんじゃこりゃ!?」
「どうやら吸血蝙蝠のようですね、では」
ステイメンが両手を広げ強く拍手をするかのように両手を合わせる
すると耳をつんざくような“キーン”という高い音が発生し
大量の蝙蝠たちは急に方向性を失ったかのようにバタバタと
落下したりお互い空中でぶつかり合ったりして混乱し始めたのだ
地面に落下した蝙蝠達はもがくように羽根をバタつかせている
そんな蝙蝠達をチラリと見て信玄は目を細め静かにつぶやく
「ほう、やりおるのう・・・」
そんな信玄の褒め言葉に何事もなかったかのように答えるステイメン
「別に大したことではありません、蝙蝠は超音波によって自分の居る
空間や周りの状況を把握する性質がありますからね、特殊な
超音波を放ちその空間把握能力を狂わせてやればこんなものですよ」
特に勝ち誇る訳でもなく淡々と語るステイメンに対し何処か嬉しそうな信玄
「なるほど、ではこれではどうだ!?」
信玄は再び軍配を振るうと意識を失っていた一部の兵がビクリと
反応し低い唸り声をあげて小刻みに震えだした
「おいおい、一体何が始まるんだ?
団体でダンスでも披露しようってか!?」
ゼファーの言葉とは裏腹に唸り声をあげていた兵達の体は
見る見る肥大化していき大量の体毛が生えて来たかと思えば
口や耳も人間のものから獣のそれへと変化していく
鋭い牙が生えた大きな口を開けダラダラとヨダレを垂らし始め
殺気立った視線を二人に向ける
その姿に思わずステイメンが目を細めて呟いた
「狼人間・・・」
「うへ〜もう既に人間やめちゃっていたのね!?」
狼人間達は唸り声をあげ今にも襲い掛かって来そうな勢いであった
「クックック、蝙蝠相手ならいざ知らず狼ではどう対処するつもりじゃ?
そして今宵は満月、こ奴らが最も力を発揮できる時、楽しみじゃわい」
まるでこれから始まる余興を楽しむかのように余裕の笑みを浮かべる信玄
「もう良いぞお前ら、その獲物達を食い尽くせ」
信玄の合図とともに二人に一斉に襲いかかる狼男達、その動きは
人間とは思えない程俊敏で獣じみていた、まるで本当の狼の群れが集団で
狩りをするかのように統率のとれた動きで一気に距離を詰めて来たのだ
しかしその爪と牙が二人に届くことはなかった、ステイメンの
強力な結界に阻まれ二人にかすり傷ひとつつけることはできなかった
半透明の球体に守られたステイメンとゼファーに対し狼男達は
極度の興奮状態の中で唸り声をあげながら結界に対して何度も
爪や牙を突き立てる、いかしどうしても近づけない事に
激しい怒りを感じているようであった
「もうおやすみなさい・・・」
ステイメンが静かにつぶやく、すると頭上に光が発生し
キラキラした無数の光の粒が夜空から舞い降りて来たのだ
すると極度の興奮状態だった狼男達の動きがピタリと止まり
徐々に人間の姿に戻っていき、その場に眠るように倒れていった
狼男達を退けた二人であったが信玄はまだ余裕綽々といった態度で
こちらをジッと見つめていた、そんな時ステイメンがゼファーに問いかけた
「今の蝙蝠と狼男はどうやって出したのでしょうか?魔法的な
儀式がおこなわれた気配はありませんでしたが・・・」
「今のはあのおっさんが持っている軍配の効果だ、あれは特殊な
魔道具であの軍配自体には攻撃力はないけど特殊な亜空間と
繋がっていてね、そこから色々なモノを引き出している
言ってみればアレはあのおっさんのおもちゃ箱に繋がってって
そこから色々なおもちゃを出して来てるって寸法さ、これ以上
危ない大人のおもちゃを出してこないでほしいけどね・・・」
そう言いながらもゼファーは背中に冷たい汗をかいていた
「なあステイメン、こうして近くで見てみるとあのおっさん
とてつもなくヤバイな・・・それでなんだが、俺あのおっさんの
正体がなんとなくわかってきたんだけど・・・」
「偶然ですね、私もようやく見当がついてきました・・・」
そんな二人の会話をむしろ楽しむかのように何もせずジッと見つめる信玄
「最初は邪悪な秘術の反魂法で蘇ったアンデッドだろうと
検討をつけていたんだが・・・」
「違いますね、アンデッドである事には違いないですが」
その時ゼファーはゴクリと息を飲んだ
「蝙蝠と狼男を使役し満月の夜にこれ程の魔力を感じる
相手って事はやっぱり・・・」
「はい、彼の正体は”夜の帝王吸血鬼”です」
ステイメンがそう言った時、信玄は怪しげな笑みを浮かべ大きく口を開けた
するとそこには吸血鬼特有の鋭く長い牙が不気味に二本生えていた
「おいおい、吸血鬼ってアンデッドの中でも
最上級クラスの化け物じゃねーか、ったく冗談じゃねーぜ
また貧乏くじかよヤレヤレ・・・」
両手を広げ嘆くゼファーに追い打ちをかけるかのように
ステイメンが補足説明を始める
「しかも彼はただの吸血鬼ではないようです」
「どういうことだよ?」
「普通吸血鬼というのは二種類に分かれます、他の吸血鬼に
血を吸われた人間は吸血鬼となる、このパターンがほとんどで
吸血鬼全体の九割以上がこれだと言えるでしょう
しかし中には秘術と儀式により自らを吸血鬼化する者が
います、いわゆる”真祖“というやつです」
「ああ聞いたことあるぜ、確か真祖吸血鬼って奴だな」
コクリとうなづくステイメン、そして話を続けた
「そうやって自らを吸血鬼化した真祖吸血鬼は
血を吸われ吸血鬼化した眷属に比べ桁違いの力を持っている事があります」
「おいおい、その話の流れだと・・・まさか!?」
「そのまさかですよ・・・今目の前にいる彼の持つ巨大な魔力と
この邪悪な波動、そして眷属が持つ特有の首の吸血痕が
ありません、間違いないでしょう・・・
しかしいくら真祖吸血鬼とはいえ昼間の太陽の元では
動けないはず、しかし彼は昼でも普通に行動していました
一体どうなっているのでしょうか?」
「それは説明がつくぜ、あの信玄のおっさんが身につけている
物々しい甲冑が太陽光から身を守っている、闇の波動が
甲冑の周りを渦巻いてるのを感じるぜ、全く昼でも動ける
吸血鬼とか反則級だろチートだよチート
もう帰りたくなってきたんだけど・・・」
「どうやら帰らせてはくれないようですよ、また別のお客さん
が来たようですから・・・」
その時、信玄の後ろから何者かが近づいてくる気配がした
ステイメンとゼファーが目を凝らして見ていると暗闇の中から
一人の男が姿を現す
「殿、遅くなりまして申し訳ありませぬ」
「ようやく来たか勘助・・・」
その男は信玄の前でひざまづいた、暗闇から現れた勘助と言われる男は
肌が浅黒く全身に無数の傷があり隻眼、そして足を引きずっていた
「勘助?もしかして武田軍軍師の山本勘助ですか!?」
ステイメンが思わず問いかけると勘助はニヤリと笑った
「ほう拙者のような者までご存知とは、ならばあらためて
名乗る必要はないようじゃな」
その言葉に目を閉じゆっくり首を振るゼファー
「おいおい山本勘助って死んだって聞いてたけど・・・
って事は、そういう事だよな!?」
ゼファーに応えるかの様に口を大きく開け笑う勘助
そしてそこには吸血鬼特有の鋭く長い牙が二本見えていた
「察しの通り拙者は川中島の戦いにおいて瀕死の重傷を負った
しかし殿のお陰でこうして吸血鬼としてまだ生きておる
殿に受けた大恩に報いるためにも、お主らを殺す
どうやらお主らは知りすぎた様じゃしな」
お互いの様子を伺いながらジッとにらみ合いを続ける四人
その時、ゼファーが小声でステイメンに話しかけた
「なあステイメン、タイプ的に俺が勘助のおっさんを相手する
方が相性は良さそうなんだが、信玄のおっさんの相手を
お前一人に任せても良いか?」
「ええ、かまいませんよ・・・」
そう言って静かにうなづくステイメン、それを聞いたゼファーは
信玄と勘助に向かってある提案をした
「なあ俺から一つ提案があるんだがいいかな?せっかく2対2に
なっているんだし、俺と勘助さん、ステイメンと信玄公で
戦うというのはどうだろうか?」
ゼファーの提案に信玄と勘助は顔を見合わせ何やら小声で
一言二言話したかと思えば大きくうなづいた
「いいだろう、そちの提案に乗ろうではないか、勘助よいな」
「殿の御心のままに・・・では我々は殿の邪魔にならぬよう
少し離れまする、さっさと片付けてまいりますので殿も
お気をつけあそばせ、ではご武運を!!」
勘助はそう言って軽く頭を下げ、そしてゼファーに向かって
無言のまま顎で指図する様に”あっちへ行くぞ”と示した
「じゃあ行ってくるわステイメン、夜のデートのお誘いが
あんなムサいおっさんでしかも吸血鬼とか・・・
前世でどんな各逆非道なことをしたらこんな責め苦を
背負わされるのかな!?」
いつものゼファーの軽口に思わず口元が緩むステイメン
「まあそれだけ言えれば大丈夫でしょう、わかっているとは
思いますが今宵は満月、吸血鬼が最も能力を発揮し無限の力を
振るうことができる時です、気を付けて」
ゼファーは背中越しに手を上げその言葉に応えた
勘助の後についてしばらく歩くと、広い場所へと誘われた
そこには何かを遮る岩や木、建物など何の障害物も何もなく
ただただ広い草原が広がっていた
「もうこの辺まで来ればよいであろう、兵達を巻き込む様な
戦いはやりたくなかっただけに場所を変えるというのは
こちらにとっても好都合であった、何せ殿の天下獲りの為の
貴重な戦力じゃからな!?」
勘助の言葉に少し呆れ気味で問いかけるゼファー
「兵達をみんな吸血鬼化するって考えはなかったのかい?
まあそんなの想像しただけでゾッとするけどね・・・」
「フッ、兵がみな吸血鬼化したら夜にしか動けない軍に
なってしまうではないか、それに吸血鬼の事はギリギリまで
伏せておきたい様じゃからな殿は、バレると部下達が
離反したり他国が恐れて連合を組まれても厄介じゃしな
信長の様に包囲網なぞ敷かれては堪らんからの」
そう言い放ちニヤリと笑う勘助
「ではそろそろ始めようかの、ワシはお主をさっさと片付けて
殿の元へ行かねばならんのでな」
自分の絶対的優位を確信しているその態度と言動とは裏腹に
いきなり攻めてくるという行動には移らない勘助、相手の
一挙手一投足を見逃すまいとジッとゼファーの方を見つめていた
『やっぱりそうか・・・百戦錬磨の武田軍の中で軍師を務める
ぐらいだからな、思慮深く自分の有利さを全面的に押し出し
負けない戦い方をしてくるタイプだね、だったら!?・・・』
「デュエルスタート!!」
ゼファーが叫ぶと目の前に5枚のカードが並ぶ
『ちっ、初手のカード内容はイマイチだな・・・』
ゼファーの職業はカードキャスターである、何でもできる代わりに
自分のやりたい事と手持ちのカードに誤差が出ることなどは
しょっちゅうである、それを持ち前のセンスと相手の心理の
裏をかく事によって乗り越えてきた、ゼファーは目の前の
カードの一枚を掴むとそれを投げつける
「じゃあ先手必勝、いくぜファイヤーアロー!!」
ゼファーの放った炎の矢が勘助の右肩に直撃し激しく燃え上がる
しかし勘助は一向に苦しむ様子も気にする様子も見られない
しばらくして右肩の炎が消えると焼けただれていた勘助の右肩は
見る見るうちに回復しあっという間に元に戻った
「何じゃそりゃ、おいおいおっさん、いくらなんでもそれは
ねーだろ!?」
「どうした、そんなもんか若造、これで終わりというなら・・・」
勘助が攻撃に移ろうとした時ゼファーの目が鋭く光る
『むっ、こやつ何かを狙っておる、一体何を!?』
勘助は攻撃に移ることを一瞬躊躇する、すると再びゼファーが動いた
「来ないのかいおっさん、じゃあこっちはドンドン行くぜ
サンダーシュート!!」
光の様な稲妻が放たれあっという間に勘助の右足に直撃し
吹き飛ばした、しかし勘助に有効的なダメージを与える事は
できなかった、今度は右足が再生し数秒後には何事もなかった
かの様にたたずむ勘助、呆れ顔で両手を挙げ首を振るゼファー
「もうどうやったら勝てるのか教えて欲しいぜ、こんなの
無理ゲーだよ無理ゲー、せめて攻略法のヒントでも教えて
くれないかな、おっさんよ!?」
「フッどこまでもとぼけた男よ、此の期に及んでもまだ
傾きよるか、ならば・・・」
勘助が腰の刀に手をかける、するとゼファーの目が再び光り
目の前のカードにチラリと視線を移す、それを見逃す勘助では
なかった、再び攻撃を躊躇する
『こやつめ一体何を狙っておる、どうやらワシの攻撃に合わせて
逆撃を食らわす算段をしておる様じゃな、危ない危ない
満月の恩恵を受けた今のこの身はほぼ不死身だが万が一という
こともある、相手の魔力は限界があるがこちらの魔力は無限
ワザワザこちらから近づいて虎の尾を踏む必要はないて
夜明けまでにはまだまだ時間がある、一定距離を保ち
相手の魔力切れを狙い確実に仕留める、勝つべくして勝つのが
風林火山の極意よ!!』
二度も攻撃を躊躇し相手の出方を見守る勘助を見て
「どうしたおっさん、来ないのか?だったらこっちだけ一方的に
攻撃しちゃうよ、武田軍の軍師ってのは随分腰抜けなんだな」
挑発とも取れる言葉を投げかけ相手を誘うゼファー
しかし勘助は動かない
『やはりそうか、挑発行為をしてでもこちらを動かしたい
様じゃな、しかし残念じゃのその手には乗らんて、精々
無駄な攻撃を繰り返し勝手に魔力を消耗して自滅するがよいわ
獅子は兎を狩る時も全力を尽くす、万が一にも隙は見せん
どうする若造、ジリ貧じゃろうてクックック、この勘助相手に
知恵比べは百年早かった様じゃの!?』
もはや勝ちを確信している勘助、そしてゼファーは挑発行為を
繰り返しながら、次々と攻撃を繰り出す
「汝が主人 ギャレット・ゼファーの呼びかけに答えよ
来い ダークバッファロー!!」
「喰らえ ウインドソード!!」
召喚された暗黒の猛牛が勘助めがけて猛然と突進しその鋭いツノで
勘助の胴体を貫く、そして続けて風による刃が勘助の体を斬り裂いた
しかしあっという間に再生し始める勘助の体、暗黒の猛牛は消し飛ばされ
風の刃による傷口も既に塞がっていた、満月の光を背に無限の力を得ている
勘助は正に不死身を思わせた、こんな相手に果たして有効な攻撃など
あるのだろうか!?と思えるほどゼファーの攻撃はことごとく無効化された
それでも休む事なく攻撃を加えるゼファー、カードを次々と
使用していくので目の前のカードは消えては補充されまた消えては
補充されるという事を繰り返した、ゼファーは大量に汗をかき
既に肩で息をしていた、そんなゼファーを冷静に見つめ得る勘助
『やはりそうか、あやつは目の前の札を使って攻撃してくる
陰陽師みたいなもの、しかしあれ程せわしなく
目の前の札を使っているにもかかわらず、一番左の札には
一切手を付けておらん、やはりアレが文字通りの
切り札という訳か、しかし残念じゃったの、その札を使う
隙は見せぬ絶対にじゃ、悪く思うなよ若造』
そんな不動の勘助に対して思わず声をかけるゼファー
「はあはあ、まだ倒せないのかよ・・・タフだなおっさん
若者がこんなに一生懸命頑張ってるんだからおっさんも
年長者としてそろそろ動いたらどうだ?」
「お主が完全に動けなくなったら引導を渡してやるて
それもお主に一切近づく事なくな、お主のもくろみは
既に露見しておる、もういっそ潔く首を刎ねられたら
どうじゃ?」
既にかなりの体力を消耗しているにもかかわらず全くダメージを
与えられないでいるゼファー、それに対し圧倒的有利な状況ながら
全く隙を見せない勘助、勝敗の行方はもう既に決したか!?とも
思われた、その時再びゼファーが目の前のカードを掴み投げつける
「エンジェリックジャベリン!!」
聖なる光の槍が勘助の顔面を吹き飛ばす、しかし数秒もすると
その顔は見る見るうちに再生していった
「無駄じゃ無駄じゃ、何をやろうとな、そろそろ貴様も
年貢の納め時が・・・ん!?」
その時、ゼファーは一枚のカードを手にし安堵するような笑みを見せた
「やっと来たぜ、もう来ないかと思ったがやっぱ正義は勝つ
運命にあるみたいだよ、運が悪かったなおっさん」
勝利宣言とも言える言葉を投げかけるゼファー、その顔は
自信にあふれていた、そんなゼファーの表情を見て怪訝そうな
顔を見せる勘助
「何をいっておるのじゃ、この状況でお主に勝ち目など
皆無であろう、ハッタリにしては気が利いておらぬぞ」
その瞬間ゼファーは目の前にあるカードのうち一番左のカードに
手を付けた、思わず厳しい表情を見せる勘助
『あの札は奴の切り札、しかし今まで使ってこなかったという
事は何か理由があるはず、ヤケクソか!?何にしろそんな
一か八かの戦略でこのワシを倒せると・・・』
ゼファーが放ったそのカードは【女神ミューゼの旋律】師匠から
受け継いだ超レアカードである、勘助の目の前に巨大な女神が現れ
両手を広げて歌を歌いだす、するとその歌声が旋律となり
勘助の体に巻きつく様に絡みつくと、勘助は完全に動きを封じられた
「な、なんだこれは!?動けぬ、今宵最高の力を得ている
このワシがどうして動けぬのじゃ!?」
必死でもがく勘助、しかし女神の旋律は更に勘助を締め上げる
「おっさん、あがいても無駄だぜ、そのカードは俺のとっておきでね
あの魔王アドギラル・ロックの動きすら封じたんだ
振りほどこうなんて行為はするだけ無駄だぜ」
身動きの取れない勘助が睨む様にゼファーを見つめた
「いくら強力な捕縛陣でも動きを封じているだけではワシは倒せぬ
これほどの強力な札であれば魔力の消耗も激しいであろう
ワシは不死身、この捕縛陣が消えるのを待ってゆっくり
貴様を殺してくれるわ!!」
勘助が初めて見せる感情的な態度、しかしそれをあざ笑うかの様に
ゼファーが説明を始めた
「まあこのカードだけなら、捕縛するだけでアンタを
倒せないんだけどね、だからこそもう一枚のカードがくるのを
ずっと待っていたんだよ、いや〜長かった・・・」
その時、ハッと気づいた勘助
「もしや貴様はもう一枚の札が来るのを待つために時間稼ぎを?
じゃああの挑発行為は!?」
その問いにニヤリと笑うゼファー
「もちろんハッタリさ、あんなあからさまな挑発行為をしたら
アンタみたいなタイプは逆に警戒して慎重に動くだろうと
思ってね、だから本当に攻めてきたらどうしようと
ずっとヒヤヒヤもんだったよ」
その説明に呆然とする勘助
「このワシが踊らされたのか!?おのれおのれ〜許さぬ
絶対に許さぬ、この屈辱必ずや倍にして返してやるわ!!」
怒りを隠す事なくゼファーを睨みつける勘助
「でもアンタに反撃のチャンスはもうないよ、アンタはここで
終わるんだから・・・」
「笑止、我が身は不死身、何をしようとたちどころに再生する
今まで何を見てきたのじゃ、貴様はこの身に傷一つつけること
かなわぬわ、この捕縛陣の魔力が切れた時が貴様の最後じゃ」
怒りに任せ恨み言をぶつけるかの様なその言葉にゆっくり首を振るゼファー
「そう思いたくなる気持ちもわからんではないけどね・・・
おっさんアンタ朝倉宗滴って人知ってるかい?」
突然、意外な質問をされ少し険しい顔をする勘助
「朝倉宗滴じゃと、越前のか?それがどうしたというのだ?」
その言葉にフッと笑うゼファー
「実は先日、その朝倉宗滴っておっさんと戦ってね
そのおっさんも死人だったんだけどさ、そいつを倒した時
面白いカードを手に入れてね・・・【身体回帰】っていう
カードなんだわ、これは対象にかけられている魔法や効果を
無効化し最初の状態に戻すってカードなんだよ、防御魔法や
支援魔法も無効化するし獣人化している者を人間に戻したりも
できる、ゾンビを元の死体に戻すとかね・・・」
その瞬間、勘助の顔から血の気が引く
「まさか、まさか・・・」
その反応を見て嬉しそうに口元が緩むゼファー
「そう、吸血鬼も例外じゃないアンタも吸血鬼から
元の人間に戻るんだ、どうだい嬉しいだろ!?」
勘助は急に暴れ始めた、何とか【ミューゼの旋律】の拘束から
逃れようと必死でもがくがビクともしない
「冗談じゃない、吸血鬼だからこれほどの傷を負っても
生きていられるが今人間に戻ったら・・・クソ、どうして
抜けられん、今度こそ本当に死んでしまう、ワシにはまだ
やることがある、こんなところで死んでられんのじゃ!!」
必死で抵抗する勘助を尻目に【身体回帰】のカードに手をかける
ゼファー
「やめろ、やめろーーー!!」
勘助の悲痛な訴えも虚しく夜空に響いただけであった
ゼファーが【身体回帰】のカードを静かに空に放り投げた
するとカードは空中に溶け込むように消えそれと同時に
勘助の体は白い光に包まれた
「ぐああああ、おのれ、おのれ〜申し訳ありません殿
無念だ、しかしこれで勝ったと思うな、ワシにこれほど
苦戦する様では殿には勝てぬ、絶対にだ、殿ーー!!」
そう叫びながら徐々に人間に戻っていく勘助、鋭く長い牙が
元通りのサイズに戻っていき爪も短くなっていく
すると全身の傷から一斉に血が吹き出し始め、手足がボトリと
地面に落ちた、そしてその場にばたりと倒れると
勘助が二度と動くことはなかった
「アンタもアンタなりに忠義の男だったんだな、山本勘助さん
その志だけは尊敬するよ、ゆっくり眠ってくれ」
足元にある勘助の死体を見つめ、そうつぶやいたゼファー
風の音しかしない草原で夜空の満月だけがそんな二人を
見守っている様だった、
今回は前話と違い思いっきりファンタジー寄りの話でしたがいかがだったでしょうか?
もはや定番とも古典ともいえる”吸血鬼”かくいう私も吸血鬼物は大好きでどこかで出したいと
思っていました、しかしどう登場させるかを考えたとき”吸血鬼って最強クラスのモンスターだよな!?
じゃあ敵の最強クラスの人物にしよう”という安直な発想で武田信玄に白羽の矢を立てました
あまりにぶっ飛んだ設定なので戦国ファンには寛大な目で見ていただけると嬉しいです、では。




