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決戦、激闘の三方ヶ原

登場人物


ロット・ステイメン…主に回復や防御をおこなう僧侶、常に冷静沈着で戦術指示も出すチームの頭脳的な存在

ギャレット・ゼファー…カードキャスターという珍しい職業だが非常に優秀、自分からチームに売り込みに来たが自分の事は話したがらない、いつも冗談を言って場を和ませるチームのムードメーカー

徳川家康…三河、遠江の戦国大名、信長の同盟者であり後の天下人

石川数正…徳川家康の側近で智勇兼備の勇将

本多忠勝…戦国最強といわれる武将、愛槍”蜻蛉切”を手に幾多の戦いで武勇伝を誇る徳川軍の猛将

武田信玄…甲斐、信濃を治める戦国武将、兵法に精通し部下からの信頼も厚い、配下には

”武田二十四将”と呼ばれる勇将がおり無敵の騎馬軍団を従え戦国最強の大名といわれている


武田信玄率いる3万の軍が徳川家康の治める遠江を蹂躙した挙句


家康達のいる浜松城の目の前を横切り素通りするという暴挙ともいえる


行動に出た、それを受け家康は武田軍を追撃する事を選ぶ


浜松城より1万1千の兵が出陣し一定距離を置きながら武田軍を


追いかけた、馬に乗りながら張り詰めた表情で前方を見つめる家康


武田軍の一挙手一投足を見逃すまいと数多くの物見を放ち、逐一


報告を受けていた、細い間道に入り軍の隊列が長く伸び切っていた


そんな時、隣にいた石川数正がそっと家康に話しかける


「この先は三方ヶ原台地です、信玄が戦いを挑むとすればここが


 最有力候補です、わかっていると思いますがここで戦う事は


 避けてください・・・」


その忠告に無言でコクリとうなづく家康、三方ヶ原は細い間道から入り


細い間道からしか出られないという場所でありながら中は広々とした


平地が広がり周りは崖という天然の闘技場ともいえる場所なのである


つまり武田軍の機動力と兵力数を存分に発揮できる場所でありながら


細い出入り口のせいですぐさま大軍が逃げる事のできないという


徳川軍にとっては最悪な場所でもあった、そんな時


物見の報告が家康のもとに報告に来る


「武田軍は三方ヶ原を抜け京都方面を目指し軍を進めております」


その報告に家康が無言でうなづくと物見の者は再び哨戒の為に走り去る


あっという間に物見の姿が見えなくなると


隣にいた石川数正が再び家康に近づき話しかけた


「どうやら武田軍は我らを三方ヶ原で迎え撃つ


 つもりではないようですな・・・」


家康は無言のままその話を聞いていた、するとその隣にいた酒井忠次が


何やら落ち着かない様子でキョロキョロと周りを見渡し思わずつぶやいた


「何やら霧が出てきましたな・・・」


間道を進む徳川軍の周りに濃い霧が立ち込めてきたのだ


不気味に広がる白い霧に皆の不安感も高まっていく


その時、その白い霧を見たゼファーが目を細め左右に


視線を移しながらステイメンにボソリと話しかけた


「ステイメン、気が付いているか?この霧・・・」


「ええ、これは自然現象ではないですね、薄っすらと


魔力も感じます、どうやら何かありますね・・・」


しばらくして徳川軍が三方ヶ原に入る頃


家臣の一人が異変に気がつき家康に話しかけた


「殿、そういえば先程から物見の者が誰一人帰って来ておりません


 一体何があったのかはわかりませんが警戒を強めた方がよいです」


予期せぬ出来事に家康の頭の中には不安が広がり


モヤモヤとした重い気持ちが心を支配していく


そしてこの不安がすぐさま形として目の前に現れた


徳川軍が三方ヶ原に入った時、霧の向こうに大軍の姿を発見したのだ


統率された三万人もの兵、その旗印には”風林火山”の文字が


くっきりと描かれていた


その姿に驚愕し呆然と立ち尽くす徳川軍の一同


「ば、馬鹿な武田軍は三方ヶ原を抜け京の方角に向かったはず!?」


あまりのことに唖然として武田軍を見つめる家康に


石川和正が近づき深刻な口調で語りかけた


「どうやら信玄は一旦三方ヶ原を抜け通過すると見せかけて 


 我が軍の物見を排除した後、軍を反転させここで


 待ち伏せしていたというようですな・・・」


思わず歯ぎしりしながら武田軍を睨みつける家康


「まんまと掌の上で踊らされたという訳か、おのれ信玄坊主め・・・」


武田信玄の思惑にまんまとのせられた家康は己への怒りで震えていた


そんな家康に近づき訴えかけるように話しかける男がいた


「殿、ここは腹をくくって戦うしかありませんな」


その声に家康が振り向くと、そこには本多忠勝の姿があった


家康に話しかけながらもその目はジッと武田軍を見据えており


静かに闘志を燃やす徳川軍最強の武将が家康に諭すように囁いた


家康はそれに応えるように腹を決めると全軍に呼びかけた


「皆の者ここが正念場だ、今こそ徳川の意地を見せる時ぞ‼」


その言葉に兵達の士気が一気に上がる、戦国最強と言われている


武田軍に対し徳川軍は戦う覚悟を決めると全軍戦闘態勢に入った





そんな徳川軍の様子を対面側で見ていた武田軍にもその闘志が伝わり


否が応でも緊張感が高まる、そんな中ニヤリとほくそ笑む者がいた


「徳川家康、中々やり手と聞いておったがまだまだ青いわ」


鋭い目で徳川軍を見ながら独り言のようにつぶやいたのは


常勝武田軍団を率い”甲斐の虎”と恐れられた武田信玄その人である


「殿と比べたらどんな武将も青二才に見えるのは仕方が無い事ですな」


「では徳川の青二才に戦というものを教えてやろうではありませんか」


「殿直々の戦術指南とあらば高い講義料となりそうですな


 徳川家康の命をもって支払ってもらうこととしましょう」


信玄を囲むようにそう話しているのは武田軍の中核を担う武将


馬場信春、内藤昌豊、小山田信茂である


武田軍は圧倒的有利な立場でありながら動かなかった


すでに"魚鱗の陣"を敷き微動だにしない武田軍


徳川軍の動きを見定めるかのように白い霧靄に包まれた武田軍は


静かにたたずみ、まるで林のごとく静粛で徳川軍の動くのを


待っているようである、そんな武田軍に底知れない不気味さを


感じながらも家康は自軍に向かって大声で号令を発した


「全軍素早く”鶴翼の陣”を引け、それで武田軍を迎え撃つ‼」


家康の号令に素早く反応する徳川軍の兵たち、訓練され統率の取れた


兵たちは間もなく”鶴翼の陣”を完成させた、”鶴翼の陣”とは


自軍の両翼を左右に広げたその陣形が鶴が羽を広げた姿に


似ていることからそう名付けられている陣である、そんな徳川軍の


陣形を見た武田軍武将の馬場信春はうっすらとした笑みを


浮かべながら信玄に話しかけた


「動きといい陣形の厚みといい、中々見事な陣立てですな殿」


徳川軍の予想を上回る統率された動きに、少し感心気味に話す


馬場信春、しかしその言葉にニヤリと笑う信玄


「見た目の陣形はな、しかし問題は中身、どういった人員で


 構成されているかが問題じゃ、所詮戦は人よ・・・


 虎繫、徳川の陣形の構成人員の内容を詳しく説明せい」


問われた秋山虎繫は軽く頭を下げた後、早速説明を始めた


「敵徳川軍の構成ですが、まず左翼から石川数正、その配下は


 忠義に厚く勇猛果敢と言われている三河兵の中でも


 特に精鋭ぞろいと聞いております、そして次に本多忠勝


 徳川軍きっての猛将で”東国一の武将”とか”日の本一の兵《つわもの》


 と言われている剛の者です、そして松平家秀、小笠原長忠と続きます


 続いて右翼は酒井忠次、過去の戦いにおいて数々の武功を上げた


 知勇兼ね備えた勇将です、そして滝川一益、平手汎秀、佐久間信盛


 と織田の援軍で構成されています」


淡々と説明する秋山虎繫の言葉に目を閉じ黙って聞いていた信玄は


不意に目を見開き不敵に笑った


「なるほど、左翼は腕っぷし自慢の猪武者が中心、そして右翼は


 織田の援軍頼みか・・・もはや勝敗は見えたわ」


ほくそ笑む信玄の背後から声を掛ける者がいた


「殿、徳川軍の左翼攻め拙者にやらせてくれませぬか!?」


その男は真っ赤な装備に身を包みギラギラとした闘志を


まき散らしながら信玄の横に並んだ


「昌景、お主自ら名乗り出るとは、珍しいではないか!?」


そう言って嬉しそうに微笑む信玄、自ら先陣を買って出た


この男こそ武田軍の誇る”赤備え”の筆頭 山県昌景である


その赤い軍団を見た敵は皆震え上がり戦わずして逃げ出す者すら


いたという武田軍最精鋭部隊である


山県昌景自身は背は低く冴えない見た目であると伝えられているが


武田軍きっての猛将で幾多の戦場で数多くの武勲を上げてきた


「このワシを差し置いて日の本一の兵とは聞き捨てなりません


是非拙者がこの手で見事討ち取ってご覧に入れまする」


山県昌景の言葉に嬉しそうに目を細める信玄、するとその話に


割って入る者がいた馬場信春である


「その役目は譲れませんな、殿 何卒この信春めにお命じくだされ」


馬場信春は“不死身の鬼美濃”と言われるほどの剛の者で


生涯70回あまり戦場に出て行くもかすり傷一つ負った事がないと


いわれる猛将である、山県昌景と馬場信春はお互い視線を向けながら


バチバチと火花を散らせていた、その二人の間に割り込むように


体を入れ、ずいっと前に出る男がいた、黒い甲冑に身を包み


無言のまま信玄の前に姿を表すと口を閉じたまま右手の親指で


自分を指差し信玄にアピールする武将、高坂昌信であった


一言も発しない無言のアピールに思わず呆気にとられる


山県昌景と馬場信春、そんな様子を見て口元が緩む信玄


「お主は本当に無口よのう弾正、まあよい三人で競ってみよ


もちろん陣形を崩さぬ範囲でな、まあわかっておるとは思うが」


信玄のその言葉にうなづく三人、その三人の反応を見た後に


遂に信玄が動いた、手に持っていた軍配が前方の徳川軍に向けられ


声高らかに作戦指示を出す、しかしその作戦内容は常人では


理解できないとても奇抜なものであった


「まずは鉄砲隊、敵右翼に向かって発砲を開始せよ‼︎」


その指令にどよめく武田兵、思わず秋山虎繁が信玄に問いかけた


「殿、恐れながらこの距離ですと敵に有効的な損失を与えることは


できないと思われますが、よろしいのですか?」


不思議そうに質問する秋山虎繁に余裕の表情で


薄笑いを浮かべながら答える信玄


「構わん、命令通り攻撃せよ、ただし攻撃目標は


滝川、平手、佐久間の織田援軍に絞れ、良いな」


その指令を聞いた内藤昌豊はニヤリと笑い信玄に語りかけた


「さすがは殿、やる事がえげつないですな」


信玄はその言葉には反応しなかったものの独り言のように呟く


「戦は人よ・・・人がどう感じどう動くかが勝敗の決め手じゃ」


その言葉を理解できない兵も多く首を傾げていた者も大勢いたが


信玄配下の重鎮たちは皆その意味を理解していた





一方、陣立てを終え武田軍の攻撃を迎え撃つ構えの徳川軍は


武田軍によるいきなりの鉄砲による攻撃に戸惑っていた


家臣の一人が思わず家康に問いかけた


「一体敵は何を考えているのでしょうか?この距離で鉄砲など


ど素人ならいざ知らず、戦上手で知られる武田信玄がなぜ?」


家康はその質問に答えることはできなかった、親指の爪を噛みながら


ジッと信玄の意図を考えていた


『どういうつもりだ信玄坊主め、信玄程の者であれば


この距離での鉄砲攻撃なぞあまり意味がない事は十分


承知であろうに・・・という事はこちらに損害を与える事が


目的ではなく全く別の・・・はっまさか!?』


何かに気づいた家康は隣にいる榊原康政に慌てて問いかけた


「今攻撃を受けているのはどの部隊だ!?」


キョトンとした顔で質問に答える榊原康政


「え〜っと、今攻撃を受けているのは右翼の滝川軍、平手軍


佐久間軍です、しかし実質的な損害はほとんどないと


思われますが・・・」


しかしその回答に顔をしかめて歯ぎしりする家康


「おのれ信玄坊主め・・・卑劣な真似を‼︎」


「一体どうなされたのですか殿?信玄の狙いは何なんですか!?」


本多正信の問いかけに厳しい表情を崩さないまま


怒りに唇を震わせ武田軍を睨みながら話し始める家康


「信玄の狙いは織田兵だ・・・指揮官の滝川殿や佐久間殿は


ともかく、追従してきた兵達は助太刀として来ただけだからな


 最強と名高い武田軍に対し半数にも満たない兵数で戦う事に


 なっているのだ・・・わが徳川軍に比べれば士気も低く


 言うなれば”貧乏くじを引いた”ぐらいの気持ちであろう


 信玄坊主はそこを突いたのだ‼」


本多正信はゴクリと息を飲む


「なら信玄は織田軍の兵達の低い士気を更に下げるために鉄砲を!?」


無言でうなづく家康、そして絞り出すように口を開いた


「そんな状態で武田軍の猛攻を受けたらどうなると思う?」


問われた本多正信は”そんな事考えたくもない”といった表情を浮かべた


しかし武田信玄の策はこれだけではなかった、今度は徳川軍の左翼に対し


すぐさま次の手を打ってきたのだ


「数名の兵を選抜し徳川軍の左翼に近づき、奴らに対して


 投石と罵声を浴びせよ、特に家康の悪口と”徳川兵は腰抜け”


 と言う事を強調せよ、良いな」


信玄の命令に即座に動き始める武田兵、すぐさま選抜された兵が


徳川軍の左翼に近づき石を投げると大声で罵詈雑言を叫び始めた


「や~い、お前らの大将は臆病者のくせに大馬鹿者だな‼」


「この腰抜け徳川兵、悔しかったらかかってこいよ


 まあお前らには無理だろうけどな ハッハッハ~‼」


武田軍の挑発に左翼の兵達は怒りをあらわにした、特に


勇猛果敢で血の気の多い石川数正軍の兵達は怒り狂った


「おのれ武田軍め、我等を馬鹿にしおって、三河兵の


 恐ろしさとくと味合わせてくれる‼」


そうして一人、また一人と攻撃開始の命令もないまま突撃を開始し始める


「待たぬかお前ら、相手の挑発に乗るな、待てと言っているのだ‼」


石川数正が必死に叫ぶが兵達に声は届いていなかった


「こうなったら止むを得ん、敵に対し攻撃を開始する、全軍突撃‼」


左翼の兵達が命令を無視して次々と武田軍に突撃していき


もはや静止は無理と判断した石川数正は止むを得ず全軍突撃の命令を下す


それに呼応するかのように本多忠勝の軍も動き出す


「我等も続くぞ突撃、必ずや信玄の首を取るぞ‼」


徳川軍の左翼は相手の挑発に乗る形で家康の命も待たずに攻撃を始めた


その様子を本陣から見ていた本多正信は呆れるようにつぶやいた


「何をやっておるのじゃ左翼軍は・・・勝手に戦いを始めおって」


「信玄にまんまと乗せられたのだ・・・わが軍の右翼には


 士気を下げる策略を、左翼には挑発して攻めさせる策略を・・・


 何という狡猾な、これでは・・・」


家康は成す術もなく敵の術中にはまっていく自軍を見つめ


口惜しさと恐ろしさを同時に感じていた、一方その状況を


冷静に見ていた信玄は独り言のようにボソリとつぶやいた


「さあどうする徳川家康、右羽はやる気をなくし左羽は勝手に


 羽ばたき始めたぞ、ではこちらは遠慮なく貴様の左右の羽を


 切り落としてくれようぞ くっくっく


 両羽をもがれてもまだ飛んでいられるかな?」

 

しかし敵の術中にはまったとはいえ、徳川軍の左翼は精鋭である


怒りに任せながら猛烈に突撃してきた徳川軍の勢いと力を


相対した武田側の小山田信茂軍は思い知る事となる


万全の態勢で相手より数多くの兵で迎え撃ってはいたものの


すさまじい勢いにジリジリと後退を余儀なくされる小山田軍


するとすかさず信玄が次の指示を出した


「勝頼、お前は兵3千を率いて敵を迂回し徳川軍の側面へまわれ


 敵の陣形が崩れたら一気に攻めよ、良いな」


「御意‼」


武田勝頼は命令に従い、3千の兵を率いて現在小山田軍と戦っている


敵右翼軍の側面へ回り込み一気に突撃を開始した


「蹴散らせ‼我が武田軍の強さを敵に教えてやるのだ‼」


武田軍最強と言われる騎馬隊が砂煙を上げながら怒涛の勢いで


徳川軍の左翼を切り崩す、猪突していた徳川軍は側面を突かれ


見る見るうちに崩されていくとついには陣形を維持できなくなり


徳川軍左翼の戦線は瓦解した、それは右翼側でも同じであった


武田の騎馬隊は士気の下がった織田軍に向かって集中攻撃をかけた


それは戦いというより一方的な蹂躙であった、武田騎馬隊の前に


次々と踏みつぶされていく織田軍、もはや戦う意思の残っている


兵の方が少ない状況で、皆背中を向けて我先にと逃げ出し始めていた


「何をしておる、引き返せ、武田と戦うのだ‼」


織田軍の指揮官、佐久間信盛が必死で叫ぶがもはや兵達の耳には


届いていていなかった、佐久間信盛の横を逃げ出す兵が次々と


走り抜けていく、そもそも戦場において、逃げ出した兵を


引き返させることのできる者など、どんな名将であろうと無理である


圧倒的なまでの武田軍の攻撃の前に徳川軍の右翼も崩壊し


武田の誇る騎馬隊が左右から家康のいる本陣へと迫ってきたのだ


「逃げ出す兵などにはかまうな、狙いは徳川家康の首一つ‼」


「どけどけ、死にたくなければ道を開けろ‼」


徳川軍の右翼を蹴散らした内藤昌豊と小幡信貞がすさまじい勢いで


家康の本陣に迫る


「殿、お逃げください、比較的左翼側の方が手薄です」


「家康公、我等がお守りいたします、早くお逃げください‼」


本多正信と共にステイメンとゼファーも家康の護衛に回った


徳川軍は総崩れとなり戦線もすでに崩壊し、武田軍のあまりの強さに


もはや生きた心地がしない家康、必死に馬の手綱にしがみつき


後も見ずに一目散に逃げ始めた、敗走する徳川軍の中で


ステイメンとゼファーは武田軍について話していた


「なあステイメン、武田軍についてどう思った?」


「そうですね・・・ほとんど通常戦闘に見えましたが


 違和感は三つ、まず三方ヶ原に入るときに発生した霧


 あれには微弱ながら魔力を感じました、あと騎馬隊ですね」


「そうだな、一見普通の馬に見えるが、ありゃあ偽装だな


 あれは間違いなく魔獣だ、ゾフィに聞いてみないと


 くわしい種類まではわからないが、普通の人間に


 どうにか出来る相手じゃない、あんなのが複数いたら


 どんな軍でも勝てないわけだぜ」


ステイメンは小さくうなづき深刻な表情を見せる


「そして何よりも憂慮すべき事態は・・・」


「敵の首領、武田信玄か・・・離れていたのにとんでもない


 魔力を感じたな、戦い自体には何かしたようには見えなかったが


 ありゃあとんでもない化け物かもな・・・」


二人は武田軍を冷静に分析しながら家康と共に


浜松城を目指して退却した





圧倒的不利の中、家康が何とか撤退できたのは崩壊する左翼軍の中でも


何とか踏ん張っている部隊がいたからである、それは本多忠勝の率いる


兵達であった、特に本多忠勝は家康の本隊を逃がすため


周りが敵だらけの中にあっても獅子奮迅の戦いを見せていた


その強さの前にさすがの武田軍も怯んでしまい戦闘が膠着しかけた


その時である、赤い鎧を身に着けた一騎の騎馬武者が味方をかき分け


猛然と接近していた


「我こそは武田軍にその人ありと言われた山県昌景なり


 徳川軍武将 本多忠勝殿とお見受けした、いざ尋常に勝負‼」


その声にニヤリと笑う本多忠勝、その表情はどこか嬉しそうにも見えた


「ほうお主が山県昌景か、面白いお相手仕ろう、いざ‼」


二人の猛将が槍を交える、うなりを上げ空中を飛び交うように


交わる両者の槍はすさまじい打撃音と共に周りにいる者すら


圧倒され見とれてしまう程であった、目に見えないほどの


攻防がしばらく続いた後、新たに一人の男が参戦した


「馬場信春ここに推参、本多忠勝だな


 不死身の鬼美濃と呼ばれる我と勝負せい‼」


馬場信春は山県昌景と本多忠勝との戦いに割って入るように参戦した


しかし何事もなかったかのように受け止める本多忠勝、そこにまた


一人近づく男がいた


「オオオォォォォ~~~‼」


雄たけびを上げながら一直線に近づいてくる騎馬武者


全身黒い鎧甲冑に身を包んだ武将、高坂昌信である


近づくや否や凄まじい一撃を繰り出すがそれも難なくさばく本多忠勝


「次から次へと、まあよい、まとめて相手してやるかかって来い‼」


その時である、後方から叫び声にも近い言葉が忠勝を呼んだ


「忠勝様、殿の一大事でござる、お引きくだされ‼」


その言葉を聞き一瞬で険しい表情に変わる本多忠勝


そこまで武田軍の猛将たちを一人で相手していた時でえさえ


どこか余裕のある表情を見せていた忠勝の顔に焦りが浮かぶ


「勝負は預けた、殿の一大事とあらばこんな事をしている


 場合ではない、これにて御免‼」


そう言い残し踵を返して引き返していく忠勝、その後姿をじっと見つめながら


山県、馬場、高坂の三人はその後を追うことはしなかった


そして馬場信春が口を開く


「噂通り凄まじい使い手の者であったな」


その言葉に無言で大きくうなづく高坂昌信


そして走り去っていった忠勝の方向をずっと見つめている


山県昌景に静かに語りかけた


「しかしあの男と一対一で互角に戦うとは、やるのう昌景


 お主の勝負に割り込んだ形になった事は謝ろう、すまぬ」


その言葉にゆっくりと首を振る山県昌景


「互角ではない・・・見よ」


山県昌景が槍を持っている右手を離すとその手は微かに震えていた


「なっ、それは!?」


「凄まじい打撃であった、正直受け止めるのでやっとといった所だった


 お主たちが来てくれなければおそらくはやられていたであろう・・・」


無言の高坂昌信も思わず息を飲む、そして山県昌景がボソリとつぶやいた


「本多忠勝、日の本一の兵《つわもの》と言われているのにも


 合点がいった、何とも凄まじい男よ・・・」


三人は忠勝が消えていった方向をいつまでもじっと見つめていた





一方、家康の危機と聞いて居ても立っても居られない忠勝


「殿、殿はご無事か‼」


馬を走らせながら馬上で叫ぶ忠勝、すると前方に家康の旗印を見つけ


急いでそこに駆け付けた、忠勝は群がる武田軍を蹴散らし


家康の安否を気遣った


「殿はご無事か!?」


しかしそこにいたのは家康ではなく徳川軍の老将 夏目吉信であった


家康の旗印を掲げ家康の甲冑を身に着けて奮戦していた


驚いた忠勝はその時ハッと気づいた


『夏目殿・・・そうか、殿の身代わりとなって敵を引き付けるために!?』


それを悟ったのか忠勝に対して無言でうなづく夏目吉信


「ならば我もここで敵を食い止めまする‼」


忠勝がそう言うとすかさず夏目吉信が反論した


「ならぬ、お主にはお主の役目があろう・・・」


その目は”殿を頼む”と訴えかけていた


「しかしそれでは・・・」


忠勝は戸惑っていた、押し寄せる武田軍に対しこの老将が持ち堪える事が


できるとはとても思えなかったからだ


「この老骨にも最後に忠義を全うできる場が与えられたのじゃ


 武士としてこれほどの誉はなかろう、お主ばかりにいい格好はさせぬ


 わしの一世一代の晴れ舞台じゃ邪魔するでないわ」


夏目吉信はそう言うとにこりと笑った


忠勝は唇をかみしめ絞り出すように言葉を発した


「では拙者はこれにて・・・ご武運を」


胸に色々な思いが渦巻く中、迫りくる武田軍を尻目に家康の向かった


浜松城に急ぐ忠勝、するとすぐ後方から声が聞こえてきた


「徳川家康討ち取ったり‼」


湧き上がる武田軍の歓声を背中に受け思わず手綱を強く握りしめる忠勝


「夏目殿・・・」


こうして三方ヶ原の戦いは幕を閉じた、徳川軍は多大な犠牲を出しながらも


家臣たちの働きもあって家康は何とか無事に浜松城へ帰還することができた


三方ヶ原には徳川軍の無数の死体が転がりその周りを霧が立ち込める


”この結果は当然”とばかりに静かに佇《たたず》む武田軍が


何とも不気味な雰囲気を醸し出していた。


























今回は三方ヶ原の戦いでしたがいかがだったでしょうか?所々私のアレンジが入っておりますが

おおよそは史実通りとなっておりますので戦国ファンの方も目くじらを立てずに生暖かい目で

見てくださるとうれしいです、表現力の足らないところは平にご容赦を、では。

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