迫撃、怒涛の風林火山
登場人物
アドリアン・ルキア…伝説の聖剣”ブレイヴ・ハート”を持つ勇者、人々の為に戦うという信念を持っている
ロット・ステイメン…主に回復や防御をおこなう僧侶、常に冷静沈着で戦術指示も出すチームの頭脳的な存在
ルース・ライオス…2m近い長身で屈強な戦士、一人で魔獣を倒したこともあり”魔獣殺し”の異名を持つ、兄貴肌な性格でチームの精神的支柱にもなっている
ギャレット・ゼファー…カードキャスターという珍しい職業だが非常に優秀、自分からチームに売り込みに来たが自分の事は話したがらない、いつも冗談を言って場を和ませるチームのムードメーカー
ライドン・ゾフィ…召喚魔術師の名門ライドン家の生き残りで五体ものドラゴンを操る事ができる凄腕、一族の間では”神に愛された至高の召喚魔術師”と言われていた
クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い
織田信長…尾張の大名、頭が切れ行動力とカリスマ性を兼ね備えた戦国時代の風雲児
木下藤吉郎秀吉…ルキア達の戦場での活躍を見て織田軍にスカウトした人物、後の豊臣秀吉
竹中半兵衛重治…秀吉の熱心な勧誘により配下に加わった天才軍師
明智十兵衛光秀…元は足利義昭に仕えていた、鉄砲の名手であり博学の切れ者
徳川家康…三河、遠江の戦国大名、信長の同盟者であり後の天下人
信長が比叡山を焼き払ってから数日が過ぎた
あれ程の決意を持っておこなった比叡山攻めではあったが信長達を
取り巻く状況は良くなるどころか悪くなる一方であった
浅井・朝倉連合軍は相変わらず抵抗を続けており
そこに三好三人衆も隙あらばと攻撃の機会を虎視眈々と狙っていた
そして何より信長を苦しめたのは石山本願寺率いる一向宗門徒
特に長島の一向宗門徒が凄まじい勢いで織田軍の領土を暴れまわっていた
宗派は違えども比叡山を焼き討ちしたことで一向宗門徒に
危機感が増大しそれを本願寺のトップである顕如が煽ったのである
そして織田軍は今日も今後の対策と方針を決めるため軍議を開いていた
その中にはルキア達もいた、レスティアレ・ラドスからの刺客も
目に見えるように増えてきた今、信長にとってルキア達はもはや
欠かせない存在になっていた、そんな時、新たな急報が信長の元に
届いた、正に凶報といっても差し支えない報告が信長のもとに
舞い込む、それは信長の唯一の同盟者といってもいい徳川家康からの
使者であり、緊急を告げる為に早馬を飛ばして京都の信長の元に
訪れたのである、その使者は息を切らせ髪の乱れも直すことなく
汗まみれで信長の前に顔を出した、その様子からいかに
急を要する事態か!?という事がうかがい知れた
「我が主君、徳川家康より織田信長公にお知らせいたしまする
甲斐の武田信玄が上洛を目指して挙兵、我が徳川領である遠江国に
向け進軍中、その数約3万 信長様に至急援軍を送って頂きたく
こうして早馬を飛ばしてきた次第でありまする‼︎」
その言葉に信長の顔が険しく歪み家臣達もざわつき出した
「信玄が、あの信玄坊主が動いたというのか!?」
明らかに動揺する信長、そして家臣達もそれぞれ不安を口にしていた
「ついに来たか、武田め‼︎」
「ここまでじっとして動かなかった信玄が何故今になって!?」
「奴は病に伏せっているのではなかったのか!?」
その時、明智光秀が深刻な表情で独り言のように口走った
「それにしても3万とは・・・徳川殿の兵は全軍でも8千
まともに当たっては勝負にならぬ」
続いて丹羽長秀がつぶやくように話し始める
「しかも武田信玄は名うての戦上手、兵力が互角でも
厳しいというのに三倍以上では・・・」
そこに柴田勝家が続く
「親方様、今は我が織田軍も周りを敵に囲まれている状態
とても援軍など出せぬ状況でございます、
いかがいたしましょうか?」
その問いに信長はすぐには返事を返せなかった、そこに秀吉が発言する
「親方様、いくら我が軍が厳しい状況でも家康殿は唯一のお味方
援軍を送らないわけにはいかないでしょう、それに家康殿が
敗れればいずれこの京に武田軍が攻め登って来る事は必定
浅井・朝倉、三好、石山本願寺だけでも苦しいのに武田まで
加わったら状況は絶望的にございます、何卒徳川殿に援軍を」
その忠告ともとれる秀吉の言葉にみるみる表情が変わる信長
「そのような事、お主に言われずともわかっておるわ‼︎
差し出がましいぞサル‼︎」
叱咤に近い厳しい口調で秀吉を一喝する信長
それに対し頭を擦り付けるように平伏する秀吉
「差し出がましいことを申しました、お許しくださいませ‼︎」
この秀吉の発言は一種のパフォーマンスでもあった
皆が言うように今織田軍としては援軍など出せる状態ではない
しかし出さないわけにはいかないという厳しい状況を
家康の使者にも分かってもらう為にあえて一芝居打ったのだ
しかしこの追い詰められた状況に信長を始め皆どうしていいか
わからないといった厳しい表情をしていた、そんな様子を見て
ルキアが隣に座っている竹中半兵衛に問いかけた
「半兵衛さん、信長公を始め皆がこれほど深刻になるのは
珍しいと思いますが、武田信玄というのはそれほどの
武将なのですか?」
その質問に静かにうなづく半兵衛
「武田信玄は甲斐と信濃を治める戦国武将です、兵法に通じ
知略、軍略、謀略に長け、家督を継いだばかりの若い頃を除くと
ほぼ戦で負けた事が無いという武将です、その配下には
武田二十四将と言われる勇将が夜空の星のごとく集まり
その家臣と兵をまるで将棋の駒のように自在に操る手腕と信頼
だからこそ武田信玄は戦国最強と言われている武将なのです
そしてその武田を常勝軍団足らしめている最大の要因、それは
”騎馬軍団“の存在です、武田の騎馬隊の前には何者をも
立ち塞がる事叶わず、動き出したら最後、あっという間に
蹂躙されその後には雑草すら生えないと言われているのですよ」
半兵衛の説明に呆れ顔で両手をあげるゼファー
「何だよそれ、そんな相手に寡兵で戦うなんて
無理ゲーもいいところじゃん」
「それ程の相手となりますと勝つのはおろか負けない
様に戦うことも至難の業ですね」
「そんだけ強いなら一度手合わせしてみたいものだけどな」
「でも武田がそんなに強いなら何で今まで上洛してこなかったの?」
そんなゾフィの素朴な質問に優しく答える半兵衛
「それは武田の置かれている状況、特に地理的な状況が
大きく関わっています、武田の領地甲斐と信濃は周りに
上杉、北条といった強敵がおり領地を空にするといつ
攻め入られるかもしれませんからね、しかし北条家は当主が
氏康から氏政に代替わりし武田と同盟を結び直しました
今回の武田の侵攻にも北条軍の援軍がいると先ほどの使者も
言っていましたし、上杉が武田領に侵攻するのが困難な今
千載一遇の好機と見て満を持して上洛を試みたのでしょう」
“ふ〜ん”と感心しながら聞いているゾフィ、そして何かを
思いついたかの様にメンバー達に話しかけた
「今回その武田にもレスティアレ・ラドスからの支援はあるのかしら?
ねえフリニオーラ、貴方はどう思う?」
ゾフィは何気にここまで発言の無かったフリニオーラに
問いかけたが、当の本人はプイッと反対側を向いて
“貴方の質問には答えません”という態度をとったのだ
思わずゾフィの顔が不満げに変わった
「何よ、まだこの前の事怒ってるの?あの事は
散々謝ったじゃないの!?」
その言葉にクルリと振り向いたフリニオーラ、怒りの表情で
ゾフィを睨む様に見つめた
「謝ったらいいってものじゃないでしょ‼︎私が無数の虫に囲まれて
どれほど怖かったか、気持ち悪かったか・・・アイツら服の中にまで
入ってくるし挙句には口の中にまで入ろうとしたんですよ!?
もう思い出すだけで気持ち悪く・・・うっ!?」
恐怖体験を思い出しながら思わず口を押さえるフリニオーラ
「そういえばアンタ、私が部屋に入った時には
口を押さえながら素っ裸で気絶してたわね!?」
「えっ!?」
その発言に思わず一斉にフリニオーラを見つめるメンバー達
皆の視線を受け一気に顔が紅潮するフリニオーラ
「どうして貴方はそういう事を平気で言うんですか‼︎
全く反省していませんね、もう貴方とは当分口を聞きません‼︎」
そう言い放ち再びプイッと横を向いてしまった、メンバー達は
“ヤレヤレ”といった態度で苦笑いを見せる、ルキア達が
そんなのどかな会話をしている時も信長は無言で考えを巡らしながら
ゆっくりと室内を歩き回っていた、信長がどういった対応をとるのか
その返答に否が応でも緊張感が高まり息を飲む家臣達、そしてようやく
家康の使者に対して口を開いた
「家康殿に伝えよ、必ず援軍は送る、それまで何とか持ちこたえよと
相手は信玄じゃ、決してまともにぶつかるなと
信長がそう申しておったと申し伝えるのじゃ‼︎」
家康の使者は深々と頭を下げ信長に礼をする
「ありがたき幸せ、我が主君徳川家康には必ずそう伝えまする
何卒早い援軍をお願いいたしまする」
その言葉に無言でうなづく信長、使者が帰った後、すぐさま
部下に対して命令を下した
「まずは越後の上杉謙信に対し使者を送れ”今武田領はガラ空きだ“と
武田領に侵攻せよと、書状はワシが書く、急いで届けよ
そして将軍、足利義昭の名で”甲斐に戻れ“と信玄坊主に書状で
命令を出せ、あと朝廷にも働きかけ武田の動きを止めよ、急げ‼︎」
「御意‼︎」
家臣達は信長の命令に従い一斉にひれ伏し、動き始めた
にわかにバタつき始める場内、そんな中再びルキアが半兵衛に
問いかけた
「今、信長公が色々命令を出しましたが、それで武田信玄は
止められるのでしょうか?」
その質問にゆっくりと首を振る半兵衛
「おそらく無理でしょうね・・・まず越後の上杉謙信ですが
彼は”越後の龍“と言われる強豪で武田信玄とは宿敵とも言える
関係です、両者は何度も戦いましたがいまだ決着はついておりません
いわば武田信玄にとって最も警戒すべき相手なのですが
この時期の越後は豪雪により出兵もままなりませんし
今、越中で起こっている一向一揆を平定するのに手いっぱいで
とても武田領に侵攻など無理でしょう、第一上杉謙信は
”侵略戦争をしない“というのを旨としております
それらの条件を考慮した場合、上杉謙信を動かすのは厳しいと
言わざるを得ません、そもそも上杉により自国が侵略される可能性が
あったら武田信玄が上洛など試みるはずがありませんから・・・」
成る程と半兵衛の話に感心するメンバー達
「じゃあ将軍の名前を使ったり朝廷に働きかけて
阻止するという方法はダメなの?」
ゾフィの問いかけに残念そうにうなづく半兵衛
「恐らく無駄でしょう、そもそも武田信玄に上洛を促し“信長公を討て”
と号令を出しているのはその将軍 足利義昭公本人なのですから・・・」
「えっ!?」
その返答にメンバー皆が驚きの声を上げる
「そうなんですか!?」
信じられないといった表情で問いかけるフリニオーラに
コクリとうなづく半兵衛
「お館様も薄々は気づいておりますが、義昭公が表立って
反旗をひるがえさない以上、黙認しているのが現状です
将軍を奉じているというのはそれほど価値が高いのです
そして朝廷も同じです、彼らは基本、日和見主義です
勢いのある者には表立っては逆らいません、しかし
先日の比叡山焼き討ちでお館様に対しあまり良い印象を
持っていないことは明白ですし、強い者に逆らわない
という理由で織田に合わせていたのですから、さらに強い
武田が来るというのであれば、武田に乗り換える事も
彼らにとっては自然の流れとなるでしょう」
半兵衛の説明に思わず絶句するルキアたち
「信長公の周りは本当に敵だらけじゃないですか!?」
「世知辛いねぇ~嫌だ嫌だ・・・」
「どいつもこいつもやり方が気に食わないな、裏でコソコソと」
「その上レスティアレ・ラドスからの刺客は
執拗に信長公を狙ってきますしね・・・」
「出る杭は打たれるって事?それにしても酷いわね・・・」
皆が一通り意見を述べた後ルキアが口を開いた
「今回の件でも我々にも出来ることがあれば協力します」
その言葉ににこりと微笑みうなづく半兵衛
「それを秀吉殿を通じてお館様に伝えてあげてください」
その言葉を受け秀吉を通じ信長に伝えるルキア、信長は少し嬉しそうな
表情を見せたもののすぐに深刻な面持ちで考え込んだ
「我々も家康公の所へ援軍に行きましょうか?」
その提案に首を振る信長
「そち達の申し出は嬉しいがこちらも予断を許さない状況じゃ
浅井・朝倉や比叡山の時の様に相手が異形の力を使ってきた場合
お主達の力が必要となる、だからおいそれと
徳川殿の元へ行ってもらうという訳にはいかぬのじゃ・・・」
厳しい表情を浮かべながら最善の方法を模索する信長
その態度と表情からもいかに信長の置かれている状況が
苦しいものかを物語っていた
「ならばこうしてはどうでしょう,我々の内の四人は残り
二人が家康公の下に行くというのは?」
それを聞いた秀吉の表情が明るくなる
「それはいいでござるな、お館様それでいきましょう‼」
その提案に軽くうなづく信長
「ならばそうしてもらおう、で人選はどうする?誰が
家康殿のもとへ行くのじゃ?」
信長の問いかけに思わずルキアの顔を覗き込む秀吉
「我々にはそれぞれ得意不得意があり、その状況に応じて
適切な人選をしたいと思っています、ですから
今回の最重要課題を二つ挙げてくれませんでしょうか?」
ルキアの言葉に目を細める信長、すかさず秀吉が半兵衛に問いかけた
「半兵衛、お主はどう考える!?」
半兵衛は口に手を当てしばらく考えたのちに
「そうですね・・・最優先事項は家康公を守ること
そして武田信玄の強さの秘密を探ることですね
家康公が死んでしまったら元も子もないですし
もし武田の強さの秘密にも異形の力が使われているのであれば
それを究明し対策をとらなければなりませんからね」
「そうじゃな、半兵衛のいうとおりじゃ、という訳で
その線で人選をお頼み申すルキア殿!?」
半兵衛の見解を聞き秀吉がルキアにせかすように投げかける
「そういうことであればステイメンとゼファーに
行ってもらいましょう、二人ならその役目を
十分こなせるはずですから」
仲間を信頼しきっているルキアのその言葉に大きくうなづく信長
「わかった、人選はそれでよい、援軍の準備が出来次第
両名には家康殿のもとへ行ってもらうぞ、良いな」
目を閉じ静かにうなづくステイメンと
空を見上げてため息をつくゼファー
「わかりました、微力ながら私に出来る事をしてまいりましょう」
「うへ~おっさんと二人旅とかゾッとするな、せめてゾフィか
フリニオーラと行きたかったけど・・・まあしゃあないか」
ゼファーの言葉にゾフィとフリニオーラの二人が激しくツッコむ
いつもの見慣れた光景ではあったがどことなくホッとした信長であった
それから数日の後、家康の居城浜松城では次々ともたらされる
悲報、凶報に空気は重く沈み切っていた、そして新たな
悪い知らせが家康のもとに届いたのだ
「申し上げます、二俣城が武田軍の攻撃により落城いたしました‼」
その報告にざわつく徳川家家臣一同
「なんだと、あの二俣城がこうもあっさりと!?」
「犬居城、只来城、久野城に続いて二俣城までもが・・・」
「しかし早すぎる、通常城一つ落とすのに普通一か月はかかると
いわれているのにどの城にも5日もかけずに落城など!?」
「まさに風林火山を体現している様ですな、武田信玄
噂にたがわぬ恐ろしさじゃ・・・」
家臣たちがそれぞれの思いと感想を口にしていると
それまで沈黙していた家康が連絡兵に向かって問いかけた
「二俣城は天竜川の急流沿いに守られた要塞じゃ
生半可なことでは落ちはせん、一体信玄はどうやって
こうも早く二俣城をおとしたのじゃ?」
問われた連絡兵は頭を軽く下げた後皆に聞こえるような大声で
報告を始めた
「武田軍は最初は通常の攻撃しておりましたが力攻めは無理と見て
作戦を変更、二俣城の裏手にある水汲み場に目を付けました」
二俣城は天竜川と接しているため城内ではその水を使用している
矢倉のような建物を造りロープを使って天竜川から
直接汲み上げているのだ
「しかしあの水汲み場には鉄砲隊で守りを固めているはず
近づいた者たちは鉄砲の餌食であろう、天竜川の急流で
大軍では攻められない地形となっておるし
信玄は一体何をした!?」
家康は連絡兵に厳しい視線を向けながらその内容を一字一句
聞き逃すまいとジッと耳を澄ませていた
「はい、武田軍は大量のいかだを作り上流から流したのです
そのいかだにより水汲み場の建物は破壊され、水源を絶たれた
二俣城は降伏いたしました・・・」
それを聞いた家康の顔が険しく変わる、そして徳川家家臣たちも
驚きを隠せなかった
「いかだだと!?そんな物で水汲み場を破壊したのか!?」
「何と、天竜川の急流を逆に利用したというのか!?」
「何という知略だ・・・恐るべし武田信玄」
そんな時ようやく家康のもとに待ちわびた報告が入った
援軍の織田軍が到着したのである
「ようやく来たか!?」
次々と味方の城が落とされる中で、家康は信長の言う通り
城の外には出なかった、その為援軍が来ないと知った
各城の城主たちは武田の調略により寝返る城も出始めていた
だけに、援軍の到着に湧き上がる徳川勢
「それでどれほどの数で来てくれたのだ?」
目を輝かせて問いかける家康だったが連絡兵の告げた
内容は家康の期待を大幅に裏切るものであった
「織田軍は佐久間信盛殿、平手汎秀殿、滝川一益殿率いる
約3千人とのことでございます‼」
期待していた兵数を大幅に下回るその内容に
家康をはじめ落胆の色を隠せない徳川家家臣達
「たった3千だと!?」
「我らが姉川の戦いで出した数は5千だぞ、われら徳川より
遥かに大兵力を有している織田軍がわずか3千とは・・・」
「これでは我等が8千と合わせても1万1千人
3万もの武田軍とどう戦えばよいのじゃ!?」
厳しい表情を浮かべながらも絞り出すように口を開く家康
「今織田も周りを敵に囲まれていて苦しいのだ・・・
援軍を出してくれただけでもありがたい事である」
家臣たちに向かってそう語りかける家康、それは自分自身にも
言い聞かせているようであった、そしてしばらくして織田軍が
浜松城に到着した、そして佐久間信盛がにこやかな表情で
家康に近づき話しかけた
「遅くなり申した、我等が織田勢は死力を尽くして戦いまする
どうかご自分の兵だと思って使い倒してくだされ」
一方不満な心を顔に出さずに大きくうなづき礼を告げる家康
「遠路はるばるの援軍、まことにかたじけない、この家康
心より感謝いたしますぞ」
家康は佐久間、平手、滝川に最初の挨拶を終え
ふと視線を後ろに向けると織田勢の中のある人物に気付く
「これはステイメン殿、ゼファー殿、よく来てくださった‼」
嬉しそうに近づいてくる家康に対し
二人は家康にぺこりと頭を下げ右手を差し出した
「お久しぶりです家康公、姉川の合戦以来だからそこまで
久しぶりではないですかな!?」
「俺達は家康公を守る事と武田信玄の強さの秘密を探るために
来ました、微力ながらお役に立てるよう頑張りますよ」
大きく何度もうなづきながら嬉しそうに微笑む家康
織田軍の援軍数には不満を感じていた家康ではあったが
ステイメンとゼファーが来てくれたことは非常に喜んでいた
強敵である武田信玄を相手に寡兵で挑むことがいかに無謀で困難か
そんな状況にやや絶望感すら感じていた家康であったが
この二人がいたら”もしかすると何とかなるかもしれない!?”と
微かな希望を感じたのだ、そして家康と徳川家家臣達、そして
佐久間、平手、滝川とステイメンとゼファーはすぐに軍議に入った
武田相手にこの浜松城でどのように戦い迎え撃つかの話し合いである
軍議に入って一時間が過ぎたころ、連絡兵が慌ただしく入ってきた
「申し上げます、武田軍の本隊がこの浜松城を目指して接近中‼」
城内が一気にざわつき皆の表情がこわばる
「もう来たか、流石に速い‼」
家康はそう言って立ち上がると浜松城の天守閣の武田の来る方に
移動し地平線をじっと眺める、そして皆もそれに続く
すると北の方角から徐々に姿を現す武田軍
砂煙を上げ浜松城を目指す大軍の全容に思わず息をのむ一同
すると重苦しい雰囲気を察したのか、家康がクルリと皆のほうを向き
力強く語り始めた
「この浜松城は難攻不落の城、いくら武田といえどそう簡単には
攻略できぬ、皆の者 心配はいらぬ、力を合わせてこの城で・・・」
その時である、武田軍を見ていた1人の男が”あっ”と叫んだ
「武田軍の動きがおかしいぞ、あれは一体!?」
その声に慌てて武田軍を見直す家康、すると武田軍は
浜松城の目の前で方向転換し浜松城を横切るような形で
通り過ぎたのだ、呆気にとられる一同、それは家康も同じであった
「な、なんだと、信玄坊主めいったいどういうつもりだ!?」
徳川勢の困惑をあざ笑うかのように目の前を通り過ぎていく武田軍
家康は歯ぎしりしながら睨むように見下ろしていたが
怒りの形相で振り向き横にいた本多正信に問いかけた
「信玄の意図は何だと思う?敵城の前を素通りするなんて
聞いたことがないぞ、とことんコケにしよって・・・」
拳を握り締めながら必死に怒りを抑え家臣に助言を求める家康
目を閉じしばらく考えた後、静かに答える本多正信
「この行動からくる信玄の狙いには二通りのことが予想されます
まず城の目の前を通り過ぎるという挑発行為ともとれる行動で
我等を城の外におびき寄せ叩こうという陽動、そしてもう一つは
我らの防御心理を利用し我らが城から出てこないことを見越して
一気に京まで上り織田軍をせん滅する、この二つが考えられますね」
本多正信の推測に腕を組んで考え込む家康
「なるほど、前者だった場合このままノコノコと出て行ったら
相手の思うつぼ、しかし後者だった場合出ていかなかったら
信玄の思惑通り・・・という訳か、しかし後者の場合
京に着いて武田軍が織田軍と戦うことになった時、我等が
後ろから攻撃すれば武田は挟み撃ちになるではないか!?」
その問いかけにボソリと答える本多正信
「ですから、いち早く京に上り、我ら徳川軍が来る前に
決着をつけようというのでしょう・・・通常では考え辛い
作戦ですが武田信玄の強さと速さがあればそれも可能かと・・・」
家康は突き付けられた現実に厳しい表情で思い悩む
そして視線を別の者に移した
「数正、お主の意見はどうじゃ?信玄の狙いはどちらだと思う?」
質問された石川数正は目を細め静かに答えた
「おそらくはどちらか・・・ではなく両者だと思われます」
「それはどういう意味じゃ?」
家康の問いかけに説明するように話す数正
「はい、武田は我等が出ていけば反転しこれを迎え撃ち
我等が出ていかなければそのまま京を目指す、という
作戦だと思われます」
その内容に歯ぎしりする家康
「おのれ信玄、何という大胆不敵な作戦を・・・皆はどう思う?
我等はどうすべきだと思うか正直に意見を述べよ」
すると家臣たちは次々と意見を述べた、その殆どが
”出ていくべきではない、ここは籠城してやり過ごすべきだ”
というものが大勢を占めた、しかし家康としては城の目の前を
素通りされ、もし京都で織田軍が武田によって早々に敗れた場合
自分は何の為にいたのか!?という武士の尊厳と存在意義を
問われることになる、頭の中で激しい葛藤が起こり憤る家康
その時ふと思いついたように口を開いた
「ステイメン殿とゼファー殿にも意見を聞きたいのだがどうか?」
皆の視線が一斉にステイメンとゼファーに集まる、家康は話をつづけた
「ステイメン殿は異国の兵法に通じていると聞き及んでおりますし
ゼファー殿は人の心理を読み取る事に非常に長けていると
聞いております、そういった面からお二人の忌憚のない意見を
聞かせてはくれませんでしょうか?」
突然振られたステイメンは少し戸惑う素振りを見せたが
すぐさま手を口に当て考えると淡々と答えた
「そうですね・・・私はこれまで武田信玄という武将を
知りませんでした、そして色々な人からその人となりや考え方、
行動パターン、実績、戦果などを聞いたのですが
今回の作戦においては少し違和感のようなものを感じますね」
「ほう違和感ですか、それはどういったところでですかな?」
興味深げに問いかける家康
「はい、確かに今回の作戦は大胆不敵、通常では考えられない
作戦で一見、武田信玄らしいといえなくもないですが
私の聞いていた武田信玄という武将は”勝つべくして勝つ”
”負ける戦いはしない”というのを信条とし戦略をもって
戦う前から圧倒的有利な状況を作り出すことに長けている
と聞いていました、それを考えると今回の作戦は腑に落ちません
徳川軍が出ていった場合、いくら数で優っているとはいえ
武田軍は背後をつかれることになりますし、出ていかなかった
場合でも京都で織田軍と対峙した場合、徳川軍が来るまでに
織田軍を壊滅させなくてはなりません
いくら武田軍が強いとはいえ徳川軍が到着するまで耐えられない
ほど織田軍が弱いとも思えません、つまり今回はリスクを
背負ってでも戦うという一か八かの賭けの要素が強いのです
それは武田信玄の信条に反していると私は思いますね」
ステイメンの説明に大きくうなづく家康
「なるほどのう・・・ではゼファー殿はどう思われますかな?」
ゼファーはフッと笑い落ち着いた口調で話し始めた
「今ステイメンが話した通り”武田信玄らしくない”動き
リスク承知で信条と異なる賭けともいえるその行動は
何が何でも短期決戦の早期決着に持ち込みたい・・・
とも取れる、つまり焦っている、という事だ」
その言葉に一同皆ざわついた
「信玄が焦っていると!?」
「あの武田が焦っているとは・・・にわかには信じられんが」
「しかし何故信玄は焦っているのですかな!?」
皆の注目が再びゼファーに集まる、その視線を感じたのか改めて話始めた
「武田信玄が焦っている理由・・・憶測でしかないが
今まで上洛をしてこなかった武田信玄が満を持して
今、京都を目指す理由とも付随すると思える
皆も耳にした事があると思うけど
”武田信玄は病に臥せっている”と・・・」
再びざわつく一同
「馬鹿な、では信玄は病をおして上洛を目指しているというのか!?」
「つまり余命が少なくなった信玄は最後に
天下を目指して上洛したと!?」
その疑問に静かにうなづくゼファー、家臣の一人が慌てて反論した
「しかしその噂も武田が流した噓の情報という可能性はないのか?
あの信玄ならばそのくらいのことはやるであろうに」
その言葉に首を振るゼファー
「そんな流言は意味がない、何故ならそんな噂は味方の士気を下げ
敵の士気を上げるだけのものでしかないからね・・・
唯一あり得るとすればそういう噂を流して、油断している敵を
自国の領内に引き寄せ一気に叩く、という戦略ぐらいかな
でも今回は上洛を目指して出陣しているんだからそれには
当てはまらないよね、つまりこれらの事実を検証すると
武田信玄の病状は思いの外重く、短期決戦による早期決着を
目指している、と推測できるよ」
再びざわつく城内、そして家康の目が鋭く変わる
「あの信玄坊主が余命いくばくもないと・・・それが事実であれば」
すると家康はスッと立ち上がり皆に号令を出した
「皆の者出陣じゃ、武田を追うぞ‼」
その家康の言葉に動揺する家臣一同
「お待ちください殿、武田の狙いが分かった以上、出て行くよりも
このまま籠城して敵をやり過ごし、京にて織田軍と
挟み撃ちにした方が良いと思われますが!?」
そう言った家臣に向かって叱るような厳しい口調で反論する家康
「馬鹿を申せ、そんな事をしてもし我らの到着前に
織田軍が敗れたら何とする!?」
「しかし殿、このまま出ていけば、それはそれで武田の
思うツボなのではないですか!?」
その言葉にニヤリと笑う家康
「信玄坊主が我らの行動に合わせて動くというのであれば
我等も武田の動きに合わせて動けばよいではないか」
その家康の発言の意図を理解できない家臣達
その中で石川数正が思わず問いかける
「武田の動きに合わせて動く・・・というのは具体的に
どうするおつもりなのでしょうか?」
数正の疑問に対し嬉しそうな口調で説明を始める家康
「京を目指す武田軍と一定距離を置いてわが軍は追い掛ける
もし武田軍が反転してわが軍に攻撃してこようとしたならば
我等もいち早く反転しこの浜松城に戻る、そしてそのまま
京を目指すのであれば織田軍と交戦した直後にわが軍が
武田軍の背後をつく、さすれば武田軍は織田と徳川の
両軍をほぼ同時に相手せねばならずこちらとすれば
理想的な挟撃戦が展開できるという訳じゃ」
”おお~”という感嘆の声が上がりにわかに盛り上がる家臣達
すかさず右手を上げ全員に出陣の意を告げる家康
「今言った通り信玄の夢はここで潰える事となるであろう
我等が徳川を侮った事を後悔させてやろうぞ、皆の者
私に続け‼」
”おおー‼”っという歓声の中、出陣のために慌ただしくなる城内
そんな中、一人ゼファーが厳しい表情を浮かべていた
『皆には言わなかったが、もう一つだけ別の可能性がある
そっちの方じゃないことを祈るぜ・・・』
残念ながらゼファーの予感は嫌な方で的中する事になる
そして家康は武田信玄の恐ろしさを嫌というほど
思い知る事になるのである。
今回から本編に戻ります、さて今回描く三方ヶ原の合戦は”徳川家康VS武田信玄”という
戦国史上でもまれにみる好カードであり戦いの醍醐味ともいえる内容だったと思います
武田信玄といえば川中島の戦いが有名ですが私個人的にはこの三方ヶ原の戦いが一番好きです
今作の内容はやや私好みに演出しているので戦国ファンの方には生暖かい目で見てくれると
嬉しいです、では。




