鬼の執念
登場人物
アドリアン・ルキア…伝説の聖剣”ブレイヴ・ハート”を持つ勇者、人々の為に戦うという信念を持っている
ロット・ステイメン…主に回復や防御をおこなう僧侶、常に冷静沈着で戦術指示も出すチームの頭脳的な存在
ルース・ライオス…2m近い長身で屈強な戦士、一人で魔獣を倒したこともあり”魔獣殺し”の異名を持つ、兄貴肌な性格でチームの精神的支柱にもなっている
ギャレット・ゼファー…カードキャスターという珍しい職業だが非常に優秀、自分からチームに売り込みに来たが自分の事は話したがらない、いつも冗談を言って場を和ませるチームのムードメーカー
ライドン・ゾフィ…召喚魔術師の名門ライドン家の生き残りで五体ものドラゴンを操る事ができる凄腕、一族の間では”神に愛された至高の召喚魔術師”と言われていた
クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い
織田信長…尾張の大名、頭が切れ行動力とカリスマ性を兼ね備えた戦国時代の風雲児
德川家康…三河の戦国大名、尾張の織田信長と同盟を結んでいる、のちの天下人
本田平八郎忠勝…戦国最強と言われる武将、愛槍”蜻蛉切”を手に幾多の戦いで武勇伝を誇る德川軍の猛将
浅井長政…近江の戦国大名、信長の妹お市を嫁に持つ義理の弟、信長に反旗を翻す。
真柄十郎左衛門…朝倉軍一の猛将、長刀”太郎太刀”を振い忠節を尽くす忠臣
姉川での戦いは佳境に入り德川軍が朝倉軍相手に優勢に進めていた
その頃浅井軍は織田軍の陣形、十三陣の内十一陣を破り信長の所まで
あと一歩と迫っていた
「あと少しじゃ、あと少しで敵大将織田信長を討ち取る事が
出来ようぞ、皆の者勝利は我らのモノじゃ‼」
味方を鼓舞するかのように長政が叫ぶ、浅井軍の勢いは
留まるところを知らず織田軍の中を突き進んでいた
その時、一人の兵が慌ただしい態度で長政のそばまで駆け寄り
焦った様子で大声で報告をした
「申し上げます、敵の別働隊が我が軍の左翼に攻撃を開始
側面を突かれた我が軍の被害は甚大であるとのことです‼」
その報告にギョッとする長政、周りにいた家臣達も思わず問いかけた
「織田の別働隊だと!?横山城を包囲していた兵か?敵の数は
どの程度じゃ!?」
「敵兵の数はおおよそ千人程ですが先陣を切る武将の特徴は
大柄で金髪との事からルース・ライオスであると思われます‼」
その報告を聞いて浅井家の家臣達の表情が歪む
「ルース・ライオス・・・先日金ケ崎にて我が軍を蹴散らしていった
あの異国の剛の者か!?」
長政は思わず唇を噛んだ、織田軍を突破する際に勢いに任せて突撃を
繰り返していた為、軍の隊列が伸び切ってしまっていて
その側面を突かれるという事は非常に厳しく、下手をすれば
浅井軍が全滅することも有り得る由々しき事態なのである
「しばし持ちこたえれば横山城からも援軍が来よう、それまで
何とか持ち堪えよ、敵大将まであと一歩なのじゃ‼」
長政は自分にも言い聞かせるかのように部下達に言い放った
しかしライオスを先頭に織田軍別働隊は破竹の勢いで浅井軍を蹴散らしていく
「オラオラ、こっちはお前らの大将の浅井長政に用があるんだ
死にたくない奴はすっこんでな‼」
嵐の様な攻撃が浅井軍を蹴散らし始めた
時を同じくして横山城からの別働隊が浅井軍の左翼に突撃し
多大なダメージを与える光景を目の当たりにした朝倉軍の兵達は
急激に戦意を失いつつあった
「だ、ダメだ浅井が負ける・・・」
「俺達も殺される、嫌だ死にたくない‼」
「負けだ、この戦いは負けたんだ~‼」
ただでさえ劣勢で士気も低かった朝倉軍は友軍である浅井のピンチを見て
完全に戦意を失い一人、また一人と戦場から逃げ出しはじめる
「何をやっている、逃げるでない返せ、戦え‼」
朝倉軍総司令官 朝倉景健が必死に叫ぶがその声はむなしく響くだけであった
こうなるともうどのような優秀な指揮官でもそれを引き止める事は
出来なかった、連鎖的に次々と逃げ出し始める朝倉兵
朝倉軍は完全に兵の統率を失い瓦解した、それを追撃しようと德川軍が
動こうとするがその瞬間、家康の声が戦場に響く
「逃げる朝倉兵などかまうな、これより我が軍は織田の援護に回る
浅井軍の右側面に攻撃を集中し浅井軍を突き崩すぞ‼」
その指令に瞬時に反応する德川軍、急速に向きを変え浅井軍の右翼に
向って突撃を開始した、その先陣を切るのは”戦国無双”本田忠勝である
「本田平八郎忠勝ここに見参‼浅井長政の首このワシが貰い受ける
命の惜しい者は我が前に立つな‼」
忠勝の両脇にはルキアとゼファーもいた、忠勝を先頭に德川軍は浅井軍の
右翼に突撃を開始した、ただでさえ数が少なく隊列が伸び切っているのに
左右側面から強烈な猛攻撃を受けたのである、浅井軍は見る見るうちに
撃破されていき陣形を維持できなくなる寸前まで追い込まれた
形勢は完全に逆転したのである、その状況を目の当たりにし信長が叫んだ
「見たか長政、戦とはこうやるのじゃ‼」
信長が叫ぶ様に言い放った、それは今までいかに厳しかったかの
裏返しでもあったがそんな素振りを一切見せない信長はその後も
睨むように戦場をジッと見つめ続けている、そして左翼の先陣で奮闘する
大柄で金髪の男に目が留まる、更に右翼側に視線を移すと本田忠勝の近くで
戦っている見覚えのある異国の者二人、不意に後ろをチラリと見ると
ゾフィとフリニオーラ、そしてステイメンの姿を改めて確認してから
思わずフッと口元を緩ます信長
「サルの仕業か・・・小癪な真似をしおって・・・」
秀吉の行った配慮に気が付く信長、勝ちを確信した信長であったが
これから起こる予想もつかない非常事態を今の時点では知る由も無かった
一方で窮地に追い込まれた浅井長政は敵に囲まれながらも奮戦していた
「殿お引きください、この戦は負けでございます‼」
家臣の言葉に唇をかみしめ悔しさで震える長政
「あと一歩なのだ、あと一歩で信長の所まで届くのだ
何とか持ち堪えよ‼」
「無理でございます、その前に我が軍が全滅してしまいます
このまま戦い続ければ退路も絶たれ完全に敵陣の中で孤立します
そうなれば討ち死にか腹を切るかという不名誉な選択しか残されません
ここは耐えるのです、耐えて捲土重来を果たされよ‼」
進言する家臣を睨みつけるように恨めし気な表情を浮かべる長政
その時、別の伝令を伝える兵が長政に駆け寄り報告を始めた
「申し上げます、浅井政之殿、浅井政澄殿、弓削家澄殿、今村氏直殿
討ち死に致しました‼」
長政の表情が悲痛なモノに変る、討ち死にした者達は皆
浅井家を支えてきた重鎮であり浅井政之などは長政の実弟なのである
「殿、これ以上戦えば戦死者も増える一方ですぞ
ここは御自重くだされ‼」
長政は握り締めた拳を震わせ絞り出す様に言い放った
「これより我が軍は小谷城に後退する、各自速やかに撤退せよ‼」
長政の号令に浅井軍は撤退を開始した、それを見た信長はこの戦いで
初めて立ち上がり撤退しようとする浅井軍を指さし大声で叫んだ
「長政を逃がすな、必ず奴を討ち取りその首をワシの元へ持って来い‼」
信長の号令を引き金に織田軍の総反撃が始まった、それは今までの
鬱憤を晴らすかのような怒涛の追撃であった、浅井軍は全滅の危機に
瀕していて、朝倉軍もほぼ壊滅状態に陥っていた、皮肉にも最後まで
抵抗を諦めなかった朝倉軍総大将 朝倉景健の兵達だけが
逃げ遅れるような形で德川軍の猛攻を受け全滅寸前まで追い込まれていた
そんな光景を悲しげな表情でジッと見つめていた一人の男がいた
朝倉軍武将 真柄十郎左衛門である、朝倉軍最強の豪傑であるが
先程本田忠勝との一騎打ちで圧倒され劣勢の所を仲間の兵に助けられ
傷の手当の為に後方へと下がった為、難を逃れる形となったのだ
その時真柄十郎左衛門は懐から一枚の紙を取り出した
それは怪しげな文字がびっしり書かれた呪符であり
主君である朝倉義景より”いざとなったら使え”と渡されていた物であった
十郎左衛門はふと昔の事を思い出していた、それは朝倉義景と出合った時の
事である、十郎左衛門は昔から体も大きく力自慢で武芸にも秀でていたが
その力ゆえの尊大な態度と命を賭けて仕えたいと思える主君が
いなかった為、今まで仕官が叶わなかった、しかしそんな十郎左衛門に
手を差し伸べたのが朝倉義景だったのだ
「お主は強いのう、どうじゃワシに力を貸してはくれぬか?
ワシは周りから強さが足りないだの優柔不断で決断力が無いだの
色々言われておることは知っておる、だからこそお主の強さが
欲しいのじゃ、ワシの家臣としてでなくとも構わぬ、越前の民の為に
皆の平和の為にその力を使ってはくれぬか!?」
最初は”妙な事を言う大名だな・・・”と感じていたがその人柄を気に入り
当初は家臣では無く一部の軍役を任されるだけの立場として義景に
協力する事にした、その後将軍足利義昭の計らいもあり正式に朝倉家に
仕える事となった十郎左衛門、それ以降その恩に報いる為、義景の為に
献身的に仕えてきたのだ、義景に渡された呪符を握り締め
ボソリと呟く十郎左衛門
「怪しげな呪術に手を出して以来、最近の義景様は人が変った様に
なられてしまったが、本来は心優しく寛大なお方だ・・・必ず
良き大名となり越前の民を慈しんでくれよう・・・」
そう言って愛刀”太郎太刀”を手に取り自分の人差し指の先に軽く傷をつけた
するとその小さな傷口からジワリと血が溢れ出す、その血で呪符に何やら
文字を書き始める十郎左衛門、文字を書き終わるとその呪符を睨みつけ
意を決したかのように自分の胸に張りつけた
「義景様、この真柄十郎左衛門あなたにお仕え出来て真の本懐でありました
さらばです、越前の民をよろしくお願い申します‼」
その言葉と共に胸に張りつけた呪符は”ドクン”と大きく鼓動したかと思えば
そのまま十郎左衛門の体内へと溶け込むように入って行った
「ぐあぁぁぁぁぁ~~~‼」
十郎左衛門の叫び声と共にその体は見る見る内に変化していった
元々大柄で筋肉質だった体の筋肉が異常な程に隆起し更に大きくなっていく
顔の表情がどんどん険しくなっていくのと同時に全ての歯が伸び始め
鋭い牙と化していく、額からは血管が数か所浮き出すと共に
両目の黒目の部分が無くなり真っ白く変化した
そして頭からは二本の角が生えて来たのだ、体全体も青く変色したその姿は
もはや人のモノとは思えない出で立ちであった
「グウゥゥゥゥ~~~‼」
口からは涎を垂らしながら唸り声を上げる十郎左衛門、大きく白い息を吐き
愛刀”太郎太刀”を再び手に取ると猛烈な勢いで德川軍に突撃していった
德川軍の本陣では重鎮である酒井忠次がようやく安堵した様子で
主君である家康に話しかけていた
「どうやら体勢は決したようですな、今回の勝ち戦では我が軍の功績は大
でありましょう、これで織田との同盟関係も強くなり信長公にも恩を
売る事ができましたな殿!?」
その忠次の言葉に満足げにうなづく家康
「そうじゃな、これで朝倉軍を壊滅し浅井長政をも討ち取る事が出来れば
今回は大勝利という事に・・・ん、なんじゃあれは!?」
その時、自軍に向って突撃してくる謎の人物が家康の目に入った
怪しげな青い姿態、大きな刀を振り回しながら唸り声を上げてこちらに
近づいて来る不可思議な人物・・・いや人物と言っても良いモノか?
明らかに人間離れしたその姿に思わず目を細めて見つめる家康
しかし次の瞬間、家康のみならず德川軍の全員が驚愕する光景が
飛び込んできた、その青き姿の大男が刀を振り回すと德川軍の兵が
まるで爆発したかのように吹き飛んだのだ、驚きのあまり声も出ない
家康と忠次、德川兵も呆気に取られるがそんな事はお構いなしとばかりに
暴れ回る青き姿の十郎左衛門、勇猛で知られる三河兵も成す統べも無く
蹴散らされていく、浅井軍を攻撃していた本田忠勝は味方に起きた
異常事態に思わず振り返り驚愕の表情を浮かべた
「何が起こったのじゃ、殿は・・・殿は御無事か!?」
主君の危機を察した忠勝はすぐさま家康の元へ引き返そうとするが
先陣を切って浅井軍に突撃した為、思う様に進むこともできなかった
忠勝と共に敵右翼を攻撃していた德川軍の兵達も同様で急におとずれた
まさかの自軍の危機的状況に動転し慌て始めたのだ
その事により德川軍に動揺が走り陣形が乱れた
その隙を浅井長政は見逃さなかった
「敵に隙が出来た、今こそ薄くなった右翼側から撤退するぞ
全軍、敵右翼軍に攻撃を集中し一点突破を図る、我に続け‼」
長政を先頭に動揺している德川軍の中央突破を図る浅井軍
にわかに統率を失いつつある德川軍は容易に中央突破を許し浅井軍は
小谷城へと撤退に成功した
時を同じくして朝倉軍も撤退を成功させていた、十郎左衛門の奮闘で
德川軍が朝倉兵などにかまっている余裕が無くなった為である
その光景は信長のいる本陣からでも確認する事が出来た、信長にしてみれば
完全勝利目前で、思わぬ友軍の危機と敵大将浅井長政を取り逃がしたという
事実はあまりに受け入れがたい出来事であった
「おのれ・・・一体何がどうなっておるのじゃ!?」
事態の把握と説明を求め周りを見渡すが家臣達は勿論の事
ゾフィやフリニオーラですら何が起こっているのか理解できず
説明する事が出来なかった、そんな中おそらくこの戦場で
唯一この事態を把握している人物がいたステイメンである、しかし
ステイメンは事態の緊急性を重んじ、信長に説明するより前に
自分の額に指を当て魔法によるメッセージを送った
『聞こえますかルキア、私です・・・』
こうしている間にも德川軍の被害はどんどん広がっていた
忠勝と同じく浅井軍右翼の攻撃に参加していたルキアとゼファー
しかし德川軍に起こっている異常事態を見て首を傾げていた
急いで德川軍の援護に回る為、二人は走りながら疑問の正体を探っていた
「アレは一体何だと思うゼファー?」
「いや俺にもわからない、アレは悪意的狂騒の
レベルじゃないぞ!?遠目で詳しくはわからないが
武器の影響でもなさそうだ・・・」
二人は真相の究明が出来ず戸惑っている時、ルキアの頭にステイメンからの
メッセージが届いた
『聞こえますかルキア、私です・・・』
少し驚きながらすぐさま今の事態を問いかけるルキア
「ステイメンか!?今德川軍で起こっている事態を理解できるか?
とてつもない強さを持った人間が暴れ回っている事だけは
ここからでも理解できる、しかしあの強さは尋常じゃない
アレはもはや人間の域を超えている、体自体も変化している様だし
一体どうなっているんだ?まさか魔人化したとでもいうのか!?」
『いえアレは魔人化したのではありません、鬼人化したのです』
その言葉に思わず顔をしかめるルキア
「鬼人化?人間が鬼になったというのか、そんな事が有り得るのか!?」
『はい、あり得るんです・・・これは古の邪法と人の執念が
合わさる事により可能とする飛び切り邪悪な外法”鬼魂喰い”
という古式暗黒魔法の一つです』
「人の執念とはどういう事だステイメン、術式の中に人の心が
作用する魔法何て聞いたことが無いが・・・」
ステイメンは少し間を空け務めて冷静に説明を始めた
『いいですかルキア、人間には鬼になれる時というのが二つあります
それは”誰かを殺したいと思う程憎み、怒り、恨む”といった
紅き思いが心を支配した時
そして”わが身を犠牲にしてでも何か大切なモノを守りたい”
という蒼き思いが心を占めた時です
呪術によってそんな思いを魂ごと鬼に喰わせるのです
するとその執念や怨念を触媒に魂を捧げる事によって
爆発的な力を得る事が出来るのです、それが”鬼魂喰い”です』
その説明を聞いたルキアは再び德川軍の中で暴れている十郎左衛門を見て
悲しげな顔を浮かべると静かに問い掛けた
「じゃあ彼の体が青く変化し青鬼となって戦っているのは・・・」
『主君を助けたい、仲間を助けたいという思いが
彼を青鬼へと変えたのでしょう・・・』
悲しげな表情を浮かべ再びステイメンに問いかける
「じゃあ彼を止める方法は無いのか?どうやったら”鬼魂喰い”を破れる?」
ルキアの質問にしばらく無言で答えなかったステイメンだったがようやく
深刻な口調で話しはじめた
『この魔法を破る方法はありません、”鬼魂喰い”は
心を魂ごと鬼に喰わせるため本人の自我はほとんど残りません
今戦っている彼も執念と本能だけで戦っている事でしょう
そして人間の持つ体力、気力、精神力、魔力を無理やり引き出す事によって
あれ程の爆発的な力を得る事が可能なのです、ですからどんな屈強な
戦士でも小一時間もすれば全ての力を使い果たし動けなくなります
それは限界を超えて力を引き出す為、力尽きた後の体はボロボロの状態です
ですから本来、”鬼魂喰い”の相手には
”何もせず放っておく”のが一番効果的なのです、どうせ時間が来れば
力尽き動けなくなるのですから・・・』
その言葉にルキアはゆっくり首を振る
「しかし放っておいたら德川軍は皆殺しにあってしまう・・・
それと力尽き動けなくなった彼はその後どうなるんだ!?」
『心を喰われ体の全ての力を限界以上に引き出されるのです
全て力を使い尽くしたらその後はよくて廃人・・・
ほとんどの場合は死に至ります』
ステイメンの説明に思わず目を閉じやりきれないといった表情を浮かるルキア
しかし意を決した様に再び問いかける
「じゃあ力で倒すしか方法は無いのだな、わかったやってみるさ」
その言葉に忠告するような口調で話しはじめるステイメン
『気を付けてくださいルキア、今の彼は限界稼働時間内は
不死身に近い体を持っていますから・・・』
「どういう事だステイメン!?」
『人間には本来”自然治癒能力”があります、魔法など使わなくとも
時間が経てば怪我や疲労から回復するという誰もが持っている能力です
しかし”鬼魂喰い”の力で自然治癒能力も
爆発的に向上していますから、どれほど傷ついても一瞬で回復して
しまうのです、元々肉体自体も恐ろしく強化されていますから
傷つける事も至難の技であり、しかもあっという間に回復してしまう
という厄介極まりない相手です、気を付けてくださいね』
その説明を聞いて真剣な表情で考え込むルキア
「そんな相手にどう戦えばいいんだ?相手の力が尽きるまで
受け続けなければならないという事なのか!?」
『いえそんな事はありません”鬼魂喰い”の相手に
有効な攻撃手段は二つ、まずは治癒、回復をさせない程の攻撃
つまり相手の肉体ごと消し飛ばすという事です
ゾフィのドラゴンやフリニオーラの巨大魔法であればそれも可能でしょう
しかしこの状況でそれを使えば德川軍にも大きな被害が出てしまいます
したがっておのずともう一つの方法になります、そしてそれは
あなたになら・・・いえあなたにしかできない事ですルキア』
「一体何をすればいいんだ!?」
『それは”相手の心を斬る”のです・・・』
「心を斬る!?すまない全く意味が分からないが・・・」
『いいですか今の彼は”主君を助けたい、仲間を助けたい”という
怨念にも似た執念だけで動いています、だからその心を斬るのです
”思いを断ち切ってやる”のです、それは聖剣ブレイヴ・ハートの
正統な使い手、貴方しかできない事ですよルキア
こうしている間にも彼の心は邪法によって苦み続けています
彼を解放してあげてください・・・』
その言葉に無言のまま大きくうなづくルキア、走りながらゼファーに
今聞いた内容を説明した、それを聞いたゼファーは珍しく真面目な
態度で不快な表情を見せた
「古の邪法、古式暗黒魔法か・・・先日の朝倉宗滴の時も
そうだったが、信長公を狙うこの黒幕はトコトン暗黒魔法による
外法が好きなようだな、人の思いをとことん利用し自らは
姿を見せずに踊らせるだけ・・・悪趣味野郎で反吐が出るぜ」
ルキアも思いは同じであった、そんな時鬼と化した十郎左衛門により
德川軍は壊滅寸前まで追い込まれていた
「鬼じゃ、鬼が襲ってきた!?」
「人の身で鬼なんかに勝てる訳ない!?」
「矢も槍も鉄砲すら効かぬ相手に一体どうすれば・・・」
実際に德川兵の攻撃は全く効果が無かった、矢や槍の攻撃は十郎左衛門の
硬い皮膚を傷つける事も出来ず、鉄砲のみが皮膚を貫く事が出来たのだが
何発鉄砲を撃ちこんでも少ししたら弾が体外へとはじき出されその傷口も
あっという間に再生してしまうのである、ジリジリと下がる事しかできない
状態の中、不意に大きな声が響き渡った
「みんな下がれ、この男は俺達が引き受ける‼」
十郎左衛門の青い体に強力な電撃が降り注ぐ、バチバチと音を立て
全身に電撃を浴びる十郎左衛門、しかし何事も無かったかのように
攻撃の来た方向をギロリと見つめる青き鬼
「うへ~俺のジャマダハルヴェーダの電撃をものともしないとは
最近俺の相手はそんなチートばっかだな!?」
呆れ気味に首を振るゼファー、そして德川軍と青鬼の間に立ちふさがる様に
剣を構えるルキア
「この男の相手は俺が引き受ける、ゼファーは家康公を‼」
「オーケー、じゃあ頼んだぜ勇者ルキア」
鬼と化した十郎左衛門にとって德川軍もルキアも認識としては同じであった
自分の前に立ちふさがる者は全て敵、力尽きるまで一人でも多く殺すのみ
である、長剣”太郎太刀”を振りかぶり力任せに振り下ろす十郎左衛門
しかしルキアはそれを見事に受け流し十郎左衛門の左足に斬りつける
青い体から噴水の様に吹き出す鮮血、しかし見る見るうちに傷口は
ふさがり傷跡さえもきれいに消えてなくなった
「ウゴァァァァ~~~‼」
唸り声と共に乱暴に刀を振り回す十郎左衛門、凄まじいまでの速度と力で
襲い掛かる太郎太刀を紙一重でかわすルキア、周りで見ている德川兵にも
刀による風圧で髪がなびき振り下ろした剣戟は地面に当るとまるで
爆発したかの様に土が弾け飛ぶ、しかしルキアは完全にその攻撃を
見切っていた、相手の攻撃が雑になったところを確実に反撃し何度も
その青い体に斬りつけた、しかしその都度片っ端から再生していく
そんな十郎左衛門に周りは畏怖を覚えていた
「鬼じゃ・・・本物の鬼じゃ、あんなの相手に人間が勝てるはずがない‼」
周りで見ている人間にとってはこの戦いは絶望的なモノに見えていた
戦いの内容自体はルキアが有利に進めていたが何せ相手は不死身の鬼である
どれほど斬ってもたちどころに再生する鬼に対して人間であるルキアは
一撃喰らったら死ぬのだ、家康もそんな理不尽とも思える戦いを
祈る様な気持ちで見守っていた、事情を知っているゼファーでさえ
ルキアの行動には理解できなかった
『斬っても再生する事がわかっている相手に対し、ルキアはなぜ
リスクを負ってまで反撃するんだ?それに心を斬るって一体
どうやって・・・ん!?』
その時ゼファーはある事に気が付いた、十郎左衛門の攻撃が雑になった時
のみ確実に反撃していたルキア、すると十郎左衛門の攻撃がどんどん鋭く
厳しいものとなって来ていたのだ、もうすでにほとんど意識が無い
本能のみの状態で戦っている十郎左衛門だが元々は正統派の剣術を極めた
優秀な剣士なのだ、意識はなくとも体に染みついた動きがルキアという
強敵を相手にする事によりどんどんと洗練されていく
『おいおいルキア、お前のやった事は逆効果なんじゃないのか!?
ただでさえ強力な相手の攻撃がどんどん洗練されていってるぜ
このままじゃ・・・・あっ!?そういう事か!?
ルキアお前って奴は・・・』
ゼファーはルキアがやっている事にようやく気が付いた、十郎左衛門と
ルキアの戦いは鬼と勇者の戦いから始まったが、その内容は剣士同士の
戦いへと変わって行った、徐々に鋭い攻撃を出し始める十郎左衛門
それに応えるかのように受けるルキア、常人の目には見えない程の
鋭い剣戟が両者の間を交差する、それは見ている者にとっても
剣劇を見ているかのような美しい動きであった、ルキアは十郎左衛門の
剣士としての姿を取り戻させることに尽力していたのだ、数度の打ち合いの後
一旦距離を取った両者、そして十郎左衛門は愛刀”太郎太刀”を両手で握り
上段の構えを取る、その威風堂々の姿は人外の鬼とは思えない程
威厳に満ち溢れ立派な立ち姿であった、それに対しルキアは相手の胸の
辺りに剣先を定め静かに構える、燃え上がる火の様な十郎左衛門の構えと
水の様に静かなルキアの構え、両者の対照的な構えからしばらく不動で
睨み合う両者、とはいっても十郎左衛門に意識は無い剣士としての本能で
行動しているだけだった、ルキアは心の中で語りかけた
『行くぞブレイヴ・ハート、彼の剣士の誇りと共に全てを断ち切れ‼』
その心の声に応えるかのように白く輝く聖剣ブレイヴ・ハート
その光が合図になったかのように上段から凄まじい勢いで太郎太刀を
振り下ろす十郎左衛門、その攻撃は今まで放ったどの剣戟よりも鋭く
速かった、しかしその攻撃に合わせるかのようにルキアも剣を振り下ろす
その瞬間、聖剣ブレイヴ・ハートがまぶしく光りを放ち周りの者達には
二人の姿は何も見えなくなった
「うっ、まぶしい・・・一体何が!?」
思わず目を背け手で光を遮る家康、光が収まり確かめる様に両者の方を見ると
そこにはすでに剣を納め静かに佇んでいるルキアと大地に横たわる
十郎左衛門の姿があった、十郎左衛門はすでに人間の姿に戻っており
あおむけの状態で微笑みながら息を引き取っていた、何が起こったのか
理解できなかったがとりあえずルキアが勝利した事だけはわかった家康と
その兵達は歓喜の声をあげた
「勝った、あの鬼を倒すとは何とも凄まじい、さすがはルキア殿
忠勝とどっちが強いのじゃろうな!?」
子供の様にはしゃぎながら嬉しそうに口走る家康、德川家の家臣たちや
德川兵達も抱き合って喜びを分かち合っていた、しかし一人浮かない顔を
していた者がいたルキア本人である、微笑みながら大地に横たわる
十郎左衛門を悲しげな表情で見下ろす姿にゼファーは何か嬉しく思えた
『見事だったぜルキア、相手に自分が剣士だと自覚させ魂のこもった
一撃を真っ向から打ち破り魂ごと執念を断ち切る・・・確かに
こんな芸当お前にしかできないよ、勇者ルキアか・・・俺達みたいな
曲者揃いを束ねるリーダーはやっぱ伊達じゃないぜ』
そんなルキアの元に家康が忠次と共に嬉しそうに近づいて来た
「此度のルキア殿の助太刀は本当に有難き所存、この家康
この恩は忘れませぬぞ!?」
「德川家家臣一同を代表してこの酒井忠次がお礼申し上げる
本当にかたじけなかった‼」
満面の笑みで感謝を告げる家康と忠次に戸惑い気味のルキア
家康がルキアの手を握り問いかけた
「此度の礼として何かお主達に報いたい、お主達が”褒美はいらぬ”と
主張している事は重々承知しておるが、それでは我らの気が済まぬ
何か私にできる事があれば言ってくれまいか!?」
そんな家康の申し出に少し困った顔をしたルキアだったが
何かを思いついたようにニコリと微笑むと優しく口を開いた
「ではお言葉に甘えて一つお願いがあるのですがよろしいですか?」
「おぉ、何でも言ってくだされ、私にできる事であれば何でもしようぞ!?」
その言葉に軽くうなづいたルキアは視線を下に移し横たわる十郎左衛門を
見つめた
「できればこの男を丁重に葬ってはくれませんか?敵とはいえ
忠義に殉じた立派な武士なのです・・・
私は彼に対して最大の敬意を表したいのです」
ルキアの申し出に驚き戸惑う家康と忠次、德川軍に甚大な損害を与えた鬼に
対して丁重に葬るというのはいささか即答しかねる提案ではあったが
”何でも望みを聞く”と言った手前後には引けず引き受けることとした家康
ルキアも深々と頭を下げ感謝の意を表した、こうして激戦であった
”姉川の合戦”は幕を閉じたかに思えた・・・
その頃小谷城に撤退した長政を妻お市と父久政が迎えた
「ご無事で何よりでした長政様・・・」
「何はともあれ生きて帰って来れたのじゃ
長政、お主に武運があったという事じゃろうて」
その言葉に苛立ち交じりに反論する長政
「武運があったですと!?父上、私の指揮の元で数多くの
兵が死んだのです、我が浅井家を支えてくれた数多くの
家臣達も私のせいで・・・負けてしまったら何にもならないのです
負けてしまったら・・・もう我が浅井には織田と戦える戦力は有りません
此度生き残っても、再び織田に攻められたらもう・・・」
絶望に打ちひしがれる長政、そんな長政に静かに話しかける久政
「再び織田がここに攻めて来る事は無い、なぜなら織田軍は今夜皆
死に絶える事になるからじゃ・・・」
その不可解な言動に思わず両目を見開き父を見つめる長政
「今夜織田が死に絶える!?一体何を言っているのですか父上・・・
あなたは一体何をしようとしているのですか!?」
信じられないと言った表情で父久政を見つめる長政、しかし久政はその
問いには答えず独り言のように笑うだけであった
「織田信長・・・今宵がお前の最後の夜となるであろう
ヒ~ヒッヒ~~我が近江は浅井の地じゃ 後悔しながら
死んでゆくがよいわ ヒ~ヒッヒッヒ~~~」
そんな父の姿を見て思わず絶句する長政
そんな事はお構いなしとばかりに不気味に笑う久政
その瞳は怪しく赤く光っていた。
姉川の戦い編の3話目ですがいかがだったでしょうか?基本的には史実を元に演出として
フィクションを織り交ぜ書いているつもりですが違和感を感じた方はスミマセン
今回出てきた真柄十郎左衛門、本田忠勝と戦った事で有名な武将ですが敗色濃厚な朝倉軍を全滅から
救う為、単身德川軍に突入し暴れ回ったとの事、結局力尽き捕えられて討たれたそうですが
そのおかげで朝倉軍は全滅を免れたそうです、本田忠勝もそうでしたがこういう話は私的には
非常に胸熱です、主君である朝倉義景も”エリート意識が強く優柔不断な男”というイメージしか
持っていませんでしたが調べてみると人物的には人間味あふれる人物だったという話もあります
戦国大名としては織田信長には及ばなかったでしょうがもしかしたら性格的には信長より
上だったのかもしれません、そんな思いを込めつつ今回は書いてみました、長々と長文スミマセン
姉川の戦い編は次話で終了です、また懲りずにおつきあいください、では。




