命の価値は?
登場人物
アドリアン・ルキア…伝説の聖剣”ブレイヴ・ハート”を持つ勇者、人々の為に戦うという信念を持っている
ロット・ステイメン…主に回復や防御をおこなう僧侶、常に冷静沈着で戦術指示も出すチームの頭脳的な存在
ルース・ライオス…2m近い長身で屈強な戦士、一人で魔獣を倒したこともあり”魔獣殺し”の異名を持つ、兄貴肌な性格でチームの精神的支柱にもなっている
ギャレット・ゼファー…カードキャスターという珍しい職業だが非常に優秀、自分からチームに売り込みに来たが自分の事は話したがらない、いつも冗談を言って場を和ませるチームのムードメーカー
ライドン・ゾフィ…召喚魔術師の名門ライドン家の生き残りで五体ものドラゴンを操る事ができる凄腕、一族の間では”神に愛された至高の召喚魔術師”と言われていた
クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い
織田信長…尾張の大名、頭が切れ行動力とカリスマ性を兼ね備えた戦国時代の風雲児
木下藤吉郎秀吉…ルキア達の戦場での活躍を見て織田軍にスカウトした人物、後の豊臣秀吉
竹中半兵衛重治…秀吉の熱心な勧誘により配下に加わった天才軍師
ルキア達の活躍もあり金ケ崎より命からがら
生還した信長、京都についた時にはフリニオーラを
始め周りには十数名の供の者しかいなかった
しかし信長は翌日より何事も無かったかのように
政務に励む、まず御所の建築現場を視察し自分の
健在ぶりを皆に示した、金ケ崎の戦場から次々と
帰還する部下達、激しい戦いがあった一週間後
殿を務めていた秀吉達がようやく京都に帰還した
「いや~今回はどうなる事かと思うたが
なんとか生きて帰って来る事ができたわい
まずは風呂にでも入ってゆっくり布団で
眠りたいところじゃな」
そんな秀吉の言葉に横にいた蜂須賀小六がにこやかに答える
「いや俺は腹いっぱい飯を食って
浴びる様に酒を飲みたいぜ!?」
そんな部下達を見て微笑みながらうなづく秀吉
そんな秀吉達をルキア達が暖かく迎えた
「お疲れ様でした秀吉殿、御無事で何よりでした」
「おおルキア殿、此度はそなた達には本当に
世話になったの、改めて拙者から礼を
致す、本当にかたじけなかった
拙者の方からもお館様に褒美の方を
はずんでもらう様に進言してみるでござるよ」
そう言って馬上より頭を下げる秀吉に
ゆっくりと首を振るルキア
「そんな事はいいですよまずは無事に
生還できた事を素直に喜びましょう」
ルキアの言葉に満面の笑みを浮かべて微笑む秀吉
その表情を見て思わず周りの人間はつられて微笑んでいた
その屈託のない笑顔には人を引き付ける何かがあった
秀吉には部下達を始めルキア達さえも”秀吉の為に何かしてやりたい”
と思わせる不思議な魅力があった、後に”人たらし”と呼ばれる
人間力で天下を制する事になるこの男の魅力の片鱗を
すでに皆無意識のうちに感じていた
「そう言えばお館様のご様子はどうでござるか?
ご無事だとは聞いておりますが・・・」
その問い掛けにはフリニオーラが答えた
「先日ここ京都に戻って来てから何事も無かったかのように
政務に励んでおいででしたよ、プライドの高い信長公の事です
あんな事があったのですからもっと怒り狂うのかとも
思いましたが拍子抜けするぐらい平静で・・・
正直私も驚いています」
そのフリニオーラの報告に先程とは真逆の血の気の退いた
表情で思い詰めた様にブツブツと独り言を口走る秀吉
「まずい・・・お館様は本当にお怒りになっておる・・・」
そんな秀吉の態度を見て不思議に思ったルキアが思わず話しかけた
「私から見ても信長公は穏やかな態度でしたよ
考え過ぎなのではないですか?」
ブルブルと首を横に振りルキアの言葉を否定する秀吉
「いやお館様は本当に怒っている時は一見平静の様な態度を
見せるのでござるよ・・・一息入れてから顔を出そうと
思うておったがこのままお館様の所へ向かうとしよう
お館様は今いずこですかな!?」
「今日は二条城の建築現場に顔を出していると思います
今なら会えると思いますが・・・」
「我々も信長公に報告したい事があります
一緒に行きましょう秀吉殿」
その言葉に力強くうなずく秀吉
ルキア達と秀吉は急ぎ信長の元へ向った
二条城の建築現場に視察に来ていた信長に戦場から
戻ったままの甲冑姿で足早に駆け寄り、跪く秀吉
「木下藤吉郎秀吉、金ケ崎よりただいま戻りました
お館様におかれましてはご無事で何よりであります‼」
そんな秀吉の姿を見て少し表情が緩む信長
「おうサルか、よくぞ無事で戻った
此度の殿役大義であった
まずは体を休めよ、褒美はいずれ沙汰致す」
その言葉に再び頭を下げる秀吉
「はっ、有難き幸せ、そしてそのお心遣い恐悦至極に
ございまする、しかし至急お館様にお話し致したい
議がございます、なにとぞお人払いの後にお時間を
頂戴いたしたく存じます‼」
秀吉の言葉に目を細め真剣な眼差しを向ける信長
「わかった、すぐに聞こう至急部屋を用意せい‼」
後に付いていた家臣にそう告げ部屋を用意させる信長
信長と秀吉、そしてルキア達六人がやや手狭な部屋に入り
襖を閉めると信長の表情が一変した、先ほどまでの
穏やかな顔は鳴りを潜め怒り交じりの厳しい表情へと急変した
「で、ワシに話したいという議とはなんじゃ!?」
信長の問い掛けに秀吉はルキアにチラリと視線を向けた
促がされるように振られたルキアは軽くうなづき静かに話しはじめた
「今回の戦いでわかった事がいくつかあります・・・
それを信長公にも報告いたします」
そう告げると今回の件でわかった事を報告し始めるルキア
自分達の居た世界であるレスティアレ・ラドスから何者かに
よって敵対行為が仕掛けられている事、その攻撃目標が
信長公である事、そしてその背後には足利義昭将軍がいる
という事を告げた
「なんじゃと、義昭が!?おのれ~誰のおかげで
将軍になれたと思うておるのじゃあの痴れ者が‼」
怒りの表情を見せる信長に対しゼファーが諭す様に言葉を発した
「信長公、どうやら義昭公の背後に誰かいると思われます
これはあくまでも推測ですがおそらく義昭公自身も
その何者かに操られている可能性が高いですね」
それを聞いた信長はスッと立ち上がると手に持っていた扇子を
勢いよく壁に投げつけ恐ろしい形相を浮かべた
「おのれ、どこのどいつがワシに仕掛けて来ておるのじゃ!?
許さぬ、絶対に許さぬぞ‼」
興奮気味にまくしたててる信長を静かに見守り
一呼吸入れた後ステイメンが口を開いた
「今後我々もその件に関しては全力で調べてみます
ですから信長公には今後も義昭公とは
何事も無かったように接してもらいたいのです
その背後に誰がいるのか、信長公自身にも
探って欲しいのです」
その言葉を聞き、ジッとルキア達を見つめた後
少し落ち着いた様子で改めて座り直し横を向きながら
ボソリと呟くように口を開く信長
「わかった、ワシも義昭を調べてみるとする・・・」
その時頃合いを見計らった様に秀吉が信長に問いかけた
「それでお館様、これからいかがなされるおつもりですか?」
真剣な眼差しで秀吉を睨むように視線を向けた信長
「此度の戦は長政の裏切りによって我が軍は急な撤退を
余儀なくされた、お市をくれてやったこのワシに
反旗を翻した長政だけは絶対に許せぬ
必ずやその報いを受けさせてくれるわ‼
一旦岐阜に戻り体制を立て直し準備が整い
次第すぐにでも浅井討伐に向かう
サル、再びお主にも働いてもらうぞ」
信長の言葉に嬉しそうにうなづきひれ伏す秀吉
「この木下藤吉郎秀吉、お館様の恩為に必ずや
浅井共を打ち倒す力になって見せまする‼」
それにルキア達も続いた
「我々も力を貸します信長公、レスティアレ・ラドス
からの攻撃は我らに任せてください」
秀吉とルキアの言葉に大きくうなづく信長
翌日その言葉通り岐阜に戻った信長は家臣達を集め
今後の方針を皆に告げた
「此度の戦いでは多くの犠牲を出し当初の目的であった
越前朝倉討伐も出来ぬまま撤退する事となった
それもこれも全て浅井久政、長政親子の裏切り行為に
よるものじゃ、ワシはあ奴らを絶対に許せぬ‼
”天下布武”の為にもこんな所でつまずいてはおれん
よってここ一月以内に兵の準備を整え近江に侵攻し
浅井を討ち取る、各々そのつもりで準備せい良いな‼」
”御意‼”という言葉と共にひれ伏す家臣達
その時、織田家重鎮である柴田勝家が信長に問いかけた
「お館様、裏切り者である浅井久政、長政親子を討ち取る
事に何の異論もございませぬが、はたして奴らは
出て来るでしょうか?」
その意見に丹羽長秀も続いた
「そうですな、浅井の居城である小谷城は小谷山に築城され
いくつもの土塁、曲輪に守られた大変強固な城と
聞いております、平地での戦いであれば我らが
後れを取る事は無いでしょうが籠城されると
少々厄介な事になりそうですな・・・」
その言葉にニヤリと笑う信長
「城から出て来ぬというのであれば無理やり
引っ張り出してやるまでの事よ・・・」
その不敵な笑みに思わずゾッとした家臣達であった
その頃、近江の居城小谷城では浅井家の重鎮達が見守る中
長政が父久政に激しく詰め寄っていた
「此度の件、納得のいく説明をして
いただけますでしょうか父上‼」
凄い剣幕で父である久政に詰め寄る長政
”その返答次第では例え父でも許さない”
とも取れるその勢いに思わず息を飲み仲裁気味に
口を挟む浅井家の家臣達
「殿、まずは落ち着いてくだされ、大殿様も
浅井家の為を思いの行為でしょう」
「そうですぞ殿、信長は恐ろしき男、その対応策として
大殿のされた事は間違っておらぬと思いますれば・・・」
「黙れ‼」
口を挟む家臣達を一蹴し厳しい視線を向け”それ以上の反論は許さない”
という態度で一括する長政、するとそれまで目を閉じ
ジッと聞いているだけだった久政がようやく口を開いた
「説明せよ・・・というのはあの暗黒魔法の事を
言うておるようじゃな!?」
「無論でございます、何故あのような外法を用いて我が兵を
戦わせたのか、いくら父上と言えど返答次第では許しませぬぞ‼」
怒りの表情を浮かべ厳しく追及する長政、それに対して
久政は軽くため息をつき静かに語り始めた
「あれは室町幕府第15代将軍足利義昭様より授かった術よ
天下の将軍様が文でもって”あの術を使って信長を討て”と
命じたのだ、我等将軍家に仕える大名としてどうして
それを 断る事が出来ようか!?」
その言葉に愕然とした表情を浮かべ絶句する長政
「将軍様が!?そんな馬鹿な・・・大体あの術は一体!?」
信じられないと言った表情を浮かべる長政に久政は話を続けた
「それにお主も見たであろう、信長配下には怪しげな術を使い
とてつもない力を持った曲者が数人おる、ワシの使った術を
外法と罵るのであれば、お主はあ奴らを相手に
一体どう戦うつもりなのじゃ?」
「そ、それは・・・」
長政もルキア達の恐るべき力を目の当たりにし反論できなかった
たった数人で朝倉軍を撤退に追い込み巨大な火柱を発生させ
浅井軍の猛者たちを難なく蹴散らした異国の者達の事を思い出していた
「納得いったか長政、目には目を歯には歯を、毒を持って毒を
制すじゃ、信長を倒す為には致し方ない事じゃ・・・」
その言葉に悔しそうに唇をかみしめる長政
その時である伝令の者が早足で駆けてきて跪き大声で皆に報告をした
「申し上げます、織田信長の軍勢約2万人が岐阜の城より出立し
こちらに向かって来ているとの事です‼」
その報告にザワつく一同
「もう来たのか!?しかも2万とは・・・」
「今、我が軍は5千程しか出兵できぬ、この差では
まともに戦う事は・・・」
「もはやこの小谷城にて籠城するしかないのでは!?」
皆が様々な意見を口にする中、これから長政がどうするつもりなのか
その方針を聞くため皆の視線が一斉に集まった
緊張感が漂う中長政はしばらく目を閉じジッと考えて
いたがおもむろに両目を見開きそこにいる全員に今後の方針を伝えた
「至急、朝倉義景殿に援軍の要請を出せ、我等はこの小谷城にて
籠城し朝倉軍の到着を待つ、援軍が到着次第しかる後に
反撃を仕掛ける、各自準備を怠るな織田の進軍は速いぞ
兵馬を整えると共に至急食料、弓矢、鉄砲の弾薬を
ここに運び込み取り急ぎ籠城の用意をいたせ、よいな‼」
「御意‼」
長政の指示に対し家臣達が一斉に返事を返し
そして皆が慌ただしく動き始めた、父である久政は
その光景をみて小さくうなづきニヤリと笑みを浮かべた
信長率いる2万の軍勢は長政の予言通り数日の間に近江に到着し
浅井家の居城である小谷城を取り囲んだ
「やはり出ては行きませんな“逃げも隠れもせん”
などと大きな口を叩いておったようですが
我らの前ではコソコソ城の中に逃げ込むことしか
できぬとは・・・このまま包囲を続け相手に
圧力をかけ続けますか?それとも一気に
城攻めをおこないますか?
お館様いかがいたしましょうか?」
小谷城をジッと見上げながら柴田勝家の質問に対し
暫く考えている様子の信長、しばらくの沈黙の後
信長の口から驚くべき言葉が発せられた
「城下町の家々に火を放て」
家臣達は勿論の事、その発言にルキア達も驚きを隠せなかった
「お待ちください信長公、町に住む人々は何の
罪もない人達です、そんな彼らの家を焼くなど
あまりに酷い、お考え直してくれませんか!?」
悲痛な表情で信長に訴えかけるルキア、そんなルキアの
訴えにも表情一つ変えず冷徹に答える信長
「あ主は何か勘違いをしておるようじゃの
確かに町に住む人々には罪はないのかもしれぬ
しかし人の命の価値は平等ではない」
その言葉に思わず絶句するルキア達、信長はさらに話を続けた
「このまま城攻めを強行すれば我が軍に多大な
損害が出る、それは我が軍の兵達が大勢死ぬという事じゃ
そしてなによりこの戦いが長引けば大軍を率いて
自国を手薄にしている事の反動がいつ出てくるやもしれぬ
他国からの侵略、国内の反勢力による反乱や暴動
そうなった場合真っ先に被害を受けるのは誰じゃと思う?
我が国の領民じゃ、まずは弱き者から順に
被害を受けていくのが戦の常とというものじゃ
ならば我が国の民の為にも一刻も早く
この戦を終わらせなければならん
ワシはその為ならばどのような手段もいとわぬ
敵国の民より自国の民を優先するのは至極当然のこと
全ての民をいたわるのはワシが天下を統一してからの話じゃ
それでも反対だというのであれば他にもっと優れた
良案を出してみよ、いまからお主達が小谷城に乗り込み
浅井久政、長政親子の首を持ってくるなり
フリニオーラの魔法とやらで小谷城を吹き飛ばすなり
するといいうのであればワシはそれでも一向に構わぬ
それができぬと申すのであれば其方の具申は聞けぬ
どうじゃ!?」
その問いかけにルキアは答えられなかった
今は駿府城に潜入した時とは状況が違う
敵にも自分達の事が知られていて何者かによって
レスティアレ・ラドスからの介入がある以上
仲間の命を守る為には皆あの時以上の力を出さなければ
ならないだろうと予想される、それは大量の敵兵を
殺害するという事に他ならないのだ、それは結果的に
町に火を放つより遥かに人が死ぬという事になる
魔族であれば何の躊躇もなく倒してきたルキアだったが
敵とはいえ自らより多くの人を殺しに行くという選択はできなかった
フリニオーラやゾフィの力で敵城を落としても同じである
いやむしろ大量殺人を仲間に押し付けるだけ
余計にタチが悪いとすら思えた、苦悩の表情位を浮かべ
反論できないルキアの様子を見て信長が号令を出した
「城下町に火を放て、全てを焼き尽くし
長政に見せつけてやるのじゃ‼︎」
信長軍は命令通り城下町に火を放った、それは瞬く間に
燃え広がり赤々と燃えさかる炎は町を覆い尽くし全てを焼き尽くした
その頃浅井長政は落ち着かない様子で城内をウロウロしていた
「朝倉義景殿からの返事はまだ来ぬのか
援軍はいつになったら到着するのだ!?」
誰に話しかける訳でもなくイラつき気味に口走っていた
「落ち着け長政、朝倉からの援軍は必ず来る
それまでどっしりと構えていれば良い
一軍の大将がその様な態度では兵にも
動揺が走るというものだ」
「そうは言いまずが父上、相手はあの織田信長
どの様な手を使ってくるかと思うと早々
落ち着いてもおれませぬ」
そんなことを言っていた矢先、伝令の兵が慌てた様子で
城内の廊下を走ってきて跪き報告にした
「ご報告いたします、織田軍が町に火を放ち
領民達が大混乱となっております‼︎」
その報告を聞いた長政の顔から血の気が引き、思わず唇を噛み締める
「そこまでするのか・・・え〜いもう援軍など待っておれぬ
今から出陣じゃ馬を引け、全軍出陣じゃ‼︎」
そんな長政の行動に慌てて引き止める家臣達
「お待ちくだされ殿、今出て行ったら
信長の思うツボでございます」
「そうですぞ殿、ここは何卒ご自重くだされ
ノコノコ出て行ってここで我らが敗れれば
誰が信長の蛮行を阻止するのですか!?
我らは万民のために勝たねばなりませぬ
ここは何卒辛抱くだされ‼︎」
家臣達の必死の説得にも全く耳を貸そうとしない長政
「馬鹿を申すな、今我が領民達が苦しんでおるのだぞ
それを黙って見過ごしていては領主の名が廃る
何の為の大名ぞ!?早く出陣の用意をせい
誰が何と言おうと私は行くぞ、馬の用意を・・・」
その時城内に怒号が響き渡った
「落ち着かんか馬鹿者‼︎大将自らその様に取り乱して
戦に勝てると思うてか!?」
長政を一喝したのは父久政であった
「お主の気持ちもわからぬではないが織田軍は2万
我が軍は5千、まともにぶつかって勝算があるとでも思うたか!?
今は耐えるのじゃ、援軍が来るまで動いてはならぬ
どのみちこの戦いに敗れれば元も子もないのじゃ」
父久政の言葉に震えながら両拳を握りしめ耐える長政
結局出陣は思いとどまり籠城を続ける事となった浅井軍であった
町はすっかり焼き尽くされ真っ黒な消し炭となった
家々の焼け跡からはブスブスと僅かな煙が立ち上っていた
そんな光景を見ても無表情な信長に対し思わず目を背けるルキア達
「とうとう浅井は出てきませんでしたな
これからいかがいたしましょうか?」
柴田勝家が信長の顔を覗き込む様に問いかける
その問いに無言で前を見つめていた信長が独り言の様に呟いた
「これでも出てこぬか長政・・・ならば次の手を打つまでよ」
そう言うとおもむろに振り返り全軍に向かって大声で言い放った
「これより我が軍は横山城に向かう、全軍で横山城を包囲し
攻撃を開始する‼︎」
その命令を聞いた家臣達は驚きを隠せなかった
横山城というのは小谷城から姉川を挟んで隣にある
浅井軍の城の一つである、戸惑いながらも信長の命に従い
横山城を目指す織田家臣達、その中には秀吉もいた
「う〜ん、お館様のお考えはさっぱりわからぬ
何故小谷城ではなく横山城なのじゃ?
それに横山城を攻めるのならば町など焼かずに
さっさと城攻めをしたほうがよかったであろうに
・・・」
秀吉は馬に跨り首を傾げていた、そんな時
秀吉の隣にいた竹中半兵衛がその疑問に優しく答えた
「これは信長様の戦略ですよ、なぜ町を焼いた後
横山城を攻めるのか?理由は二つあります」
驚いた様子で半兵衛を見つめる秀吉
「お主、お館様の意図がわかるのか?」
秀吉の問いかけに微笑みながらうなづく半兵衛
「まず町を焼いた後横山城を攻める理由
それは【人心】です、領主である大名にとって
最も恐れることは他国からの侵略よりも
自国の領民や家臣達からの信頼を失う事にあります
もし領民の家が襲われても味方の城が攻められても
領主が何もせず自分たちを見殺しにしたら
見捨てられた人達はどう思いますか?」
その言葉に思わず”あっ“という声をあげた秀吉
「そうです、”そんな領主にはついていけない“
と思うのが人の心です、実際我が軍が町を焼いても
浅井は動きませんでした、今浅井の主戦力は
小谷城にいます、大軍で横山城を攻めれば
落城は時間の問題でしょう、これでまた横山城を
見捨て援軍を出さなければどうなるか
“我々は見捨てられる”と感じた浅井配下の城が
次々と我らに寝返る事が考えられます」
その半兵衛の説明をウンウンと感心しながら聞いていた秀吉
「なるほど、だから町を焼いて次に横山城なのか!?
さすがはお館様じゃ、でもう一つの理由というのは
一体なんじゃ?」
その問いかけに少し厳しい表情を浮かべ答える半兵衛
「それは浅井軍を城からひっぱり出し、攻めさせるために
わざと隙をつくりご自分を囮にして敵を誘い込むためです」
その説明に秀吉の表情も強張った
「お館様自ら囮になるだと!?なんじゃそれは
どういう事かわかるように説明いたせ!?」
半兵衛はコクリとうなづき話し始めた
「まず知っての通り横山城というのは姉川を挟んで
小谷城のすぐ隣にあります、ここを攻めるという事は
小谷城に対して背中を向けるということになります
姉川はこの時期、朝には霧靄がかかり視界が
悪くなります、ですから朝の霧靄や夜の闇に紛れて
浅井軍が小谷城を出て攻めてきた場合我が軍は
敵に背後を突かれるいうことになります
勿論それを想定してのことですから
たとえ背後を突かれたとしても意表を突かれて
我が軍が瓦解するなんて事はないですが
我が軍の背後に攻撃させるという事は
迎え撃つのは・・・」
その説明に思わず息を飲む秀吉
「浅井軍と対するのはお館様の本陣・・・」
秀吉の言葉に無言でうなづく半兵衛
「なんという事じゃ、だからお館様自ら囮となって
という事なのか、なぜそんな危険な作戦を!?」
「危険であればこそ釣れる獲物も大きいというものです
ここまでやれば浅井長政も自ら兵を率いて出てくる
でしょう、兵の数では我らが勝りますが状況と地の利は
向こうにあります、信長様はそこまでしてでも浅井と
決着をつけなければならないとお考えなのでしょう
それにしても恐ろしい事を考えるお方です」
半兵衛の説明に厳しい表情を浮かべる秀吉、重い口調で
半兵衛に問いかけた
「それで、半兵衛お主はこの戦
どういう形で進んでいくと思う?」
秀吉の問いかけに半兵衛は手を口に当て暫く考えた
「そうですね・・・決戦の戦場はおそらく姉川となるでしょう
今回の戦は我が織田軍がこの地に侵攻してきましたが
浅井軍が攻め織田軍が守るという形になると思います」
「それはなぜじゃ?」
「先程も説明した通り浅井には織田軍の背後を突ける点と
地の利があり状況的に有利であります、それに対し我が
織田軍は数の上で勝ります、つまり自軍の有利さを生かし
信長様のいる本陣を強襲し一気に大将首を狙うという
短期決戦を仕掛け早期決着を狙う浅井軍に対し長期戦による
消耗戦に持ち込み、数の有利さを前面に押し出したい
我が織田軍という図式になりますね」
「しかして半兵衛、お主は我が軍の勝算は
どの程度だと推察する!?」
秀吉の問いかけに再び口に手を当て暫く考え込む半兵衛
「不確定要素が多く、正直判断つきかねます・・・」
「そうか、それ程拮抗しているという事じゃな
では聞き方を変えよう、この戦で鍵となるのはなんじゃ?
勝敗を左右する要素は!?」
半兵衛はあらかじめその質問が来る事を想定していたか
のように理路整然と話し始めた
「勝敗を左右する鍵は二つです、まず一つ目は
互いの援軍です、我が織田軍には徳川軍
浅井軍には朝倉軍が援軍として駆けつけてくるでしょう
浅井軍と織田軍が正面からぶつかり、朝倉軍と徳川軍が
相対する事が予想される中で浅井軍対織田軍の決着が着く前に
朝倉軍か徳川軍のどちらかがが敗退した場合、勝った方の
軍は味方の援護に回り、敵の側面を攻撃することが可能です
そうなれば一気に形勢は傾くことでしょう
不確定要素と言ったのは徳川と朝倉がどれ程の数と
陣容で援軍に駆けつけるのか?がわからない為です」
半兵衛の説明に深くうなづく秀吉
「なるほどのう、でもう一つの鍵とはなんじゃ?」
「もう一つの要因は横山城の兵力です、まず最初に
我が軍は横山城を包囲して敵が小谷城から出てくるのを
誘う訳ですが、もし小谷城から浅井軍が出てきたとしても
横山城を包囲している兵を全て姉川での戦いに
向ける訳にはいかないのです、なぜなら
横山城にも戦力がある以上それを釘付けにする為
抑止力としてある程度の兵力を横山城に残して
おかなければなりません、しかし今回の戦いでは
短期決戦に持ち込みたい浅井長政は兵の士気を上げる為
自ら軍を率いて先陣を駆けてくる事でしょう
そしてそれを信長様の本陣が迎え撃つ、奇しくも
総大将同士の軍が真正面からぶつかり合うという
非常に稀有な戦いとなります、そしてそれは
かなり激しい戦いとなるでしょう
そんなギリギリの戦いの中で双方とも
横山城に兵を遊ばせておく余裕など有りません
問題は信長様がどの時を見計らい横山城を包囲している戦力を
戦線に投入するか?という決断にかかっています
その決断が早すぎれば包囲を解かれた横山城からの兵に
更に後方を突かれますし、遅ければ”すでに勝敗は決した後”
というのでは元も子もありません、まさに絶妙な折に
仕掛ける必要があるのです」
その説明に秀吉はしばらく無言で考え込んでいた
そしてギロリと睨むような鋭い視線を半兵衛に向け
近くに来いとばかりに手招きした、半兵衛は自分の馬を
秀吉の馬の真横につけ耳を傾ける、秀吉は他の者には
聞こえないように小声で半兵衛の耳元に話しかけた
「よいか半兵衛、お主に内密でやってもらいたい事がある
他の者は勿論の事、お館様にも他言無用じゃ・・・」
そのただならぬ雰囲気と真剣な口調に大きくうなづく半兵衛
「気位の高いお館様の事じゃ、此度の戦はご自分の力で
戦い勝ちたいと思うているはずじゃ、しかし戦いに
負けるだけならいざ知らずお館様の命に万が一の事が
あってはならぬ、そこで密かにルキア殿達に働いてもらう」
「具体的にはどのような?・・・」
半兵衛の問い掛けに一度辺りを見回してから再び口を開く秀吉
「まずルキア殿とゼファー殿には德川軍の加勢を頼んでくれ
さすがに德川殿には話を通さないという訳には
いかないだろうが、事情を話し”お館様には内密で・・・”
と話せば納得してもらえるはずじゃ、こちらは
個人的に援軍を出すと言っているのだしな!?」
半兵衛はコクリとうなづく
「次に横山城を包囲する兵にライオス殿を紛れさせておけ
城攻めの時には目立たないようにジッとしててもらい
お館様より号令がでて横山城を包囲していた戦力が
姉川の戦いに参戦、浅井軍の側面を強襲する時に
あの武力を存分に発揮してもらう」
「わかりました、それで他の三人には何を?」
「あの三人にはいざという時の為にお館様のすぐ
そばにいてもらおうと思うておる、もし浅井の兵が
我が軍の本陣まで突き崩し、お館様のお命が危機に
陥った時、ステイメン殿ならば守ってくれよう
そしてゾフィ殿とフリニオーラ殿には我が軍の敗色が
濃厚となった時、その力で無理やり状況を覆してもらう」
半兵衛はその言葉を聞いてニヤリと笑った
「つまり負けそうな将棋になった場合、盤ごと引っくり返して
もらおうという訳ですね!?」
「そういう事じゃ、だからこの三人には状況的に
勝てそうな場合には何もせずジッとしててもらい
いざ負けそうになった場合だけ働いてもうという訳じゃ
これならばお館様の自尊心を傷つけることなく戦いに
挑めるというものじゃろう、この事はくれぐれも
他言無用じゃ、誰にもバレることなく
ルキア殿達に伝えてくれるか!?」
半兵衛は嬉しそうにうなづく
「お任せください、では・・・」
そう言って半兵衛は秀吉から離れ夜の闇に消えていった
前話から一変、シリアスモードのお話しとなりましたがいかがだったでしょうか?
今回の”姉川の合戦”も織田德川連合軍が浅井朝倉連合軍と戦った・・・という
くらいの認識しかなかったのですが改めて調べてみると色々な事がわかって
非常に面白かったです、一応史実に基づいて書いてはいるのですが多少の
アレンジはご愛嬌として見ていただけると嬉しいです、では。




