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外伝 義務と使命と責任と

登場人物


ロット・ステイメン…三十半ばにして教団最高峰の魔法である”死者蘇生”を独学で

習得し使いこなす天才僧侶。

ルブレット・ソフィア…両親を魔族に殺され、自分も危なかったところをステイメンに

救われ、それ以来ステイメンに思いを寄せている12歳の美少女

パラヒィン・ケブラハム…聖教神師団という世界最大を誇る宗教団体の総大司教にして

最高指導者、規律に厳しく独自の考えで勝手に行動するステイメンを良く思っていない

べストア・デルフィン…聖教神師団の幹部で司教、実働部隊の総司令官の役目も

担っておりケブラハムを尊敬している為、ステイメンの事を良く思っていない

コービン・ハウエル…ステイメンの同僚で親友、非常に腕が立ち心優しい男だが

何かとステイメンを庇うのでいつもとばっちりを受けている

レイジャモ…魔王軍幹部、いつも牛の様な魔獣に跨っていて強力な病原菌を操る


ステイメンは窓から差し込む


朝日の光に照らされ目を覚ました


久しぶりにゆっくり寝たので


体も軽く頭もすっきりしていた


「さて今日はどこの村に出かける


 のでしょうかね・・・」


着替えも済ませ顔を洗った後


今日の予定を記した任務表を


取りに行こうと部屋を出た時


背後からバタバタと走って来る


足音が聞こえる、ふと振り向くと


ソフィアが血相を変えて


こちらに近づいて来るのが見えた


「大変ですステイメン様


 ハウエル様が・・・」


それを聞き、慌ててハウエルの部屋に


向かうステイメン、そこにはすでに


旅支度を終えて出発寸前の


ハウエルがいた


「ようステイメン、今から


 お前の部屋に最後の挨拶に


 行こうと思っていたんだが


 ・・・その様子じゃもう


 すでに知っている様だな」


よく見るとハウエルの部屋は


すでに全て片付けられていて


室内には物一つ無くガランとした


雰囲気を漂わせていた


「じゃあ本当なのですね


 今回あなたが


 魔王討伐隊のメンバー


 として任命された


 というのは!?」


厳しい表情でハウエルを


見つめるステイメン


「ああ、昨日な・・・


 もう出発するところだ」


そんなステイメンとは対照的に


あっさりと言い放つハウエル


しかし納得のいかないステイメンは


歯ぎしりしながら険しい表情を見せる


「なぜ貴方なのですか!?


 魔族の放った病原菌ウイルス


 の治療ができる数少ない人材の


 貴方をこの時期に魔王討伐隊として


 出すなんて・・・どう考えても


 おかしいですよ‼総大司教様は


 一体何を考えて・・・・はっ!?


 まさか私のせいで!?」


それには何も答えず微笑むハウエル


その態度には怒りも恐怖も見て取れず


まるで悟りを開いているかのような


姿に映った


「そんな事は無いさ、魔王討伐隊に


 選ばれるという事は基本的には


 名誉な事だ・・・病原菌ウイルス


 の対処は大変だと思うが後は頼む


 それとサムの奴はお前の所で


 面倒見てやってくれ・・・


 じゃあな達者でやれよ」


ステイメンの肩を軽くポンと叩きながら


そう言い残し寄宿舎を出て行くハウエル


そんな背中を忸怩じくじたる思いで


黙って見送ったがもしや


自分のせいでハウエルが!?


と思うと居ても立ってもいられなくなった


ステイメンは総大司教のいる大聖堂へと


向かう、大聖堂に入る大きな扉を


勢いよく開けると、中の人間が


振り向く間もなく叫ぶように大声で


言い放った


「総大司教様にお話があります‼」


広い大聖堂にステイメンの声が響いた


大司教を始めそこにいる全員が


祈りを捧げていた静寂の空間を


切り裂くようなその声に一瞬空気が固まり


時が止まったかの様な錯覚さえ覚えた


そんな突然の乱入者に周りの人間は


動揺を隠せず言葉が出ない状態の中


総大司教ケブラハムはゆっくりと


振り向き無表情で問いかける


「こんな朝からいきなり・・・


 大切な祈りの時間を阻害してまで


 一体何用だステイメン司祭


 君には君の任務があるのであろう?」


淡々と発する言葉と落ち着き払った


その態度に益々苛立つステイメン


「ハウエル司祭の事です


 なぜこの時期に彼が


 魔王討伐隊に選ばれた


 のですか!?


 多くの人があのウイルスに


 苦しんでいる今現在


 病原菌ウイルスに対応


 できる数少ない人材である


 彼を送り出す明確な理由を


 お聞かせ願いたい‼」



睨みつけるようにケブラハムを


見つめるステイメン


ケブラハムも視線を逸らさず


ジッと見つめ返す、その両者の目には


言葉を交わさずとも明確な意思を


感じさせた


そんなステイメンの態度を見て


先程まで気圧されて言葉が出なかった


周りの幹部連が一斉に口を開いた


「またお前かステイメン‼


 貴様はどこまで総大司教様を


 愚弄すれば気が済むのだ!?」


「総大司教様の決定に異議を


 となえるとは、お前は一体


 何様のつもりだ無礼者‼」


「お前の様な道理の分らん馬鹿者に


 説明など無用だ、さっさと下がれ


 この痴れ者が‼」


ケブラハムの周りの幹部連が


ステイメンを弾劾するように


激しい口調で責め立てる


しかしステイメンはそんな幹部連の声が


聞こえていないかのように無反応のまま


ケブラハムを見つめる視線を動かさない


ケブラハムはそんなステイメンを


ジッと見つめながらようやく


その質問に答えた


「なぜハウエル司祭が選ばれたか?


 というと彼が優秀だから・・・


 それ以外の理由など無い


 邪推するのも大概にして


 おきなさい、それに君は


 彼が病原菌ウイルスに対抗できる


 数少ない人材・・・といったが


 病原菌ウイルスに感染した一般の


 患者には我々は一切関知しない


 との決定事項を伝えたばかり


 であろう!?


 もう忘れたのかな?」


冷静に淡々とした口調で話すケブラハム


逆にステイメンの苛立ちは頂点に達する


「建前など聞いているのでは


 ありません‼そんなに私が


 目障りなら私を魔王討伐隊に


 選出すればいいでしょう


 なぜハウエルなのですか!?」


その時、幹部連の一人である


デルフィン司教が思わず立ち上がり


ステイメンを指さすと怒鳴る様な


口調で興奮気味に反論した


「貴様を選出してもダメだからだ‼


 我々も一度貴様を推薦したが


 ベルドルア聖王国にある


 ”魔王討伐部隊選出評議会”から


 正式に断りの返事があった


 こんな事は今まで一度も


 無かったのに貴様は一体


 何をやったのだ!?


 その素行の悪さがベルドルア


 にまで浸透しているのか!?」


その時ケブラハムがデルフィンを


ギロリと睨んだ、デルフィンは


慌てて自分の手で口を塞ぎ


しまったという仕草を見せる


『私を推薦したのに


 ベルドルアが断った!?


 しかもこの様子だと


 そのこと自体秘密事項


 みたいだな、一体何が


 どうなっているんだ


 ・・・』


疑問を感じながら色々推察するステイメン


その様子を見てケブラハムは顔をしかめ


話を打ち切るかのように言い放つ


「もうお前に話す事は何も無い


 理解したのなら早々に


 ここから立ち去り与えられた


 自分の任務に勤しみなさい


 我々の助けを待っている


 人達が大勢いるのだ」


その言葉に納得できないながらも


反論も出来ないステイメンは


唇をかみしめ怒りに震えながら


忸怩たる思いで大聖堂を後にした





それからというものステイメンは


更に多忙な毎日をおくる事となる


魔王軍幹部を名乗るレイジャモは


連日の様に各村々を襲いその都度


例の病原菌ウイルスをバラ撒いたのだ


村では魔族により直接殺された


被害者だけでなく感染者が溢れ


人々は次々と感染し病死していった


聖教神師団の者達も魔族を撃退すべく


毎回の様に出撃するがその度に


聖教神師団の騎士や僧侶達にも


加速度的に感染者が増えステイメンも


その対応に追われる毎日を送る事となる


この病原菌ウイルスの厄介なところは


治療した後でも後遺症が残るのだ


魔法耐性があるこのウイルスに感染した者は


例え治療後でもその弱った体は魔法では回復


しない為しばらくは安静にして自然治癒に


任せるしかないのである


度重なる魔族の襲撃により聖教神師団の誇る


騎士団 ドラーヒム隊、ミューゼ隊、ファルム隊


のメンバーもそのほとんどが感染者となり


もはやまともに戦えるのは三隊合わせても


半個中隊に満たない程まで減少していた


当然、僧侶達も二次感染と治療の対応で


眠る暇も無い程働く事となり


過労と睡眠不足で倒れる者すら出てきた


そんな激務が続く中、十日ぶりに寄宿舎に


帰って来たステイメン、扉を開けると


ソフィアが涙目でステイメンを見あげていた


「お帰りなさいましステイメン様


 本当に・・・本当にご苦労様です」


必死に明るく迎えようとしていたようだが


気持ちが抑えきれずに目から涙が溢れ


声も震えていた、この聖教神師団の者も


感染や過労でバタバタと倒れる人が


続出していて周辺の村も病人で溢れている


と聞いていた為、いつも無理をしている


ステイメンの事が心配だったのだ


そんな彼女に優しく語りかける


「やあソフィア、久しぶりだね」


「ステイメン様、いつも無理ばかり


 して・・・


 体の方は大丈夫なのですか?」


いつもの様にコップに入った水と


タオルを差し出しながら心配そうに


語りかけるソフィア


「あぁ、おかげで体だけは丈夫でね


 この通りピンピンしてるよ


 でもさすがに疲れた、明日は


 休みをもらっているから久々に


 ゆっくりできるよ」


心配する彼女に優しく微笑むステイメン


総大司教ケブラハムや幹部連も


この状況でステイメンに倒れられたら


さすがに困る為、超過酷労働状態の


彼を明日一日だけ強制的に


休ませる事にしたのだ


少しだけホッとした表情を見せ


微笑むソフィア


「そうですか・・・


 それは良かったです


 ゆっくりお休みください


 何か用があれば全て私が


 やりますから何でも言って


 くださいね!?」


ようやくいつもの笑顔が見れて


少し嬉しい気持ちになるステイメン


その時ふと周りを見渡しソフィアに


気になる事を聞いてみた


「そういえばサムはどうしていますか?」


サムというのはハウエル付きの世話係をしていた


ソフィアと同い年の少年で、ハウエルが魔王討伐隊


として寄宿舎を出て行ったためステイメンが


面倒を見る事となっていたのだ


ソフィアは少し悲しげな微笑みを浮かべ


その問い掛けに答える


「ハウエル様が出て行ってから2,3日は


 落ち込んでいましたが最近は一生懸命


 働いています、体を動かしていた方が


 気がまぎれるみたいで、私もなるべく


 サムに仕事を振る様にしています・・・」


ソフィアのそんな気遣いに優しげに


うなづくステインメン


「では私の身の回りの世話もサムに


 してもらう様にしましょうか!?」


その言葉にソフィアの目つきが変り


少し睨むような仕草を見せる


「その役目だけは譲れません‼


 ステイメン様は私よりサムの


 方がいいと仰るのですか!?」


「そんな事はありませんよ


 私としてはソフィアの方が


 いいに決まっているじゃ


 ないですか」


キョトンとした表情で当然とばかりに


答えるその言葉に先程までの


悲しげな表情はどこかに


吹き飛んでしまい満面の笑顔を


見せるソフィア


「いいに決まっているって


 それほどまでに私の事を


 ・・・ステイメン様それは


 私への愛の告白ととっても


 よろしいので・・・」


「えっ!?なんですか?


 よく聞こえません・・・


 ソフィアはずっと私の世話を


 してくれていましたから


 サムより手際も良く私を理解して


 いてくれているはずですからね」


その言葉を聞き肩を落としながら


大きくため息をつくソフィア


「ですよね・・・もういいです


 とにかくステイメン様の世話は


 私が引き続きやらせていただきます


 ので・・・いいですね?」


「えっ?あっはい・・・


 そうだ、帰りにまたこの花を


 見つけまして・・・ソフィアが


 好きそうだったのでまた


 持って帰って来てしまいました」


そう言ってカバンから例の


アングレカムの花を取り出す


「ありがとうございます」


今回は静かに受け取るソフィア


「こんな時に私の事など考えなくても


 良かったのに・・・でも嬉しいです


 ありがとうございます・・・」


そう静かに語りそっと花を受け取る


「ステイメン様もさぞお疲れでしょう


 今日と明日は何もせずにゆっくり


 休んでくださいね、絶対ですよ!?」


「あぁわかったよ、お休みソフィア」


「おやすみなさいステイメン様」


ソフィアはそう言ってもらった花を


両手で抱き締めながらそっと部屋を出て行った






翌日、久々にちゃんとした睡眠をとった


ステイメンはベッドから体を起し


横の机に視線を移すと朝食のパンと


サラダが置いてあった、すでに時刻は


昼近くになっていた為、ステイメンの


朝食分をここに運んで来てくれていた


のだろう、もちろん誰がやってくれたかは


考えるまでも無かった


「こんなにゆっくり寝たのは


 久しぶりですねぇ・・・」


そんな事を言いながら用意された


朝食を食べる為、机に座ろうとした時


そっと扉が空き いつもの声が聞こえてきた


「あっ、おはようございます


 ステイメン様、ぐっすり眠れた


 みたいですね、今日はゆっくり


 なさってくださいね」


そう言って優しく微笑む


「やあおはようソフィア


 この朝食は君が用意して


 くれたんだろ?


 いつもすまないね」


その時であるガチャガチャと


鎧で走る音が近づいて来るとステイメンの


部屋に息を切らせた一人の騎士が飛び込んできた


「大変ですステイメン様


 実は魔族討伐の為に近隣の村に


 行っていたデルフィン司教が


 例の病原菌に感染しまして


 緊急の治療が必要なのです


 お休みの所を申し訳ありませんが


 至急ご足労願えませんでしょうか?」


デルフィン司教も72歳という高齢であり


あの病原菌ウイルスに感染した以上は


急いで治療を施さないと死んでしまう


恐れがあるからである


「わかりました、すぐに


 伺います」


ステイメンは立ち上がり机の上の


パンを一つ掴んで口にくわえると


そのまま鞄を持って出かけようとした


そんな姿に不安げな表情を見せるソフィア


そしてその顔はやや赤みを帯びていた


「おやソフィア顔が赤いですよ、


どうかしましたか?」


問いかけられたソフィアはニコリと微笑んで


「なんでもありませんよ


 お気をつけていって


 らっしゃいませ」


そう言ってぺこりと頭を下げた


「さすがに今日中に帰って来れると


 思いますので後はよろしくお願いします」


ステイメンはそう言い残し部屋を後にすると


案内役の騎士と共に急いで村に向かった


それから数刻後に目的地に着くと


魔族はほぼ撃退されていたものの


デルフィンは数名の部下に囲まれ


息絶え絶えの状態で絶命寸前まで


追い込まれていた、ステイメンは


すぐさま処置し何とかデルフィンの


一命を取り留めた


「もう大丈夫だと思います」


その言葉に周りの部下と補佐官が深々と


頭を下げ感謝の意を告げる


その後騎士団と共に魔族の残党を


撃退し騎士団や村の人で感染した者達の


治療にあたった、ステイメンが全ての者達の


治療を終え寄宿舎に帰って来た時には


すでに夜中になっていた


疲労でクタクタの体を引きずるように


部屋の扉を開けると真っ暗な部屋の中に


ポツンと立っている人影が見えた


「ただいま、そこにいるのは


 ソフィアですか?


 随分遅くなってしまいましたが


 明日はまた朝から・・・」


その人影にゆっくり近づいて行くと


部屋の中で立っていたのは


ソフィアではなくサムだった


サムは悲痛な表情を浮かべ無言で立っていた


「おやサム、どうしました?


 今日はソフィアじゃ


 ないんですね!?」


何気なく問いかけるステイメンに


ブルブルと震えだすサム、そしてその口から


とんでもない言葉が伝えられた


「ソフィアは・・・亡くなりました」







 

 



 


 

 

 

ステイメン編の3話です、いかがだったでしょうか?それぞれのキャラを

紹介がてら書いているこの外伝シリーズですが、必ず出てくる名前があります

それは”ベルドルア聖王国”という国です、本編でも大きくかかわってくるので

覚えていてくれると嬉しいです、次話の投稿は月曜日の予定です、では。

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