悪夢の前夜
登場人物
アドリアン・ルキア…伝説の聖剣”ブレイヴ・。ハート”を持つ勇者、人々の為に戦うという信念を持っている
ロット・ステイメン…主に回復や防御をおこなう僧侶、常に冷静沈着で戦術指示も出すチームの頭脳的な存在
ルース・ライオス…2m近い長身で屈強な戦士、一人で魔獣を倒したこともあり”魔獣殺し”の異名を持つ、兄貴肌な性格でチームの精神的支柱にもなっている
ギャレット・ゼファー…カードキャスターという珍しい職業だが非常に優秀、自分からチームに売り込みに来たが自分の事は話したがらない、いつも冗談を言って場を和ませるチームのムードメーカー
ライドン・ゾフィ…召喚魔術師の名門ライドン家の生き残りで五体ものドラゴンを操る事ができる凄腕、一族の間では”神に愛された至高の召喚魔術師”と言われていた
クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い
織田信長…尾張の大名、頭が切れ行動力とカリスマ性を兼ね備えた戦国時代の風雲児
木下藤吉郎秀吉…ルキア達の戦場での活躍を見て織田軍にスカウトした人物、後の豊臣秀吉
竹中半兵衛重治…秀吉の熱心な勧誘により配下に加わった天才軍師
明智十兵衛光秀…元は足利義昭に仕えていた、鉄砲の名手であり博学の切れ者
浅井長政…近江の大名、妻がお市の方であり信長の義弟
秀吉が御役目を果たし堺の会合衆より矢銭二万貫を
徴収すると信長は着々と”天下布武”に向け動き出した
まず手始めに将軍 足利義昭の名前を使い
越前の朝倉義景に手紙を送った、それは
”幕府の命に従い上洛せよ”というものだった
しかし何度通達しても朝倉義景が動く事は無く
その命令を無視し続けたのだ
「おのれ朝倉義景、ワシに逆らうと
どうなるか思い知らせてくれるわ‼」
信長は怒りの表情を浮かべ家臣の前で声を荒げた
しかし朝倉が動かないのも当然でそれには
ちゃんと理由があった、朝倉義景の元には
足利義昭より直接檄文が送られて来ており
そこには”逆賊である信長を討て”と
書かれているのである、よって今回の上洛命令も
当然信長が裏で糸を引いている事は明白であり
もし上洛しようものならどんな無理難題を
押し付けられるかわかったモノでは無いと
容易に想像できたからである
そんな激怒する信長を見てその後ルキア達が
竹中半兵衛に質問した
「今回、信長公が上洛命令を出した
朝倉義景という人はどういった人物で
なぜ対象が彼だったのですか?」
その質問に優しげな表情を浮かべ答える半兵衛
「まず朝倉家は歴代名門の家系であり
朝廷や将軍家とも縁深き一族なのです
一時期は将軍足利義昭公も身を寄せていた
ほどですからね、そしてお館様が
”天下布武”を目指す際に越前という場所は
地理的にとても邪魔になるのです
近江の浅井家とは同盟を結んだとはいえ
お館様が現在治めている尾張、美濃と
京都とを結ぶと越前から攻撃があった
場合、横腹を突かれる形となる為
後顧の憂いを絶つべく朝倉にくさびを
打ちこんでおきたいのでしょう」
なるほどと納得するメンバー達
「じゃあ、朝倉義景っていう人が
上洛命令に従っていた場合
信長公はどうするつもりだったの?」
「おそらくはその力を削ぐために
”越後の上杉謙信を攻めろ”
という命でも下したのでは
ないでしょうか?命に従っても
越後の強豪上杉との戦いになり
命に従わなかったとしても
信長公に越前攻めの大義名分を
与える事になってしまいます」
ステイメンが悲しそうに口を開く
「どちらにしても戦いが避けれない
という訳ですか・・・」
「なんか可哀想にすら
思えてくるわね、信長公の
難癖か言いがかりみたいな」
半兵衛は静かに話しはじめた
「天下を統一するという事は
綺麗事だけではできませんからね
各国の大名が争い続けている限り
この乱世は終りません、それだけ
民百姓は苦しみ続ける事に
なるのですから・・・」
その言葉にやりきれない表情を
浮かべるルキア
「人間同士で戦うなんて・・・
他に方法は無かったのか!?」
その人以後との様な問い掛けに
半兵衛は何も答えなかった
その時ライオスが口を挟んだ
「人間同士だろうが魔族相手だろうが
所詮戦いは殺し合いだ、不毛だし
非生産的で最も愚かな行為である
事は間違いない、しかし人間は
何か大切なモノの為に戦うという
業を捨てられない、例えそれが
他人から見たらくだらないものでも
己の信念の為に、大切なモノの為に
戦わずにはいられない・・・
それが人間という生き物だからな」
その言葉に反論する者はいなかった
そしてフリニオーラが半兵衛に問いかけた
「半兵衛さん、では今回信長公と
朝倉が戦った場合どうなると
思いますか?」
その問い掛けに考える事も無く
即答する半兵衛
「おそらく我が軍の勝ちは動かない
でしょう、元々朝倉家には
”朝倉宗滴”という傑出した
人物がいました、加賀の
一向一揆衆30万人を相手に
わずか一万人で勝利を収めたという
武将です、政治的な手腕にも優れ
人望もあった人物で、戦だけでなく
外交内政も彼の存在によって
朝倉家が支えられていたと言っても
過言ではありません、しかしその
朝倉宗滴も亡くなり朝倉家は衰退の
一途をたどっています
一時身を寄せていた足利義昭公も
朝倉義景公を見限った為に
お館様を頼った訳ですしね・・・
皮肉なモノです」
そんな半兵衛の言葉と態度に少し引っかかった
ルキアが思わず問いかけた
「何か心配事でもあるのですか?
”おそらく勝てる”という言い方に
少し違和感を感じたのですが!?」
少し難しい表情を浮かべやや
言いづらそうに答える半兵衛
「わかりましたか?実は今回の朝倉攻めは
あくまで同盟国である近江の
浅井家、三河の德川家と共同戦線
という前提で戦略が立てられて
おります、しかし德川はともかく
浅井家と朝倉家は昔から
昵懇の仲であり浅井との同盟条件
にも”朝倉とは戦わない”という
項目があります、お館様は
浅井長政殿を信用されていて
全面的な信頼を置かれているよう
ですが、その辺りが少し心配なのです
それと足利義昭公の動きもやや
気になります、我らが京より離れた
時、何かよからぬ事を考えねば
よいのですが・・・」
そんな半兵衛の危惧に答える様に
ルキアが口を開いた
「ではこうしましょう、我らの内
私とライオス、ゼファー
フリニオーラは信長公に
同行し、もしもの緊急事態の際に
備えましょう、ステイメンと
ゾフィは京に残り義昭公を
見守る形で牽制します
それならどうでしょうか?」
その言葉を聞き半兵衛の顔が
パッと明るくなる
「それは助かります、秀吉様も
喜ぶでしょう、もしもの時は
お館様と秀吉様をよろしく
お願いいたします」
半兵衛はそう言いながら丁寧に頭を下げた
その姿に少し微笑みながらうなづくルキアだった
半兵衛の予想通り浅井家では信長の朝倉責めの
援軍要請に対して議論が紛糾していた
「織田は何を考えているのだ!?」
「朝倉とは戦わないという同盟条件を
無視し、あまつさえ何の説明も無しに
”一緒に戦え”とは何事だ!?
我ら浅井は織田の属国では
ないのだぞ!?」
「聞いたところによると織田信長は
我ら浅井に対して”近江を与えてやった”
と言っているそうではないか!?」
「何だと、我らがいつ織田に近江を
与えてもらったのだ!?この近江は
我らが自身で勝ち取ったモノだぞ
一体何様のつもりなのだ‼」
浅井家の重鎮達は信長のこの命について
怒り心頭の者がほとんどだった
「少し待ってくれ、今信長殿は
将軍足利義昭公を奉じて命を
下しているのだ、つまりこれは
幕府の意向という事になる
我ら家臣である大名はそれに
従う義務があるのだぞ」
信長に対し反感ばかりの重鎮の中
一人で反論するのは近江の当主
浅井長政であった、長政の嫁は
信長の妹お市の方であり信長の
義理の弟という事になる
「今兄上、信長殿は天下に一番
近いところにあるお方だ
我が浅井家の将来や
近江の民の為にも
ここは兄上信長殿に与するのが
最良と思える、もう少し冷静に
考えてみてはくれぬか!?」
長政の必死の説得にも納得いかない家臣達
「しかし我が国に対するこの扱いは
同盟国の所業では無い、これは
事実上の属国扱いですぞ!?」
「これほどの屈辱を受けて
耐えねばならない理由は
ありませぬ、いっそ同盟を
破棄し朝倉と共に織田と
戦いましょうぞ‼」
「確かに織田信長は今時流に
乗っているやも知れませぬが
勢いがあるからといって
義理や約定を違えても良い
という事にはなりませんでしょう
こんな一方的に命令され
昵懇の仲である朝倉を攻めたら
世間は我が浅井家をどう思う
でしょうか?我らは武士です
命より名こそ惜むべきなのでは
ないでしょうか!?」
反織田信長の意見が大半を占める
圧倒的空気の中で何か違和感を
感じる浅井長政、確かに彼らの
意見も理解できない事は無い
しかしそもそも織田家との同盟では
家臣達も概ね賛成意見が多かった
そしてこれまで信長に対しても
肯定的な意見が少なからずあったにも
かかわらず先祖からの仇敵であるか
のように信長への憎悪、反感を
皆からヒシヒシと感じたのだ
一体どういう事かと考えながらも
家臣への説得を続ける長政
「しかし今織田と同盟を破棄して
朝倉と組んでも織田には勝てん
この浅井家の為にも兄上信長殿と
共に歩む事を考えてはくれぬか!?」
その時長政の後ろから声が聞こえた
「まともに戦っても織田に勝てないなら
勝てる方法で戦えばよいだけの話だ」
その声に長政が振り向くとそこには
先代当主であり父である浅井久政が
立っていた、口元には不気味な笑みを
浮かべており冷ややかな目で長政を
見つめていた
「父上、何を申されるのですか!?」
その問い掛けに答えるかのように
嬉しそうに話しはじめる久政
「此度の戦いでは織田軍と德川軍が
朝倉に攻め上がるところを
我ら浅井軍が後に合流し
共に攻めるというもの
しかしその我らが織田の敵
だった場合どうなる?」
その父の言葉に思わず長政は
驚愕の表情を浮かべた、しかし家臣達は
その意見に歓喜し一斉に称賛したのだ
「それはいいですな!?味方と思っている
我らが後方から強襲しそれに呼応した
朝倉軍が前方から攻めれば
理想的な挟撃戦ができますぞ!?」
「戦場となりそうな金ケ崎は
挟み撃ちにした場合には
逃げ道も無くもはや織田軍は
袋のネズミです
信長の首を討ち取る事も
さほど難しくは無いでしょう」
「我らをコケにした織田信長に
眼にモノ見せてやりましょうぞ!?」
怒涛の様な盛り上がりを見せる城内に
寒気すら感じる長政
「そのような騙し討ち戦術こそ
卑劣で恥知らずな所業であり
武士の名折れでは無いですか!?
名を惜しむのならそのような事を
やってはなりませぬ
御考え直し下さい父上‼」
しかし長政の言葉は父久政や家臣達には
届いていなかった
「信長を討て、我等浅井家をコケにした
にっくき織田信長を討つ事こそ正義
その為の手段なぞどうでもよい
殺す、信長は必ず殺すのじゃ
イ~ヒッヒッヒ~~~‼」
そう言い放つ久政の目が赤く怪しく光った
それにつられるように家臣達も
不気味に笑う、もはや当主であるはずの
長政の声すら届いていない状況だった
そんな四面楚歌の状態で苦渋の決断を
下さざるを得ない長政は浅井家の為
渋々ながらも父の意見を受け入れた
「わかった、これより我が浅井は
織田信長に反旗を翻す、予想される
決戦場金ケ崎にて必ず敵将織田信長を
討ち取る、良いな‼」
「おおおぉぉぉ~~~‼」
家臣達の士気が凄まじい勢いで
上がっていくのがわかる
長政は心で別の事を思いながらも
それを表情には出さなかった
『すみません兄上、これも戦国の習い
貴方に槍を向ける事、どうか
お許しくだされ』
浅井長政は苦渋の決断を下し義兄である
信長と敵対する事を決意した。
数日後織田、徳川の連合軍は朝倉義景の待つ
越前へと侵攻した、その兵の中には
ルキアを始めライオス、ゼファー
フリニオーラの四人も加わっていた
3万人の軍を率いた信長軍の勢いは凄まじく
天筒山城を皮切りに敦賀軍群の朝倉側の城を
次々と落し翌日には金ケ崎城を落とした
辺りも暗くなり始め、翌日の侵攻の為
皆野営の準備をしている所であった
野営地の周りは木々が生い茂る森林であり
フクロウや虫の声が聞こえて来るような
静かな場所であった、そんな中たき火を
囲むようにルキア達四人が話しをしていた
「ここまでは順調のようですね
敵側に怪しい雰囲気もありませんし
今回はレスティアレ・ラドスからの
おかしな横槍は入らないんじゃ
ないでしょうか?」
フリニオーラの言葉にルキアもうなづいた
「確かにここまでは我らの出番も
無く順調と言える、でも
油断は禁物だ、とにかく
どんな手段を使って来るか
全く予想がつかない連中だからな」
「まあ俺としては少しくらいは
暴れたいくらいだけどな」
ライオスが腕を回しながら退屈そうに
話した、いつもならゼファーが
からかい半分でツッコミを入れる場面だが
何やら真剣な面持ちで周りを見回し
珍しく無言で厳しい表情を崩していなかった
「どうしたゼファー?
何か気になるのか!?」
思わず問いかけるルキアに
少し間を空け答えるゼファー
「ここはヤバいぜ、もしこんな
狭い間道で奇襲を受けたら
下手をすれば全滅だ
考え過ぎなのかもしれんが」
その言葉を聞いたルキアは厳しい表情で
フリニオーラに声をかけた
「ここに誰か怪しい者達が近づいて
来ていないか探ってみてくれないか?」
フリニオーラは大きくうなづく
「わかりました、やってみます」
そう言うとスッと立ち上がると目を閉じ
手に持っていた杖を地面にコンっと落とす
すると杖の先から光の輪が放射線状に広がり
森全体を走り抜ける様に通りすぎた
その時フリニオーラが少し険しい
表情を見せたのだ
「何かあったのかフリニオーラ!?」
思わず問いかけるルキア
「何かあったという程のモノでは
無いと思いますが・・・微弱な
魔力を感じました、どうやら
こちらに近づいて来ている様です
こうやって探索してようやく
見つかるほどのモノですから
それ程危険な物だとは思いませんが
こんな所で魔力を感じるのも
おかしな話ですし・・・
もうすぐ肉眼でも視認できると
思いますよ・・・」
そう言うとフリニオーラは西の空を指さした
月と星の綺麗な夜空に何かキラリと光るモノを
発見した時、思わず”あっ!?”っと
ライオスが叫んだ
ルキア達がその話をしていた数刻前の話
浅井家では織田、徳川連合軍を打ち倒す為の
兵が浅井家の居城から出陣するところであった
「殿自ら出陣ですか?聞いては
おりませんでしたが一体相手は
誰なのでしょうか?」
妻であるお市の方が浅井長政の戦装束を見て
不安げに問い掛けた、今回の出陣に関して
長政は秘密保持の為にお市には一切
知らせていなかったのだ、しかしここにきて
さすがに隠しておく事も出来ぬと思い
お市の目を真剣な眼差しで見つめ
言い聞かせるように説明を始めた
「いいかよく聞いてくれ、今から
我等浅井軍は織田信長・・・
つまりお主の兄上と戦う事と
あいなった・・・」
その言葉を聞いて驚愕の表情を浮かべる
お市、しばらく絶句して言葉が出なかったが
無理やり自分の心を鎮める様に落ち着かせる
「兄上と戦うのですか?」
「ああそうだ、兄上殿とは同盟の証として
お主との結婚をしたのに、戦国の習い
とはいえ此度はこの様な事態に
あいなってしまった・・・もしお主が
兄上殿の元へ帰りたいというのであれば
止めはせんが、どうする?」
お市は睨むように長政を見つめ
キッパリと言い切った
「私は浅井長政の妻にございます
今更兄上の所に帰る事など
あり得ません‼」
その言葉と意思の強い目を見て
嬉しそうに笑みを浮かべる長政
「そうか、ありがとう
しかし戦となればお互い
容赦はない、そしてどちらか
死ぬ事になる可能性も高い
もし私が兄上殿を討ち取った
時は許してくれ・・・」
お市は無言で大きくうなづいた
妻のその姿を見て決意も新たに
颯爽と立ち去る長政、その背中を
見送った後、お市は急いで部屋に帰り
何やらゴソゴソと作業を始めた
15分程その作業をおこなった後
女中に呼びつけある事を命じた
「これを陣中見舞だと兄上に
届けておくれ」
女中はお市から布袋を手渡されしっかり両手で
抱え込むように受け取ると
そそくさと部屋を出て行った
長政が戦装束に着替え終り兵の準備の様子を
見に行こうとしたところ廊下を足早に駆け抜ける
女中の姿が目に入った、何かに引っかかった
長政は思わずその女中を呼び止めた
「おいそこの者、そんなに
慌ててどこに行くつもりじゃ?」
普段は長政に声をかけられる事なぞ無い
女中は驚いてひれ伏し頭を床に
こすり付ける様に答えた
「これはお館様、実はお市様より
預かり物がありまして・・・
兄上様に陣中見舞を届けよと
仰せつかりました次第です
お急ぎと聞いておりましたので
今馬周りの者にその手配をしようと
思っていたところでございます」
怪訝そうな表情でその話を聞いていた長政
「何を預かったのか見せてみよ」
そう言われた女中は抵抗することも無く
すぐさま預かった布袋を差し出した
それを受け取るとマジマジと見つめる長政
「これは中に小豆が入っているのか
・・・しかし両端が結んであるとは
珍しい、はっ!?これはまさか!?」
長政が何かに気づきその表情が
急に険しくなる
「これを信長殿に届ける事は
ならん、よいな‼」
長政より厳しめの口調で命を受けると
まるで床に張り付くようにひれ伏す女中
「わかりましたでございます
仰せの通りに」
こうしてお市の作った信長宛てのメッセージが
込められた布袋は長政に取り上げられた
その事を聞いたお市は万事休すかと思ったが
その時、ある事を思い出し決意した
「兄上の所までちゃんと届くか疑問ですが
やるしかないようですね・・・」
お市は両手を合わせた後、掌を上にかかげた
すると光の粒子が集まって来て収束していく
やがてそれは光で出来た蝶の形となり
ヒラヒラとお市の周りを飛び回っていた
「お願いです、私の言葉を
あの方たちの元へ届けておくれ」
その言葉を聞いた光の蝶は城の窓から
フワリと飛び出し、大空に向かって
ヒラヒラと飛び去って行った
お市の放った光の蝶は夜空をユラユラと優雅に
飛びどんどん近づいて来ていた
何分暗い夜空に光る蝶が飛んでいるので
数人の兵達もそれに気が付いた様子で
少し騒ぎになりかけていた
「あれはお市さんの
メッセンジャーバタフライ
ですね・・・
何かあったのでしょうか?」
フリニオーラが夜空を見あげながらスッと
右手を高くかかげる、すると光の蝶は
それに反応するかのように高度を下げ
ルキア達の元へ徐々に寄ってきた
皆フリニオーラのかかげた手の上に
停まるのか!?と思いきや
メッセンジャーバタフライは
ライオスの肩に停まり闇に溶け込むように
スッと掻き消えたのだ、その瞬間ライオスの
表情が険しく急変した
「大変だ、浅井長政が信長公を
裏切った‼」
それを聞いたルキア達も驚きの表情を浮かべる
「それヤバいんじゃねーの!?
こんな所で挟み撃ちに合ったら
本当に全滅するぜ!?」
「急いで信長公に報せないと」
「私は秀吉さんと半兵衛さんに
知らせて来ます‼」
メンバー皆が動揺する中でライオスは
信長の元へ急いで走り始めた
「なんじゃと、長政が裏切り!?」
ライオスの報告に驚きの表情を浮かべる信長
周りにいた家臣達も思わず絶句する
「ここは森深き間道にて前方の
朝倉軍と後方の浅井軍に挟撃されれば
ひとたまりもありませんぞ!?」
「まさか長政殿が裏切りとは・・・」
「お館様、ここは撤退を‼そして
一刻も早くお逃げくだされ‼」
家臣達の忠告、進言にも茫然としている信長
「長政が裏切り?そんな馬鹿な・・・
それは何かの間違いでは無いのか!?」
珍しく取り乱す信長、まだ長政の裏切りが
信じられないと言った様子であった
その時、横にいた明智光秀も口を挟んだ
「松永久秀殿からも同様の報告が
来ております
”浅井長政に寝返りの疑い”と」
ライオスは珍しく焦る様に説明を始めた
「俺は魔法によりお市さんから
直接聞いたんだ間違いない
信長公、急いで撤退を‼」
ライオスが真剣な眼差しで信長を睨むように
言い放つ、ようやく我に返った信長は
急いで指示を出す
「これよりここ金ケ崎より撤退する
各自急ぎ準備をせよ‼」
家臣達が一斉に立ち上がり
物々しい雰囲気が漂う
その時柴田勝家が信長に
ささやくように問いかけた
「殿はいかがいたしましょうか?」
殿とは仲間を逃がす為
敵を足止めする役目である
本来勇猛で信頼厚い家臣に任されるものだが
数少ない兵で敵の追撃を防がなければ
いけない為、全滅する事も珍しくないという
過酷な任務である、その時一人の男が
名乗りをあげた
「此度の殿、拙者にお任せくだされ‼」
その声の主は秀吉であった、柴田勝家を始め
織田家恩顧の家臣達が不快な表情を浮かべ
苛立ちながら言い放った
「またお主か!?いい加減にせよ
此度こそは我等が殿を務める
お主などに任せられるか!?」
「そうじゃ、お館様を守る
殿は我らが役目だ
これ以上成り上がり者の
お主などに任せられるか‼」
ここ最近では織田家家臣の中でも
活躍するのは秀吉や光秀ばかりで
古参の武将たちは正直焦っていた
特に佐久間信盛や柴田勝家など
先代より織田家に仕えていた武将には
顕著にその反応が見られた、しかし
秀吉はそんな声に怯むことなく信長を
ジッと見つめ視線を動かさなかった
「拙者は百姓出身の成り上がり者ゆえ
もしここで死んでも織田家に痛手は
ありませぬ、しかし重鎮の方々に
何かあれば織田家とって重大な損失
ひいてはお館様の行く末に関わるやも
しれませぬ、であるからしてこの役目
なにとぞこの秀吉にお任せくだされ‼」
その言葉に声を失う他家臣達、その時
ルキアが秀吉の後ろから近付くと
秀吉の肩をポンと叩き信長に進言した
「我等も全力で秀吉殿を支えますから
どうかお任せください」
驚いて振り向く秀吉にニコリと笑い
うなづくルキア、他メンバー達も
微笑みながら秀吉を見守っていた
「此度の殿は木下藤吉郎秀吉に
任せる、異論はないな!?
ではルキア、よろしく頼む
そして・・・死ぬなよサル
必ず生きて帰れ、わかったな‼」
その信長の言葉に秀吉の表情がパッと明るくなる
「有難き幸せ、この秀吉必ずや
立派に殿を務め生きて帰りますので
お館様は早くお逃げくだされ‼」
秀吉の言葉に強くうなづく信長、その時
ルキアがメンバー達に話しかけた
「これから各自で別れ役割分担を
したいと思う、今回ステイメンが
居ない為、俺が作戦を考える
まず秀吉殿と浅井軍を迎え撃つ
のはライオスに任せる
俺とゼファーは朝倉軍の侵攻を
何とか食い止める、そして
フリニオーラは信長公に同行し
信長公を守ってくれ、各自それで
いいな!?」
その指示に少し慌てるフリニオーラ
「ちょっと待ってください、私は
あまり人を守るのは得意では
ありません、ステイメンさんの様に
防御魔法は使えませんから!?」
戸惑うフリニオーラに落ち着いた
口調で話し始めたルキア
「それでも現状のメンバーの中では
フリニオーラが一番適している
夜の暗い間道で敵味方入り乱れての
戦闘だと君の魔法が活かし切れない
そして敵が飛び道具や魔法を使って
信長公を攻撃してきた場合
一番君が警護に向いていると考えての
配置だったんだが、どうしても無理だ
というのなら配置を変えるがどうする?」
ルキアにそう言われ少し考え込んだが
やはりそれが正しいと判断したのか
フリニオーラは大きくうなづいた
「わかりました、やってみます」
メンバー達は皆微笑みながら顔を見合わせた
「今回バラバラで行動することになるが
無理はするな、必ず生きて帰るぞ
前にも言ったがいざとなれば
どんな手段を使ってもかまわない
全力で戦ってくれ、結果敵を皆殺しに
する事になってもみんなの身の方が
大事だ、みんな後で会おう‼」
ルキアの言葉に皆うなづき各自
それぞれの役目の為に散って行った
「急げ、浅井軍はすぐにでも
ここに来るぞ!?」
夜の闇に秀吉の号令が響く
敵襲に備え急いで木の柵を作る兵達
そんな中でライオスがゆっくりと姿を現した
「今回俺はここでアンタ達と戦う事に
なった、よろしく頼むぜ」
大きな剣を肩に担ぎながら
絶体絶命のピンチだというのに
どこか嬉しそうなライオス、秀吉の部下達は
美濃でライオスの戦いぶりを見ているだけに
一人とはいえこの援軍は頼もしく感じた
そんな中、背後からライオスに
話しかけてくる声が聞こえた
「兄ちゃんよ、今回こそ一緒に
戦えるな、俺達も死ぬ気で
戦うからよ終わったら酒でも
飲もうや!?」
そんなライオスに声をかけて来たのは
蜂須賀小六だった、その後ろには
ニヤつきながらもいかにも戦いなれた
感じの部下達を何人も引き連れていた
「俺もアンタ達みたいのは嫌いじゃ
ないぜ、最近稽古ばかりで退屈
してたからな、今夜は思い切り暴れて
やるからアンタらは寝てていいぜ」
ライオスと小六はお互いを見つめて笑った
一方その頃、浅井軍は織田軍を殲滅すべく
金ケ崎に向け着々と進軍していた
馬に跨り先頭で進む長政はふと辺りを見回す
夜の闇と木々のざわめきが妙に不気味さを
感じさせたが、どうやらそれだけでは無い
事に気が付く、何か得体のしれない胸騒ぎを
覚える長政、しかしそれが何であるかわからず
単なる杞憂だろうと考え今後の戦いに向け
気持ちを引き締めた、よもやその胸騒ぎの
正体が自軍にある事には全く気が付かなかった
今から戦いに赴くのだから兵達が殺気立ち
興奮状態なのはある程度しょうがないと
思っていたからだ、しかし浅井軍の兵達は
尋常ではない程の興奮状態で凄まじい
殺気を放っていた
「殺してやる、織田の奴らは皆殺しだ
ヒ~ヒッヒッヒ、殺す殺す殺す殺す
ころすころすころすコロスコロスコロス
・・・」
長政は夜の闇で気が付かなかったが浅井軍の
兵達の表情は皆ヘラヘラと狂気の笑みを浮かべ
その怪しく光る赤い目がその異常さを物語っていた
そしてもうすぐ織田信長の数ある戦いの中でも
屈指の激戦にして絶体絶命の撤退戦である
”金ケ崎の退き口”が始まろうとしていた。
今回から”金ケ崎の退き口”のお話しです、史実とフィクションの
バランスが難しいですが頑張って書いてみますのでまたおつきあい
ください、次話からはバトル中心になると思いますので
よろしくお願いします、では。




