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外伝 卑怯者の矜持

登場人物


ハインリヒ・メルカント…享楽札魔術師の異名をとった凄腕のカードキャスター

 酒と女が大好きなお調子者


ギャレット・ゼファー…カードキャスターに憧れてメルカントに弟子入りした少年


アダム・サラ…武器を扱う店でモデルをしている、美人で気遣いの出来る女性


酒場の中から飛び出す様に出てくる


メルカント、少年の目から逃げる様に


走り去り、そのまま家に戻ると


棚に置いてあった酒を乱暴につかみ


コップに移し替える事も無くラッパ飲みで


流し込むように一気に飲み干した


「ちくしょう・・・


 なんなんだあのガキは!?


 戦いだの魔族だの嫌な事を


 思い出させやがって・・・」


メルカントは一年前の魔王との戦いで


仲間を見捨てて逃げ帰った後は


人が変った様に無口になり誰とも会わず


ずっと世捨て人の様に生きてきた


しかし魔王に挑んで生還した人間は


今まで皆無であり初めての生還者が


メルカントだった為、少しでも


魔王討伐の為の情報を知りたいと


わざわざ訪ねて来る者も少なく


無かったが彼は貝の様に口を閉じ


何も語る事は無かった


誰に何を聞かれても一切答えず


最終的に話す事はただ一言


「俺は仲間を見捨てて逃げた


 最低のチキン野郎だ


 そんな男が語る事なんて


 何もない、わかったら帰れ」


その一点張りだった、そんな対応から


次第にメルカントを訪れる者もいなくなり


”仲間を見捨てて逃げた卑怯者”として


認識されるようになると”享楽札魔術師”


の二つ名で皆に一目置かれていた


過去の栄光は忘れ去られ”脱兎のメルカント”


などと呼ばれるようになってしまった


しかしこれはメルカント自身が望んだ事で


どうしても自分が許せないメルカントは


あえて皆にそう呼ばれるように


仕向けていた節さえあった,そんな中で


自暴自棄になり自ら命を絶とうと思った


事も一度や二度ではなかったが


しかしその都度、頭の中でメルカントを


責め立てる言葉が聞こえてきた


『今、自ら命を絶つくらいなら


 なぜあの時、仲間と共に


 戦って死ななかった!?


 惚れた女を見捨てて逃げた


 卑怯者が自殺なんて無責任で


 楽な死に方を選ぶ権利が


 あるのか!?」


メルカントは皮肉にもそんな言葉に


支えられるような形で生き長らえてきた


しかし生きる気力を失いながらも


死ぬ事もできず、ずっと苦しみ続ける


廃人の様な毎日はほとんど


生ける屍と言っても過言では無かった





一気に酒を飲みほしたメルカントは


そのまま倒れる様に眠りにつくと


翌日の昼まで目を覚ます事は無かった






「あ~最悪の気分だぜ・・・」


翌日、二日酔いでガンガンする頭を抱え


ムクリと起き上るメルカント


床に落ちている酒の空瓶を見て


ようやく昨日の事を思い出した


「ちっ、 買い置きの酒も


 無くなっちまったか・・・


 あの酒場に行くと又


 あのクソガキがいるかも


 しれねえからな・・・


 しゃあねえ、酒でも


 買いに行くか・・・」


そう言って面倒臭そうに


頭をかきながら玄関を出ると


そこには昨夜の子供が立っていた


「なんだこのガキ!?


 何でここに・・・


 どうして俺の家が


 わかった!?」


その質問には答えずまたもや無言のまま


上目づかいでジッと見つめる少年


少し後ずさりした後、目線を逸らし


再び逃げるように走り去るメルカント


「一体なんなんだあのガキは!?」


ある程度離れたところまで全力で走り


周りを確認した後、息を切らせながらも


ジッと考えるメルカント


『家に帰ってもあのガキがいるんじゃ


 落ち着いて酒も飲めねえ・・・


 酒場もバレてるし、どうすっかな!?』


散々考えた挙句、昔よく行った食堂に


行く事にした、家庭料理の様なメニューが


主であり派手好きのメルカントには


似つかわしくない店だが


その素朴な味が気に入っていて


派手に遊びまわっていた時でも


一人でよく通っていたのだ


「あそこなら酒が


 飲めない事も無いし


 久々言ってみるか・・・」


懐かしさを感じながら久々に訪れたその店は


何も変わっていなかった


感慨深さすら感じながら


食堂の古い扉を開けると


店のおかみさんが明るく声をかけて来た


「まあ久しぶりじゃない


 メルカントさん


 今までどうしてたのよ!?」


そんなおかみさんの言葉が嬉しくて


思わずニコリと笑い


明るく答えるメルカント


「いや~最近、若い女に


 引っかかっちゃってね・・・


 そっちに入り浸っていたんだけど


 やっぱおばちゃんの事が


 忘れられなくてさ、浮気を止めて


 本気でおばちゃんを口説きに


 戻って来たのさ!?」


「あら嫌だよ、相変わらず


 お上手だわねメルカントさん


 私も旦那捨ててアンタと


 本気の逃避行でも


 してみようかね!?」


笑いながら冗談で返す


店のおかみさんだった


そんな他愛のない会話が


今のメルカントには


とても心地よかった


「メルカントさん、いつもの


 スペシャル定食でいいのかい?」


「ああそれで頼むわ、やっぱ


 ここの飯が世界一美味いからな


 あと酒も付けてくれ」


少し呆れたような顔で見つめるおかみ


「まだ昼なのに酒かい!?


 ウチとしては商売になるけど


 あまり感心できないねぇ」


「まあそう言わずに頼むよ


 実は酒が飲める所が・・・」


メルカントはそう言いながら


思わず言葉を止める、目の前に


信じられないモノを見たからだ


それは食堂の一番奥の片隅で


一人食事をしている子供の姿


そう、昨日からメルカントに


付きまとっているあの少年だ


「あ・・・あ・・・なんで・・」


メルカントは少年を指さして絶句する


もう言葉にもならず頭が混乱してしまっていた


「なんなんだ~~~‼」


メルカントは逃げ出す様に店を後にする


「ちょっとどうしたんだい


 メルカントさん!?」


後ろからおかみさんが呼ぶ声がしたが


そんな事にかまっている暇は無かった


「なんなんだ・・・


 何なんだよ


 あのガキは!?」


メルカントは息の続く限り必死に走り


町の端まで来るとある家の


ドアを激しくノックした


「は~い、どなたですか?」


中から若い女性が気怠げな表情で


目をこすりながら出てきた


「あらメルカント・・・


 久しぶりじゃない


 連絡も無しでこんな急に・・・


 一体どうしたのよ?」


「すまないサラ、少し


 匿ってくれないか!?


 事情は話すから・・・」


切羽詰まったその態度に渋々ながら


メルカントを家に入れる


サラと呼ばれた女性


彼女はメルカントが


派手に遊んでいた頃に


大勢はべらしていた


女性の一人で最近は


連絡も取っていなかった


のだが闇雲に逃げて来た場所が


彼女の家の近くだった為


思わず転がり込むように訪ねたのだ


家に入るとすぐさま座り込むメルカント


悲壮感を漂わせながら息を切らせている


メルカントに、コップで水を差出し


静かに問いかけるサラ


「とりあえず水でも飲んで


 落ちつきなさいよ・・・


 それで?


 久々に顔を見せたと


 思ったら一体


 何があったのよ?」


差し出されたコップの水を一気に飲み干し


大きく息を吐くメルカント


「ありがとうサラ・・・


 実は君の事が


 忘れられなくて


 こうして会いに


 来たっていう訳さ!?」


その言葉に呆れながらも


まんざらでもなさそうなサラ


「本当にアンタって人は・・・


 何があったのか


 知らないけどいいわ


 事情は聞かないであげる


 貴方の気が済むまで


 いつまでもここにいて


 いいわよ」


優しく微笑みながらそう答えるサラ


「私これから仕事で出かけるけど


 あなたも出かけたいなら合鍵


 渡しておくけど・・・」


「いや、俺は


 出かけないからいい


 すまないサラ


 愛してる・・・」


サラは照れながらも頬を膨らませる


「もう、相変わらずアンタは


 そんな事ばっか言って


 口ばっかなんだから・・・」


そう言いながらサラは嬉しそうに


自分の部屋に入って行く、そして


しばらくすると着替えを終えた


サラが部屋から出てきて声をかけてきた


「夜には戻って来るけど


 何か必要なモノとかある?」


「いや、大丈夫だ


 君の笑顔さえあれば


 何もいらないよ」


「はいはい、全くもう・・・


 じゃあ行くね」


そう言ってメルカントに


手を振りながらリビングを出たサラは


玄関のドアを開けると少し何かに


驚いた様な声をあげた


メルカントは思わず玄関に走って行き


サラに問いかける


「何かあったのかサラ?」


「いや・・・アンタに


 客だって・・・」


その言葉を聞き”まさか!?”


とは思ったがその予感は的中した


なんとあの少年が玄関先で


例の上目づかいでメルカントを


見つめていたのだ、もうすでに


言葉にならないメルカント


しばらくの沈黙の後


絞り出す様に怒鳴りつけた


「何のつもりだガキ‼


 一体何の要件で俺を


 付け回すんだ


 言ってみろ‼」


ハアハアと息を切らせながら


興奮気味に問いかけるメルカントに


ボソリと答える少年


「昨日も言ったろ、アンタに


 カードキャスターとしての技を


 教えて欲しいって・・・


 それだけなんだけど」


確かにそう聞いてはいた


しかしそんな事より


この少年にはなぜ


自分の行くところが


ことごとくわかったのか


メルカントにはそれが


不思議でならなかったのだ


「てめえの要件はわかった、で


 一つ質問だ、なぜお前は


 俺の行くところが


 ことごとくわかるんだ?」


訪ねられた少年は無表情のまま淡々と答えた


「アンタの弟子になる為


 事前に色々調べたんだ


 そしてアンタの心理と


 行動パターンを考えて


 予測したらたまたま当った


 それだけだよ・・・」


その言葉に思わず息を飲むメルカント


『このガキ、本当に俺の


 弟子になる為だけに・・・


 それに心理と行動パターン


 の予想がたまたま当たった


 だけだと!?


 簡単に言いやがるがそれが


 どれほど困難な事か


 判ってるのか!?


 全くなんてガキだ・・・


 カードキャスターとして


 一番必要なモノが何か


 もう肌で理解している・・・


 コイツもしかしたら


 とんでもない化け物


 になるかもしれんぞ!?』


思わず息を飲むメルカント


しばらく沈黙が続き二人の


睨み合いの様な場面が続いた


「おいガキ、お前の名前は?」


「ゼファー・・・」


メルカントの問い掛けに


ボソリと答えるゼファー少年


「わかった、俺の持っている


 全ての技をお前に教えてやる


 しかし修業は厳しいし


 それでもカードキャスター


 にはなれんかもしれん


 それでもいいんだな!?」


その質問に黙ってコクリと


うなづくゼファー少年


そこからメルカントによる


ゼファー少年のカードキャスター


への修業が始まった。




メルカントはゼファーを連れて家に戻ると


物置の片隅に投げ捨ててあった装備と


カード一式を手に取り、上にかかっていた


ホコリを手で丁寧にはらった


「まさか再びこいつらを


 手にする時が来るとはな・・・」


どこか嬉しそうにカードを


見つめるメルカント


ゼファーを外に待たせながら


無精ひげを剃り髪を整えると


装備とカードを装着して再び


ゼファーの前に現れたその姿は


先ほどまでとはまるで別人の


ように見違えて映った


「まず最初に言っておく


 俺の事は先生、もしくは


 師匠と呼べ、そして


 カードキャスターの修業


 というのは驚くほど地味で


 キツイ、それが嫌なら


 最初から諦めるんだな・・・


 じゃあ早速始めるぞ


 いいなゼファー‼」


「はい、師匠‼」


ゼファーは背筋を伸ばし


直立しながらそう答えた


それからは本当に地味な訓練の


連続だった、走り込みに筋トレ


剣や格闘技の基礎の反復練習


ばかりだった


夜は攻撃魔法と防御魔法の講義で


食事と寝る以外の時間は訓練と


いっても過言じゃなかった


そんな厳しい訓練にも弱音を吐かずに


黙々とこなすゼファー、その資質は


メルカントが驚くほどのモノであり


いつの間にか夢中になっていたのは


むしろメルカントの方だった


『素質があるとは思って


 いたがこれほどとは!?


 どんな事でもキッチリ


 器用にこなすしモノの


 本質がなにかって事を


 本能的にわかってやがる


 本当にコイツは


 カードキャスターに


 なる為に生まれてきた


 様な人間だぞ!?』


メルカントは生き生きとしていた


魔王との戦いから逃げ帰ってからの


ここ一年は生きているんだか


死んでいるんだかわからない様な


生活を送っていた彼にとって


ゼファーは天が彼に遣わした


救世主なのでは!?


と思える程その育成に没頭した


ゼファーは厳しい修行にも


一言の文句も不満も無く


見る見る上達していった


しかし修業をおこなって一か月が


過ぎようとした時、メルカントは


ある重大な事に気が付いた


『なんてこった・・・


 ゼファーのあまりの素質に


 眼を奪われて肝心な事を


 忘れていた・・・


 このままじゃコイツは・・・』


次の日訓練を始める前の


柔軟ストレッチをしている


ゼファーに向かって厳しい


視線を向けるメルカント


「おいゼファー


 ちょっとこっち来い」


師匠の呼び出しに黙ってうなづき


素早く移動するゼファー


その姿を見て思わず


ため息をつくメルカント


「ゼファー、お前は


 カードキャスターに


 向いてない・・・


 今すぐ別の職業に


 ジョブチェンジする事を


 お勧めするぜ・・・」


師匠のその言葉に驚愕の表情を浮かべ


思わず問いただすゼファー


「なんでですか師匠!?


 なぜ俺はカードキャスターに


 なれないんですか!?」


「それだよ・・・」


メルカントの言葉の意味が分からない


ゼファーは益々困惑した


「これは俺のミスだ・・・


 お前の素質の高さに


 目を奪われてしまって


 カードキャスターにとって


 もっとも必要な要素を


 教えていなかった・・・


 すまない」


そう言って頭を下げるメルカント


今まで自分に向かって頭など下げたことが


無い師匠が深々と頭を下げている


それほど深刻な事態だという事が


ゼファーにもわかった


「訳を、訳を言ってください


 それじゃあ俺は納得できません


 俺の何がいけないんですか!?」


「だからそれがダメなんだ・・・」


再び謎の言葉を口にするメルカント


まるで禅問答でもしているかのような


意味不明な言葉に困惑するゼファー


「さっきも言った様にお前は


 素質的なモノは申し分ない


 しかしカードキャスター


 にとって決定的に欠けている


 部分がある、それはな・・・


 お前は真面目すぎるんだ」


ゼファーには師匠の言っている


意味がわからなかった


”真面目だからダメ”


全く意味不明であり


到底納得できるモノでは無かった


「いいかゼファー、俺達


 カードキャスターは


 手元のカードによって


 千差万別な戦い方を


 要求される


 それが最大の武器であり


 長所だが同時に欠点でもある


 なぜだかわかるか?」


「それは・・・色々な


 職業の特性を生かす為


 それぞれどの分野でも


 一流の腕を持っていなければ


 いけないという事でしょうか?」


「まあ正解だ・・・


 しかし考えてもみろ


 それぞれの分野で


 全て一流になる


 何て事が本当に


 可能だと思うか?」


「それは・・・


 努力と鍛錬で一流に


 近づけていくよう


 精進していけば


 そうなれるのでは


 ないでしょうか?」


その答えに首を振るメルカント


「不正解だ、いくらおまえに


 資質があったとしても


 それぞれの分野で一流に


 なれるなんておこがましいぜ


 考えたらわかるだろ!?


 魔法使いは魔法の事だけ


 考えて勉強する


 剣士は剣だけ武闘家は


 武術だけを極める為に


 日々修業するんだ


 そんな奴らに何でも


 やろうとする俺達が


 肩を並べるなんて事


 できるわけないだろ!?」


一見正論であり反論の余地は無い


ように聞こえる話だが


それは聞き方によっては


カードキャスターという職業の


全否定でもあった


信じられないといった表情で


噛みつくように問いかけるゼファー


「じゃあ・・・


 カードキャスターは


 どこまでいっても


 一流どころに勝てない


 所詮は猿真似職業だと


 言いたいんですかアンタは‼」


「そんな訳ねーだろ‼


 カードキャスターを


 ナメるな‼」


噛みつくゼファーに怒鳴り返すメルカント


しばらく睨み合いの様な時間が過ぎた


「いいか、まず魔族でも人間でも


 その特質による長所短所がある


 それはわかるな?」


その問いにコクリとうなづくゼファー


「だったらそれをわかりやすく


 説明してやる・・・


 お前ジャンケンは


 知ってるな?」


「ジャンケン?


 グー、チョキ、パー


 のジャンケンですか?


 もちろん知ってますよ」


「だったら仮に剣士を


 グーとしよう、剣士は


 修行や実戦により


 徹底的にグーを鍛える


 それによりその剣士は


 どんどん強いグーとなり


 敵の出すグーやチョキを


 簡単に粉砕する事ができる


 しかし剣士にも相性の悪い


 相手というのがいる


 これを仮にパーとしよう


 コイツには苦戦する事になる


 相性が悪いんだから当然だ


 しかし実戦ではジャンケン


 と違ってグーでもパーに


 勝つことがある、相性の差を


 ひっくり返す程のレベルの差


 があればそれを可能にする事が


 できるからだ・・・」


ゼファーにも師匠が言わんとしている事が


ようやくわかってきた


「しかし逆に言えば


 レベルの違う相手にさえ


 善戦できるのが相性という


 モノだ、これだけ言えば


 もうわかるだろ!?」


睨むように師匠を見つめていた


ゼファーが渋々口を開く


「つまりどんな相手にも


 相性が悪い戦い方が存在する


 そこを狙って戦えば


 どんな相手にも有利に


 戦う事ができる・・・


 そう言いたい訳ですね!?」


大きくうなづくメルカント


「その通りだ、相手に


 実力を出させずに勝つ


 カードキャスターの


 本質はそれに尽きる」


理屈はわかったが意味不明のまま


自分を否定されてスネ気味のゼファーは


横を向き吐き捨てる様に口走る


「でもそれって何か


 卑怯っていうか


 姑息っていうか


 ズルいっていうか


 ・・・」


「馬鹿野郎、戦いに


 卑怯もズルいもあるか!?


 お前は魔族が正々堂々と


 戦うとでも思っているのか!?」


「そりゃあアイツらは何でも


 アリでしょうけど・・・


 でも・・・」


どこか納得のいかないゼファーに対し


メルカントは珍しく真面目な顔で話し始めた


「戦い方に制限を付けると


 それだけで足枷になる


 強敵相手にギリギリの


 戦いになった時、それが


 どれほどのハンデになるか


 お前にはわかってない・・・


 いやほとんどの者が理解


 していないかもしれんな


 ・・・」


深刻な表情で言い聞かせるように語る


メルカント、そして話は続いた


「カードキャスターはどんな


 場面でも冷静沈着に行動し


 何が最善かを常に選択


 しなければならない・・・


 そのために一番必要なモノは


 何かわかるかゼファー?」


少し考えながら正解を探る様に答える


「判断力、精神力、忍耐力


 それから自信・・・でしょうか?」


その答えに大きく首を振るメルカント


「不正解だ、そんなモノより


 もっと大事な事がある


 それはな・・・平常心だ」


「はぁ?」


あまりの意外な答えに思わず声が


出てしまったゼファー


「平常心って・・・なんですかそれは?


 そんなモノの何が大切なんですか!?」


ため息をついて呆れ気味に答えるメルカント


「お前なぁ・・・平常心を保つ


 事がいかに大事で難しいか


 全然わかってないな!?


 どんな能力の高い奴でも


 平常心を失えば判断を誤る


 精神は乱れる、忍耐が切れ焦る


 自信は無くなる、何一ついい事


 なんてないんだ・・・


 特に恐怖に支配された時には


 目も当てられないぞ・・・」


メルカントの自分自身の体験から来る


その言葉には十分な説得力があった


「平常心が大切だという事は


 わかりました・・・でもそれが


 どうして俺がカードキャスターに


 向いていないという理由に


 なるんですか!?」


「だから言ったろ、お前は


 真面目すぎる、真面目な奴は


 予想外の出来事に対応できない


 すぐに慌ててアタフタしだす


 ありていに言えば真面目な奴ほど


 イレギュラーにすこぶる弱いんだ


 カードキャスターはな常に


 ふざけながら相手をおちょくる


 くらいでちょうどいい


 相手を怒らせ自分は平常心・・・


 これが理想だからだ、それが


 理由だ、わかったか!?」


「わかんねーよ‼


 俺はこれでも学校じゃ


 みんなを笑わせる


 クラスのムードメーカー


 で人気者だったんだ‼」


「そんな訳ねーだろ!?


 いつも口数少なくて


 クソ真面目に俺のいう事


 聞いてるお前がそんな


 お調子者な訳あるか!?」


「猫かぶってたからに


 決まってるだろ!?


 アンタに言いたかった


 事なんて山ほどあるさ‼」


二人が興奮気味に言い争いをしている


そんな時だった


「はい、そこまでよ‼」


パンと手を鳴らす音が聞こえ二人がその声の


方を見るとそこには一人の女性が立っていた


「サラ・・・お前どうしてここに?」


そこに立っていたのは先日メルカントが


逃げ込むように訪ねた女性、サラだった


両手を腰に当て呆れるような態度で


こちらをジッと見つめていた


「前から大人げないとは


 思ってたけど・・・


 そんな子供と本気の喧嘩って


 何考えてるのよ!?」


「いやこれには深い事情があって


 ・・・ていうか何で君が


 ここにいるの?」


メルカントの問い掛けにため息をつき


仕方なく話し始めるサラ


「仕事が一段落ついたからね


 この前の様子が気になって


 ちょっと見に来てみたのよ


 そうしたら案の定というか


 予想外というか・・・


 呆れて言葉も出ないわよ」


サラはこの国の”装備品職人組合”


が経営する大型店の専属モデルをしている


先日までそこの”新作発表会”があった為


忙しかったのだ装備品のモデルというのは


女性用の防具やアイテムを装備する際に


どんな感じになるか客に見せる為の


職業であり新作発表会はいわば


”装備品のファッションショー”


の様なモノである


だからサラは戦闘経験も戦闘能力も無いが


職業柄、武器や防具の事には詳しい


昔メルカントが防具を買いに行った時に



サラと知り合い高価な防具を何個も買ってまで


通い詰めて口説き落としたのがサラだった


モデルをしているほどだから


スタイルは抜群で顔も非常に美人だ


赤毛で癖毛なのを本人は気にしているが


それが何とも妖艶な雰囲気をかもしだし


大人気のトップモデルとして


店の看板娘となっていた




「喧嘩の原因は何なの?


 私に話してみなさいよ」


メルカントは渋々事情を放し始める


「商業適正の性格的な事で


 もめていたのね・・・


 だったらこうすればいいじゃない


 肉体的な訓練は続けながら


 メルカント相手に口で互角に


 言い合えるまでになったら


 適正アリって事で・・・


 逆にいつまでたっても


 いい負かされるだけなら


 諦めるってことにすれば!?」


その一見とんでもないサラの提案を


受け入れ二人はそれに乗ることにした


メルカントとゼファーはバチバチと


火花を散らす様に睨み合いながら


お互いをけん制するように言い放つ


「俺はそれでかまわないぜ


 俺がこのガキにいい負かされる


 なんて絶対にないけどな!?」


「師匠こそ俺にいい負かされて


 泣いて謝る日が楽しみです


 絶対後悔させてあげますよ!?」


そこから”訓練しながら口喧嘩する”という


二人の奇妙な生活が始まった


 






 

 

 





外伝 ゼファー編の2話目でしたがどうでしたでしょうか?

ここからだんだん物語が盛り上がって行きますので懲りずに

読み続けてくれると嬉しいです、次の投降は水曜日の予定です

よろしくお願いします、では。

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