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外伝 絶望の脱兎

登場人物


ハインリヒ・メルカント…享楽札魔術師の異名をとった凄腕のカードキャスター

 酒と女が大好きなお調子者


マリーナ…ベルドルア聖王国より”魔王討伐部隊”に要請された弓使いで絶世の美女


ミッテンベルグ…ベルドルア聖王国より”魔王討伐部隊”に要請された剣士でマリーナの夫


アドリアン・ルキア…伝説の聖剣”ブレイヴハート”を持つ勇者、人々の為に戦うという信念を持っている


ロット・ステイメン…主に回復や防御をおこなう僧侶、常に冷静沈着で戦術指示も出すチームの頭脳的な存在


ルース・ライオス…2m近い長身で屈強な戦士、一人で魔獣を倒したこともあり”魔獣殺し”の異名を持つ、兄貴肌な性格でチームの精神的支柱にもなっている


ギャレット・ゼファー…カードキャスターという珍しい職業だが非常に優秀、自分からチームに売り込みに来たが自分の事は話したがらない、いつも冗談を言って場を和ませるチームのムードメーカー


ライドン・ゾフィ…召喚魔術師の名門ライドン家の生き残りで五体ものドラゴンを操る事ができる凄腕、一族の間では”神に愛された至高の召喚魔術師”と言われていた


クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い


その青年は目の前に見える一団を見て


思わずニヤリと微笑んだ


「ビンゴ、やっぱりここで


 合っていたか・・・」


そう呟きながらそこに向かって


ゆっくりと歩みを進めて行った


その一団の人間達は野営の準備を


していた様子だったようだが


自分達に近づいてくるその青年に


気付き警戒と不信の眼差しを向ける


青年はそれを察したのか両手を広げニコやかに


ほほ笑みながらフレンドリーに話しかけた


「やあ、初めましてみなさん


 俺の名はギャレット・ゼファー


 決して怪しい者じゃない


 君達が魔王を倒す為に仲間を


 集めながら旅をしていると聞いてね


 是非俺も仲間に加えて欲しくて


 ここまで来たって訳だよ


 どうだい、ここは気前よく


 仲間にしてはくれないかい!?」


どことなく軽薄でお調子者の様な


印象を受けるその青年に対し


メンバー達の視線は冷たかった


しかしそんな空気を無視するかのように


一人の青年が右手を差し出す


「初めまして、俺はここの


 リーダーをやらせてもらっている


 アドリアン・ルキアという者だ


 確かに魔王を倒す為にも戦力は欲しい


 しかし言いにくい事だが


 我々の仲間になるという事は 


 それなりの力を持っていなければ


 皆の足手まといになりかねない


 残念だが気持ちだけでは


 仲間にするわけにはいかないんだ


 すまないが・・・」


ルキアは遠まわしに断りを入れるような


返事をする、実際当初ルキアが考えていた


理想のメンバーはすでに揃っていた


聖剣を持つ勇者である自分に加えて


最強の僧侶、魔法使い、戦士、召喚魔術師


これ以上無い程の理想的なメンバーであり


皆それぞれがその道では名の知れ渡っている


第一人者ばかりだったからだ


それを聞きゼファーの口元が緩んだ


「じゃあ俺をテストしてみてくれ


 それでもダメだというのなら


 諦めるからさ・・・


 なっ、それならいいだろ!?」


その言葉に少し困惑するルキア、その時


ステイメンがルキアに近づき耳元でささやいた


「少しテストして実力の違いを


 見せつければ彼も諦めて


 帰るでしょう・・・これ以上


 言葉で説得しても面倒な事に


 なりかねませんから・・・」


ルキアはその提案を渋々承諾した


「いいでしょう、では我々の


 メンバー二人と一対一で二回


 模擬戦をやってもらいます


 その内容いかんによっては


 我らのメンバーに加わって


 もらいますし、諦めてもらう


 事になるかもしれません


 それでよろしいですね!?」


ニコリと笑いうなづくゼファー


「ああそれで構わないよ


 魔王を倒そうなんて


 カッコいい事言う奴は


 やっぱ気前いいね


 サンキュー‼」


ゼファーはウインクしながら


右手の人差し指と中指を傾けた


そんなどことなく緊張感の無い言動に


メンバーが皆呆れ顔で見つめる


そしてテストなど見なくとも


結果は大方の予想通り早々に不合格に


なるであろうと誰もがタカをくくっていた


この後その予想が見事なまでに裏切られる事を


この時点で予想でいた者は一人もいなかった・・・




時はルキア達とゼファーが出会う


10年ほど前に遡《さかのぼ》る


魔王アドギラルロックの脅威にさらされ


人類は魔族に対し敗退を繰り返していたが


まだそれぞれの国では人間らしい生活が


確保できていた頃、ある町の場末の酒場から


その物語は始まった


こんな時代であってもひっそりと


酒が飲める店は非常に貴重であり


そのオンボロな店構えとは裏腹に


客に困る事は無くいつも盛況だった


そんな酒場の店の片隅にその男はいた


その目は生気が無くよどんでおり


口周りには無精髭を生やしていて


ずっと何日も来ている服はヨレヨレで


まるで浮浪者と見間違う程の容姿をしていた


そしていつもの様に酒に酔い潰れては


ブツブツと独り言を呟いていた


「チクショウ・・・俺は、俺はなんで


 未だにオメオメと生きているんだ


 情けない、恥ってモノを知らないのか


 どうしようもなくクズだな俺は・・・」


ブツブツと独り言のように


自虐を繰り返す男


そんな様子を見かねた


店のマスターが思わず声をかけた


「メルカントさん、もうその辺で


 飲むのを止めておいた方が


 いいんじゃないですか?


 マスターの私が言うのも


 なんですがいくら何でも


 体壊しますよ!?」


そんな店主の言葉にギロリと視線を向け


睨みつける男


「うるせー、金はあるんだ


 言われた通りさっさと酒よこせ


 それとも何か、俺みたいな奴には


 金をもらっても酒は出せません


 ってか!?


 ずっとこんなオンボロな店を


 贔屓にしてきた常連の客でも


 俺みたいな恥知らずには


 来てほしくないって事か‼」


その男はもはや言いがかりともいえる言葉を


店主に向かって吐き捨てた


呆れる様に首を振り立去る店主


そんな時、後ろに人の気配を感じ


振り向くとそこには一人の子供が


立っていた、歳は10歳ぐらいで背は高いが


痩せていてヒョロッとしている印象の


男の子が上目づかいで


こちらを見つめていた


「あ、なんだこのガキ


 酒がまずくなる


 さっさとどっか行け‼」


シッシと追い払うような仕草を見せるが


その子はそれにも動じず全く動こうとしない


その態度にイラつき声を荒げるメルカント


「いい加減にしろこのガキ‼


 何か恵んでほしいのなら


 他をあたれ、ブッ飛ばすぞ‼」


そんな恫喝じみた言葉にも動じず


真っ直ぐ見つめる少年はようやく口を開いた


「俺はあんたに頼みがあって


 来たんだ、俺は魔族を倒したい


 だからこうしてアンタの所に来た」


怪訝そうな表情を浮かべ


少年をジロジロ見つめるメルカント


「お前は何で魔族を倒したいんだ?


 いやそもそも何で俺にそれを頼む


 俺が誰だか知ってて言っているのか?」


少年は無表情のまま静かに答えた


「俺の両親は魔族に殺された


 だから魔族を倒したい・・・


 その為にアンタの持っている技を


 教えて欲しいんだよ・・・


 最強のカードキャスター


 ”享楽札魔術師”と言われた


 アンタの技を!?」


その言葉を聞いて思わず吹き出すメルカント


「はっはっは、”享楽札魔術師”


 とはまた懐かしい・・・


 いいかガキ、一ついい事を


 教えてやる


 悪いことは言わねえから


 カードキャスターなんて


 目指すのは止めておけ


 両親の仇を討ちたいのなら


 他の職業を目指す方がよっぽど


 建設的だ、いいな!?」


メルカントのそんな言葉にも


微動だにしない少年


真っ直ぐにメルカントの


目を睨むように見つめていた


メルカントはその視線から逃げるように


目を逸らし吐き捨てる様に言い放つ


「いいかよく聞けよ


 今の俺が何て呼ばれているか


 知っているか?


 ”脱兎のメルカント”だ


 自信満々意気揚々と魔王に挑み


 アドギラルロックのあまりの強さ


 にビビって一目散に逃げ出した


 チキン野郎、それが俺だ


 わかったか!?わかったなら


 他をあたれ‼」


怒鳴る様にそう言ったメルカントは


思わず席を立つと逃げるように店を出た


『俺はまた逃げるのかよ・・・


 あんな子供相手にも


 逃げ出す男、情けなさも


 ここに極まれりだな・・・』


そんな事を思いながら立ち去るメルカント


そんな彼が仲間と共に魔王に挑んだのは


ちょうど一年程前の事である





その頃のメルカントは各地で暴れる魔族を


退治してはその謝礼の賞金で暮らしていた


カードキャスターという珍しい職業


だった事もあり彼の名は一躍有名になる


その楽く遊ぶように戦うそのスタイルから


”享楽札魔術師”という通り名で呼ばれる


程にまでなった


それまで苦戦することも無く


戦えば連戦連勝、そうやって稼いだ金を


湯水のごとく使っても一向に減る事は無く


いつも大勢の女性をはべらせながら


すっかり有頂天になっていた


ある時そんなメルカントの元に


二人の男女が訪ねて来た


一人は精悍な顔つきの剣士であり


もう一人は美しい女性の弓使いだった


その今まで会ったことが無い程の美女の姿に


思わず視線が釘付けになるメルカント


言葉を失う程茫然と立ちすくんでしまうが


ハッと我に返る、まさに一目ぼれだった


メルカントはすぐさま近づき手を握ると


すかさず猛アタックをかけた


「あなたの様に美しい女性に


 出会ったのは初めてです


 これも女神のお導きと考え


 是非私とおつきあいしては


 くださいませんか?」


会った早々の口説き文句に思わず困惑する女性


しかしすぐさま微笑み優しく答えた


「お言葉は嬉しく思いますが


 私、ここにいる連れの者と


 すでに結婚しております


 もう子供もいるのですよ


 申し遅れましたが私は


 マリーナと申します」


「私はマリーナの夫


 ミッテンベルグと申します」


その衝撃の言葉にわかりやすく


落胆するメルカント


ガックリと肩を落とし下を向いたまま


動かなくなってしまった


「あの・・・メルカント様・・・


 大丈夫ですか?」


マリーナの問い掛けにゆっくりと


顔を上げるメルカント


「ああ、もう大丈夫ですよ


 それで私に何の御用ですかな?」


落胆しながら力なくそう答えると


二人は顔を見合わせた、そして


真剣な表情で話しかけてきた


「実は今日伺ったのは魔王討伐


 の為に是非ともメルカント様の


 お力をお借りしたいと思い


 参上したのです」


その内容に思わず面倒臭そうな表情を


浮かべたメルカント


「魔王退治?そんなもん勇者に


 任せるモノと昔から相場が


 決まっているだろ!?


 なんでそんな面倒な事を俺が


 しなきゃならんのだ?」


「今現在、魔王を倒せるほどの


 勇者の存在は確認されて


 おりません、しかし魔族の


 侵攻によって人々は苦しい


 日々を送っております


 魔王を倒さねば我ら人類に


 未来はありません


 どうか、人々の平和の為に


 子供たちの未来の為に


 メルカント様のそのお力を


 お貸しください


 お願いいたします‼」


ミッテンベルグは深々と頭を下げた


「でもよ魔王討伐ってのは今


 ベルドルア聖王国が仕切って


 いるんじゃなかったっけ?


 これはベルドルアからの


 正式な要請なのか?」


そんなメルカントの質問に対し


少し口ごもりながら言い辛そうに答えるマリーナ


「我々二人はベルドルア聖王国の要請を


 受けて魔王討伐に選出された者です


 しかしベルドルア聖王国の


 ”魔王討伐部隊選出評議会”の者達は


 まだカードキャスターという


 職業をあまり理解しておりません


 ですので残念ながらメルカント様には


 正式な要請は来ておりません・・・


 しかし私達が必ず彼らを説得します


 今は形式とか面子とかにこだわっている


 場合ではないと考えています


 どうかお願いです


 その力をお貸しください‼」


ミッテンベルグに続いて


マリーナも深々と頭を下げた


しかしマリーナの言葉の節々と


微妙なニュアンスから


メルカントはある事を感じ取った


『さてはベルドルアの連中、俺の


 素行を調べてあまりいい印象を


 持っていない為に俺には正式に


 要請してこないんだろうな・・・


 まあそれ自体わからんでもないし


 俺としてもそんな面倒な事


 やるのは御免だしなぁ・・・』


二人が必死に頭を下げている姿をみて


少し考えるフリをしてはいるものの


基本的には魔王討伐などに行く


つもりなど全くないメルカントは


どう断ろうかと考えていた


「まことに申し訳ないが俺は


 魔王討伐なんて柄じゃないし


 人々の為とか言われても


 ピンと来ない、スマンが


 お断りさせてもらうよ」


正式に断られ今度は二人が落胆する


メルカントにも若干の後ろめたさも


あったが気安く引き受ける事でもない


だろうと自分に言い聞かせ納得することにした


二人が帰ろうとした時、ふとマリーナが振り向き


メルカントにある札を手渡した


「もしお気持ちが変り魔王討伐に


 参加してもいいと思ったなら


 これを使って我らに連絡ください


 予定では我々は10日後に


 魔王討伐に出立しますので・・・」


そう言うと二人は頭を下げ


その場を立ち去った


札を受け取ったものの魔王討伐に


行く気などさらさらないメルカントは


手に取った札をグシャリと丸めると


部屋のゴミ箱に投げ捨てた





魔王討伐の話を断ってから3日が過ぎた


メルカントはいつもの様に


魔族を退治してはその金で酒を飲み


大勢の女をはべらしていた


しかしいつもと何かが違う事に気づく


何をしても全く楽しくないのである


自分でも理解できないモヤモヤした


気持ちを落ち着かせるために


その夜は久しぶりに場末の酒場に


一人で来ていた、ここはメルカントが


若手で金も無かった頃によく来ていた酒場で


店主はそんな金の無いメルカントにも


いつも酒を飲ませてくれた、そんな店主に


思いの丈を話すメルカント


「なあマスター、この前この俺に


 魔王討伐の依頼が来たんだ・・・


 そんな柄じゃなないから断った


 んだけど、それ以来何か気持ちが


 モヤモヤしてな・・・


 人類の行く末とかどうでもいいし


 魔王と戦うとか冗談じゃないと


 思っているから断ったこと自体


 何の後悔も無い・・・


 ただ依頼に来た夫婦の嫁の方が


 そりゃあいい女でな・・・


 もうすぐ魔王討伐に行くって


 言ってたけど、生きては帰れない


 だろうな・・・全く勿体無い


 まあ人妻だし、俺には関係ない


 だろうけどよ・・・」


 その時店主がフッと笑った


「メルカントさん、あなた


 その人妻に惚れましたね?」


その言葉に驚き目を見開きながら


慌てて反論する


「何言ってやがる


 馬鹿じゃねーのか!?


 相手は人妻だぞ!?


 しかもガキまでいるって話だ


 そんな女にこの俺が


 惚れる訳ないだろ!?」


目を閉じ首を振りながら微笑む店主


「人妻とか子持ちとか


 女に惚れるのにそんなもの


 関係ありませんや


 メルカントさんは


 自分が惚れた女が


 死ぬかもしれないのに


 何もしない自分が許せない


 それだけの事ですよ」


その言葉を聞いてしばらく呆然としながら


言葉も出なかったが、我に返り改めて


考え直すと、店主の言っている事に


心当たりがあり過ぎた


そしてその時全てを理解した


「そうだよ、その通りだ


 俺はどうしようもなく


 あの女に惚れちまった・・・


 あの女が無謀にも魔王に


 戦いを挑んでみすみす


 殺されるのが我慢できない


 でも俺なら助けられる・・・」


そう呟くように口走ると


勢いよく立ち上がり


出された酒も飲まずに


酒場を飛び出すメルカント


そんな後姿を優しく見つめる店主だった


そして急いで家に帰ると


早速ゴミ箱をあさった


「あった!?これだ よし


 ”魔王討伐組への勧誘の件ですが


 私も参加させていただきたく


 思います、つきましては


 日時と場所をご指定下さい”


 よし、これでOK‼」


そう記した札は空へ舞い上がり


まるで泳いでいるかのように


フワフワと飛んで行った




それから一週間後、魔王討伐体のメンバーの中に


メルカントがいた


「まあ俺様がいれば


 楽勝だって、みんな気楽に


 俺の後ろに隠れてな


 がっはっは~」


もはや自分がリーダーの様な


尊大な態度を見せているメルカント


それを見て思わず苦笑いの


ミッテンベルグとマリーナ夫婦


そして他にも正式に選出された


戦士と魔法使いが一人づつという


計五人のパーティー編成だった


魔法使いの男が本来のリーダーである


ミッテンベルグに近付き


耳元に小声で問いかけた


「あのメルカントという男


 本当に大丈夫なのでしょうか?


 ベルドルア聖王国からの


 正式要請ではないと聞いて


 おりますが・・・」


「ええ大丈夫です、人間的な事は


 ともかくとして彼の強さは


 私が保障します、戦闘になれば


 私などより遥かに強いのですよ」


魔法使いと戦士の二人は信じられないといった


表情を浮かべ顔を見合わせた


 




魔王アドギラルロックの待つ呪血城の


一番奥にある玉座の間までの道中は


本当にメルカントの独壇場だった


誰よりも早く敵を見つけては真っ先に


そして片っ端から敵を撃滅していった


結果的にはほぼ何もする事無く


ただつき従っているだけのメンバー達


カードキャスターの戦い方を


始めて見た者達はその独特の戦い方に


度肝を抜かれ息を飲んでそれを見守った


時には魔法使い、時には剣士、時には武闘家として


カードに従い戦うその姿はそれぞれが


本業ではないのか!?と見間違う程にレベルが


高く、皆カードキャスターという職業を


見直すと共にメルカントという男の


ポテンシャルがいかに高いのかを


まざまざと見せつけられた


そしていよいよ呪血城にて魔王と対峙する


玉座の間の奥には漆黒の巨体で威風堂々


待ち受ける魔王アドギラルロック


否応なしにメンバーの緊張感が高まり


皆思わず息を飲む、そんな中でも緊張感とは


無縁とばかりの態度で自信満々のメルカント


そんな彼にはとっておきの秘策があった


というより自分の中の最強カードを使えば


絶対に勝てるという自信があったからだ


そのカードの名は【女神ミューゼの旋律】


メルカントが所有しているカードの中でも


最大の威力を誇る超レアカードである


『いきなりこれを使っても


 かわされる可能性がある


 ・・・しかしある程度


 ダメージを与えてから


 これをブチかませば


 絶対に勝てる、この俺が


 人類の救世主か・・・


 まあ悪くない響きだが


 マリーナが振り向いて


 くれればそれ以上は


 いらねえ・・・


 人類を救うヒーローが


 子持ちの人妻に振り向いて


 欲しいだけで戦うって


 何ともカッコ悪いが


 でも嫌じゃないかな・・・』


そんな事を考えながら戦いに挑むメルカント


しかしその考えがいかに甘かったかを


改めて思い知る事となった


魔王アドギラルロックの攻撃は凄まじく


あっという間に魔法使いと戦士の二人が


何もできないまま捕まり殺された


ミッテンベルグとマリーナ夫妻も


選抜メンバーに選ばれただけの


動きと攻撃を見せるが魔王に対して


有効なダメージを与えられずに


回避中心の逃げ回るだけの様な


戦法を取らざるを得なかった


「やっぱり俺がやらないと駄目か


 デュエル スタート‼」


メルカントの目の前に五枚のカードが展開される


その内の一枚を手に取りアドギラルロックに


投げつけた、すると強力な炎が魔王の


巨体を包みその全身を焼いていく


「どうだ魔王、これで死んでくれたら


 楽だがさすがにそこまでは無理か


 ・・・さてどれほどダメージを・・・


 なに!?」


その炎が消えると涼しい顔をしながら何事も


無かったかのようにこちらを見つめる魔王


どう見てもノーダメージの


様にしか見えなかったのだ


「馬鹿な・・・そんな馬鹿な!?」


ミッテンベルグとマリーナ夫妻の援護の元


数々の攻撃をくり出すメルカント、しかし


どれもこれも大したダメージを与える事が


できない事に徐々に焦り始める


そんな時手元に【女神ミューゼの旋律】


のカードが来たのだ


『このカードならば確実に


 大ダメージを与える事ができる


 ・・・しかしこのカードは魔力の


 消耗も桁違いだ、もしこれを使って


 かわされた時、魔力の消耗で


 動けなくなった俺は・・・』


その瞬間自分の死を直感し恐怖に固まる


メルカント、頭の中が真っ白になり


体中から冷や汗がダラダラと流れ落ちる


今まで味わった事の無い恐怖という


感情に自然と体がガタガタと震えだす


その時必死の思いで魔王を引き付け


命がけで攻撃のチャンスを作った


ミッテンベルグとマリーナ夫妻が


同時に叫んだ


「今です、魔王に攻撃を‼」


「お願いしますメルカント様


 今こそ人類の為に‼」


その瞬間メルカントは背中を見せて


逃げ出したのだ、もう何も考えていなかった


ただただ恐怖に支配され怖くて恐ろしくて


体が勝手に逃げ出していたのだ


『嫌だ嫌だ、死にたくない


 死にたくない‼』


メルカントは来た道を無我夢中で走った


そこには躊躇もためらいも無く


ただただ一心不乱に駆け抜けた


ゼイゼイと息を切らせながら走り続け


気が付くと呪血城から少し離れた森にいた


思わず後ろを振り向いた時


追手が誰もいない事に安堵し


その場にへたり込んだ


「助かった・・・のか?」


安心した瞬間、頭が急激に冷静になり


我に返って愕然とした


「俺は何をやっているんだ


 必死の思いで攻撃のチャンスを


 作ってくれたマリーナ達を


 見捨てて逃げ出すなんて・・・」


そして一つ疑問に感じた事があった


「いくら俺が必死に走ったとはいえ


 みすみす魔王がそれを見逃すか!?


 今まで何人もの人間が魔王に挑み


 誰一人として帰って来なかったんだ


 こんな簡単に逃げられたなんて


 ・・・はっ、まさか!?」


その瞬間メルカントは頭を抱えて


ガタガタと震えだした


「背中を見せて逃げる者を


 魔王が簡単に見逃すはずが


 ない・・・間違いない


 俺を逃がす為にあの二人が


 体を張って戦ったんだ!?


 俺は惚れた女を助けるどころか


 命をかけて守ってももらった


 んだ・・・そんな・・・


 最低野郎じゃねーか!?


 俺は、なんてことを・・・」


メルカントは自分のやった事の重大さを知り


嗚咽交じりに泣き崩れた、メルカントによる


絶望の絶叫が夜の森に響き渡った。









 

今回から再び外伝でゼファーのお話しです、この話は少し長くなってしまい

5話構成となってしまいました、もうほとんど出来上がっておりますので

今回の”外伝ゼファー編”だけは早めの投降をしていこうかと思っております

おそらく月、水、金に投降し来週の土曜で完結予定ですのでよかったら

見てください、よろしくお願いします、では。

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