28話:悪役令嬢と追跡ミッション①
次の日――快晴のデート日和。
待ち合わせ場所は噴水公園。
時間はヒトマル、ミッション開始ですわ。
「さすがリシィ、さすがワタクシの舎弟。可愛いですわね。」
ワタクシの目線の先にはリシィの姿。
白ベースのワンピコーデに、最近流行りの麦わら帽子。
いつもは元気な彼女も、あら不思議、清楚なお嬢様に。
まぁ、メイディ頼りのコーディネートですけども。
「ねぇ、これ本当に隠れないといけないわけ?」
そんなワタクシの悦を邪魔するは、アベル。
そう、ワタクシたちは今、路地裏からこっそりスタイル。
黒服に、黒メガネ、マスクも装着。
フフッ…誰も目になど止めませんわ。
「こういう裏での行動…悪役令嬢っぽくありませんこと?」
「指示する側であって、実行する側じゃないと思うんだけどなぁ…。」
「お嬢様、アホ毛が路地から出てバレちゃいます。隠してください。」
「そこの君も、なんで来てんの?」
「リシリアさんは私の同志でございます。それに、こんな面白そ……ンンッ、ゴホン……私はアイリーン様の最高最愛の侍女にして最強の護衛でもあります。まぁ、今回のプランの基盤を用意したのは私ですので、結末が気になるというのも尚更の理由ということで。」
「途中、面白そうって言いかけたよね!」
「シィ~、二人とも静かになさいまし、来ましたわ。」
路地裏から覗くと、待ち合わせ場所へ一人の青年が歩いてくる。
白いシャツに紺色のベスト。
動きやすそうな黒の長ズボン。
どこにでもいる町の青年……のはず。
「……。」
「……。」
「……。」
「隠しきれてませんわね。」
「全然隠せてないね。」
「えぇ。王子様のキラキラが漏れ出ております。」
すれ違う人々が、皆一度は振り返りますの。
子供は目を輝かせ、
ご婦人は思わず見惚れ、
若い女性たちは頬を染める。
ワタクシがどのような服を着ようとも悪役令嬢らしさを隠せませんように、ダレン殿下もまた、どのような服を着ようとも王子様なのでしょうね。ちょっと待ってくださいまし、このパーフェクト隠密スタイルをしているワタクシでも、隠し切れていないのではないのでして!? 先ほどから、なんだか視線を感じますし……。
「メイディ、もしかして、ワタクシも見られております?」
「えぇ、ずっと、私が、ハァハァ…、見て、おります。」
「あら、あなたの視線でしたの。それと、何を描いておりますの?」
「このような格好のお嬢様を見る機会もございませんので、絵に閉じ込めておこうかと。」
「それでしたら、ついでに、殿下の姿絵も描いておきなさい。売るところに売れば、儲かること間違いなしですわよ。」
「かしこまりましたお嬢様。」
「おい! 売るなよ! 一国の王子だぞ!」
あっ、二人とも動き出しましたわ!
追いかけなくては!
― ― ― ― ― ―
まず、リシィと殿下が向かったのは喫茶店でしたわ。
朝からなんて、殿下は順序ってのが分かっておりませんわね。
散策して、疲れたらティータイムというのが理想でしょうに。
そしたら、語り合う内容がてんこ盛りではございませんの。
「おい、まさか、僕らも、入るのか…。」
「えぇ、当然でしょうとも。」
「やっぱりか。」
「ですが、少し出遅れただけで、すでに行列ですわね。もしかして殿下は混みあう時間も調査済みだったということでしょうか…絶妙でしたわね。」
「うん……国の特殊諜報機関を使って調べていたからね……。」
「そのような機関が! 悪役令嬢にも必須ですわ、作りましょう!」
「その話、僕がいないところでしてくれる? それよりも、どうするのさ、出てくるまでここで見張る気?」
「ぐぬぬ…。」
アベルの言う通りですわね。
あれだけの行列、見つかるリスクが高すぎますの。
それに、順番が来る前に殿下たちが出る可能性すらありますわ。
どうしましょう。
「あれ? メイディは?」
「そう言えば、アイリの従者、どこ行ったんだ?」
いつ頃からいなかったのでしょう。
あいかわらず神出鬼没ですわね。
そのとき――
「―――――お嬢様。」
「きゃッ!」「うわッ!」
「さっ、入店しますよ。」
「「え?」」
「こんなこともあろうかと思って、既に予約は済ませております。昨日のうちに。」
「どうしてここに殿下が来るって分かったんだよ!」
「私は悪役令嬢のメイドですので、当然でございます。国の諜報機関の動きを調べれば、逆算して店を特定する程度、雑作もございません。」
「もうやだ! 殿下もアンタらも、理解できないよ!」
「さすがメイディですわ!」
ワタクシたちは店の裏手へと回る。
そこにはニコニコな表情の店員が、案内をしてくれるのでした。従業員専用の扉から入店、殿下にバレることなく隣の個室へと潜入完了ですわ。それにしても、なんと丁寧なおもてなしなことでしょう、まるで店の主人になったかの気分ですわ。
「お客様…いえ、アイリーン様。」
「え? ワタクシのことを知って?」
「はい、変装しようとも、我々一同がお嬢様を見間違うことなどありません。例え、転生しようとも、魂でお嬢様を見つけ出すことだってできる、そう自負しております。まぁ、メイディ先輩にはそれでも敵わないと思いますが…。」
「え、えぇ、え?」
「我々マランデ商会は、お嬢様のために存在しております!」
「マランデ商会!? ここはワタクシのお店でしたの!?」
「アイリ…君は商会長だろう…なぜ知らなかったんだよ…。」
そんな目で見ないでくださいまし!
それより、何か注文しますわよ!
「そ、そうでしたのね。では、注文よろしいかしら。」
「あ、あの…お嬢様。」
「そ、その、お嬢様、実は、お嬢様が殿方とご来店なさると聞いて、特別メニューご用意していたものがあるのです。受け取っていただけますでしょうか?」
「えぇ、いいですわ。」
「ッッ! ありがとうございます! 持ってまいります!」
そう言って厨房へと向かう店員。
そして、持ってきたものに愕然とするのでした。
デカい!
なんといってもデカい!
ストローも二つ用意されており、これは間違いなく一人で飲むようではございませんわ。まさかとは思いますが、これをアベルと二人で飲めとでも言うのでしょうか…。
なによりも、
二つのストローは、絡み合った形をして、
まるで、
「ハート型、ですわ、ね。」
「そうなんです! こちら!『ラブラブ急接近♡ カップル専用ミックスジュース』でございます!」
らぶらぶきゅうせっきん
かっぷるせんようみっくすじゅーす
「お嬢様の未来の旦那様は、我々にとっては未来の主人。ならばと、誠心誠意、たっぷりの愛を込めてお作り致しました!」
「「………。」」
なんてことですの…。
とんでもない勘違いをされていますわ。
アベルとワタクシはそういう関係ではございませんの。
むしろ、ワタクシより、殿下とリシィの方に用意すべきものですの。
「あ、あの…。」
「はいッ!!」
さすがにこれは訂正が必要ですわ。
心苦しいですが、取り下げてもらって。
「これは、ですね。」
「はい!」
「…。」
「ッ!」
「…。」
ダメですわ。ワタクシの負けですわ。
ワタクシはこのキラキラした目に弱いんですもの。
これを拒否するなんてワタクシにはできませんわ!
それに商会の店員とはすなわち、以前にメイディが教えてくれたところの『構成員』でもありますもの。『組の頭』はそのすべての敬意と熱意に応えてこそ、器のデカさと聞いておりますわ。ここで逃げては悪役令嬢が廃る。ならば!
「アベル、飲みましょう。」
「ハァ!?」
「シッ! 静かに、殿下にバレますわよ。」
「あ、すまん。じゃなくって! アイリ、何を言ってるのか分かってるのかい!」
「あなたは、あの目を見て、否定できるのでして!?」
「……。」
「……どう?」
「……できない。」
ほれ見たことか!
腹をくくりなさいアベル!
「「……あむっ。」」
観念したワタクシたちはストローを咥えた。
くっ、顔が近い。
アベルって確かに殿下ほど華やかではありませんけれど、こうして近くで見ると……あら? 思ったより整った顔立ちですのね。こうやってマジマジと見ると、なんか、その、カワイイっていうか? 何を言っておりますの! そんなこと、まるで、アベルのこと好きみたいじゃありませんの!
キャッ! おでこが当たりましたわ!
あ、ああ、あとは、飲むだけ!
飲むだけ……。
飲むだけですの……。
た、たった、それだけ……。
顔が熱いですわ。
アベルも、真っ赤になって。
きっとワタクシもですわね。
はぁ~、もう、ダメ――――
「失礼します。」
第三者乱入!!
別口からストローが挿入!!
えっ、どういうこと!?
ハッ! これは!?
メイディ!!
「いただきます。」
ズゾゾゾゾゾゾ……。
ゾゾ…。
ズビビッ!
「ごちそうさまでした。」
「「………はい。」」
一人ですべてを飲みつくしてしまいました。
さ、さすがメイディ!!
【皆さまへ】
コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。
そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。
なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。
よろしくお願いします!




