26話:(ダレン王子視点)悪役令嬢の舎弟のことが
ダレンという人間は、あぁ、天才だろうね。
私自身とて疑いはしなかったし、そこに王家という肩書まであるんだ、その天才性はより必然として世に発揮される。誰もがそう思い、誰もがそう期待していたんだ。なんでもできる王子を、期待されていた。
だからこそ、
『ダレン様は努力の人です!
だから魅力に溢れているんです!』
あんなことを言われたの初めてだった。
リシリア嬢がハースヴァン嬢から詰められていると聞いた時、私は急いであの現場へと向かった。だけど、介入するまでもなくその問題は解決された。それはいいことだ、私が関係する問題を、私が解決しない結末――あまりにも理想的な終わり方だ。
でも、違う。
物陰から出れなかった理由は、解決したからじゃない。
「私は、努力の人だったのか…知らなかったよ。」
ふと、顔が熱くなった。
またか、あの日から、こうなることが多い。
窓に映る私の顔は、どうも赤い…夕日のせいか?
分からない。
なぜだ。
聞いたことがある、見たこともある。
これは『恋』の反応だ。
恋…。
恋…?
私が、リシリア嬢に、恋を…。
「これは、アベル…に相談してもよいことなのだろうか。」
今なら隣の部屋でガランデ嬢といっしょにいるだろう。
そうだ、今回はリシリア嬢の一件でこうなったのだ、彼女のことを相談するのならガランデ嬢がいてくれた方が話が早いだろう。なぜか相談したくない気持ちもないわけじゃないが…善は急げ、うん、やろう。
隣の部屋へと向かった。
二人しかいない、都合がいいね。
「アベル…ガランデ嬢…相談に乗ってはくれまいか?」
「え!? あ、あぁ、はい、もちろんですが。」
「あら、ダレン殿下がだなんて、珍しいですわね。」
ふと思う、二人は両片思いだ。
なら、きっと、私と同じのはずだ。
ジッと顔を見るが……分からない。
じゃあ、私のはやっぱり別なのか?
「そ、その、リシリア嬢のことなんだが…。」
「あら、リシィですか。どうかいたしまして?」
「私は………。」
「はい。」
「……。」
「……。」
「リシリア嬢に『恋』を、したのだろうか。」
「「はぁ…?」」
なんだ、この反応は。
何を言ってるんだという表情。
そりゃそうだ。
王子が、平民に恋をしたなど。
あるわけがないこと。
二人とも呆れて物も言えなくなったに違いない――
「「……今更?」」
……ん?
い、いまさら、今更?
そう言ったのかい…?
「いや、その、えっと、私は恋をしたかもしれない、と言ったんだよ? あぁ、もしかして、聞き間違いをしたんだね、ハハッ、なんか、恥ずかしいな。」
「いえ、きちんと聞こえておりましたわ。だから、今更だと答えたのですが。」
「本当に今更ですね。」
「いやいやいや、違うよ? 恋をしているとは言ってないよ! 恋を『した』と言ったんだよ! だから、その答えはおかしいんだよ! 分かってるかい、二人とも!?」
「照れて嘘をつかなくてもよろしいのですわ。」
「そうですよ。僕たちに隠す必要はありません。」
これはいったいどういうことなのだろうか!!
二人の反応、からかいとかじゃない、明らかに素での反応だ。え? ということは、私はずっとリシリア嬢に恋をしていたけれど、まったく自覚がなくて、今回の一件でようやく自覚をしたということなのかい!?
本当に…?
そうかな…。
そうだったような気がしてきたぞ…。
「もしかして、殿下、先日のメリアレネ様との対決、見ておりましたわね?」
「そ、そう。」
「まぁ、気持ちは分からなくもないですわ。隣に立っていたワタクシですら、リシィの雄姿にはキュンキュンしてしまいましたもの。ましてや話題の当事者である殿下なら、こうやって恥を捨てても相談したくなるほどに墜ちても、納得ですわ。オ~ホッホ!」
「あぁ、あぁ、理解が早くて、助かるよ…。君たち二人は恋仲だろう? だから、素晴らしい参考が聞けると思ってね。」
「「恋仲じゃありませんッ!!」」
「違ったのかい!?」
いやだって、アベルはガランデ嬢本人がいる前で『僕はガランデ嬢の生き様が……好ましい…そう、好ましい! 好ましいと感じるようになったんだ!』と言っていたし、ガランデ嬢もアベル本人がいる前で『ワタクシも、アベルを好ましく思っておりましてよ!』と言っていたじゃないか! そして、今や、二人は愛称呼び捨ての仲!
これを恋仲じゃないなんて嘘だろう!?
「まさか、アベルと恋仲などと勘違いされていたとは…屈辱!」
「おい! よくもまぁ本人の前でそんな反応ができたな!?」
いや、待て?
さっき二人は僕が照れ隠しだと疑った。
疑う心がある人は、本人もそう思う心があるから。
つまり、この目の前のやり取りは――
「ふふっ。」
「「殿下?」」
「いやぁ、なんでもないよ。」
そうか、照れ隠しか。
これだけイチャイチャの関係でも、照れ隠し、ね。
私の心も軽くなったぞ。
「じゃあ、話を戻そうか。」
「なんか釈然としませんわ。」
「それで、リシリア嬢についていろいろと教えてほしいんだよ。ほら、ガランデ嬢が一番詳しいだろう? 例えば、彼女の好みとか、教えてくれると、ね? 無理だろうか…?」
「ふ~ん、まっ、構いませんわ。協力いたしましてよ。」
「本当か! 助かる!」
「う~ん…しかし…何をしても喜んでくれそうな子ですので…好みと言われても難しい気がしますわねぇ。いつもニコニコしておりますし…殿下が良いと思った場所に行って、ただいっしょに時間を過ごすだけでいいのではないかしら? あっ、でも、最近流行りの『カフェ形式の店』とやらが気になるとは言っておりましたわ。」
「なるほど。それならオススメの場所などを教えて欲しいな。」
「ワタクシが詳しいとでも?」
「ごもっともだ。」
「では、ワタクシの侍女を頼ってもよろしくて? カフェ以外にも有用な情報が得られると思いますわ。間違いはないと断言できるほどに、優れた者ですの。確実に成功デートとなることでしょう。」
「アイリーン嬢が信頼する人物なら、私も信頼しよう。」
「かしこまりましたわ。」
この私が『恋』とは自分でも驚きだった。
しかし、自覚して、相談して、味方になってくれる人がいたら、あぁ、あれほどの心配はどこへやらだ。これはもう大船に乗ったつもりでいようじゃないか。フフッ、本でも読んで、予習すべきだろうか?
こんな気持ち、生まれて初めてのことだよ。
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