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25話:(リシリア視点)悪役令嬢は最強なんです

最近、学園の空気が少しおかしい。


視線が、重い。

囁き声が、増えた。

敵意が、満ちている。


――これは、私に向けられたものだ。


アイリ様は気付いているのでしょうか?


「ふふんふふん~ん♪」


いつものプリティなアイリ様です。


相談――するのが正しいのでしょう。


だけど、私のプライドが一人で戦えと囁きかけてくるんです。

いつまで守られる側でいるのだと、叱咤してくるのです。


私は――


私は――――


「あの…アイリ様、実は――」


そのとき、私は言葉に詰まった。


敵意、いや悪意――殺意。


そんな強烈な憎しみの気配を感じたのです。

私たちの前方方向、ある一団が姿を合わした瞬間に。


風が冷たく感じる。

危機を感じた鳥たちが一斉にはばたく。

ただの学園の庭が、苦しみの場所へと変貌した。


「メリアレネ・ハースヴァン様…。」


ダレン殿下の婚約者候補筆頭の公爵令嬢様。

今まで関わりなどなかったのに、私に向ける目はどうして!?

明らかに私に対して恨みを抱いて…ッ!


メリアレネ様は私たちの前で立ち止まった。


膝が震える、舌が渇く、頭が痛い。


そんな私たちの間を塞ぐように、アイリ様が身を前に出した。


「ガランデさん、あなたに用はありませんわ。」


「オ~ホッホ! 美では隠せないほどに醜悪さが顔に滲み出ておりますわよ、ハースヴァン様? そのようなお姿で現れては、ワタクシの可愛い可愛いリシィに劣悪さが感染してしまいかねないでしてよ。一度、鏡でチェックすることをオススメいたしますわ。皺がい~~っぱい……いえ、それはいつものこと! うふふっ。」


「…………殺すッ!」


「あら、お下品な言葉遣い。」


アイリ様はわざと挑発している。

私を、守るために、矛先を変えるために。


私はなんて情けないんだ。

あんなに主張していたプライドも、今やどこへ行ったのやら。

アイリ様という盾はどこまでも高く、堅く、安心する。


「どきなさい!」


「嫌ですわ。」


「私は公爵令嬢よ!」


その言葉をメリアレネ様が放ったとき、アイリ様の動きが止まった。

目を伏せ、鉄扇で顔を隠し、その身体は震えている。


そう、このとき、アイリ様は――


「ク、クク…クフフフ…。」


笑いを堪えていました。


「公爵令嬢、その程度の肩書で、ワタクシがビビるとでも?」


「なんですって!?」


顔を真っ赤にさせたメリアレネ様が一歩踏み出す。

アイリ様はその眼前に鉄扇がビシッと突き付けるのでした。

私は顔を上げ、その背中をただ見る。


きっと今、アイリ様は不敵な笑みを浮かべている。



「ワタクシは悪役令嬢ですわ!」



その言葉を聞いた瞬間、私の世界が――反転した。


恐怖が消えたわけではない。

ただ、それよりも強いものが、胸の奥から込み上げてきたのだ。


ああ、そうだ。

この方は、こういう方だった。


何がプライドだ。

何が守られる側だ。


私は『なりたい』から、アイリ様を慕っているわけではない。


アイリーン・ガランデという存在に――愛を抱いたからだ。


その在り方に、覚悟に、孤高さに、心を撃ち抜かれただけだ。


だから私は、


アイリ様の背に隠れて震える存在ではいたくない。

アイリ様を想う、この気持ちを裏切りたくない。


『弱さ』として扱われるのだけは、絶対に許せない。


アイリ様の隣に立つのは――この私です。


「アイリ様、ありがとうございます。ですが、もう大丈夫です」


「あら?」


「メリアレネ様の用は私にあります。でしたら、私が応えるべきです」


一歩、前へ。


アイリ様が、何も言わずに道を譲ってくださる。

その仕草ひとつで、胸が熱くなる。


そうして真正面から見たメリアレネ様は――

不思議なほど、怖くなかった。


公爵令嬢がなんだ。

私は悪役舎弟ですッ!


「ふ、ふん! 最初からそうしておけばよかったのですわ!」


途端にメリアレネ様の顔色が戻った。

庶民相手には負けない、そんな思いが見えます。


「特待生だか何だか知りませんけれど、調子に乗らない方がよろしいのだと、そう私は伝えたかっただけですわ。」


「えっと、その、調子など乗っては――。」


「まぁ! 白々しい! 勉学に秀でているからといって、所詮は卑しい貧乏人ですわね。そのように弱者のフリをして、庇護を求め、アイリーンさんだけに飽き足らず、生徒会に取り入ったということかしら。あぁ、なんということ!」


「メリアレネ様、勘違いを――」


「そうやってダレン殿下の隣に立とうって魂胆ね!」


…………ん?


ダレン殿下ですか?

別にあの御方の隣なんて狙っていませんけど。

どうしてその名前が出るのでしょうか。


私が欲しいのはアイリ様のと・な・り♡


「ダレン殿下はこの国の第二王子ですもの、あなたのような有象無象の庶民ごときが関わっていい御方ではありませんのよ? 同じように気品溢れ、才に満ち、慈愛にあふれている…公爵家の生まれである私だけ…私だけがあの御方の隣に立つこと許されるのですわ! おわかりかしら?」


そうか。

そうでしたか。


こんなしょうもない勘違いで、身をすくむ思いを受けた、と。

これがアイリ様のことでしたら、納得していたでしょうけど。


唖然とするしかありません。


「殿下は生まれながらにして殿下なのですわ。王子だからこそ!勝つことが約束され、愛されることが約束され、従えることがゆえに魅力に溢れているというものでしてよ!」


その言葉に、私の心に石が投げ込まれた。

ポチャンと波が生まれ、何度も反射する。


反射するたびに波は大きくなり、いつしか――


(違う。この人は、何も分かってなどいない。)


どうして、と問われれば説明できない。


それでも――


「殿下、いえ、ダレン様は――」


心の波はもう制御できない。

私の言葉はすでに勢いに飲み込まれていた。



「ダレン様は努力の人です! だから魅力に溢れているんです!」



叫ばずにはいられない。

睨まずにはいられない。

地を足で鳴らさずにはいられない。


握りしめた手がジワリと痛み、熱さが伝う。


「あなたは、何も分かっていない!」


「なっ!」


「私がダレン様の隣に立っていいかは分かりません。もしかしたら、皆様の仰る通りかもしれません。ですが! ダレン様を! そのように見る人に、隣に立つ資格がないことだけは分かります! あなたでは、なれません!」


言ってしまった。

だけど、後悔はない。


「…………資格がない、ですって?」


人は怒りを超えると無になるのでしょう。

メリアレネ様はあまりにも落ち着いてた。

ただ、怖いぐらいに静かで。


混じりけのない敵意で私を見ていたのでした。


「あなた――――」


メリアレネ様がそう口を開いたときでした。

新たな乱入者が現れたのでした。



「よくぞ言いました、それでこそガランデ様の舎弟です。」



私にはその方と面識はありませんでした。

ですが、アイリ様の呟きが耳に入る。


サーラ様――レピスタ伯爵家の令嬢。


「何をしに来ましたの。」


メリアレネ様は乱入者を睨みつける。

ですが、サーラ様は少しも臆さない。


「仲間を守りに、それと――宣戦布告。」


「宣戦布告ですって?」


「えぇ、そうです。」


持っていた扇をバサリと広げる。

その姿に、私はアイリ様を重ねるのでした。

思わず見惚れる、悪役令嬢のように。


「リシリアさんの敵は、私たちの敵です。」


景色が歪んだのか、そう思うほどの威圧のぶつかり。

当事者である私が、傍観者となってしまう。

ゴクリ……つばを飲み込まずにはいられない。


「フ…フフフ………フフフフフフ…。リシリアさんも、ガランデ家も、そして、レピスタ家も。我が公爵家を軽く見ているのではなくて? 慈悲も容赦もかけませんわ。潰す、潰して差し上げますわ。覚悟なさい。」


「潰すねぇ…。軽く見てるのはどちらかしら。オホホ!」


「な、なにがおかしいの!」


「私の家は王国随一の小麦生産領土ですし、こちらの方は絹の生産において随一ですわ。あぁ、そう言えば、ガランデ様は流行最先端の一角であるマランデ商会の会長を務めている、というのは御存じで? さて、もう一度お訊ねしましょうか、ハースヴァン様……誰を潰すとおっしゃって? うふっ。」


その言葉が決定打でした。

メリアレネ様の取り巻きの一人が、その場を逃げ出してしまったのです。

触らぬ神に祟りなし、取り巻きにとっての神が変わった瞬間。

続くように一人、さらに一人、そして誰もいなくなりました。


「なっ、なっ…くッ!?」


孤立無援、メリアレネ様は顔色を青くする。

家柄という盾だけでは戦えない状態。


何も言わず、その場を去ってしまわれたのでした。


「勝っちゃった、ですよ、ね…。」


茫然とサーラ様を見る。

どうしてこの方は、私を助けて?

面識なんて一切ないのに……。


「さて。」


サーラ様はこちらを振り向く。

その目は爛々と輝いている。


取り巻きを連れ、ズンズンと近づいて来る。


「ガランデ様!」


私の横を通り抜け、アイリ様の両手を取る。

さきほどまでの恐さはどこへやら。

まるで子供のように声を弾ませていたのでした。


「ガランデ様! ガランデ様! ガランデ様!」


「はいっ!」


「私たち! 悪役令嬢みたいだったでしょう!?」


「え、えぇ、そう…ですわね。」


「皆さま! ガランデ様からお墨付きを得ましたわ!」


「「「「まぁ! 素敵!」」」」


「フフッ! 今日は夢見がよくなることでしょう! あなたたち、この興奮を語り合い、書き記し合いますわよ! 忘れぬうちに! さぁ、行きますわよ! オ~~~ホッホッホ!!」


至上の幸福でも手に入れたと言わんばかりの喜びよう。

サーラ様は高笑いと共に、この場を後にするのでした。


いったいぜんたい、何が何やら…。


私とアイリ様は、完全に置いてけぼり――




【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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