23話:悪役令嬢とパーフェクト恋愛計画
吊り橋効果というものがあると、メイディから教わりました。
恐怖を共有することで心が近づくそうですわね。
不安によるドキドキの気持ちが恋愛の気持ちと勘違いするとか、頼りたいという感情により相手が魅力的に見ええてしまうとか、乗り越えた先の安心感から仲間意識が強まるとか………そういう複数の要因が同時にもたらされるそうですわ。
「なるほど、恐怖の共有…ですわねぇ。」
自慢ではありませんが、ワタクシ怖いもの知らずですの。
高い場所も、暗い場所も、ビックリ要素も怖くないのですわ。
それにリシィと殿下も………怖がりそうにありませんわね。
まずは、情報収集といきますわ。
「ということでアベル、殿下の怖がることを教えてくださいな。」
「う~~ん、難しいなぁ。」
「なんでもいいのですわよ? 些細なことでも。」
「………あっ、一つだけあった! まだ僕らも幼少と呼べるような頃だけど、殿下には仲の良かった令嬢がいたんだ。そこで、手作りのお菓子なんかも無警戒で食べていたんだけど……ある日のこと、お菓子に媚薬が入っていたんだよ。」
「ほほう。」
「本来なら、立場的にそうしないといけないことではあるけど、より一層とでも言えばいいかな……手作りには恐怖を抱いておられるかな。」
これはこれは、良い事を聞きましたわ。
では早速、準備をいたしますわよぉ~!
― ― ― ― ― ―
ということで、『媚薬入りお菓子作戦』ですわ。
ですが、他人のトラウマを直撃させるのもなんだかも申し訳ないですし………そもそも媚薬入りのお菓子なんてものを殿下に食べさせてしまうと、☆断罪END☆は確実ですのでターゲットはとりあえずリシィにしましたの。彼女なら許してくれますわきっと。
場所はいつもの生徒会室。
殿下、アベル、リシィ、ワタクシの四名だけの時間。
フフッ、機は熟しましたわ。
「本日は、ワタクシがお菓子を作ってまいりましたの。」
「「「え!? 手作り!?」」」
演技のアベル、歓喜のリシィ、恐怖の殿下と三者三葉。
本当はほとんどをメイディが用意しましたが、そのことは伏せておきますわ。もしも媚薬関連で咎を追及されたとき、できるだけワタクシ単体で済むようにしておきたいですもの。それに殿下がターゲットではないですので、作り手の安心感などはどうでもいいでしてよ。
まずは、ワタクシが食べる。
そして、アベルも続く。
これで、毒見は終了ですわ。
「ほら、リシィも、どうぞ。マドレーヌですわよ。」
「わぁ、わぁ、わぁ! アイリ様の手作りお菓子!」
そう言ってマドレーヌを食べるリシィ。
まだ効果は効いていないはずなのに、なぜか目が血走っていますわ。メイディの手作りとは言え、ワタクシが提供したという体裁ですので、味はどこにでもあるようなものですわよ?
「なるほど、この味、アイリ様だけではございませんね?おそらくメイディ先輩のご協力もあったのですでしょう。ですが、ご安心を、私にはきっちりアイリ様の味も判断することができます! 口の中に甘さが広がり、優しさに包まれていく! そう! まるでアイリ様の心根が、マドレーヌの味に溶け込んでいるかのよう! ハッ、これはもしや、私はアイリ様を食べているのと同義では!? つまり、まさしく私の口の中は今、桃源郷! 幸せはここにある!」
「お、大袈裟ですわね。」
「「その説明を受けて、食べる気が失せたよ…。」」
ははぁ…リシィはワタクシの味を見分けられるのですのね。
どれほど優れた舌になれば、そのようなことが可能なのかしら。
流石の殿下たちも驚愕しておりますわ。
しかし、リシィのこの興奮の具合、きっと媚薬の効果によるものですわよね。効いているとなれば、良い傾向でしてよ。頬は次第に赤くなっておりますし、なんだか目がトロンと、口元もふやけ笑顔ですもの。フフッ、あともう少しですわ。
すると、次の瞬間――
「おっと…。」
「大丈夫かい!?」
リシィが座りながら横に倒れかけましたの。
辛うじて殿下が受け止めましたが、彼女の頭は殿下の胸の中にゴールイン! 決まったぁ! トロトロに心が解けたリシィが、今、殿下の胸の中に収まっております! 殿下の心はドキドキワクワク、吊り橋効果でデロデロラブラブ間違いなし! このまま、試合終了まで持っていけるか!? 行ってしまえぇ!
フフフ…この部屋で男は二人。
そして、魅力的なのは殿下のみ。
しかも、今は支えられている状況。
「まぁ、大変ですわ! 医務室から先生をお呼びしてまいりますので、殿下はリシィをお願いしますわ!さて、アベル、着いて来なさい!(訳:あとは若い二人でどうぞ、オホホホ~!)」
「あ、あぁ。」
ですが、
「待ってください!」
立ち上がったリシィがワタクシの前に立ちはだかった。
まるでこれから戦場へ向かう者であるかのような眼差し、あぁリシィ強くなったな。
……ではありませんわ! あなたのいるべき場所は、殿下でしてよ!
目と目が合う~♪ 瞬間~♪、
だから、ワタクシではないでしょう!?
殿下ですわ、殿下の目を見なさいリシィ!
「アイリ様♡」
なんと、ワタクシへダイヴ!!
「ちょっ! ワタクシのつつましやかなお胸に触れても、何の得もないですわよ!? ほら、リシィ、離れなさい! 殿下の方に行きなさいな! あっちのお胸は筋肉ですわよ!グヌヌヌッ! 強い力、離れない!」
「え!? 私に振るのかい!?」
――ペロリ。
「ひゃんッ!?」
「フフッ、アイリ様、反応が可愛い。」
今、舐めましたの!?
ワタクシの首を舐めましたわね!?
誰か、助けておくんなまし~!
あっ、コラッ、アベル! 両手で目を塞いでるようにしてますけど、指の隙間からガッツリ見ているではありませんの! そんなことするなら、早く、ワタクシを助けなさい!このっ! ムッツリスケベめっ!
誰か~!
誰か~~!!
もう、懲り懲りですわぁ~~~~!!!!




