20話:悪役令嬢と有頂天
テストの結果が発表されましたわ。
ワタクシ、入学してからずっと最下位人間だったのですが…。
なんと! 今回は下から二十番目まで成績が上がりましたの!
いや~、やはりワタクシは力を温存していただけ。
能ある悪役令嬢は何とやら、ってことですわね!
「フフン、フフン、フンフフ~ン♪」
思わず鼻歌が漏れてしまいますわねぇ。
体が勝手にスキップをするのでしてよ。
最近はずっとテストの結果が気になっていたりしたせいで、悪役令嬢をするということも忘れてしまっておりましたもの。今日からまた、悪役令嬢アイリーンは復活ですわね♪
「ルンル~…っと、あれは。」
視界の奥、一組の男女を発見。
あれは、リシィとダレン殿下ですわね。
ワタクシを見つけるなり、こちらに歩いて来ましたわ。
しかし…何と言いますか…二人そろって神妙な顔ですこと。
テストの結果が芳しくなかったのかしら?
「あら、リシィと殿下、ごきげんようですわぁ♪」
「え!? アイリ様! なんだか元気ですね…。」
「あぁ、ガランデ嬢、ごきげんようはコチラのセリフだ。」
「分かっちゃいます? 聞いてくださいまし、実はワタクシ――」
「やっぱり、い、いやぁ! 聞きたくない! 聞きたくない!」
「落ち着くんだリシリア嬢! 現実を受け入れるしかないんだ!」
なんなのですの…。
そんな発狂してしまうなんて、いったいどれほどのテストの点数だったのかしら。二人は言わずもがな賢いですので、ワタクシよりもショックは大きいといったところかしら。
「アイリ様ッ!」
「は、はい!?」
「アイリ様は現状でよろしいのですか! もっとこう、ふさわしいってのが、あるじゃないですか! 私は認めません、アイリ様はもっと上を目指すべきなんです!」
ふむ………。
下から20番目などで満足するな、平均点を目指せ。
ということですわね?
確かに、ワタクシは腑抜けてしまっていたかもしれませんわ。悪役令嬢たる者としてあってはならぬ姿を見せてしまったのかもしれませんわね。達したなら次の目標、それも達したならさらに次の目標――至高に限度は無い――それこそが悪役令嬢なのだ、と。
リシィも、悪役令嬢が分かってきたじゃありませんの。
彼女から悟させられる日が来るなんて、感動ですわ。
「リシリア嬢、その発言はあんまりというものじゃないかい? 人の価値ってのは、もっと奥の部分にあるのだから。それにね、人の幸せを上だとか下だとか、そういった言葉で表すべきではないだろう。」
「うっ…そうですけど。」
う~~~ん、殿下の言葉も正しいですわね…。
悪役令嬢とは幸福を最優先する存在であり、勉強は手段であって目的ではないということですものね。深い、深いですわ、哲学でしてよ! しかしねぇ、まさか、殿下までもがここまでの悪役令嬢理論を身に着けていたとは、界隈の先輩としては嬉しいものですわ。
しかし、二人の悪役令嬢に対する考え方、まさに正反対。
「どちらの言い分も理解できますわね。しかし、どちらも選べませんわ。選べないので、どちらも選ぶということにいたしましょう。」
「「どちらも?」」
「そうですわ。幸福は優先する、だが、高みも目指す。幸福が低いところにあるのならば、幸福ごと引き上げればいいだけのことではなくて? 例えそれがどれほど欲深く、困難だったとしても、すべてを蹴散らすのが悪役令嬢でございましてよ。」
「だが、そうなるとガランデ嬢、君だけの話じゃなくなるのではないのかい? ガランデ嬢が高みを目指すのならば、アベルも高みを目指さなければならなくなる。主としては嬉しいことだが、アベルの人生は彼自身のものだからね。」
はて…?
どうしてアベル様の名前が…ここで…?
ハッ!? まさか!?
殿下は――
ワタクシとアベル様の関係を『好敵手』にしたいのですわね!
以前にメイディから聞いたことがありますわ、『成長の最適は争うことです。しかし、それだけだとギスギスした人間関係になる。だからこそ、敵であり友でもある――『好敵手』と言えるような存在が必要なのです』と。
きっと殿下はマブダチとしてアベル様に成長をしてほしい、そう考えているのですわ! だけど、その相手を想定していたワタクシが高みを目指すとなると、アベル様も同じ高みへと目指さなくなってしまう! それを心配しているのに違いありません!
まぁいいでしょう、殿下には借りがありますわ!
ワタクシも一肌脱ごうってものではございませんか!
「殿下の懸念事項も分かりましたわ。ですが、ご安心なさって、ワタクシは悪役令嬢ですわよ。悪役令嬢とは支配者であり、そんじょそこらの我儘娘とは格が違うってものでしてよ。」
「…。」
「アベル様も高みを目指す? それでいてアベル様も幸福を掴む? いいえ! 違いますわ! ワタクシがアベル様を高みへと引っ張るのです! ワタクシがアベル様を幸福にするのでしてよ! これぞ悪役令嬢、オ~ホッホッホ!」
大船に乗ったつもりでドンッと任せなさいな。
アベル様を悪役令嬢の対極の存在にしてさしあげますわ。
「ハハッ、まさか、そこまでの熱い心を持った令嬢だとは思わなかったな。分かったよ、君にだったらアベルを任せられるかもね。」
「任せられましたわ。」
「最後に一つ確認しておこうか。ずばり、ガランデ嬢はアベルのことを考えるとき、どういった気持ちになるんだい? 僕は、あまりそういった感情からは遠い人生を送って来たからね…聞いてみたいんだ。もちろん、イヤだったら答えなくてもいいんだけどね。」
ふむ、確かに。殿下は好敵手という言葉からは遠い存在。
順当に考えれば悪役令嬢であるワタクシになるのでしょうが、なぜかは知りませんがヒロインもヒーローも悪役令嬢も仲良し関係になってしまいましたもの。
それにしても、アベル様のことを考えるとですか。
アベル様の言葉を思い出すたび――
あの日のプレゼントを思い出すたびに――
「緊張しますわ。胸がドキドキして、苦しくなりますの。」
何を隠そう、テスト結果を気にしていたのは彼が原因ですの。
酷い結果を持って彼の元に行きたくなかったから。
そう、ワタクシは……アベル様を……。
ワタクシはアベル様を殺してしまうところでしたわ♪
だってだって! あんなに褒められたのですよ!? もうね、アベル様の中ではワタクシは世界最上の令嬢だってことになっていると同義ですわよね!?
ちょっとでも残念なところを見せてしまうだけでも、恥ずかしいってものではございませんの。もし、アベル様から『あ~あ、僕の勘違いだったか。弱く・意地汚く・浅ましい悪役令嬢だったねwwwクソワロwww』なんて言われたら――
――怒りのあまりアベル様を撲殺してしまいますわ。
…キャッ♡
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