19話:(ダレン王子視点)悪役令嬢がおかしい…のか?
私の名前はダレン・マグライ・ヴェスニール。
この国における二番目の王子である。
そんな私には現在、お気に入りの女性がいる。
国の今後の方針の足掛かりして選ばれた、とても優秀な平民の女性リシリア嬢。明るく朗らかでそこにいるだけで癒されながらも、真剣な表情をすると一転して仕事人へと変貌する。私は将来、彼女を部下に迎えたいと思っている。そしてなにより、今まで出会ったどんな女性よりも会話が弾むんだ。
と、そんな回想をしていたら、廊下奥に彼女の姿が。
私を見つけると、思いつめたような表情をして近づくのだった。
「おはようございます、殿下。」
「あぁ、ごきげんよう。」
「今日は…アベル様以外の方が護衛の日、なんですね。」
「アベルがいた方がよかったかい?」
「いえ、その、逆なんです。ちょっと殿下にご相談が…。」
そうして語られたのは彼女が慕っている令嬢、ガランデ嬢が最近おかしいという相談だった…………ん? かの令嬢はおかしいのが平常運転じゃないのかい? それに、この話のどこにアベルが関係しているんだか。
まぁいい、ガランデ嬢は不思議な生態をしているから、一度は私も調査をしてみたいとは思っていたんだ。リシリア嬢に「分かった、こっちでも調べてみるよ。」とだけ言うと、私は早速に聞き込みを開始した。
そして、夕方――
今日の一日を通して分かったことがある。
確かに彼女は変わってしまっているのだと。
具体的にどう変わってしまったかと言えば――
―――Before―――
・授業中は6割が爆睡。
・週一のペースで、挨拶のたびに高笑いをする日がある。
・嫌いな相手には、鉄製の扇を使って威嚇。
・彼女と他愛ない会話をしてくれる人は希少。
・口を開けながら虚空を見つめていたという目撃例あり。
・鼻歌をしながら腰振りダンスをしていたという目撃例あり。
・立つとき「どっこいしょ」と言っていたという目撃例あり。
・絵心は無い、楽器演奏は不器用、刺繍はヨレヨレ。
―――After―――
・授業は真面目に参加している(結果が伴うかどうかは別)。
・挨拶はゆっくり穏やかに、おしとやかな笑顔で。
・鉄製の扇ではなく木製の扇を使用するようになった。
・最初こそ逃げられていたが、慣れたのか会話する人が増加。
・ハースヴァン嬢に次ぐ、私の婚約者候補だという噂が浮上。
・今の彼女は淑女の鑑と言いだす者までいる。
・アイリーン・ガランデは静かにしてれば美人派閥が誕生。
・でもやっぱり作り手としての芸術センスは皆無。
そうかそうなのか、今の彼女はおかしい状態だと言うんだね。
だとしたら、おかしいままでいてくれた方が平和なのでは?
「アベル、ちょっといいかい?」
私は調査の締めくくりとして、最近ガランデ嬢といっしょにいる機会が多いアベルに訊ねることにした。リシリア嬢もなぜかアベルを気にしていたし、もしかしたら一番詳しい男かもしれないからね。
「はい、どうされましたか?」
「いきなりの事で戸惑うとは思うけど、ガランデ嬢のことなんだ。最近、アベルから見て彼女に変わったところはなかったかい? 彼女の様子がおかしいって相談を受けてね、調べているんだよ。」
「えっと…? 様子がおかしい、ですかね? あぁ、言われてみれば、いつもよりも前頭部の癖毛に艶が出ていたような気がします。洗髪剤でも変えたのでしょうか。」
「う~ん、違う、そこじゃない。」
前頭部の癖毛だと? そんな部分まで観察しているのか?
まぁ、こういった細かいところまで気付く奴だからこそ、私もアベルのことを昔から重宝しているんだけども、さすがにここまで来るとちょっと…ね…。
「じゃあ、キミからのガランデ嬢への評価を聞きたいな。」
「はぁ、そうですね…固定の評価を下すのが厳しい女性だとは思っていますけど。ですが、それでもあえて評価するなら…『ガランデ嬢と殿下は似ている』でしょうか。」
「ほう……ん? 今、なんて言った?」
誰と誰が似ているって?
ガランデ嬢と私だと言わなかったかい?
私の聞き間違いかな~?
ガランデ嬢が私に似ているってことは、私はガランデ嬢に似ているってことになるんだよ? ねぇ、アベル、君なりのジョークなんだろ? まさか、本気で言ったわけじゃないんだろう?
「アベル、それはつまり………授業中は6割が爆睡で、挨拶のたびに高笑いをする日があって、嫌いな相手には、鉄製の扇を使って威嚇をし、友達が少なく、口を開けながら虚空を見つめたり、立つとき「どっこいしょ」と言ったりする、芸術センスのない人間………に私が似ているってことなのかい…ッ!?」
「違いますよ! ポンコツな部分の評価じゃないです! カリスマ性があるって意味ですよ! さすがに、殿下相手にそんな失礼なことを言うわけないじゃないですか!」
「あ、あぁ、そういう意味か、安心した。」
「ガランデ嬢の周りには人が集まります。それは伯爵令嬢だからではなく、ガランデ嬢という一個人に対してです。そして、殿下もです、かくいう僕も『殿下だからこそ』ここにいるですから!」
面と向かって言われると恥ずかしいや。
てっきりアベルとは腐れ縁というだけの仲だと思っていたけど、まさかここまで信頼を寄せられていたなんてね。アベルの心の真っ直ぐさには、まいったよ。
「そこまで褒められたら、私も気を抜けないな。フフッ、アベルが慕う私を、これからもその目に入れ続けてくれよ?」
「あっ、それ、ガランデ嬢にも似たことを言われました!」
「なんだってッ!?」
これはすごく大事なことを聞いた気がするぞ。
ここで、ある一つの仮説が思い浮かんでしまった。
それは――ガランデ嬢は良い姿をアベルに見せようとしている。
これならすべてのことに納得がいく。
本当だとしたら…大変な事実だ。
例えば、彼女は明らかにリシリア嬢のことが大好きだけど、それでも『悪役令嬢(笑)』をやめようとはしてこなかった。つまり、大好きだという感情程度では変わることがないような性格だという証明になる。
それでも彼女は変わった。
つまり、ガランデ嬢がアベルに向けている感情とは――
大好きを超えた感情――愛しているということじゃないか!?
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