1話:悪役令嬢と天使な娘
入学式当日、ワタクシはその校門をくぐり――
「う……うっぷ…緊張で吐きそう…あらやだ、吐瀉物なんて悪役令嬢としてはイメージが悪すぎますわ…。」
上手くいくか分からない未来に、不安を抱いてしまいました。
あぁ、いけない、残念時代の気弱な私の人格が…表に…。
これならまだ賭けの方がプレッシャーが少なかった…ですわ。
「はぁ…ポンコt…お嬢様のことですからこうなることは分かっていましたよ。自領で幅を利かせているぐらいが丁度いいんですから…まったく…。手ぬぐい冷やしてきますので、そこのベンチで涼んでいてください。」
「お、お願いしますわメイディ…。」
おかしいですわ、完璧な悪役令嬢がこのザマだなんて。
ワタクシではマランドラになれないのかもしれないですわ。
金持ちとなったと言っても所詮は田舎で残念領土の家、他から見たら持って当然程度なのかもしれません。そもそも、一時のギャンブルで得たお金なんていつかは消えるでしょう。すなわち紛い物のマランドラ…略して紛いドラですわ。
あぁ、考えれば考えるほどネガティブなことが……。
視界はなんだかボヤけてきました。
もう、顔を上げることもしたくありませんわ。
「うぅ…うぅ…。」
「あのー…大丈夫ですか? 飴…いりますか? 落ち着きますよ?」
うな垂れているワタクシに差し出された手には、一粒の飴玉。
ゆったりとした声に、思わず受け取ってしまいましたわ。
「どなたか存じ上げませんがいただきますわ。……ん、美味しいのね。」
ほのかな柑橘系の香りと口に広がるハチミツの甘味、弱っているワタクシの心を穏やかにしていきますわ。あぁ、気弱なアイリーンがどんどん奥へと押され、完全無欠の悪役令嬢が再び姿を現してきた気がしますわ。
「助かりましたわ。ありがとう。」
ようやく顔を上げ…って、あら…可愛らしい娘ですわ。
ワタクシと違って化粧は薄いし、服も髪型もシンプル…黒髪なんて珍しくもない…それなのにここまで可愛く見えるのはどうしてですの!? 胸だって大きい……いえ、ワタクシはただの成長途中でしてよ。
しかし…なんだか落ち着きますわ、嫌味な感じがしませんこと。
こういうのが、俗に『天使みたいな子』と評されるのでしょうね。
「はぁ~、それは良かったです! あっ、すいません、初対面の人に私…。」
「あなたはワタクシの恩人でしてよ? このアイリーン・ガランデ…そのような些細なことは気にしませんわ。オホ、オホホホ!」
って、あら? 動きが止まってしまってどうかしたのかしら?
目と口を開けておられてはしたないこと、と言いたいところですがそれも可愛らしいですわ。やはり可愛い人は何をしても可愛いというのは本当のようですのね。実は必要なのは金ではなく、愛嬌だったということかしら。
それにしても、本当にどうしたのでしょう…。
「ガランデ…は、伯爵位!? すみませんでした、しし、失礼しましゅ!」
あっ、どこかに行ってしまられたわ。
ワタクシから溢れ出る悪役令嬢オーラも困ったものですのね、恐れを抱かせてしまったのかもしれませんわ。せっかくの恩人に申し訳ないことをしてしまったようですの。
入れ替えるようにメイディが戻って来ました。
「お嬢様、手拭いを…って、おや? 知り合いでしたか?」
「いいえ、今日初めてですわ。ただ、助けていただきましたの。」
「そうですか、それでは今度お礼をしなければなりませんね。」
お礼…確かにそれもそうですわね。
確か昔にメイディから教えてもらった事によれば、こういう場合は個人ではなく相手の派閥に『お礼参り』をするのが常識だったはずでしたわ。まずはあの方がどこのどなたか調べることからですわ。
「そうですわね。何を差し上げたら喜ぶのかしら。」
開始早々に挫けたと思いましたが、何とかなりそうですわ。
あの方のおかげで心も前向きになったってものでしてよ。
さぁ、切り替えて悪役令嬢道を歩みますわ!
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