0話:悪役令嬢とはじまり
私は伯爵家令嬢アイリーン・ガランデ。
両親と兄一人の四人家族です…。
我が家は伯爵という立場でこそあるんですけど、厄介領土を押し付けられた御先祖様による貧乏生贄伯爵一族というのが実態なんです。曽祖父の代は兄弟四人で乱闘して、負けた人が継ぐなんてしたとかしなかったとか……私、それの子孫にあたるんですけど……。
そんな出身に付随して生来の気弱性格ということもあり、パッとしない残念令嬢なのが私なんです。「素敵な金髪ね。」なんてよく言われるけど、髪以外を褒められたことがないような娘なんです。
こんな残念が語り部で、ご、ごめんなさい~!
そんな私――いいえ、ワタクシは! 残念令嬢を卒業しましたわ!
ワタクシが生まれ変わった発端は12歳の誕生日。
御父様からプレゼントされた恋愛小説【シンナの大奮闘記】。
これがまぁ、ワタクシの琴線に触れましたの。
内容としましては――
― ― ― ― ― ―
男爵家の令嬢である主人公シンナは学園に入学。
ひょんなことから王子に気にかけてもらうようになる。
しかしながら、王子には婚約者であり悪役令嬢であるマランドラがおり、嫉妬に狂った彼女はシンナを目の敵にし始める。彼女は責められピンチに陥ってしまう。どうなるシンナ~~……
==中略==
シンナは周囲の人に助けられた。
それは彼女の性格の良さのおかげだったのだ。
最後はマランドラを返り討ちにし、王子と結婚を!
めでたしめでたし、チャンチャン。
― ― ― ― ― ―
――というシンプルなもの。
でも、ワタクシは思ったのです!
そんな都合のいいことはありえないって!
性格だけで救われるなら、我が実家は今頃は億万長者!
つまり、逆なのですわ。良い人とは損する人。
世の勝ち組は性格が悪い、そうに決まっていますわ。
そうでなくては困りますもの。
――目標にすべきは【悪役令嬢マランドラ】。
自身でも驚くほどの怒りパワーは、行動の燃料と化しましたわ。
「ワタクシは今日からマランドラを目指しますの!」
令嬢という立場を利用して、領民を馬車馬のように働かせてお金を確保。そして、そのお金を元手に王都にある【賭け館】で増やし、そこから新事業展開でウッハウハですの(まぁ、王都で会った実業家のおかげではありますけれど)。
増やし方を教えていない領民からは『横暴ではあるが、それだけの価値がある令嬢』と評価され、ワタクシの支配下へと置くことができましたのよ。令嬢だから支配したのではない、ワタクシだから支配したのですわ。
ワタクシ、貧乏伯爵家から金持伯爵家へとランクアップ!
ほら見たことか! これが≪リアル≫ってやつですわ!
まだ短いけど髪も伸ばしツインドリル、気分はマランドラ!
気弱な女の子はそこにはもういませんでしてよ!
「お~ほっほっほ! 金と権力、名声を手に入れましたわぁ! ワタクシは何をしても許される存在、これぞ悪役令嬢ですのよぉ! 無敵の存在ですわ!」
ドレスや宝石を買い漁る毎日、これが金があるということ!
世の中は金じゃないって? あった方が良いに決まってますわ!
綺麗事を言うことができるのは恵まれた人間だからでしてよ!
しかし、それでもワタクシの心が満たされることはなかった。
どうしてなのでしょう…何が足りないのでしょう…。
マランドラが持っていて…今のワタクシが持っていないもの…。
それはいったい、う~む、難しいですわね。
ハッ! まさか!
「メイディ! メイディはおりますの!」
「はい、お嬢様、お呼びでしょうか?」
『メイディ』はワタクシの専属メイドですの。
ワタクシが幼少のころからの仲であり、この世で3番目くらいに信頼している人物なのですわ。メイディに相談すれば案をくださいますし、メイディに頼めば仕事を成してくれる――パーフェクト&ビューティなメイドでしてよ。
「ワタクシに足りないのは――舞台ですわ!」
「舞台ですか? 領民向けの寸劇をやります? お嬢様主演で。」
「違いますわぁ! 王立学園のことですの!」
「あ、そちらでしたか。…てっきり歌って踊られるのかと。」
「王立ウェスニア学園に行きますわ! ワタクシに足りていないのは悪役令嬢を輝かせるための舞台! 金や地位ではなかったのです! ゆえに入学でしてよ! 確か、今年から殿下が入学なさるはずですわ!」
「えぇっと…『王都に行けば自分以上の悪役令嬢がいるはずだから、行きたくないですわ~。猿山の…田舎畑の大将で構いませんわ~。』…とおっしゃっていたのはお嬢様では…。」
あら、ワタクシそんなこと言ったかしら。
どうせ当時の自分には荷が重いというだけですわ。
あれから数年経った今なら問題ないに決まっていましてよ。
なぜなら……完・全・無・欠……悪役令嬢ですもの。
「そんなこと覚えてないですわ。ワタクシが「行く」と言ったなら「行く」、覇者の命令は絶対ですわ。メイドのあなたに拒否権はなくてよ。よろしくて!」
「確かに年齢的にも季節的にも入学にちょうどいいですが…その…お嬢様は…デビュタントにも出席されていないのですから…派閥もどこにも組して…。」
「えぇい! 無いなら作ればいい、作れないなら奪えばいい、奪えないなら頂点に立てばいい、頂点に立てなくなって初めて逃げが許される……それこそがワタクシの流儀ですわぁ! つべこべ言わず準備ですの!」
待っていなさいワタクシの王子様(妄想)、憎きヒロイン(仮定)。
このアイリーンがそちらに行ってやりますわ!
お~ほっほっほ!
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