17話:悪役令嬢と臣下令息
勉強会をきっかけに、リシィは生徒会から勧誘を受けましたわ。
反面、ワタクシは出禁を言い渡されましたの。解せぬ。
しかし、ワタクシは来るなと言われて素直に従う人間ではないので、暇を見つけては殿下の目の前で駄々をこねた結果、出禁ではなく近場で隔離というとこまで譲歩していただきましたわ。あとで知った話ですが、ジャックさん本人からの要望も後押ししたみたいですわね。う~ん、さすがワタクシ、さすが悪役令嬢。
再入室が許可された日、さっそくにと少し早い時間に来てしまったワタクシは、生徒会が活動している(すでにリシィは仮参加状態)傍らで勉強をすることになりましたわ。
なぜか、隣には監視役としてアベル様の姿が。
「アベル様、ワタクシたち孤高仲間ですわね!」
「ガランデ嬢の場合は孤高じゃなく、ただの厄介人ね。そして僕は監視役、分かった? はぁ~ぁ、まったく勘弁してくれよ。」
なんですと! そんな言い方あんまりではございませんの!
まさかっ! 喧嘩を売ろうってことでして!?
いいですわ、いくらでも買って差し上げますわよ!
「ハァ、あなたも生徒会の一員なのでしょう? ふむ…後ろのご様子から推理しますと、アベル様が会議にいてもいなくても問題なさそうですわね? 任は護衛と言えど、殿下の臣下ですのに…残念なこと。」
「言葉はそのまま返させてもらうよ、赤点だらけの伯爵令嬢。ずっとリシリア嬢といっしょにいるのだから、少しばかりは影響を受けることができているのかな? 次のテストが楽しみだよ。悪役令嬢という言葉で誤魔化すことはできないからね。」
「オホホホホホホ!」
「アッハッハッハ!」
「君たち、仲良しなんだね。」
「「仲良くなんかありませんッ!」」
「むぅ…アイリ様と仲が良いなんて…。」
微笑ましいモノを見るかのような目をするダレン殿下と、嫉妬心から頬を膨らます最強に可愛いリシィ。何をどう判断したらこの皮肉の応酬を見て、仲が良いと言えるのか不思議ですわ、プンスカ!
しかし、このままではいけませんわね…。
強い・気高い・美しい悪役令嬢――と思われていない証拠ですもの。
『残念』という形容詞でレッテル貼りされかねませんわ。
ここらで一つ、誰が上に立つべき人間かを、生徒会に知らしめる必要がありますわ。殿下がいて、その次がワタクシ、そういった立ち位置ってやつをハッキリさせなければなりません。
そうとなれば、まずは一番下の者からですわね。
アベル・ヴァラン――この男を制することからですわ!
― ― ― ― ― ―
などと意気込んだものの、翌日からアベル様と会わなくなりましたわ。
生徒会は欠席するし、殿下の周りにもおりませんの。
見かけたと思ったら、ワタクシから逃げますし……。
そうこうしているうちに、テスト当日。
勉強会のおかげかいつもの数倍はスラスラと解くことができ、これは結果も期待できるのでは!?とリシィと共に喜びましたの。この頃にはすでにアベル様のことなど思考の外でしたわ。
しかし、良い事ばかりでもありませんわ。結局は誰一人も制することはできませんでしたので、さすがのワタクシもこれ以上は生徒会に入り浸ることはできませんもの。
対してリシィの生徒会入りが正式決定。
へいへい、ワタクシだけ除け者ってことですわね。
まぁ、仕方ありませんわ、悪役令嬢は本来は孤高なる存在。
「ハァ…放課後が寂しいですわね。」
そこらのベンチに座って空を見上げた。
鳥はいいですわねぇ、自由ですものぉ。
そんな風にしていると――
「ガランデ嬢、よかった、見つけた。」
まさかの――アベル様登場ですわ。
走って来たのかしら、少し汗をかいておられますわ。
それに、なんだか申し訳なさそうな表情ですわね。
「その、これを、君に…。」
「はへ?」
そう言って手渡されたのは、一つの木箱。
サイズとしては手のひら程度…いったい何かしら。
ワタクシは確認を取ると開封し、中を覗いてみましたの。
するとそこには、ガラス製のつけペンが!
緑色と赤色がベースの、薔薇モチーフですわね!
まぁ! なんともワタクシ好みのデザインですわね!
「あらま! 今流行りのズワロー商会の新商品! しかし、デザインは見たことありませんわねぇ…。もしかして、特注オーダーメイドかしら?」
「詳しいね。」
「それぐらいの人気商品ということですわ! よくもまぁ特注で購入ができましたね、と驚くばかりですもの!」
「殿下の力をお借りしたんだ。」
確かに王族パワーを使えば、どんな人気商品でも可能かもしれませんが……よく殿下がお許しになりましたのねぇ。いえ、殿下はアベル様の事を『マブダチ』だとおっしゃっていましたし、それほどの仲ということなのでしょう。
しかしながら、どうしてワタクシにこのようなプレゼントをなさるのか、まったく見当もつきませんわ。何かあったかしら…。
「……………どうしてワタクシに?」
「この前の…詫びだから。僕も言い過ぎたと、反省して…ね。」
「はて? 謝られるようなことはありましたが、言葉で解決する程度でございましたでしょう? このような品を添えるほどのことだったかしら? だって、このような高級品をプレゼントなど、人格否定レベルの発言への謝罪級ですわよ。」
「いや、そこまでいくと、個人間通り越して家間の問題だから。」
う~ん、確かに言い過ぎではあるかもしれませんわ。
ですが、仮に個人間の詫びだったとしても、こんな素晴らしい物をいただくほどでもないのには変わりませんわ。あの程度のことなど、『あ~! よくも言ったなぁ!今度はこっちの番だ! HAHAHA!』で終了して、次の日には忘れる(というかワタクシは数十秒で気にしなくなりましたし)という認識だったのですけれど?
そんなワタクシの心など関係なく、時間は過ぎていく。
なんと! アベル様はその場で土下座をしてしまったのです!
「ちょちょちょ! 顔を上げてくださいまし!」
「僕はガランデ嬢に『悪役令嬢という言葉で誤魔化すことはできない』なんて言ってしまったんだ! そんな女性でないことぐらい、僕は知っていたはずなのに!」
「え、えぇっと…そのことについては――。」
「ガランデ嬢にとって悪役令嬢とは………強く、気高く、美しく………そうありたいという目標なのだろう? それなのに! 僕という人間は! まるで! 欲望のままに生きることができる存在のように扱ってしまった! 君は決して、ただ勝ち組でありたい、そんな浅い理由ではないのにも関わらず!」
ワタクシは慌てて屈むと、アベル様の肩を掴んで立ち上がるように促す。すると、嘘偽りもなく行動しているのだと思わせるような、そんな真っ直ぐな瞳と目が合ってしまい、思わずワタクシは目をそらしてしまいましたわ。
だって――
だって――
――ただ勝ち組でありたい、そんな浅い理由なんですもの!
「僕は、僕だけは、ガランデ嬢の中身が『強く、気高く、美しい』女性であると理解している。……あの日の非礼を許してくれなくたっていい、ただそれだけを伝えたかった……。」
やめてくださいまし~!
汚い心が浄化されてしまいますわ~!
だいたいワタクシは悪役令嬢だというのに、リシィもアベル様も殿下も、ワタクシに対して甘いところがあるのが納得できませんわ。本来ならば、あの方々と悪役令嬢との間にあるべき関係は『敵対関係』であるはずでしょう!?
こんなことを言われてしまったら、ワタクシは――
「理解されたのなら仕方ないですわねぇ! 許しますわぁ! アベル様が慕うワタクシを、これからもその目に入れ続けなさいな!」
調子に乗ってしまうじゃありませんの!
だってねぇ?
こんなに褒められてしまってはねぇ?
とにかく嬉しいってものでございますものねぇ?
オホホホ~! オ~ホッホッホ~!
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