15話:悪役令嬢とわすれもの
最近、順調ですわ。
リシィとは毎日楽しい学園生活を過ごしておりますし、ほら、お揃いのネックレスも身に着けてますのよ。そう言えば、このネックレスをメイディに自慢したら、目から血を流しながら包丁を研ぎ始めましたが……健康に問題でもあるのでしょうか? 今度、お医者さんに診てもらいましょう。
だけど、何かを忘れているような気もするですの。
何でしょう、思い出せそうなのですが……。
喉のあたりまで出かかっているのに、もどかしい!
「アイリ様? どうされましたか?」
昼飯を口に入れようとしないワタクシに、とうとうリシィから心配の声をかけられましたわ。そうですわね、悩んだらすぐに相談することは大事ですわ、もしかしたらがあるかもしれないから正直に話しましょう。
「う~ん…すごく大事なことが思い出せないのですわ。絶対に忘れてはいけないようなことだというのは覚えているのですが…。う~ん、う~ん…。」
「もしかして、今度、テストがあることじゃないですか?」
ハッ! テスト!
ワタクシが悩んでいることではありませんでしたが、コレはコレで確かに大事なことを忘れておりましたわ! 先日、先生にピンチだと言われたばかりではありませんの!?
ヤバいですわ。ノー勉強ですわ~。
「リシィ、あなたの勉強は大丈夫なのでして?」
「え、え~っと、実は、最近…むしろ良くて…。」
「あら、良い事なのに、どうして言い淀んで?」
「そ、その、以前にアイリ様から頂いたネックレスを身に着けていると、近くにアイリ様がいるような気になれて…いつもの倍以上頑張れちゃうんです。言ってしまった、は、恥ずかしぃ!」
あらあら、まあまぁ!
キュンッ!
…って、トキメキを覚えている場合ではありませんわ!
ワタクシがピンチなことには変わりませんもの!
勉強しなくては!
― ― ― ― ― ―
ということで、放課後、ワタクシたちは学園の図書館へと到着。
静かだから集中でき、調べ物もすぐにできるので、自学をするとしたらの定番施設ですわ。しかしながら、他の方々が同じことを考えるのは当然で、利用スペースなどないに等しいほど人が集まっておりますの。
「アイリ様、どうしましょう…。」
「そうですわねぇ…金の力でどうこうすることもできますが、敵でもなんでもない方々の邪魔をするのは、ワタクシの流儀ではありませんわ。『カタギ』には手を出してはいけませんもの。」
まぁ、勉強なんてどこでだってできるものですわ。
空き教室と寮部屋、どちらにしようか悩んでいたところ――
「それなら、生徒会室はどうだい?」
不意に背後から声を掛けられましたの。
澄んだ声色に振り返ると、そこには超絶イケメンの金髪王子様――ダレン殿下の姿がありましたわ。驚いて頭をガバリと下げるリシリアを横目に、ワタクシは優雅に一礼をし、微笑みを浮かべながら殿下と向き合うのでした。
「あら、ごきげんよう、殿下。……して今の御言葉は?」
「生徒会室で私たちと一緒に勉強しようという意味さ。」
「そう言えば殿下は一年生にして、生徒会のメンバーでしたわね。確か…副生徒会長を務めておられましたよね? 来年は会長確定だとか。」
「フフッ、王族の義務みたいなものさ。」
「しかし、失礼になるのではなくて?」
「リシリア嬢『は』優秀だからね。むしろ歓迎だよ。」
あらあら、あらあらあら、殿下さんよぉ。
今…含みを持たせましたわね?
ワタクシ『は』どうなのか知りたいですわねぇ。
それは置いといて…さて、どう答えましょうか…。
殿下の目的がリシィであるということは、ワタクシのアホ毛センサーがバリバリと反応しておりますし、まぁ間違いではないのでしょう。ですが、その目を見ると恋愛感情というわけでもなさそうでもありますわ。
となれば、彼女を生徒会に引き込む、が意図と。
「ふむ。」
情報を整理しましょう。
もしも、このことを受け入れたら。
ワタクシが今後リシィと二人っきりで過ごす時間が減る――殿下に恩を売ることが出来る――リシィが便利な存在として扱われる――現在、視界の端でぐぬぬしているメリアレネ様にドヤ顔が出来る――リシィに対するやっかみが増えてしまう――優秀な方々から勉強を教えてもらうことが出来る。
損得勘定完了。
ワタクシが出した結論は――
「そのご提案、ありがたくお受けいたしますわ。」
― ― ― ― ― ―
「失礼しますわ。」
「えっと…失礼します…。」
アベル様に空けていただいたドアをくぐると、ほぼ先輩方で埋められた生徒会室へと入室。初めこそ皆様は驚かれたようですが、殿下が説明をするとすぐに受け入れの空気になりましたわ。
それどころか、リシィに対する目は大歓迎といった様子ですわね。さすがはエリートしか入ることが出来ないと噂の生徒会、優秀なものは優秀なのだと素直に認める能力がおありのようですわね。
「よろしく、リシリア嬢。それと…うん…。」
「今後は自由に出入りしていいのよ~。リシリア嬢は~。」
「いやぁ、期待の一年生だってね。それと…ええっと…。」
対して、ワタクシを見る目が厳しいのは納得いきませんわ!
なんですのよ、睨み返してやりますわよ、フンッ!
ほら、目をそらしましたわね。ワタクシの勝ちですわ!
しかしまぁ、なんと言いますか、ここに集まる方々は悪役令嬢を見る目はございませんが、優秀であるということには間違いありませんですのよね。もっとこう、真面目という言葉を盾に地味であることを甘受した感じだと思っていたのですが……キラキラ系のイケメンばかりが揃っている気が……。
優秀で、差別意識がなく、イケメンだなんて――
「ハッ、そうでしたわ! 思い出しましたわ!」
思い出しましたわ。ずっと忘れていたこと。
それは、ワタクシがこの学園にいる理由そのものでしたのに。
ワタクシは獲物を探す獣のように、部屋中を見渡した。
そうですわ、『ワタクシだけの王子様』を探しに来たのでしたわ!
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