14話:(アベル視点)悪役令嬢は…悪役…?
昨日は投稿を忘れてしまっていたので、
本日は昼と夜に、2話投稿いたします。
目の前ではガランデ嬢とリシリア嬢がウキウキしながら、ショータとバヌシュの二人と弁当箱について話し合っている。まぁ、こう言ってはなんだけども、僕にはあまり興味をそそられることでもないから、ただ暇なだけだ。
それにしても、ガランデ嬢、不思議な令嬢だ。
元が貧乏令嬢だからと言えども、ここまで貧民街の住人と馴染めるものなのだろうか? 殿下が割と好奇心旺盛なせいで、護衛の僕もいろんな経験をしてきた自負があったけど、ガランデ嬢ほどの存在は見たことはない。
彼女は間違いなく――なのに。
どうして。
「不思議なお方ですよね。」
同じく暇を持て余したエミリア様が近くまで来ていた。
彼女は眩しいモノでもあるかのような目で、四人を見ている。
「えっと、エミリア様…?」
「アイリーン様は私の事を親戚と呼びましたが、家出してこんなところで職人をやっているような身ですので……敬称などは不要です。」
「いえ、僕も男爵家三男です。気にしなくいいですよ。」
「分かりました、アベルさん。」
「ありがとう、エミリアさん。」
僕らはゴチャゴチャして散らかっている店内から、丸太椅子を持ってくるとドカリと座った。なんやかんや先ほどまでは気を張っていたからか、座れるというだけでありがたいという気分になった。
「アベルさんには、アイリーン様はどのように見えますか?」
「どう見える…か。自由奔放で猪突猛進。それを実行するだけの『力』を持っている。だけど、それでいて、あー、まぁ、そのなんだ…。」
「それでいて、出来はあまりよくない…ですよね?」
「……ぬぅ…。」
「フフッ、私もそうですが、あの方もガランデの血を引く者ですからね。この家の先祖代々が優秀と言い難いことなど、よくよく承知しています。それに、領地がつい最近まで危うい状態だったいうことも。」
そう、彼女は間違いなく、≪残念≫だ。
勉強はできないし、根拠のない自信で満ち溢れているし、行動はいつも無計画、口を開けながら空をボ―ッと眺めていた姿を見かけたこともあるし、性根はどこか小物臭いところだってある。
しかし、面倒見がよく、超えてはならない一線はわきまえており、人を直接的に嘲笑するということもない。あんな暴走令嬢ではあるけども、彼女は≪いい人≫なのだろう。
「『いい人』なんだとは、思う。でも、なんだろう…一概に『残念だけどいい人』と評するには…あまりにもカリスマがありすぎる。ほんと、不思議な令嬢だよ。」
「フフフ…人がいい『だけ』には、悪い心が集まります。利用しようとする者だけに限りません…守られに来た弱い人もまた、いつでも悪くなる可能性を秘め、恩義だけでは動けなくなることもあります。そんな被害ばかりを受けるのが『人がいいだけ』の人間であり、ガランデ家の歴史なのです。私の家もまたその定めに呑まれ、今はもう準貴族ですらない一般市民です。」
「そうなのか…。」
「ですが、あの方は『だけ』ではないのです。弱さも、強さも、悪さも……全て持っていてなお『いい人』なのです。弱きは憧れ、強きは惹かれ、悪しきは叩きのめされる。アイリーン様はそんな人なのです。」
「ハッ、まるで英雄の紹介だね。」
「知ってますか? こちらの地区ってこれでもマシになった部類なのですよ。」
「まぁ、薄々、感じながら来たね。」
「それはアイリーン様のおかげなのです。」
「えぇっ!?」
「『元・貧乏領娘ですので貧乏市民の気持ちは分かりますわ。生きるための物など不要、生きるための方法が欲しいのですわよね。』と言って、専門家を派遣して勉強会を開いてくださったのです。内容は…お金の使い方と…効率的な生き方と…そして社交性がもたらすもの。今では一時的な勉強会だけでなく、青空教室なるものもできています。私共に必要なのはお金を提供することではなく、生き方を知るという前段階だったのです。」
「必要だったのは……生き方を知ること。」
どれほど国がお金を費やしても、東ゴストラ地区が改善などされなかったのも当然だ。どんな大金や財宝でも、価値が分からない人にとってはゴミクズ同然だし、ルールや規範がなければ行動を縛ることだってできやしない……。
「決して豊かになったわけではありません。あくまで生きるためだけですし、専門家からの教えと言えど私たちが理解できる範疇です。ですが、私たちには私たちなりの幸福があり、その幸福を維持したまま、あの方は我々から不幸を取り除いてくださったのですよ。」
「……。」
「――だからこそ、ここの地区の者はあの方が好きなのです。」
そうか、人が着いて来るというのにはいくつか種類があって、殿下のようにただ優秀だからこそというのもあれば、彼女のように心が安心するからというのもあるのか。
彼女は確かに残念令嬢なのかもしれない。
だが、彼女は人の上に立つ器を持っている
能力の有無など、要素にすぎないということなのだろう。
それこそが、アイリーン・ガランデなのだ。
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