13話:悪役令嬢と舎弟のお買い物②
次に必要なものは弁当箱!
そうですわ、メインはこちらですもの。
そのための買い物であることを忘れておりましたわ。
しかし、弁当箱など貴族とは無縁。
きっと高級店などでは扱っておりません。
そうだとしても安物など、もってのほか。
となれば、ワタクシが向かう場所は一つだけ。
あの店は少し遠いので、民間馬車を使いましょう。
「運転手さん、東ゴストラ地区へお願いできるかしら。」
「なっ! ガランデ嬢!」
「アベル様? どうかいたしまして?」
「だって、そこは、王都の貧民街だろう! 危険だ!」
あぁ、そんなことですか。
確かに東ゴストラ地区の治安は決してよくなどありませんわ。以前に国が改善目的としてお金を掛けたみたいですけど、結局はどうにもできず中断したとされるような地区ですもの。当然ですわね。
「大丈夫ですわ。」
「どうしてそんなことをッ!」
「ワタクシだから、大丈夫ですのよ。」
「それが不安なんだよッ!」
どうやら、信じてもらえませんわね。
まぁ、そんな問答している間に、地区の入り口には着いてしまったのですけれど。ここからは道が狭く馬車も通れませんので、歩きにはなりますわ。アベル様もさすがは騎士見習いなのか、あーだこーだ言いながらも護衛としての動きを忘れませんわね。
しかし、リシィも不安なのかしら…ワタクシの服を掴んで…。
可愛い! 絶対にワタクシが守ってみせますわ!
これが庇護欲をくすぐるというやつですのね!
守護の役目はアベル様ではなく、このアイリーンですわ!
「ほ、本当に大丈夫なんだろうね…。」
「しつこいですわねぇ。少なくとも、ワタクシから離れない限りは大丈夫ですわよ。訳あって、ワタクシはここの地区の常連ですもの。」
ワタクシたちはお世辞でも綺麗とは言い難い道を歩く。
ふむ、まぁ、かなりマシになった方ですわね。
暇を持て余した方々が道の端からいなくなっていますもの。
ワタクシが初めて来たときは、鉄扇が大活躍で――
「……っと、あら?」
ワタクシたちの目の前に一人の小さな人影が。
十かそこらの女の子ですわね。
だけど、返り血を浴び、手には刃物。
「ッ!」
「アベル様、よしなさい。」
剣を抜こうとしたアベル様を、ワタクシは鉄扇で制止する。
相手が女の子でも、判断の早さは素晴らしいものですわね。
ですが、今回は大丈夫でしてよ。
だって――
「お嬢様だぁ~。」
「ララナ、今日もお元気ですこと。」
この子、ララナとは仲が良いんですもの。
彼女の血と刃物も、鶏の解体によるものですわ。
「お嬢様! 今日はどうしてここに!」
「バヌシュに会いに来ましたわ。」
「親方のとこね、私が案内する~!」
「あなた、今は家の手伝いの途中でしょう? それに刃物を抜き身の状態で持ち歩かない、危ないですわ。ほら、帰った帰った。」
「むぅ…は~い…。」
ワタクシがシッシッと手を振ると、ララナは口を尖らせて俯く。そして、チラチラとこちらを何度か見ると、次第に目に涙を溜まらせる。ハァ、仕方ないですわね、ワタクシは彼女に近づくと、その頭に手を置きましたの。
「また近い日に来ますわ。その時に遊びましょう。」
「お嬢様………本当?」
「悪役令嬢に二言は、えっと、まぁ、いっぱいあるけど……友との約束だけは守ると断言いたしますわ。必ず、あなたに会いに来ましてよ?」
「うん…分かった…今日は帰る。」
そう言うとララナは家へと帰って行きましたわ。
隣でアベル様は訝し気にワタクシを見てきますが、無視ですわ無視。対するリシィは尊敬の眼差しをこちらに向けてきますけど……さぁリシィ、ワタクシの悪役令嬢っぷりをもっと見なさい……という気持ちは表に出さず、そのまま歩きを再開させるのでした。
― ― ― ― ― ―
そして、辿り着いた目当ての場所――バヌシュ工房。
通りに面した建物はこれでもかと言うほどボロボロなのに、奥側に増築された建物は貧民街には似つかわしくないほど綺麗。久しぶりに来ましたが、相変わらずにアンバランスな建物ですわね。
ワタクシは遠慮なく引き戸を開けた。
「オ~ホッホ! おいバヌシュ! 悪役令嬢が来ましたわよ!」
するとそこには三人の職人が作業をしているところ。
爆発させたようなモジャモジャ白髪のジジイと、おっとりした雰囲気のタレ目の女性、そして丸顔で鼻の短い黒髪の青年。彼らはワタクシの来訪に顔を上げると、一様に顔を綻ばせるのでしたわ。
毎度思いますが、どうしてこの方たちは増築された方で作業しないのかしら。あっちの方が設備も道具も最新の物ばかりですのに。職人ってよく分からない生き物ですわね。
「お~嬢ちゃん! 久しぶりじゃねぇか!」
「アイリーン様、会えてうれしいです!」
「あっ、ボク、茶の準備してきます!」
モジャモジャ白髪は作業を中断させると、ワタクシに近寄って握手を交わす。ジジイな見た目からは想像できない力強さが、健康体である証拠となって安心しますわ。
ワタクシは振り返ると、三人を紹介することにした。
「こちらが親方のバヌシュ、一番弟子でありワタクシの親戚のエミリア。そして、こちらの男性が二番弟子であり、エミリアの旦那様でもあるショータですわ。」
「え~っと、三人とはどういう関係で?」
「よくガランデ領はワタクシのギャンブル金で栄えたと言われますが、実際はギャンブル金を元手に事業を興して栄えた……そう表現するのが正しいのですわ。」
「なるほど?」
「そして、こちらのショータさんは協力技術者であると同時に、事業提案者でもあるのでしてよ。確かにここの工房は小物づくりが主な活動ですが、ショータさんに限って言えば料理も美薬品作りもできるのですわよ。この方と会えていなければ、ワタクシの今はなかったことでしょう。ガランデ領の大恩人とでも言えばいいのでしょうか?」
「いやいやいや! そのような大層な物言いは勘弁してください!」
フフフ、謙遜なんかしちゃって。
師と妻の前ですわよ、もっと胸を張ればよろしいのに。
ですが、こちらの工房は恩義だけでワタクシも利用しているわけではありませんわ。一流と競争できるだけの技術を持っておりまして、もっと世界に羽ばたいてほしいのですけどねぇ、なぜか支援を拒否するのですわ。やっぱり職人ってよく分からないですわね。
まぁ、今日は雑談をしに来たわけではありませんし。
とっとと、本題の弁当箱づくりの話を進めていきますわよ。
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