12話:悪役令嬢と舎弟のお買い物①
あの日以来、リシィへのイジメは減りましたわ。
まぁ、殿下を狙う方々からの攻撃がなくなったというだけで、嫉妬や劣等感からによる攻撃は未だにあるようですが。ハースヴァン様もやはり一流の悪役令嬢のようですわね、醜い争いは主義ではないようですわ。
そんな、当の本人、リシィは――
「アイリ様~~~ッ!」
今日、ワタクシとお買い物ですの。
それにしても、あんな大きな声を出してはしたない。
手を振って、駆け寄って……なんですか! あの笑顔は!
まったくもう……カワイイんですからコンチクショウ!
抱きしめてもいいですか? ダメですわ!
「アイリ様、お待たせしてしまって申し訳ございません。」
「約束より早いではございませんの。謝る必要などありませんわ。」
ワタクシはいつ来た、って?
せいぜい一時間やそこら前、誤差ですわ。
そんなことより、ワタクシが気になるのは……
リシィの背後に控えている……帯剣した男……。
確か殿下の近くにいた、アベル様でしたかしら。
「なんでアナタがいますのよ…。」
「決まっているじゃないか、リシリア嬢の護衛だよ。」
「まぁ! 殿下は、よほどの心配性なのですね。」
「…………それに関しては…僕からは何も言えないな。と言うより、むしろ護衛が必要なのはガランデ嬢の方だと思うんだけど…一人…?」
「供を連れることに慣れておりませんの。ですがご安心を、少し遠い位置に控えているだけで、決して護衛がいないというわけではないですわ。」
目の前の男、アベル・ヴァラン。
メイディによる調査結果では――騎士系男爵家の三男。父親の関係で殿下とは旧知の仲、それどころか殿下が一番に信頼している人。家から厳しい特訓を受けていて、騎士として将来有望。勉学は嫌いだけど、苦手でも得意でもない程度。食の好みは甘い物。趣味はペットの世話。胸より脚派。初恋は6歳の頃の家庭教師。
さすがメイディ、何でも知っておりますわ。
「まぁ良いでしょう。殿下が一番に信頼する悪役令嬢駒はワタクシ、アナタはそんなワタクシに寄贈された第二の舎弟……ということにしときますわ。今日は荷物持ち、よろしくお願いしますわね。」
「いや良くないよ! 勝手に舎弟にしないで! それと悪役令嬢駒ってなに!? もう何から何まで良く分からないことだらけだよ!」
「ではリシィ? 行きますわよ。」
「ねぇ!? 無視しないで!?」
ワタクシはリシィの腕を取ると、歩き出しましたわ。
リシィとのデートに口うるさい輩など、無視一択ですもの。
あっ、ちがっ、デートではない! ただの買い物ですわ!
まず向かうは宝飾店でしてよ。
― ― ― ― ― ―
場所は王都きっての宝飾店――【ラグジュ・ラーナ】。
実はワタクシ、たくさんを身に着けてジャラジャラさせるのがあまり好きではなく、それぞれの部位に派手物ワンポイントぐらいが丁度良いと思ってますの。ですが、ケチだけはいけませんわ、悪役令嬢ですもの一級品を身に付けなければ。
「例えば…あら、これなんて素敵ですわね。」
ワタクシが手にしたのは指輪。
金で作られたゴテゴテデザインに、大きなサイズのダイヤモンド。ワタクシの金髪かつ派手化粧を合わせれば、天下無双の悪役令嬢間違いなしなデザインですわ。
ですが――
「ですが……今日の目的には合いませんわ。」
その言葉に、それまで店内を呆けた表情でオロオロしてましたリシィが反応。バッとこちらへと顔を向けると、ワタクシの顔と指輪を何度も交互に見ておりますわ。
「どうしてですか。アイリ様、お似合いですよ。」
「ハァ…ワタクシだけが似合っても仕方ないでしょう。」
「え?」
「ワタクシとリシィ、二人が似合わないと意味がないですわ。」
「えっ!? 私もですか!?」
そう、今日の目的はワタクシの宝飾ではないのですの。
リシィは可愛い系で黒髪ですし、服なども今日みたいなシンプルなものしか持っていないでしょう。ならば、大きな宝石をドーンッとするよりは、よく見たら高級品というテイストが一番ですわ。そして、ワタクシほどになれば無双系悪役令嬢以外にも、品格系悪役令嬢も可能。
そのことを考えると――
「これなんてどうかしら。」
次に手にしたものはネックレス。
銀のチェーンに、金の宝台、翡翠色の宝石、サイズは指の爪ほど。
素人からすれば、まぁそこそこのモノだと思うでしょう。
しかし、ワタクシの審美眼は間違えませんわ。
チェーン部は非常に細かく、宝台だってよく見たら薔薇をモチーフになっております。確かに華美ではありませんが、高い技量が問われる一品ですの。それに、宝石も小さくはありますが、純度が高く混じりけが少ない。
ワタクシは近くの店員を呼び、二つを注文。
いつもはタウンハウスに送らせますが、せっかくですので今日は直購入をして身に付けますわ。リシィは金額札を見て戦慄しておりますので、ワタクシの手で首に掛けましょう。
「ここここ、こんな、高価なもの…いただけません。」
「あら、アナタ、何か勘違いしておりません?」
「勘違い…ですか?」
「アナタは『下に就かせて』と言ったのですよ? つまり、アナタとワタクシの関係は友達ではなく舎弟なのでしてよ。言ってしまえば…アナタはワタクシの所有物…所有物を手入れすることを施しとは言いませんわ。よろしい? アナタの『品』は、ワタクシの『品』と見なされることになりますのよ?」
「ハッ!? 私の評価が…アイリ様の評価に…ッ!」
「ご理解したようですわね。安心なさい、ワタクシだって一から十まで買い与えるとは言っておりませんわ。あくまで…ワタクシが舎弟を着飾っておきたい…その範疇で終わるつもりですので、気後れする必要はございませんことよ。」
「わ、わかりました!」
そう、目的はあくまで舎弟として必要なものだけ。
ワタクシだってポケットマネー以上は出す気はありませんわ。
お揃いのものであるなら、別に何だって構いませんもの。
しかし…まぁ…
「お揃い…ですの…。」
お揃い…フフッ…お揃い…。
『お揃い』――なんと甘美な響きなのでしょう!
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