11話:悪役令嬢と悪役令嬢
殿下と話をした次の日、令嬢に囲まれてしまいましたわ。
「ガランデさん、少しよろしいかしら?」
彼女たちもワタクシの魅力に――なんて勘違いは、もうしませんわ。
そうですわね、リシィのことだと予想しますわ。
「殿下と二人っきりで何を話されていたの?」
あら、そっちでしたの。
しかしまぁ、代表と思わしき目の前の女性、中々の威圧感ですわね。
金髪ロングに大きなお胸、そして厚化粧と釣り目……これって俗に言うところのキャラ被りってやつではなくて!? ワタクシのアイデンティティの存続の危機ですわ!?
「二人ではございませんわ。アベル様もいらしましたもの。それに、殿下との会話をおいそれと誰かに教えるわけにはいきませんわ。気になるのでしたら、殿下に直接聞けばよろしいのではして?」
「なっ! たかが伯爵家ごときが、私に歯向かうというの!」
「あの…そもそも、ワタクシはあなたがどなたかすら存じ上げませんわ。初対面なら名乗ることが優先ではなくて?」
「なな、なんですって! この学園にいて、私を知らないなんて!?」
「ハァ…王都って、どうしてこう"自分は有名で当然”だと思う方が多いのでしょうね。仕方ありませんわ……ワタクシはガランデ伯爵家の娘、アイリーン・ガランデですわ。以後、お見知りおきを。」
「……チッ。メリアレネ・ハースヴァンですわ。ほら、これでよろしくて?」
ん? メリアレネ様……どこかで聞いた気がしますわ。
ハースヴァンといえば公爵家だから、そのせいかしら。
うぅ~む……ハッ! 思い出しましたわ!
『悪役令嬢図鑑(作:メイディ)』に書かれていた方ですわ!
悪役令嬢ランクはS級(メイディの偏見)。
殿下の婚約者候補で最有力、一つ上の学年。
性格はワガママ放題、権力を盾に好き勝手――。
つまり、ワタクシのライバルに相当する御方!
「どうやらガランデ嬢は理解が足りないようですし、単刀直入に言いますわ。殿下の妻となるのはこの私ですの。あなたはお呼びではありませんわ。」
「なるほど……それで、殿下と話していたワタクシに牽制なさったのですわね。ただ、ハースヴァン様、一つだけ勘違いがありますわ。」
「勘違い? なにかしら?」
「ワタクシ、殿下のことはどうでもよくってよ。」
「え?」
「最初こそ『妻になりたいわぁ』なんて思っておりましたが……いざ殿下と話したら『なんだか羨むほどの人ではないかなぁ』と思いましたのよ。“王子様”って比喩は比喩であって、本家本元は案外普通だと学びましたわ。あっ、尊敬はしていますのよ?」
殿下は確かに魅力的。
皆さんが求め、奪い合い、争いになるのも理解できるほど。
でもワタクシは――恋には落ちませんでしたわ。
「フ、フンッ! あんたにその気が無いならいいわ! せいぜい身の丈に合った『自分だけの王子様』でも探しなさい!」
「えぇ、そうさせてもらいますわ。」
王子を求めて王都へ来ましたが……
恋愛だけは、悪役令嬢の教本どおりでは動けませんわね。
思った以上に繊細なものでしてよ。
「では誤解も解けましたし、失礼しま――」
「待ちなさい。話はまだですわ。」
「まぁ、なんでしょう?」
「殿下と……リシリアさんのことですわ。あの平民を守っているのは、今はあなたでしょう? あなたが手を引くのなら、リシリアさんも離させるべきでは?」
「それは気にする必要ありませんわ。殿下は気にかけているだけでしょうし、リシィの様子もそういう方面ではなさそうでしてよ。」
「では、なぜ守るの? 使い駒でしょう?」
……そう。
使い駒――悪役令嬢の正解はきっとそこなのでしょう。
社交という名の前線で戦うハースヴァン様だからこそ、当然と思うのも理解できますわ。そうしなければ悪役令嬢でいられない、隙を見せた途端に食われてしまう。
でも、それは違いますの。
だって、あの子は取り巻きじゃなく、『舎弟』ですもの。
――いえ、意地を張るのもやめますわ。
本当はもっと単純。
ガランデの血筋とか、そんな理屈じゃなく。
「使い駒と言えるような人間だったら、ワタクシは今頃『勝ち組』でしたでしょうね。変なプライドは抜きにして、本音を言いますわ……情に絆されただけですの、オホホホ! ハースヴァン様には“無利益の友好関係”なんて理解しがたいでしょうけれど……あの子は、リシィは、ワタクシの大事な友人でしてよ!」
だけど、ワタクシは御父様とは違いますわ。
負けを認め、底辺を享受する人間ではありません。
お人好しで、貧乏くじでも――勝ってみせる。
ガランデ家であり、同時に――悪役令嬢なのですもの。
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