第88話 弱点を突く黒穿刃と、敵を遅らせる黒針を手に入れました
無銘刃の模倣に満足したのか、ミメシスが得意げに刃を震わせる。
だが、新しい武器への興味は、それだけでは終わらなかった。
無銘刃から伸びた黒い靄が別の棚へ向かい、そこに収められていた細く長い剣を包み込んでいく。
まっすぐ伸びた刀身は、突くことを重視しているように見えた。
それでも完全な針のような形ではなく、刀身の両側には細い刃筋が残されている。
必要なら、浅く斬りつけることもできそうだった。
「今度のは、ずいぶん細い剣だな」
『細いからといって、弱いとは限らんぞ』
《装備記録の一部が損傷しています》
《形状から、刺突用武装と推定します》
『突き刺すことに特化した刃か。嫌いではない』
「お前、本当に武器なら何を見ても楽しそうだな」
『武器だからな』
再びミメシスの剣身へ青白い文字が浮かび、黒い靄が細身の剣をなぞっていく。
細く鋭く伸びた切っ先。
刺突の軌道を安定させるための柄の構造。
装甲の継ぎ目や関節へ刃を滑り込ませるための形状。
それらの情報が、次々とミメシスの中へ取り込まれていった。
【武装情報 _ _ 解析】
【形状 _ _ 取得】
【内部構造 _ _ 取得】
【材質情報 _ _ 取得】
【付与性質 _ _ 該当なし】
【模倣条件 _ _ 達成】
《注意します》
《細身武装のため、正面からの打ち合いには不向きです》
『打ち合う必要などない。突けばよい』
《単純化しすぎです》
『ならば必要に応じて斬ればよい』
《さらに説明が雑になりました》
「模倣してる最中に喧嘩するなよ」
俺の手の中で無銘刃の形が再び揺らぎ、刀身が細くまっすぐな形へ変化していく。
刀身の両側には細い刃筋が残され、刺突を主体としながらも、最低限の斬撃には使える形へ整えられていた。
『おおっ! これもすごいぞ、我が主!』
ミメシスが先ほど以上に楽しそうな声を上げる。
『速い、細い、そして狙いやすい!』
『装甲の継ぎ目も、関節も、命令線も、すべて穿てるぞ!』
「だから、その喜び方が怖いんだって」
『これは力で押し切る刃ではない』
『弱い場所を見つけ、そこへ正確に入り込むための刃だ』
《模倣形態の形成を確認》
《形状記録に固有名称は存在しません》
《仮称を設定します》
《仮称 _ _ 黒穿刃》
「黒穿刃か」
《性能を解析》
《刺突精度、刃先強度、操作追従性に優れています》
《装甲接合部、可動関節、命令線への攻撃に適性があります》
《正面からの防御および重量武装との打ち合いには不向きです》
「相手の攻撃を受けるんじゃなくて、弱点だけを狙うための剣なんだな」
《肯定します》
『無銘刃で攻撃を受け流し、黒穿刃で弱点を穿つ』
『これで我が主の戦い方にも、さらに幅が生まれるぞ!』
「使い分けを間違えたら、簡単に折れそうだけどな」
『我は折れん!』
「毎回、自信だけはあるよな、お前は」
黒穿刃を獲得して満足したのか、ミメシスから伸びていた黒い靄がようやく消えた。
その隣では、カコが俺たちのやり取りには加わらず、別の保管棚をじっと見つめていた。
棚の一角に設けられた透明な保管箱には、六本の細い黒針が整然と並べられている。
黒曜石のような光沢を帯びた黒針の根元には、それぞれ小さな金色の紋様が刻まれていた。
一本は指より少し長い程度で、武器と呼ぶにはあまりにも頼りなく見える。
それでもカコは何か気になるものを見つけたように、その保管箱の前から動こうとしなかった。
「……これ、何だろう?」
カコが保管箱の中を見ながら、小さく呟いた。
「細い針みたいだけど、これも武器なの?」
《王統管理者が随伴者を補助するための非殺傷制圧具です》
《名称 _ _ ノクス・ニードル》
「ノクス・ニードル……」
カコが確かめるようにその名前を繰り返すと、保管箱の透明な蓋が音もなく開いた。
中には六本の黒針と、細い溝が刻まれた黒い携帯ケースが一緒に収められている。
カコはそのうち一本を選び、壊さないよう慎重な手つきで持ち上げた。
《主目的は、対象の殺傷ではありません》
《装甲の隙間、制御基板または命令線付近への命中により、小規模な結界干渉を発生させます》
「つまり、当てるとどうなるんだ?」
《対象の動作を一時的に鈍化させます》
「倒すためじゃなくて、相手の動きを鈍らせるための道具なのか」
《肯定します》
見た目に反して適度な重みがあり、投げる際に指先で重さを確かめられるようだった。
「これなら、私にも使える?」
《使用可能であると推定します》
《ただし、命中精度は使用者の投擲技術に依存します》
《使用者が直接投擲し、命中後に針内部の補助結界が発動します》
説明を聞いたカコは小さくうなずき、手にした黒針を指先でしっかりと握り直した。
「練習すれば、私にも使えると思う」
「使うなら、下層へ行く前に何度か投げてみた方がいいな」
「うん。ちゃんと練習する」
《補足します》
《ノクス・ニードルによって対象の動作が鈍化した場合》
《随伴者による追撃が有効です》
「カコが相手の動きを鈍らせて、その隙に俺がとどめを刺すのか」
《肯定します》
『小娘が敵の動きを鈍らせ、我が主が討つ。悪くない組み合わせだ』
「私は倒すんじゃなくて、動きを鈍らせてケイを助けるために使う」
カコは自分自身へ言い聞かせるように、その役割をもう一度確認した。
《肯定します》
《敵の動作を一時的に鈍化させ、ケイの攻撃機会を作ります》
説明を聞き終えたカコは黒針を持ったままこちらを向き、迷いのない目で俺をまっすぐ見つめた。
「これ、ケイを守るために使う」
真っすぐにそう言われ、俺は一瞬だけ何と返せばいいのか分からなくなった。
「俺を助けてくれるのはありがたいけど、それだけじゃ駄目だ。カコ自身が危なくなったときも、ちゃんと自分を守るために使ってくれ」
「分かった。ケイだけじゃなくて、私自身を守るためにもちゃんと使う」
カコは手にしていた黒針を携帯ケースの溝へ収め、残る五本も順番に入れていく。
六本すべてが収まっていることを確かめると、ケースに付属していた二本の帯を右腿へ回した。
帯をしっかりと固定し、すぐに黒針を抜ける位置にあることを確かめる。
「みんなを守るためなら、ちゃんと使う」




