第84話 カコが王統管理者に正式登録されたので、先生を助ける前に下層との通信を直します
村の被害確認が一段落した頃、ラウルさんの指示で、代表者たちが集会所へ集められた。
集会所の中央では、ラウルさん、オルドさん、エナさんと数人の村人が輪になって座り、その中へ俺も加わっている。
コーデックスは全員から見える位置に浮かび、ルカをはじめとする子供たちは、少し離れた場所で大人たちに囲まれていた。
カコ自身は中層にいるが、コーデックスを通して声を届けているため、まるでこの場に同席しているように会話できていた。
「では、改めて確認する」
ラウルさんが腕を組みながら話し始める。
「カコ殿は今、中層と呼ばれる場所にいるんだな?」
「はい。その認識で間違いありません」
「そこで試験に合格し、下層へ進むための権限を得たということか」
「正確には現在、王統管理者としての正式登録手続きが進められています」
「正式登録というのは、どういうものなんだ?」
ラウルさんの問いに、カコが少し緊張した声で答える。
「中層の管理人格が、これから正式登録するって言ってた」
その直後、開かれていたコーデックスのページへ、青白い文字が次々と浮かび上がった。
【王統管理者試験 _ _ 最終課題の合格を確認】
【王統継承者カコの管理者登録 _ _ 開始】
【仮登録状態 _ _ 解除】
【王統管理者権限 _ _ 発行】
表示された文字を見た集会所の中に、静かな緊張が走る。
コーデックスの周囲へ淡い金色の光が広がり、それは遠く中層にいるカコから届いた光のようにも見えた。
【登録項目 _ _ 確認】
【氏名照合 _ _ カコ】
【王統因子 _ _ 一致】
【保護領域管理権限 _ _ 限定開放】
【外縁監視石操作権限 _ _ 限定開放】
【転移網利用権限 _ _ 限定開放】
【下層拘束区画接近権限 _ _ 条件付き開放】
次々と表示される内容を見ていたラウルさんが、難しい顔でコーデックスへ尋ねる。
「つまり、どういうことだ?」
《カコは、結界と転移網の一部を正式に扱えるようになりました》
《ですが、王統権限の完全継承には至っていません》
「正式な管理者になっても、まだ足りないものがあるのか?」
《下層総合制御室との安定した接続が確立されていません》
「安定した接続?」
《下層総合制御室は、結界全体の中枢制御を担う区画です》
《しかし現在、中層から下層への通信は極めて不安定です》
《命令伝達、状況確認、拘束区画の解析、転送座標の補正に支障があります》
「つまり、先生がいる場所も詳しくは分からないということか」
《下層拘束区画で、先生に紐づく管理補助端末の信号を確認しています》
《ただし通信が断続的なため、詳細位置、拘束状態、生体情報は不明瞭です》
その説明を聞いたカコの声が、少し不安そうに小さくなる。
《下層側の通信中継設備が、損傷または遮断されている可能性があります》
「だから下層へ行って、通信を直す必要があるのか」
《肯定します》
《現在の優先課題は三つです》
《一、下層総合制御室への通信経路の安定化》
《二、下層拘束区画にいる先生の救出》
《三、カコ居住領域周辺に存在する結界裂傷の修復》
「結界核そのものを直すわけじゃないんだな?」
《現時点では、結界核本体の修復工程には進めません》
《下層総合制御室との通信が不安定なため、核へ正確な命令を伝達できません》
《まずは下層通信経路を安定させる必要があります》
ラウルさんは説明を聞き終えると、その意味を理解したように重くうなずいた。
「すべてには、正しい順番があるということか」
《肯定します》
《通信が不安定な状態では、転送失敗、誤認証、封鎖解除失敗が発生する可能性があります》
「ろくなことがないな」
『ならば、邪魔なものはすべて斬って進めばよいではないか!』
《通信経路まで斬断した場合、状況はさらに悪化します》
『む……それは困るな』
「今のはコーデックスが正しい」
『我が主まで紙束の肩を持つのか!』
そんな俺たちのやり取りのあと、カコの声が集会所の中へ静かに響いた。
「まずは下層へ行って、通信を直す。それで先生の居場所を見つけて、必ず助ける。そのあと、家の結界も直す」
声そのものは小さかったが、その言葉に迷いはなかった。
「そこまでできれば、今よりもっと広い範囲を守れるようになる」




