第73話 中層へ着いたら、警備機兵の部隊が俺たちを待ち構えていました
視界が一瞬だけ真っ白に染まり、身体がわずかに浮き上がった直後、両足へ硬い床の感触が戻った。
俺はすぐに姿勢を低くし、無銘刃のミメシスを構えながら周囲を見渡す。
降り立った中層転送完了地点は、巨大な円形広場だった。
黒い機械素材で作られた床の表面には、何本もの青白い光の線が縦横に走っている。
周囲には折れた黒い柱や壊れた透明表示板など、何千年も前の設備らしい残骸が並んでいた。
だが、そんなものよりも先に目に入ったのは、俺たちを完全に取り囲むように整列している警備機兵の部隊だった。
「……やっぱり、待ち構えてたのかよ」
転送中の戦闘で息を整える暇さえないまま、俺はカコを守るように前へ立った。
正面には、黒い装甲と赤い目を持つ人型の警備機兵が何体も並び、両腕から収納式らしい鋭い刃を伸ばしている。
そのさらに後方には四本脚で立つ大型機械が数体おり、背中には青白く光る長槍のような射撃装置が載せられていた。
空中では、転送路で襲ってきた球体端末まで何体も旋回している。
【対王権用模倣武装 _ _ 着地確認】
【武装隔離 _ _ 実行】
『誰が隔離されるものか!』
「言い返すなって!」
【外部生命体 _ _ 同時確認】
【対象 _ _ 拘束】
次の瞬間、警備機兵たちが一斉に動き出した。
ガシャガシャガシャッ!
「来るぞ!」
俺はカコを背後へ置いたまま、無銘刃を正面へ構えた。
先頭の一体が無駄のない直線的な動きで間合いへ入り、右腕から展開した刃を、ミメシスを握る俺の腕へ振り下ろす。
ガキンッ!
ミメシスで受け止めた瞬間、腕へ強烈な重さがのしかかった。
「こいつら、見た目以上に速くて重い!」
『だが、動きは単調だ!』
「その単調な動きを避けられる身体が欲しいんだよ!」
二体目はすでに横から回り込み、今度は膝の高さへ刃を振るってきた。
後ろへ跳べば避けられるが、俺のすぐ背後にはカコがいる。
「下がるな……!」
自分へ言い聞かせるように呟きながら、低い位置から迫る刃をミメシスで受け止めた。
そのまま押し返そうとした瞬間、治療されたばかりの肩へ鋭い痛みが走った。
「ぐっ……!」
「ケイ!」
「大丈夫だ!」
「嘘」
「今は嘘でも大丈夫ってことにしてくれ!」
上空では、球体端末の赤い目の奥へ青白い光が集まり始めていた。
《上方から攻撃が来ます》
コーデックスが、普段よりも強い声で警告した。
「カコ、伏せろ!」
直後、青白い光の槍が頭上から落ちてきた。
俺はカコを抱えるようにして横へ飛び、二人で床を転がる。
その直後、さっきまで立っていた黒い床が、ジュッという嫌な音を立てて焼け焦げた。
「どこが拘束だ! 完全に殺す気だろ!」
《拘束用低出力攻撃です》
「これで低出力なら、高出力は絶対に見たくない!」
『我が主、槍を使え!』
「相手が多すぎる!」
『だから長い武器で距離を取るのだ!』
「でも、肩が……」
「ケイ、無理しないで」
カコが心配そうに俺を見つめた。
「今この状況で無理しなかったら、いつ無理するんだ!」
『承知!』
「お前に返事してない!」
ミメシスが黒い靄に包まれ、無銘刃から細身の長槍へ変化した。
以前、施設警備用長槍から模倣した、軽く扱いやすい黒鋼長槍だ。
「これならまだ振れる!」
迫ってきた機兵の足元へ向けて、長槍を横薙ぎに振るった。
ガンッ!
穂先が膝関節へ命中し、人型機兵の身体が大きく傾いた。
だが、倒れるまでには至らない。
《関節部にも装甲が存在します》
「見れば分かる!」
別の一体が長槍の内側へ潜り込み、横から刃を振るってきた。
俺は槍の柄で受け止める。
ガァンッ!
激しい金属音とともに、両腕へ強いしびれが走った。
そして、その奥では、四足歩行の機械が背中の射撃装置をこちらへ向けていた。
「まずい……!」
あれを避けるには、俺だけでなくカコも同時に動かなければならない。
だが、左右はすでに人型機兵に塞がれている。
「カコ、俺の真後ろから絶対に離れるな!」
「うん!」
四足機械の背中から、青白い光槍が発射された。
避ける場所はない。
俺はミメシスを正面へ突き出した。
まともに受け止められるとは思っていないが、それでも軌道だけは逸らすしかない。
『我が主!』
「やるしかないだろ!」
光槍が黒鋼長槍へ真正面から衝突した。
ドンッ!
凄まじい衝撃で視界が大きく揺れ、両足が黒い床の上を何歩も滑る。
そのまま押し戻された俺の背中が、カコへぶつかった。
「きゃっ!」
「カコ!」
カコの身体が後ろへ倒れた瞬間、横にいた人型機兵の一体が腕の刃を展開した。
狙いは俺ではなく、床へ倒れたカコだった。
「させるか!」
俺は長槍を引き戻そうとしたが、間に合わない。
「カコ!」
カコが咄嗟に腕を上げると、機兵の刃がその腕を浅くかすめた。
シュッ。
服の布が裂け、白い肌の上へ細い赤い線が走った。
「っ……!」
傷口から落ちた一滴の血が黒い床へ触れた次の瞬間、巨大な円形広場全体が激しく震えた。
【血液情報 _ _ 検出】
【生命情報 _ _ 解析】
【王統因子 _ _ 照合】
床を走っていた青白い光の中へ、突然、金色の線が混ざった。
その金色は、カコの血が落ちた場所を中心に、波紋のように広がっていく。
【王統因子高精度照合 _ _ 開始】
【照合完了まで警備行動 _ _ 一時停止】
すると、俺たちへ襲いかかろうとしていた警備機兵たちが、一斉に停止した。
人型機兵も、四足機械も、空中を飛んでいた球体端末も、すべて攻撃直前の姿勢のまま静止している。
「……止まった?」
『何が起きたのだ?』
《王統血統情報の高精度照合が開始されています》
「カコの血で反応したのか?」
《肯定します》
床から立ち上がった金色の光が、血の跡をなぞるようにカコの足元へ集まり、そこから広場全体へ広がっていった。
【王統因子 _ _ 一致】
【アエテルヌム王位継承系統 _ _ 確認】
【末裔認証 _ _ 完了】
【未登録王位継承者 _ _ 確認】
【警備行動 _ _ 即時停止】
警備機兵たちの赤い目が、波紋のように青白い光へ変化していく。
展開されていた腕の刃が収納され、四足機械も脚をゆっくりと折り曲げた。
まるで目の前のカコへ跪くように、次々と姿勢を低くしていく。
「カコ!」
俺はミメシスを無銘刃へ戻して背中へ収め、すぐにカコのもとへ駆け寄った。
傷ついた腕を確認すると、幸い傷はそれほど深くなかったが、まだ血が細く流れている。
「痛いか? ごめん。俺が守りきれなかった」
「ケイのせいじゃない」
「でも、俺が前にいたのに……」
「守ってくれた」
カコが俺を見上げた。
「ありがとう」
その一言に、俺はすぐ返す言葉を見つけられなかった。
そのとき、広場の奥にある壊れた玉座のような巨大な機械の前へ、青白い光が集まり始めた。




