第72話 対王権用模倣武装を持って地下へ降りたら、転送中から迎撃されました
【中層降下転送 _ _ 開始】
足元へ広がった青白い光が、円の外側から内側へ向かってゆっくりと集まり始めた。
北の転移塔から結界内へ転送された時とは違い、今回は身体そのものを真下へ引かれているような感覚がある。
地面の中へ沈んでいるように見えるのに、実際に落下しているわけではない。
俺とカコは細長い光の筒に包まれたまま、地上から古代施設の中層へ向けて少しずつ降下していた。
「これ、いったいどこまで下がるんだ?」
《地上転移地点から、中層外縁管理区画まで降下します》
「途中で落ちたりしないよな?」
《これは落下ではありません》
「理屈では分かってるけど、身体の感覚は完全に落ちてるんだよ!」
隣ではカコが俺の手を強く握っていたが、その手は思っていたほど震えていなかった。
「カコ、怖くないのか? 俺は少し怖いぞ」
「少し?」
「……かなり怖い」
「正直」
「こういう時は、最初から正直に言った方がいいみたいだな」
カコが、ほんの少しだけ笑った。
『我がいるのだ! 何を怖がる必要がある!』
「お前、この転送を止められるのか?」
『斬ればよい!』
「転送そのものを斬ったら、どうなるんだよ?」
《転送経路の破断》
《転送対象の分断》
《座標情報の喪失》
《複数の重大事故が発生する可能性があります》
「絶対に斬るなよ! 本当に何があっても斬るなよ!」
『我を信用しろ!』
「今の会話を聞いて、どう信用しろっていうんだ!」
そのとき、光の筒の外側に突然赤い文字が浮かび上がった。
【降下転送対象 _ _ 再照合】
【王統血統反応 _ _ 未確定】
【外部生命体 _ _ 二】
【全書端末 _ _ 一】
【武装反応 _ _ 一】
【武装情報 _ _ 解析】
俺たちを包んでいる青白い光が、一瞬だけ大きく揺らいだ。
【対王権用模倣武装 _ _ 検出】
『む?』
【登録名 _ _ アエテル・ミメシス】
【分類 _ _ 対王権用模倣武装】
【別名 _ _ 王に仇なす剣】
「王に仇なす剣……って、お前のことだよな?」
俺は思わず、背中にあるミメシスへ目を向けた。
『我をそんな物騒な名前で呼ぶな!』
「いや、お前の性格を考えると、かなり合ってる気もするけどな」
『我は、ただ我が主のために存在する武器だ!』
【当該武装は、王権保持者への対抗および王権機構に属する武装の模倣、破断、無効化を目的として設計されています】
『余計な説明をするな!』
「王様から見たら、本当に最悪の武器じゃないか!」
『王が正しければ斬らん! 間違っていれば斬るだけだ!』
「そういうところを『王に仇なす』って言うんだよ!」
俺たちの言い争いなど無視するように、赤い文字がさらに増えていく。
【中層管理区画 _ _ 警戒情報送信】
【降下転送路内迎撃機構 _ _ 起動】
「迎撃?」
直後、光の筒の外側に広がる暗闇から、複数の機械が動き出すような不気味な音が響いた。
ガチャン。
ウィィィン……。
黒い空間には、小さな赤い光が一つ、二つ、三つと次々に灯っていく。
「何か来るぞ!」
次の瞬間、暗闇から細長い機械腕が伸び、その先端に灯った赤い光刃が、光の筒を斜めに切り裂くように振るわれた。
「カコ!」
俺はカコの手を引き寄せ、その身体を抱えるようにして横へ動いた。
赤い光刃が俺たちのすぐ横を通り抜け、転送光と接触した場所が、一瞬裂けるように激しく揺れた。
「転送されてる最中の人間を普通に攻撃してくるのかよ!」
《降下転送路内警備端末です》
「あれのどこが端末なんだ! 完全に武器だろ!」
暗闇から姿を現したのは、人の頭よりも大きな黒い球体だった。
球体の周囲からは何本もの細長い機械腕が伸び、その先端には赤く発光する刃が取りつけられている。
一体だけではない。
三体、五体と数を増やし、さらに奥からも赤い目を灯した球体端末が次々と現れた。
『我が主!』
「分かってる!」
俺は荷物を降ろして、背中からミメシスを抜いた。
ただし、形状は最も軽く扱いやすい無銘刃のままだ。
今は足元を支えている物自体が転送光であり、大きな武器を無理に振れば、敵に斬られる前に転送経路から外れかねない。
「カコ、俺の後ろで身体を低くしてろ!」
「うん!」
迎撃端末の一体が、細い機械腕を広げながら真正面から突っ込んできた。
俺は無銘刃を横へ振り、迫ってきた赤い刃を受け止める。
ガキンッ!
甲高い金属音と同時に、腕へ予想以上に重い衝撃が走った。
「見た目は軽そうなのに、なんでこんなに重いんだ!」
『球体ごと突っ込んできたからだ! それより、あの腕には刃がついているぞ!』
「それなら模倣できないのか?」
『武器として作られているのか、それとも機械の一部なのか判断が微妙だ!』
《施設警備端末を構成する攻撃機構です》
『ならば無理だ!』
「分かりやすく諦めるなよ!」
次の一体が俺の横を高速で通り抜け、背後にいるカコへ向かって回り込んだ。
「カコ、そっちへ一体行った!」
振り向くと、カコは荷物の外側に結びつけていた小袋へ手を伸ばし、小さな石を一つ取り出していた。
家を出る前に拾って入れておいた、ごく普通の小石だ。
「これで落とす」
「本気で当てるつもりか!?」
カコが腕を振ると、放たれた小石は降下し続ける光の筒の中をまっすぐ飛び、回り込んできた球体端末の赤い目へ正確に命中した。
カンッ!
【警備端末一基 _ _ 視覚機能低下】
「当たった」
『見事だ、カコ!』
「感心してる場合じゃない!」
赤い目を潰された端末が、突然進行方向を見失ったようにふらついた。
俺はその隙に一歩踏み込み、無銘刃を斜めに振り下ろす。
ザンッ!
球体から伸びていた機械腕が切断され、そのまま無銘刃の刃が黒い外殻へ深く食い込んだ。
赤い光が消え、停止した球体端末が火花を散らしながら転送光の外へ落ちていく。
【警告】
【対王権用模倣武装による警備端末破壊行動 _ _ 確認】
【迎撃段階 _ _ 上昇】
「壊したら、さらに悪化したぞ!」
『先に襲撃してきたのは向こうだ!』
「古代施設にそんな言い訳が通じると思うか!」
光の筒の下方には、少しずつ中層の景色らしいものが見え始めていた。
黒い巨大建造物や空中を横切る通路、何重にも重なった円環、底が見えないほど深い吹き抜けが、俺たちの降下に合わせて少しずつ大きくなっていく。
だが、都市の構造がはっきり見えるようになるほど、眠っていた迎撃端末まで次々に起動し始めた。
上からも横からも下からも、あらゆる方向から赤い刃が迫ってくる。
「まさか、着地するまでずっとこれが続くのか!?」
《中層転送完了地点へ到達するまで、迎撃行動が継続する可能性があります》
「最悪だ!」
『ならば早く降りればよい!』
「俺が転送速度を決めてるわけじゃない!」
「ケイ、左」
「左?」
カコの声に反応して視線を向けた瞬間、左下から小型の球体端末が一気に上昇してきた。
気づくのが一瞬遅れ、伸びてきた赤い刃が俺の脇腹を狙う。
「くっ!」
ミメシスで辛うじて受け止めたものの、衝突の勢いで身体が大きく傾いた。
そのまま左足が、光の筒の外へはみ出しかける。
「ケイ!」
カコが俺の腕を両手でつかみ、小さな身体を後ろへ倒すようにして必死に引いた。
「戻って!」
「助かった!」
俺は光の筒の中央へ体勢を戻し、もう一度ミメシスを構え直した。
『我が主よ、震断刃なら広い範囲をまとめて払えるぞ!』
「重すぎる!」
『一振りだけなら大丈夫だ!』
「今の数を見て、本当に一振りだけで終わると思ってるのか!」
今度は三体の端末が、正面と右側、そして頭上からほとんど同時に突っ込んできた。
「くそっ……!」
「ケイ、一振りだけ」
「カコまで?」
「そのあと、すぐ片手剣に戻す」
カコは不安そうな表情を浮かべながらも、迫ってくる三体を見つめ、はっきりとそう言った。
「……分かった。一振りだけだぞ!」
『任せろ!』
ミメシスの刀身から黒い靄があふれ、無銘刃だった細い刀身が長く伸びると同時に、横幅も大きく広がっていく。
変形した黒い剣身の表面を、青白い光の線が走った。
震断刃。
片手剣よりはるかに重いが、一振りだけなら今の俺にもまだ扱える。
【対王権用模倣武装形状変化 _ _ 確認】
【迎撃段階 _ _ 上昇】
「また悪化したじゃないか!」
『今は斬れ!』
「分かってる!」
三体の迎撃端末が同時に赤い刃を伸ばした。
俺は足元の光を強く踏みしめるように腰を落とし、震断刃を横薙ぎに振り抜いた。
《振動刃機構 _ _ 起動》
ザザザンッ!
三本の赤い刃が一度に弾き飛ばされ、球体から伸びていた複数の細い腕もまとめて切断された。
一体はそのまま転送光の外へ吹き飛び、残った二体も大きく姿勢を崩して遠ざかっていく。
「戻して!」
『まだ振れるぞ!』
「一振りだけって約束!」
『……分かった!』
不満そうな声を上げながらも、ミメシスから再び黒い靄があふれ、震断刃はすぐに縮んで無銘刃へ戻った。
その直後、足元へ黒い床が急速に近づいてきた。
【中層転送完了地点 _ _ 到達】
「ようやく着くのか!」
【着地衝撃に備えてください】
「それはもっと早く言ってくれ!」
叫んだ瞬間、俺たちを包んでいた光が一気に弾けた。




