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『時環境界と四系統の継承者』  作者: あらけい
第一部 結界の森と、帰る場所

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第63話 結界の魂力で宝剣を維持して、亜種オーガの右腕を斬り落としに行きます

「ケイ!」


「大丈夫だ!」


 俺はカコを抱えたまま地面を転がり、その勢いを殺してすぐに身体を起こした。


 カコの身体を支えながら立たせ、無事を確認してから腕を離す。


 オーガ亜種の巨大な黒い残骸は地面へ深く食い込み、一瞬だけ動きを止めている。


『今だ、我が主!』


「分かってる!」


 オーガ亜種が残骸を持ち上げるより早く、俺はその横へ走り込んだ。


 狙うのは、地面へ食い込んだ巨大な黒い塊だ。


 あれを持ったまま戦われれば、一撃を受けるだけで致命傷になりかねない。


「まず、その武器から壊す!」


 宝剣セレスティアを黒い残骸へ向けて振り下ろすと、青白い魂力刃がその表面へ食い込んだ。


 ギィン!


 耳を刺すような高い音が響き、両腕へ強い抵抗が返ってくる。


「硬い……けど、止まるほどじゃない!」


『そのまま押し切れ!』


 周囲を漂う魂力が、青白い刃へさらに集まった。


 ザンッ!


 人間の身体よりも太い黒い残骸が斜めに切断され、切り落とされた先端が重い音を立てて地面へ落ちた。


「斬れた!」


『当然だ! これが我が宝剣セレスティアの、模倣の力だ!』


 オーガ亜種の赤い目が短くなった黒い残骸へ向けられ、ほんの一瞬だけ驚いたように動きを止めた。


「今なら本体もいける!」


《魂力刃の維持を確認》


「まだ消えてないな!」


《周辺魂力からの供給が継続しています》


『このまま腕を斬り落とせ!』


 オーガ亜種が、残った黒い塊を横薙ぎに振るった。


「グオオオッ!」


 俺は身体を低く沈め、頭のすぐ上を通過する巨大な残骸を避けた。


 それでも、巻き起こった風圧だけで身体が横へ押される。


 残骸はそのまま背後の太い木へ激突し、幹を途中からへし折った。


 バキバキバキッ!


 さらに倒れた大木が周囲の幹を巻き込み、何本もの木が重なるように地面へ倒れ込んだ。


「直撃したら、本当に一発で終わるな……!」


『だから先に斬れ!』


「言われなくてもやる!」


 俺はオーガ亜種の懐へ一気に踏み込み、黒い岩のような装甲に覆われた右腕を狙った。


「はあああっ!」


 宝剣セレスティアを斜め下から振り上げると、青白い魂力刃が分厚い黒色装甲へ食い込んだ。


 ギギギギッ!


「硬い……!」


 剣の動きは途中で鈍ったものの、完全には止まらなかった。


『止めるな、我が主! 魂力刃なら切り抜けられる!』


「分かってる!」


 両手へさらに力を込めると、青白い刃が強く輝きながら、少しずつ黒い装甲の奥へ食い込んでいく。


 ザシュッ!


「グオオオオオッ!」


 ついに装甲の一部が割れ、その下にある赤黒い皮膚まで刃が届いた。


 傷口から大量の血が噴き出したものの、右腕そのものを切り落とすには至らなかった。


「浅くはない。でも、腕を落とすにはもう一撃必要だ!」


 オーガ亜種が、空いている左腕を大きく振り上げた。


《左腕による打撃動作を確認》


「まずい!」


「ケイ、下がって!」


 カコの声と同時に、小さな石が俺の横を飛び抜けた。


 オーガ亜種の左目を狙っていたらしいが、相手が顔を動かしたため、石は目から僅かに外れて、そのすぐ横へ当たった。


 ガツッ!


「グアッ!」


 痛みよりも突然の衝撃へ反応したように、オーガ亜種の顔が横へそれた。


 そのせいで振り下ろされた左拳も軌道を外し、俺のすぐ横の地面へ叩きつけられる。


 ドン!


 足元が大きく揺れ、湿った土が周囲へ飛び散った。


「助かった、カコ!」


「目には当たらなかった」


「目じゃなくても十分だ! あれがなかったら殴られてた!」


『ならば、もう一度右腕を斬れ!』


 宝剣の青白い魂力刃はまだ消えず、周囲から絶えず淡い光を吸収しながら、安定した形を保っている。


《魂力刃維持時間 _ _ 二十秒経過》


「本当に前よりずっと長いな!」


《ただし、使用者の筋力消耗が増大しています》


「どうりで腕が急に重くなってきたと思った!」


『まだ振れるだろう!』


「お前は俺の身体を何だと思ってるんだ!」


『我を振るための身体だ!』


「言い切るな!」


 オーガ亜種は右腕から血を流しながら、数歩後ろへ下がった。


 その時、皮膚の下を走っていた青白い光が、右腕の傷口へ集まり始める。


「傷が光ってる」


 カコも異変に気づいた。


「まさか、治してるのか?」


《対象内部の魂力が損傷部位へ集中しています》


 割れた黒い装甲の隙間から、粘るような黒い物質が伸び始めた。


 黒い物質は砕かれた部分を埋めるように広がりながら、傷口を少しずつ覆っていく。


「再生してるのか?」


《完全な肉体再生ではありません》


《魂力を利用し、損傷部位へ一時的な防護装甲を形成しています》


『ならば、完全に固まる前に斬れ!』


「言われなくても分かってる!」


 俺はもう一度オーガ亜種へ走り出した。


 だが、二歩目を踏み込んだ瞬間、治りかけていた右肩へ鋭い痛みが走った。


「っ……!」


 宝剣を握る腕が、一瞬だけ下がった。


「ケイ!」


「大丈夫だ! まだいける!」


「少しでも痛くなったら言う約束」


「今ちゃんと言っただろ! 痛いけど、まだ動かせる!」


「無理しない?」


「あと一撃で右腕を落とせるなら、その一撃だけだ!」


 オーガ亜種は、切断されて短くなった黒い残骸を、邪魔だというように投げ捨てた。


 ドン!


 巨大な塊が地面へ落ち、その重さだけで周囲の土が揺れた。


「武器を捨てた?」


《両腕部への魂力集中を確認》


 オーガ亜種の両手から黒い爪がさらに長く伸びていく。


 左右の腕を覆う岩状装甲も、青白い魂力を吸い込むように厚みを増していた。


「武器がなくなっても、今度は自分の腕そのものを武器にするのかよ」


『ならば、その腕を今度こそ完全に斬り落とせ!』


「それを簡単に言うな!」


 青白い刃は、まだ消えていない。


 だが、俺の両腕は明らかに最初より重くなり、肩の痛みも少しずつ強くなっていた。


 結界内の魂力が宝剣セレスティアを動かす力を補ってくれるとはいえ、実際に剣を握り、振るうのは俺自身の身体だ。


「魂力刃を長く維持できても、俺が何度でも振れるわけじゃないんだな」


《肯定します》


《武装への魂力供給量と、使用者の身体的耐久力は別問題です》


『我が主、右腕を落とすなら次の一撃だ!』


「本当に一撃で落とせるのか?」


『落とせ!』


「結局、俺次第じゃないか!」


 その時、カコが俺の隣へ並んだ。


「私が止める」


「止めるって、何をする気だ?」


 カコが背負っていた荷物へ手を入れ、取り出したのは、さっき狼型魔物にも使った火薬石だった。


「これを使う」


「近くで爆ぜたら、俺たちまで目が見えなくなるぞ」


 カコはオーガ亜種の向こうへ視線を向けた。


 少し離れた場所には、木の根に押し上げられた大きな岩が地面から露出している。


「後ろの岩へ投げる」


「オーガの頭を越えて、あの岩まで当てられるか?」


「できる」


「本当か?」


「岩は輪より大きい」


「やっぱり輪投げと同じ基準なのか!」


 オーガ亜種が身体を大きく沈め、両脚へ凄まじい力を込めた。


 その足元を中心に、湿った土へ何本もの深い亀裂が走る。


《突進動作を確認》


「来るぞ、カコ!」


「グオオオオオオッ!」


 オーガ亜種が地面を蹴ると、三メートルを超える巨体が、進路上の細い木々をへし折りながら一直線に迫ってきた。


「カコ!」


「今」


 カコが火薬石を全力で投げる。


 小さな石は突進してくるオーガ亜種の頭上を越え、狙いどおり、その背後に露出していた岩へぶつかった。


 カンッ!


 次の瞬間、強烈な白い光がオーガ亜種の背後から広がり、周囲の森を一瞬で照らし出す。


 カッ!


 続けて、乾いた大きな破裂音が響いた。


 パンッ!


「グアッ!」


 突然、自分の真後ろで発生した光と音に、オーガ亜種が反射的に振り向く。


 そのせいで突進の勢いがほんの一瞬だけ鈍り、俺からも視線が外れた。


「ケイ!」


「ああ!」


 カコは俺へ合図を送ると、オーガ亜種の突進経路から逃れるように横へ走った。


 俺は右肩の痛みを自覚したうえで、これを最後の一撃にすると決め、地面を蹴る。


 青白い魂力刃を維持する宝剣セレスティアを両手で強く握りしめ、最初の攻撃で深い傷を入れた右腕へ狙いを定めた。


 黒い装甲が完全に再形成される前に、今度こそ同じ場所を切り抜く。


『行け、我が主!』


 俺はオーガ亜種の懐へ一気に踏み込み、青白い光をまとった宝剣セレスティアを、傷ついた右腕へ向けて全力で振り上げた。

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