第45話 先生の手掛かりを追いたいのに、村で一週間の監視付き生活をすることになりました
「北には何があるんですか?」
今度は、ラウルが答えた。
「古い転移塔の跡がある」
「ただし、長い間動いていない」
《転移経路管理施設が存在した可能性があります》
「先生は、そこから結界へ戻ろうとしたのか?」
《可能性はあります》
「実際に戻れたかどうかは?」
《現地設備の状態を確認しなければ判定不能です》
カコは、静かに俯いた。
「先生は、戻ってない」
「でも、北で何かあったと決まったわけじゃない」
俺は、できるだけ落ち着いた声で言った。
「転移塔から別の場所へ飛ばされた可能性もある。少なくとも、先生は結界を出たあと、生きてこの村まで来たんだ」
俯いたままのカコへ向けて、さらに言葉を続ける。
「それは今まで分からなかった、新しい手掛かりだ」
「北の転移塔へ行けば、分かる?」
「何か残ってる可能性はあると思う」
カコは、すぐに顔を上げた。
「行く」
「今すぐは無理だ」
「どうして?」
「今一度、俺の身体を見てくれ」
俺は、新しい包帯だらけになった自分の身体を示した。
「この状態で村を出たら、途中で倒れるぞ」
「私が運ぶ」
「無理だろ」
「引っ張る」
「また木の根に何度もぶつかるだろ!」
『我を杖にすればよい!』
「剣を杖にするのか?」
『丁重に使え!』
「嫌だよ!」
それまで厳しい表情を崩さなかったオルドが、俺たちの会話を聞いて、初めてほんの少しだけ笑った。
「少なくとも、今日は村で休みなさい」
だが、オルドはすぐに表情を戻した。
「ただし、自由に歩き回ることは許可できない」
「まだ俺たちを疑ってるんですね」
「当然だ、閉ざされていた遺跡から突然現れ、意思を持つ古代武装と伝承に残る全書を連れている」
「そのうえ……」
オルドの視線が、再びカコへ向けられた。
「アエテルヌムの施設が、この少女へ反応したという」
カコが、自分の胸元へそっと手を当てた。
「私?」
《血統情報の一部が、施設登録情報と一致しています》
「何と一致している?」
《記録領域の損傷により、詳細は確認できません》
「だからこそ、慎重にならなければならない」
オルドは、机へ両手を置いた。
「我々の村は、代々遺跡を守ってきた。内部の物を持ち出さず、外の者を近づけず、眠っているものを再び起こさないために」
「でも、遺跡の内部には魔物がいました」
「それが問題だ」
ラウルが答えた。
「これまで、第三遺跡の内部から魔物が現れた記録はない。お前たちが内部を通ったことで、何かが変わった可能性がある」
「俺たちのせいだと言うんですか?」
「可能性を否定していないだけだ」
《論理的な判断です》
『紙束はどちらの味方だ!』
《事実の味方です》
『気に入らん!』
「俺も反論しにくくなるから、今は黙っててくれ」
オルドはしばらく俺たちを静かに見つめたあと、ゆっくりと息を吐いた。
「今すぐ結論を出す必要はない」
「どういう意味ですか?」
「お前は怪我をしている。その状態で村を追い出せば、森の中で死ぬ可能性が高い」
「そこまではっきり言わなくても……」
「事実だ」
《同意します》
『紙束は黙っていろ!』
「それに……」
オルドは、今度はカコへ視線を向けた。
「この娘からは、敵意を感じない」
「ケイにもない」
カコは、すぐに答えた。
「ケイは、私を守ってくれた」
「傷のほとんどは、その結果か?」
「うん」
「狼からも、六本腕からも、私を置いて逃げなかった」
「逃げる場所がなかっただけだよ」
俺がそう言うと、カコがこちらを見た。
「逃げなかった」
「……そうだな」
オルドは、俺たちのやり取りを静かに見守っていた。
「一週間だ」
「一週間?」
「ひとまず一週間、この村での滞在を認める。その間に傷を治し、我々も、お前たちが何者なのかを判断する」
「村の外へ出るのは?」
「許可しない」
「村の中は?」
「ラウルか、こちらが指定した者が同行する場合のみ認める」
「監視付きってことか」
「不満か?」
「弓を向けられ続けるよりは、ずっといいです」
『我は不満だ!』
「お前は発言しなくていい」
『なぜだ!』
「一番疑われてるからだよ!」
ラウルが、入口近くで腕を組んだ。
「滞在場所はどうする」
「治療所の隣にある空き家を使わせろ」
「旅人用の家ですか?」
「あそこなら治療所にも近い。エナも様子を見られる」
「分かりました」
オルドは、もう一度俺たちへ視線を向けた。
「北の転移塔については、傷が治ってから話す」
「地図も、その時にもらえますか?」
「その時に渡す」
カコが少し不満そうな顔をすると、俺は机の下でその手へそっと触れた。
「一週間だけだ」
「でも」
「今のまま出たら、俺が途中で動けなくなる」
「……うん」
カコの指が、俺の手を軽く握り返した。
「一緒に待って、一緒に行く」
「ああ、分かっている」
俺がそっと手を離そうとすると、カコの指が少しだけ強く握り返してきた。
「カコ?」
「まだ」
「まだ?」
「もう少し」
周囲には、オルドやラウルをはじめ、ほかの村人たちもいる。
「見られてるぞ」
「気にしなくていいって、ケイが言った」
「……そうだったな」
『我が主よ』
「何だよ」
『顔が赤いぞ』
「うるさい!」




