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『時環境界と四系統の継承者』  作者: あらけい
第一部 結界の森と、帰る場所

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45/125

第45話 先生の手掛かりを追いたいのに、村で一週間の監視付き生活をすることになりました

「北には何があるんですか?」


 今度は、ラウルが答えた。


「古い転移塔の跡がある」


「ただし、長い間動いていない」


《転移経路管理施設が存在した可能性があります》


「先生は、そこから結界へ戻ろうとしたのか?」


《可能性はあります》


「実際に戻れたかどうかは?」


《現地設備の状態を確認しなければ判定不能です》


 カコは、静かに俯いた。


「先生は、戻ってない」


「でも、北で何かあったと決まったわけじゃない」


 俺は、できるだけ落ち着いた声で言った。


「転移塔から別の場所へ飛ばされた可能性もある。少なくとも、先生は結界を出たあと、生きてこの村まで来たんだ」


 俯いたままのカコへ向けて、さらに言葉を続ける。


「それは今まで分からなかった、新しい手掛かりだ」


「北の転移塔へ行けば、分かる?」


「何か残ってる可能性はあると思う」


 カコは、すぐに顔を上げた。


「行く」


「今すぐは無理だ」


「どうして?」


「今一度、俺の身体を見てくれ」


 俺は、新しい包帯だらけになった自分の身体を示した。


「この状態で村を出たら、途中で倒れるぞ」


「私が運ぶ」


「無理だろ」


「引っ張る」


「また木の根に何度もぶつかるだろ!」


『我を杖にすればよい!』


「剣を杖にするのか?」


『丁重に使え!』


「嫌だよ!」


 それまで厳しい表情を崩さなかったオルドが、俺たちの会話を聞いて、初めてほんの少しだけ笑った。


「少なくとも、今日は村で休みなさい」


 だが、オルドはすぐに表情を戻した。


「ただし、自由に歩き回ることは許可できない」


「まだ俺たちを疑ってるんですね」


「当然だ、閉ざされていた遺跡から突然現れ、意思を持つ古代武装と伝承に残る全書を連れている」


「そのうえ……」


 オルドの視線が、再びカコへ向けられた。


「アエテルヌムの施設が、この少女へ反応したという」


 カコが、自分の胸元へそっと手を当てた。


「私?」


《血統情報の一部が、施設登録情報と一致しています》


「何と一致している?」


《記録領域の損傷により、詳細は確認できません》


「だからこそ、慎重にならなければならない」


 オルドは、机へ両手を置いた。


「我々の村は、代々遺跡を守ってきた。内部の物を持ち出さず、外の者を近づけず、眠っているものを再び起こさないために」


「でも、遺跡の内部には魔物がいました」


「それが問題だ」


 ラウルが答えた。


「これまで、第三遺跡の内部から魔物が現れた記録はない。お前たちが内部を通ったことで、何かが変わった可能性がある」


「俺たちのせいだと言うんですか?」


「可能性を否定していないだけだ」


《論理的な判断です》


『紙束はどちらの味方だ!』


《事実の味方です》


『気に入らん!』


「俺も反論しにくくなるから、今は黙っててくれ」


 オルドはしばらく俺たちを静かに見つめたあと、ゆっくりと息を吐いた。


「今すぐ結論を出す必要はない」


「どういう意味ですか?」


「お前は怪我をしている。その状態で村を追い出せば、森の中で死ぬ可能性が高い」


「そこまではっきり言わなくても……」


「事実だ」


《同意します》


『紙束は黙っていろ!』


「それに……」


 オルドは、今度はカコへ視線を向けた。


「この娘からは、敵意を感じない」


「ケイにもない」


 カコは、すぐに答えた。


「ケイは、私を守ってくれた」


「傷のほとんどは、その結果か?」


「うん」


「狼からも、六本腕からも、私を置いて逃げなかった」


「逃げる場所がなかっただけだよ」


 俺がそう言うと、カコがこちらを見た。


「逃げなかった」


「……そうだな」


 オルドは、俺たちのやり取りを静かに見守っていた。


「一週間だ」


「一週間?」


「ひとまず一週間、この村での滞在を認める。その間に傷を治し、我々も、お前たちが何者なのかを判断する」


「村の外へ出るのは?」


「許可しない」


「村の中は?」


「ラウルか、こちらが指定した者が同行する場合のみ認める」


「監視付きってことか」


「不満か?」


「弓を向けられ続けるよりは、ずっといいです」


『我は不満だ!』


「お前は発言しなくていい」


『なぜだ!』


「一番疑われてるからだよ!」


 ラウルが、入口近くで腕を組んだ。


「滞在場所はどうする」


「治療所の隣にある空き家を使わせろ」


「旅人用の家ですか?」


「あそこなら治療所にも近い。エナも様子を見られる」


「分かりました」


 オルドは、もう一度俺たちへ視線を向けた。


「北の転移塔については、傷が治ってから話す」


「地図も、その時にもらえますか?」


「その時に渡す」


 カコが少し不満そうな顔をすると、俺は机の下でその手へそっと触れた。


「一週間だけだ」


「でも」


「今のまま出たら、俺が途中で動けなくなる」


「……うん」


 カコの指が、俺の手を軽く握り返した。


「一緒に待って、一緒に行く」


「ああ、分かっている」


 俺がそっと手を離そうとすると、カコの指が少しだけ強く握り返してきた。


「カコ?」


「まだ」


「まだ?」


「もう少し」


 周囲には、オルドやラウルをはじめ、ほかの村人たちもいる。


「見られてるぞ」


「気にしなくていいって、ケイが言った」


「……そうだったな」


『我が主よ』


「何だよ」


『顔が赤いぞ』


「うるさい!」

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