第41話 先生の足跡を追った先で、アエテルヌムの印を受け継ぐ村を見つけました
「お前たちは、何者だ?」
俺は弓を構えた男の問いに答えようとしたが、何から説明すればいいのか一瞬迷った。
俺が異世界から来たことも、カコが誰も入れない結界の中で暮らしていたことも、初対面の相手へ簡単に話せる内容ではない。
ミメシスやコーデックス、背後にある古代施設についても同じだった。
しかも今の俺は、六本腕の防衛機兵との戦いで負った傷が開き、包帯の一部まで血で赤く染まっている。
「それを説明する前に……少し治療をさせてもらえないか?」
俺は肩や脇腹に巻かれ、血で赤く染まった包帯を指さした。
先頭の男は俺の傷へ視線を向けると、わずかに表情を変えた。
それから、森の中にいる仲間たちを見回した。
「ここで詳しい話を聞くわけにはいかない。治療が必要なら、村で受けさせる」
男は、再び俺たちへ向き直った。
「妙な動きをすれば、その場で射る」
「分かった。こっちから手を出すつもりはない」
『我は妙な動きなどしないぞ!』
「その剣は黙らせろ」
「できたら、とっくに苦労してない」
『我を何だと思っている!』
「騒がしい剣だ」
『そのままだ!』
先頭の男は、一瞬だけ呆れたような表情を浮かべた。
「……ついてこい」
俺はゆっくりと地面へ手を伸ばし、鞘ごと置いていたミメシスを拾い上げた。
その瞬間、周囲の男たちが一斉に弓を構え直した。
「剣を拾うだけだ。鞘から抜かない」
「ゆっくり動け」
「分かってる」
俺がミメシスを背中へ戻す間も、カコはすぐ横から離れずに立っていた。
コーデックスも、いつものようにカコの近くを静かに浮かんでいる。
「歩け」
武器を向けられたまま、俺たちは森の奥へ向かって歩き始めた。
村へ続く道は、森の中を緩やかに下る斜面に沿って伸びている。
少し下るたびに木々の隙間から見える景色が開け、斜面の下には人の暮らしがあるらしい建物の屋根が、いくつも見え始める。
何本もの細い煙が、まっすぐ空へ上っているのが見えて、カコは初めて目にする景色を、じっと見つめていた。
その下には木や石で造られた家々が少しずつ姿を現し、何軒もの家が並び、人の暮らす集落と畑が広がっている。
「村……」
村人たちが道を行き交い、遠くでは子供たちが走り回っていた。
結界の中でカコが暮らしていた場所には、一軒の家と畑、それを囲む森しかなかった。
これほど多くの人々が一か所で暮らしている光景を見るのは、おそらく初めてなのだろう。
カコは不安そうにしながらも、わずかに興味を宿した目で村を見つめていた。
前方に二人、左右に二人ずつ、さらに後方にも二人が続き、俺たちは八人に完全に包囲されている。
「ずいぶん警戒されてるな」
『我が主が怪しい顔をしているからではないか?』
「今は本当に黙っててくれ」
『小声ならよいか?』
「駄目だ」
『厳しいな』
先頭を歩いていた男が、こちらを振り返った。
「本当に剣が自分で喋っているのか?」
「ああ。黙れって言っても、ほとんど聞かない」
『我には話す自由がある!』
「こういう感じだ」
「……なるほど」
男はそれ以上何も言わなかったが、こちらへ向ける目には、さらに強い警戒が浮かんでいた。
森の中をしばらく歩く間も、カコは俺の服の裾を掴んだまま離さなかった。
「疲れてないか?」
「大丈夫」
「怖い?」
「少し」
「俺から離れなければ大丈夫だ。何かあったら一緒に考える」
「うん」
カコが小さく頷いた。
そして村へ近づくにつれて、俺はあることに気づいた。
入口に立つ柱や家の扉、村人たちが身につけている首飾りなど、いくつもの場所に同じ紋章が刻まれている。
円を囲むように三本の細い線が伸びた、先ほど見たものと同じ印だった。
コーデックスが、アエテルヌムの施設管理紋章と七十二パーセント一致すると判断した紋章だ。
「本当に、この村全体であの印を使ってるんだな」
《確認します》
《複数箇所に類似紋章を検出しています》
『古代文明の名残かもしれんな』
「先生と何か関係がある可能性もあるのか?」
《現時点では判断できません》
「話すな」
先頭の男は前を歩いたまま、鋭い声で言った。
「悪い。でも、この印が俺たちにとって重要なんだ」
「村へ着くまで黙っていろ」
「分かった」
『我も……』
「お前も黙れ」
『まだ何も言っていないぞ!』
こうして俺たちは先生の手掛かりを追い、古代施設から結界の外へ出た。
しかし、その先で待っていたのは、自由な旅ではなかった。
武器を向けられ、周囲を囲まれたまま連れていかれた先は、カコが初めて目にする、人々の暮らす村だった。
そして、その村では古代文明アエテルヌムの印が、形を変えながら今も受け継がれているらしい。
俺たちは先生の痕跡を追った先で、遺跡を守っていると思われる見知らぬ村へ、足を踏み入れることになった。




