↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『時環境界と四系統の継承者』  作者: あらけい
第一部 結界の森と、帰る場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/127

第40話 古代施設を抜けたら、カコが初めて本当の外の空を知りました

 長い坂道を上り続けていると、やがて前方に小さな白い光が見えてきた。


「出口だ」


 そこへ近づくほど、吹き込んでくる風は少しずつ強くなっていった。


 草と湿った土の匂いに混じり、遠くからは鳥の鳴き声も聞こえてくる。


 長い間歩き続けてきた古代施設の、冷たく淀んだ空気とは何もかもが違っていた。


 最後の角を曲がると、その先には古びた石造りの扉があった。


 扉は半分ほど崩れており、開いた隙間から緑の葉や蔦が中まで入り込んでいる。


 先生のものと思われる足跡は、石造りの扉の手前まで続き、そこで薄い埃とともに途切れていた。


「先生も、ここから外へ出たんだな」


「うん」


 俺は出口を塞いでいた小さな瓦礫を、一つずつ押しのけた。


 その瞬間、まぶしい光が一気に目へ飛び込んできた。


「まぶしっ……!」


 目を細めながら外へ一歩踏み出すと、そこには深い森が広がっていた。


 巨大な木々が何本も立ち並び、その隙間から柔らかな木漏れ日が降り注いでいる。


 足元には背の低い草や小さな花々が広がり、遠くからは小川らしい水の流れる音が聞こえていた。


 振り返ると、俺たちが出てきた場所には、崩れかけた石造りの建物が残っていた。


 表面は蔦と苔に覆われており、少し離れて見れば、ただの岩場か森の一部にしか見えないだろう。


「これが……外」


 カコはゆっくりと施設の外へ出ると、その場で周囲を見回した。


「空が広い」


「結界の中にも空はあっただろ?」


「違う」


「何が違う?」


「分からない」


 カコは、木々の隙間から覗く青い空を見上げた。


「でも、違うよ」


 カコは、ずっと行きたいと願っていた結界の外の世界に、ようやく自分の足で立っていた。


 けれど、ただ喜んでいるわけではない。


 見知らぬ景色や聞いたことのない鳥の声、結界内とは異なる風のすべてへ、少し不安そうな視線を向けていた。


 俺の服を掴んでいる手にも、自然と力が込められている。


「離れないから大丈夫だ。まずは先生の手掛かりを探そう」


「うん」


『それよりも、まず武器を探せ!』


「外へ出て最初に言うことがそれなのか?」


『強い武器は、どこに眠っているか分からんからな!』


《周辺に古代製武装の反応は確認できません》


『聞いていないぞ、紙束!』


「せっかく教えてくれたんだから、少しくらい感謝しろ」


『余計な報告だ!』


 その時、コーデックスが突然、森の奥へ向きを変えた。


《警告します》


「何だ?」


《複数の生命反応が接近しています》


「魔物か?」


《判別不能》


「数は?」


《八》


「八もいるのか。いったん隠れるぞ」


 俺はカコを連れ、近くにある太い木の陰へ移動しようとした。


 だが、その前に森の中から鋭い声が飛んできた。


「動くな!」


 直後、風を切る音とともに、何本もの矢が俺たちの周囲へ次々と突き刺さった。


「もう囲まれてるのか!」


『斬るか!』


「待て! まだ何もするな!」


 木々の陰から、一人、また一人と武装した人間たちが姿を現した。


 全員が革製の鎧を身につけ、弓や槍、短剣を俺たちへ向けている。


 その先頭に立っていたのは、濃い茶色の髪をした二十代ほどの男だった。


 男の頬には、細長い傷跡が一本残っている。


「両手を、見える場所へ出せ!」


 俺は相手を刺激しないように、ゆっくりと両手を肩の高さまで上げた。


「こっちは怪我人だ! 戦うつもりはない!」


「背中の剣を捨てろ!」


『我を捨てるな!』


「お前は黙ってろ!」


 男たちの表情が、一斉に険しいものへ変わった。


「今……剣が喋ったか?」


「俺にも聞こえた」


「魔物の道具かもしれないぞ」


『誰が魔物の道具だ!』


「だから黙ってろって言ってるだろ!」


 弓を構えた者たちは、指にさらに力を込めて弦を引き絞った。


 まずい。このままでは、ミメシスが一言喋るたびに相手の警戒が強まってしまう。


 俺はできるだけゆっくりと右手を背中へ回し、ミメシスを鞘ごと外した。


 そのまま身体を低くし、相手から見える位置へ静かに横たえる。


『我が主!?』


「少しだけ静かにしてろ。何もしないって見せないと話ができない」


『我を敵の前で地面へ置くな!』


「だから静かにしろ!」


「ケイ」


 カコが不安そうな表情を浮かべ、俺の服をそっと掴んだ。


「大丈夫だ。今は何もしない方がいい」


 そう言ったものの、俺自身、この状況をどう切り抜ければいいのか分からなかった。


 周囲には八人の武装した人間が立ち、背後には森に隠された古代施設がある。


 その時、俺は彼らが身につけている革鎧の胸元へ目を向けた。


 全員の胸には、円を囲むように三本の細い線が刻まれた、同じ印がある。


 どこかで見た覚えのある、不思議な紋章だった。


「コーデックス、あの胸の印を知ってるか?」


《確認します》


 コーデックスのページに、青白い文字が高速で流れ始めた。


《照合します》


《アエテルヌム施設管理紋章と、七十二パーセント一致》


「古代文明の印と似てるのか?」


《長期間にわたり、簡略化または変形した可能性があります》


 その言葉を聞いた瞬間、先頭に立つ男が驚いたように目を見開いた。


「アエテルヌム……?」


 周囲にいた人々が、一斉にざわつき始めた。


「今、あの本は何と言った?」


「施設管理紋章……」


「まさか、本当に……」


「遺跡の中から出てきたのか?」


 先頭の男の視線が、俺からカコへ移った。


 その隣にはコーデックスが浮かび、俺の足元ではミメシスが騒ぎたそうに震えている。


 さらに背後には、古代施設の崩れかけた出口まで残っていた。


 誰が見ても、俺たちは普通の旅人には見えないだろう。


 男は弓を構えたまま、低い声で尋ねた。


「お前たちは、何者だ?」


 俺が隣にいるカコへ目を向けると、カコもこちらを見上げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。