第35話 三つの新しい武器を使いながら、カコの停止命令が通るまで耐えます
六本腕の機兵は、自らの身体へ飛びついていた狼型魔物を力任せに振り払った。
続けて大鎚を横薙ぎに振るい、狼型魔物の胴体へ直撃させる。
ドォン!
「ギャアッ!」
狼型魔物は床を何度も転がり、そのまま動きを止めた。
その直後、機兵の頭部に灯る赤い光が、再び俺へ向けられた。
【最優先排除対象 _ _ 確認】
「結局、一番狙われるのは俺なのかよ!」
『誇れ!』
「絶対に嫌だ!」
機兵は床を蹴り、六本の腕を大きく広げたまま俺へ突進してきた。
残る狼型魔物たちも、俺と機兵の周囲を走り始める。
真正面から槍が迫り、右からは狼の牙が襲いかかる。さらに左から、三日月形の刃が勢いよく振り抜かれた。
「逃げ場がない!」
『新しい槍を使え!』
ミメシスが黒い靄に包まれ、穂先と柄が大きく形を変えていく。
現れたのは、これまで使っていた施設警備用の槍よりも、さらに太く長い柄を持つ槍だった。
先端には細長く鋭い穂先が伸び、青白い光の線がその切っ先へ向かって流れている。
――重装穿孔槍。
「おっ……重い!」
『その分、威力も高い!』
機兵の長槍が迫る中、俺は重装穿孔槍を斜めに構えた。
ギィン!
二本の槍が激突し、激しい金属音と火花が広間へ散る。
以前の槍なら、完全に力負けしていた。
だが今度は完全には受け止めきれなくても、機兵の穂先を横へ逸らすことができた。
「これなら、少しは戦える!」
だが、その直後、右側から狼型魔物が飛びかかってきた。
「グルアアッ!」
俺は機兵の槍を受け流した勢いをそのまま利用し、重装穿孔槍を横薙ぎに振り抜いた。
太い柄が狼型魔物の顔面へ直撃する。
ガンッ!
「ギャウッ!」
狼型魔物が床を転がった隙に、三日月形の刃が横薙ぎに振り抜かれた。
「くっ!」
俺は身体を後ろへ反らし、胸元すれすれを通過する鋭い刃を避けた。
さらに魂導砲がこちらを向き、筒の先端へ青白い光が集まり始める。
「いい加減にしろ!」
『撃たれる前に動け!』
俺は機兵の横へ向かって走り、魂導砲の射線から逃れようとした。
だが、その先端は動く俺を正確に追い続ける。
そこへ、傷ついた狼型魔物が飛び込んできた。
「グルアアッ!」
狼型魔物は俺ではなく、機兵が構える魂導砲へ噛みついた。
ガキン!
鋭い牙に弾かれ、魂導砲の先端が大きく横へ逸れる。
その瞬間、機兵が放った青白い魂力弾が、轟音とともに俺のすぐ横を通過した。
ドンッ!
逸れた魂力弾は、その先にいた別の狼型魔物へ直撃した。
「ギャアアアッ!」
狼型魔物は激しい勢いで壁へ叩きつけられ、力なく床へ崩れ落ちた。
「敵同士で減ってくれてる!」
『よい流れだ!』
機兵は長剣を振るい、魂導砲へ噛みついていた狼型魔物を斬り払った。
吹き飛ばされた狼型魔物は俺の足元まで転がってきたが、まだ息がある。
赤く光る目が、まっすぐに俺を捉えた。
「こいつ、まだ生きてる!」
『今は機兵を止める方が先だ!』
「止めるのはカコだ! 俺はそれまで耐える!」
少し離れた場所では、大鎚で吹き飛ばされていたもう一匹も、ふらつきながら身体を起こしていた。
障壁の内側では、カコが制御台に置いた両手を中心に、青白い光が広がっていた。
【血統情報 _ _ 一部一致】
【緊急避難権限 _ _ 有効】
【仮認証処理 _ _ 継続】
「まだなのか!」
《認証処理中です》
六本腕の機兵が振り下ろした長剣を、俺は重装穿孔槍で受け止めた。
ガキン!
重い衝撃に両腕が痺れ、槍を握る指が外れそうになる。
続けて大鎚が迫り、俺は咄嗟に横へ跳んだ。
振り下ろされた大鎚が黒い床を砕き、大量の破片が周囲へ飛び散る。
その破片の中を駆け抜け、一匹の狼型魔物がカコの障壁へ向かって走り出した。
「カコ!」
狼型魔物が光の壁へ飛びかかり、激しい音とともに弾き返された。
バァン!
「ギャウッ!」
狼型魔物は強く弾き返されたが、すぐに立ち上がって再び障壁へ向かう。
俺はそれを追うため、勢いよく床を蹴った。
「させるか!」
俺は狼型魔物へ向かって走り込んだ。
背後からは、機兵の足音が重い金属音を響かせながら近づいてくる。
ガン。
ガン。
ガン。
「機兵も来る!」
『狼と位置を入れ替えろ!』
「どうやって!」
『攻撃される寸前まで待て!』
「危険すぎる!」
正面からは狼型魔物が大きく口を開けて迫り、背後からは六本腕の機兵が追ってくる。
さらに機兵は長槍を構え、俺の背中へ狙いを定めていた。
「まだか……!」
鋭い牙が、目の前まで迫っていた。
『今だ!』
俺は身体を横へ投げ出し、迫る牙を紙一重で避けた。
狼型魔物が俺のいた場所へ飛び込んだ直後、背後から機兵の長槍が鋭く突き出される。
ズドッ!
「ギャアアッ!」
黒い穂先が狼型魔物の肩を貫いた。
魔物は激しく暴れながら槍へ噛みつき、機兵の動きを止めた。
『我が主!』
「今度は何だ!」
『宝剣セレスティアへ変えろ!』
重装穿孔槍が黒い靄に包まれ、長い柄が急速に縮んでいく。
代わりに細身の刀身が伸び、鍔が翼を広げたような形へ変化した。
黒を基調とした姿は変わらないが、刀身の中央には青白い線が走り、柄には宝石を模した光の核が浮かんでいる。
ミメシスは、宝剣セレスティアを模倣した姿へ変わった。
「どうする!」
『魂力刃を使え! 機兵の脚にある傷を斬れ!』
俺は宝剣を両手で握り、刀身へ魂力を流し込んだ。
《魂力刃形成機構 _ _ 起動》
刀身の中央を走る線が強く輝き、実体の刃を覆うように青白い光の刃が形成された。
同時に、手のひらから腕へ、力を吸い取られるような感覚が伝わってくる。
「くっ……やっぱり負担が大きい!」
『数秒あれば十分だ! 早く斬れ!』
俺は動きを止めた機兵の脚へ、青白い刃を勢いよく振り下ろした。
ガギィン!
魂力刃が黒い装甲へ食い込み、これまでの攻撃とは比べものにならないほど深い傷を刻んだ。
「斬れる!」
『同じ場所だ!』
二撃目を同じ亀裂へ正確に叩き込む。
ガンッ!
青白い刃が亀裂の奥まで入り込み、機兵の片脚の膝関節がわずかに折れて、その巨体が大きく揺れた。
【歩行機構損傷 _ _ 確認】
直後、魂力刃が一度大きく揺らぎ、刀身の周囲から消えた。
「もう消えたのか!」
『二度も斬れたなら十分だ!』
機兵の赤い光が、俺へぴたりと固定された。
【最優先排除対象の脅威度 _ _ 増加】
「余計に狙われるようになった!」
『効いている証拠だ!』
機兵が頭上から長剣を振り下ろし、俺は横へ跳んで避けた。
続けて迫る大型の斧を、宝剣セレスティアを模倣した黒い剣で受け流したが、三日月形の刃が背中を掠める。
「ぐっ……!」
背中に新たな傷が刻まれ、熱い血が流れ出す。
それでも、中央制御区画から離れるわけにはいかなかった。
「カコ、まだか!」
【血統情報 _ _ 仮認証】
広間全体に、機械的な音声が響き渡った。
【緊急停止命令の入力 _ _ 許可】
【名称の回答 _ _ 要求】
《カコ。あなたの名前を入力してください》
「カコ!」
カコは制御台に両手を置いたまま、大きな声で答えた。
「私の名前は、カコ!」
【名称 _ _ 確認】
【停止対象 _ _ 指定要求】
カコが、六本腕の機兵へ顔を向けた。
「六本腕の、大きいの!」
【対象指定 _ _ 識別不能】
「こんなときに細かい!」
【正式名称または識別番号を使用してください】
「コーデックス!」
《多腕式防衛機兵・識別番号六号です》
「長い!」
機兵が長槍を構え、俺の胸へ狙いを定めた。
「多腕式防衛機兵、六号!」
《停止命令を入力してください》
「止まって!」
カコの声が、部屋全体へ力強く響き渡った。
【命令 _ _ 確認】
【血統権限 _ _ 仮認証】
【緊急避難権限 _ _ 有効】
【停止処理 _ _ 開始】
だが、六本腕の機兵は止まらず、むしろ俺へ向かって勢いよく床を蹴った。
「まだ止まらないのか!」
《停止処理中です》
傷ついた片脚を引きずっているにもかかわらず、機兵の速度はほとんど落ちていない。
長槍、長剣、大斧の三つが、同時に俺へ向けられた。
「避けられない!」
『宝剣を構えろ!』
「三つも同時に受けられるか!」
『一つだけ止めろ!』
「残りはどうする!」
『避けろ!』
「無茶だ!」
機兵の長槍が、まっすぐ俺の胸へ迫る。
俺は宝剣の黒い刀身を横に構え、その一撃を正面から受け止めた。
ガキン!
刀身へ伝わるあまりの重さに、両腕が軋む。
さらに横から大斧が迫り、俺は身体を強引にひねった。
「くっ!」
大斧が肩を掠め、服と包帯をまとめて切り裂いた。
その直後、長剣が俺の首を狙って振り抜かれる。
もう避けられない。
「ケイ!」
カコの声が響いた瞬間、俺の首へ迫っていた長剣が突然止まった。
刃は首まで指一本分のところで、完全に静止している。
それだけではない。
胸元へ押しつけられていた長槍も、肩を掠めた大斧も、その先で動きを止めていた。
「……止まった、のか?」
機兵の六本の腕がすべて動きを止め、頭部に灯っていた赤い光が青白い光へ変わっていく。
【停止処理 _ _ 完了】
長剣、長槍、大鎚、大斧、三日月形の刃、魂導砲。
六つの武器が一つずつ下げられ、巨大な機体がその場で片膝をついた。
カンッ。
最後に機兵の頭部が力なく下がり、中央制御台のカコへ跪いているような姿になる。
六本腕の防衛機兵は、今度こそ完全に停止した。




