第33話 六本腕の防衛機兵へ狼型魔物をぶつけたら、三つ巴の戦いになりました
「コーデックス、狼型の魔物がここへ来るまで、どれくらいかかる?」
《経路上の隔壁を順次開放中です》
「全部開けるつもりなのか!?」
《現在地までの最短経路を形成します》
『紙束にしては、なかなか大胆なことをするではないか!』
《戦力差を埋めるための合理的判断です》
『我が主だけでは戦力が足りぬと言いたいのか!』
《肯定します》
『貴様ぁ!』
「事実だから今は怒るな!」
遠く離れた通路の奥から、狼型魔物の咆哮が聞こえてきた。
「グルアアアアッ!」
一匹ではない。
何匹もの狼型魔物の咆哮が通路へ反響しながら、少しずつこちらへ近づいていた。
防衛個体の赤い光が、一瞬だけ入口側へ向けられる。
【複数侵入個体 _ _ 検出】
【排除対象 _ _ 追加】
「反応した!」
《カコ、中央制御台へ進んでください》
「でも、ケイが……」
「行け! 魔物がここへ来たら、もっと危険になる!」
俺は防衛個体から目を離さないまま、声を張り上げた。
「ケイも来て」
「こいつを止めたら、すぐそっちへ行く!」
カコは唇を噛んだが、それでも覚悟を決めたように中央制御台へ向かって走り始めた。
防衛個体の赤い光がカコの姿を追い、巨体もそちらへ向きを変えようとする。
「させるか!」
俺は防衛個体の脚へ向けて槍を突き出し、先ほど何度も傷をつけた場所へ穂先を叩き込んだ。
ガキン!
黒い装甲に刻まれた亀裂がわずかに広がり、赤い光が再び俺へ向けられる。
【最優先排除対象 _ _ 再確認】
「そうだ。そのまま俺だけ見てろ!」
俺が長槍を構えると、防衛個体の六本の腕が一斉に動いた。
長剣、長槍、斧、大鎚、三日月形の刃、魂導砲。
六つすべての武器が、俺へ向けられる。
「そ・れ・は、さすがにズルいだろ!」
『人気者だな、我が主!』
「こんな人気はいらない!」
六つの攻撃が一斉に迫り、俺は後方へ大きく跳んだ。
長剣が胸の前を通過し、続いて突き出された槍を長槍で受け流す。
斧は身体をひねって避けたが、大鎚が黒い床を砕き俺は引き飛び、三日月形の刃が足元を横薙ぎに通過した。
そして、綺麗に着地をした俺へ青白い魂力弾が迫る。
「避けられない!」
俺は長槍を正面に構え、迫る魂力弾を迎え撃った。
『貫通補助を使え!』
「魂力弾を受け止められるのか?」
『分からん!』
「またそれか!」
『だが、やるしかないだろ!』
構えた長槍へ、青白い光が流れ始めた。
【貫通補助機構 _ _ 一時起動】
俺は放たれた魂力弾へ向かって、長槍の穂先を真正面から突き出した。
ドォン!
「ぐあああっ!」
魂力弾が穂先へ激突して、凄まじい衝撃が両腕を貫き、俺の足は黒い床の上を滑っていった。
『押し返せ!』
「無茶を言うな!」
『我が主ならできる!』
「根拠は何だ!」
『我が選んだ、我が主だからだ!』
「それだけかよ!」
押し込まれる力に耐えきれず、長槍が大きく震え始めた。
青白い魂力弾が目の前で膨れ上がったその時、入口側の通路から一匹の狼型魔物が飛び込んできた。
「グルアアアッ!」
先頭を走っていた一匹が、俺の背中へ向かって飛びかかってくる。
『後ろだ、我が主!』
「見えない!」
振り返る余裕はなく、目の前には魂力弾、背後からは鋭い牙が迫っている。
だが、防衛個体の赤い光が、突然俺の後ろへ向けられた。
【新規侵入個体 _ _ 確認】
【排除対象 _ _ 追加】
魂導砲の照準がわずかに揺れ、魂力弾が俺を押し込む力も一瞬だけ弱まった。
「今だ!」
俺は長槍を横へ振り抜き、青白い光の軌道を無理やりずらした。
魂力弾は俺の肩を掠め、そのまま背後から飛びかかってきた狼型魔物へ直撃する。
バァン!
「ギャアアッ!」
灰色の巨体が勢いよく吹き飛び、その後ろから二匹目、三匹目、四匹目の狼型魔物が次々と広間へ飛び込んできた。
《侵入個体数 _ _ 四》
「四匹も入れたのか!」
《必要戦力を概算しました》
「多すぎる!」
《不足する可能性もあります》
「だから増やすなよ!」
《経路上の隔壁を閉鎖します》
遠くで重い扉が次々と閉まり、その音が通路全体へ響き渡った。
ゴン!
ゴン!
ゴン!
後続の魔物たちが上げる咆哮は、閉じた隔壁の向こうへ遮られていく。
『四匹だけ通したのか?』
《侵入速度と必要戦力から算出しました》
『……悪くない判断だ、全書』
《評価を受理します》
『だが、我が主まで巻き込んだ! 次からは先に説明しろ、紙束!』
「今は喧嘩してる場合じゃない!」
二匹目の狼型魔物が、六本腕の防衛個体へ飛びかかった。
大きく開かれた口が機兵の肩へ食らいつき、牙と装甲の間から激しい火花が飛び散る。
ガキン!
装甲にはほとんど傷がつかなかったが、狼型魔物の重さで機兵の上半身がわずかに傾いた。
その直後、右上の腕に握られた長剣が動く。
ザンッ!
「ギャウッ!」
狼型魔物は肩を深く斬られ、そのまま黒い床へ転がった。
そこへ右下の腕に握られた大鎚が、容赦なく振り下ろされる。
ドォン!
激しい衝撃とともに、広間の黒い床が大きく揺れた。
「一匹倒された!」
『だが、隙ができた!』
三匹目の狼型魔物が機兵の背後へ回り込み、その脚へ鋭い牙を立てた。
その一方で、四匹目の狼型魔物は俺へ向かって走ってくる。
「結局、俺も狙うのかよ!」
『三つ巴だからな!』
「楽しそうに言うな!」
俺が長槍を構えると、狼型魔物が勢いよく飛びかかり、その牙を柄へ食い込ませた。
ガキン!
狼型魔物は長槍へ噛みついたまま、激しく首を振り始める。
「ぐっ……!」
狼型魔物に引っ張られ、右脇の傷へ再び鋭い痛みが走った。
そこへ、六本腕の機兵が持つ三日月形の刃が横薙ぎに迫る。
「危ない!」
俺は槍から片手を離し、身体を後ろへ大きく反らした。
鋭い刃が俺の胸元を掠め、そのまま槍に噛みついていた狼型魔物の鼻先を切り裂いていく。
「ギャアッ!」
狼型魔物は、噛みついていた槍の柄から牙を離した。
「助かった……いや、違うな」
『機兵は、我が主ごと斬ろうとしたぞ!』
「分かってる!」
防衛個体は六本の腕を別々に動かし、俺と狼型魔物たちを同時に攻撃していた。
長剣が一匹を斬り、斧が別の一匹を追う中、大鎚が黒い床を砕く。
三日月形の刃は俺の足元を薙ぎ、長槍は俺と狼型魔物の間を行き来するように穂先を揺らしていた。
さらに、魂導砲の先端へ再び青白い光が集まり始める。
《防衛個体の処理負荷が上昇》
「コーデックス!」
《何ですか》
「今のうちにカコを中央制御台まで連れていけ!」
《了解します》
「カコ!」
壁際へ視線を向けると、カコはコーデックスとともに、再び中央制御台へ向かって走り始めていた。
だが、一匹の狼型魔物が機兵の斧を避けると、カコへ向かって進路を変えた。
「カコ、後ろ!」
カコが振り返った瞬間、狼型魔物は一気に距離を詰めてきた。
《中央制御区画への到達を確認》
カコは黒い台のある区画へ飛び込み、その隣でコーデックスが大きくページを開いた。
《緊急避難権限 _ _ 使用》
《局所防護障壁 _ _ 展開》
中央制御区画の周囲へ青白い光が走り、無数の六角形が組み合わさって透明な壁を形成した。
直後、狼型魔物が光の障壁へ勢いよく飛びかかる。
バァン!
「ギャウッ!」
狼型魔物は障壁に弾かれ、勢いよく後方へ吹き飛ばされた。
「カコ!」
「大丈夫!」
障壁の内側ではカコが立ち上がり、その隣でコーデックスが青白い光を放っていた。
『よくやった、全書!』
《評価を受理します》
『小娘を守ったことへの感謝だ!』
《感謝として受理します》
『今のは言葉の勢いだ! 調子に乗るな、紙束!』
「言い切ったあとに戻すな!」
カコは守られた。
これで俺も、目の前の戦いに集中できる。




