第32話 六本腕の防衛個体と戦っていたら、コーデックスが狼型魔物まで呼び込みました
『紙束! 小娘を守れ!』
《可能な範囲で実行します》
『絶対に守れ!』
《あなたからの命令権限は確認できません》
『こんな時まで一言多い!』
「ミメシス!」
『分かっている!』
防衛個体の赤い光が、わずかにカコの方へ向けられた。
「こっちを見ろ!」
俺は床を強く蹴って近づき、防衛個体の脚へ向かって斬りかかった。
ガキン!
振り抜いた黒い刃が、脚部を覆う分厚い装甲へ激しくぶつかった。
「硬い!」
『同じ場所を狙え! 傷を重ねろ!』
「分かった!」
二度目も同じ場所へ刃を叩きつけ、続けて三度目の斬撃を振り下ろした。
ガキン!
ガキン!
三度目の攻撃でようやく、黒い装甲の表面に髪の毛ほどの細い傷が刻まれる。
宝剣セレスティアの形へ変われば、もっと深い傷を与えられるかもしれない。
だが、魂力刃を維持できるのは数秒だけだ。
今は防衛個体を倒すことより、カコが中央制御台へ到達するまで攻撃を引きつける方が先だった。
それと同時に、防衛個体の赤い光が再び俺へ向けられた。
【最優先排除対象 _ _ 確認】
『見たか、我が主! 完全にこちらを見たぞ!』
「喜ぶところじゃない!」
右上の長剣と左中央の腕が持つ三日月形の刃が、左右から同時に迫ってきた。
俺は後ろへ下がって二つの刃を避ける。
だが、その直後には長い槍が真正面から鋭く突き出された。
「逃げ場がない!」
『槍になれと言え!』
「ミメシス、長槍になれ!」
『任せろ!』
ミメシスの刀身から黒い靄が一気に溢れ出し、刃が縮むと同時に柄が長く伸びていく。
その姿は、ミメシスが先ほど模倣した施設警備用の黒鋼の長槍へと変わった。
俺は黒鋼の長槍の柄を黒い床へ強く突き立て、その反動を利用して棒高跳びのように身体を浮かせる。
正面から突き出された防衛個体の長槍が、俺の持つ長槍の柄へ激しくぶつかった。
ギィン!
凄まじい衝撃に押され、俺の身体は黒鋼の長槍を軸にして大きく回転する。
直後、左右から振るわれた長剣と三日月形の刃が、空中で回転する俺の足元を激しく交差した。
「危なっ!」
『今だ!』
俺は空中で回転する勢いで、防衛個体の頭部へ蹴りを叩き込んだ。
ガン!
「硬っ……!」
蹴りを叩き込んだ足に鋭い痛みが走ったが、防衛個体は微動だにしなかった。
『なぜ蹴った!』
「何か効くかと思ったんだよ!」
『槍を使え!』
「先に言ってくれ!」
身体が落下し、床へ着地した瞬間、横から振るわれた大鎚が迫ってきた。
「くそっ!」
俺は長槍を横へ構え、迫る大鎚を受け止めた。
ドン!
凄まじい衝撃が長槍越しに伝わり、俺の身体は勢いよく横方向へ吹き飛ばされた。
「ぐあっ!」
俺は背中から床へ転がり、その衝撃で肩の傷が開いた。
巻いていた包帯へ、赤い血がじわりと滲んでいく。
「ケイ!」
カコの声が聞こえ、そちらへ視線を向ける。
カコたちは壁沿いを半分ほど進んでいたが、広間中央の制御台まではまだ距離があった。
「見るな! そのまま進め!」
「でも、血が出てる!」
「止まってる!」
『止まっていないぞ!』
「お前は黙ってろ!」
防衛個体が、再び俺へ向かって近づいてくる。
右中央の腕に握られた長槍は、俺の持つ槍よりも長く、さらに太い。
その表面には、複雑な青い線が幾重にも走っていた。
『あれを模倣するぞ!』
「今この状況でか!?」
『今しかない!』
「触れたら、そのまま刺されるだろ!」
『我だけを触れさせればよい!』
「それが簡単じゃないって言ってるんだ!」
防衛個体の槍が鋭く突き出され、俺は黒鋼の長槍を斜めに構えて受け流した。
ギィン!
互いの穂先が触れ合った瞬間、ミメシスから黒い靄が一気に溢れ出す。
『捕らえたぞ!』
「何を!?」
黒い靄が触れ合った所から防衛個体の長槍へ伸び、細い筋となってその表面を一気になぞっていく。
【武装情報 _ _ 検出!】
【種別 _ _ 長槍!】
【解析 _ _ 開始】
だが、防衛個体が槍を強く引いたことで、伸びていた黒い靄は途中で引きちぎられた。
『接触時間が足りん! 模倣失敗だ!』
「無理だ! 次が来る!」
頭上から斧が振り下ろされ、俺は横へ転がって攻撃を避けた。
ドン!
斧が黒い床を砕いた直後、三日月形の刃が横薙ぎに振るわれ、俺の頭すれすれを通り過ぎる。
さらに間を置かず、長剣の切っ先が俺の胸へ向かって真っすぐに突き出された。
『我が主!』
「分かってる!」
俺は槍の柄を使って長剣を受け流したが、完全には逸らしきれなかった。
切っ先が脇腹を掠めて服を裂き、傷口に熱い痛みが走る。
「くっ……!」
俺は片膝を床についた。
その頭上では、防衛個体が大鎚を持ち上げようとしていた。
「ケイ!」
カコの声が広間へ響くと同時に、その隣に浮かんでいたコーデックスが大きくページを開いた。
《代替策を実行します》
「何をする気だ!」
《私が保管されていた記録保管庫の副搬入口へ接続》
《外部隔壁を遠隔開放します》
「外部隔壁って……まさか!」
『あの狼どもを閉じ込めていた扉か!』
コーデックスの開かれたページに、記録保管庫の副搬入口が映し出された。
遠く離れたその場所では、何匹もの狼型魔物が、黒い扉を今も引っかき続けていた。
ガリガリガリッ!
《記録保管庫・副搬入口を開放》
ゴゴゴゴゴ……。
狼型魔物たちの目の前で、黒い扉がゆっくりと開き始めた。
「あそこを開けたら、魔物が中へ入ってくるだろ!」
《その目的で開放しました》
「何を考えてるんだ!」
《追跡個体を、現在地へ誘導します》
《移動経路上にある扉を、順次開放》
「俺たちまで襲われるぞ!」
《防衛個体は侵入者を排除します》
「俺たちも侵入者だろ!」
《肯定します》
「肯定するな!」
頭上から、巨大な大鎚が勢いよく振り下ろされた。
「くっ!」
俺が床を蹴ってその場を離れた直後、大鎚が黒い床へ叩きつけられた。
砕けた破片と凄まじい衝撃に押され、俺の身体は勢いよく吹き飛ばされる。
「ぐあっ……!」
『我が主よ、立て!』
「分かってる!」
俺は長槍を杖代わりにして、どうにか身体を起こした。




