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『時環境界と四系統の継承者』  作者: あらけい
第一部 結界の森と、帰る場所

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第31話 六本腕の防衛機兵が強すぎるので、カコを中央制御台まで向かわせることにしました

 正面にあった巨大な黒い扉が、床まで震わせるような低い音を立てながら、ゆっくりと左右へ開き始めた。


 ゴゴゴゴゴ……。


 広がっていく隙間から、長い間閉ざされていたような冷たい空気が流れ込み、俺たちの髪や服をわずかに揺らす。


「コーデックス、この扉はもう閉じられないのか?」


《開放処理を中断することはできません》


「そもそも俺たちは、開けろなんて言ってないぞ!」


《カコが開放装置へ接触しました》


「まだ触ってないよ」


 カコが、扉へ伸ばしかけていた手を慌てて引っ込める。


《訂正します》


《防衛個体による強制開放です》


「だったら最初からそう言ってくれ!」


『やはり役に立たん紙束だな!』


《状況の解析には一定の時間を要します》


『その解析をしている間に、扉が完全に開ききったぞ!』


 ミメシスの言う通りだった。


 俺たちと防衛個体を隔てていた黒い扉は、すでに完全に開放されている。


 その向こうには、これまで通ってきた通路とは比べものにならないほど広い空間が広がっていた。


 天井は高く、黒い床には継ぎ目がほとんど見当たらない。


 床面には巨大な円と複雑な線が刻まれ、その一部を青白い光がゆっくりと流れている。


 窓越しには中央付近に見えていた黒い影が、実際には扉から見て左奥に設置された大きな固定座から、重い金属音とともにゆっくり立ち上がった。


 ギャン、と金属製の足が床を踏みしめるたびに、硬い音が広間全体へ響き渡る。


 完全に立ち上がったその巨体は、三メートルを優に超えていた。


 全身は分厚い黒い装甲に覆われ、胴体の左右からは合計六本の腕が伸びている。


 頭部には目の代わりなのか、横に細長い赤い光が灯っていた。


 六本の手には、それぞれ形の異なる武器が握られている。


 右側の上段には長剣、中央には長槍、下段には巨大な大鎚。


 左側の上段には大型の斧、中央には三日月形の刃が握られていた。


 そして左下の手には、俺には用途の分からない筒状の物が収まっている。


『素晴らしい!』


 ミメシスが、危険な相手を前にしているとは思えないほど嬉しそうな声を上げた。


『見ろ、我が主! 一体で六つもの武器を持っているぞ!』


「嬉しそうにするな! どう見ても全部こっちへ向けるための武器だろ!」


『すべて模倣できれば、我は一気に強くなれる!』


「触れられればの話だろ! 近づく前に斬られるぞ!」


『ならば斬られる前に近づけばよい!』


「毎回言うことが簡単すぎるんだよ!」


 六本腕の防衛個体がゆっくりと頭部を動かし、横に灯る赤い光を俺、カコ、コーデックスの順番に向けていく。


 そして最後に、その視線はミメシスの上で止まった。


【侵入者を確認】


 広い部屋全体に、低く無機質な声が響いた。


【登録情報 _ _ 不一致】


【管理権限 _ _ 確認不能】


【武装情報 _ _ 照合】


【対王権用模倣武装 _ _ 検出】


 赤い光は、完全にミメシスへ固定されていた。


『ほう。我を知っているようだな!』


【最優先排除対象 _ _ 指定】


『なぜだ!?』


「『対王権用』だからじゃないのか? 名前からして警戒されても仕方ないだろ」


『我はまだ何もしていないぞ!』


「結界を斬っただろ」


『それは今の施設とは関係ない!』


【排除 _ _ 開始】


 次の瞬間、防衛個体の左下の腕が滑らかに動き、握られていた筒状の武器が一直線にこちらへ向けられた。


「あれ、何をする武器なんだ?」


《回避してください》


「何が来るんだ!」


《魂導砲です》


「だから、何が飛んでくる!」


《高密度の魂力弾です》


「もっと早くそこまで説明しろ!」


 筒の先端へ、青白い光が急速に集まり始めた。


「カコ、伏せろ!」


 俺はカコの肩を抱き、そのまま二人まとめて床へ飛び込んだ。


 直後、青白い光が、さっきまで俺たちの頭があった場所を一直線に通過する。


 ズギュン!


 光は背後の黒い壁へ直撃し、爆発したような衝撃が周囲へ広がり、分厚い壁の一部が砕けて大小さまざまな破片が飛び散った。


「こんなの直撃したら、一発で終わるだろ!」


『だが、あの筒も間違いなく武器だ!』


「今も模倣することしか考えてないのか!」


『当然だ!』


 俺はカコの肩から手を離し、すぐに立ち上がった。


 カコも、床へついていた手を離して身を起こして、俺の横に立ち上がった。


 防衛個体が、重い金属音を響かせながらこちらへ向かって歩き始めた。


 ギャン。


 ギャン。


 六本の腕が、それぞれに握った武器を持ち上げ、長剣、長槍、大型の斧、三日月形の刃、大鎚、どの武器も、次にどこから振るわれるのか分からない。


 さらに、前に向けられた魂導砲の先端には、早くも二発目らしい青白い光が集まり始めていた。


「コーデックス、あれを止める方法はないのか?」


《確認中です》


『急げ、紙束!』


《防衛個体の識別情報を検索》


《該当記録を検出》


「名前じゃなくて、止め方を教えてくれ!」


《当該個体は、最終防衛区画に配置された防衛個体です》


「それはもう聞いた!」


《正式名称 _ _ 多腕式防衛機兵》


《識別番号 _ _ 六号》


「名前は今どうでもいい! どうやったら止まるんだ!」


《管理権限による停止命令》


「俺たちに、その管理権限はあるのか?」


《ありません》


「……終わったじゃないか」


《カコの血統情報を利用し、緊急停止権限を取得できる可能性があります》


「可能性があるなら、それを先に言ってくれ!」


《ただし、停止命令は中央制御台から入力する必要があります》


「中央制御台はどこだ?」


 コーデックスのページから細い青白い光が一本伸び、広間のほぼ中央にある黒い台を示した。


 その台は、床面に刻まれた巨大な円の中心に設置されている。


「遠いじゃないか!」


《肯定します》


『あそこへ行けばよいのだな!』


「簡単に言うな! 防衛個体がいるんだぞ!」


 その瞬間、防衛個体が床を強く踏み込んだ。


 ドン!


 さっきまでの遅い歩みが嘘だったかのように、三メートルを超える巨体が一気に加速する。


「速い!?」


 黒い巨体は瞬く間に距離を詰め、俺たちの目の前まで迫ってきた。


 最初に繰り出されたのは、右中央の腕に握られた長槍だった。


「っ!」


 俺はカコを横へ突き飛ばし、自分も反対側へ跳んだ。


 直後、黒い槍が俺たちのいた場所を鋭く貫く。


 さらに間を置かず、右上の腕に握られた長剣が俺へ向かって振り下ろされた。


「ミメシス!」


『任せろ!』


 俺は漆黒の剣を両手で構え、振り下ろされた長剣を上段で受け止めた。


 ガキン!


 刃と刃が激しくぶつかり合い、眩い火花が周囲へ飛び散る。


「ぐっ……重すぎる!」


 その一撃は、狼型の魔物と戦ったときに受けたものよりも、さらに重かった。


 両腕の骨が軋み、足が床へ沈み込むような錯覚すら覚えるほどの圧力だった。


『受け止めるな! 刃を傾けて受け流せ!』


「受ける前に言ってくれ!」


 そのとき、横から巨大な影が迫った。


 右下の腕に握られた大鎚が、俺へ向かって横薙ぎに振るわれた。


「まずい!」


 俺は押し込まれていた長剣を横へ受け流し、そのまま後方へ跳んだ。


 次の瞬間、軌道を逸らされた長剣と大鎚が激しくぶつかり合った。


 ガギィン!


 二つの武器が火花を散らし、軌道を乱した長剣が俺の目の前を通り過ぎる。


 ドォン!


 その後に、長剣により大きく砕け飛んだ黒い床の破片の一つが、俺の頬を掠めた。


「ケイ!」


「大丈夫だ! カコは入口側から動くな!」


 カコはまだ入口近くの壁際にいて、その隣にはコーデックスが浮かんでいた。


《提案します》


「何だ!」


《カコを中央制御台まで移動させてください》


「それが簡単にできないから困ってるんだ!」


《防衛個体の攻撃を引きつければ可能です》


「俺一人で引きつけろって言うのか?」


《アエテル・ミメシスも存在します》


『そうだ、我もいるぞ!』


「振るのは俺なんだよ!」


『細かいことを気にするな!』


 防衛個体の魂導砲が再び俺へ向けられ、先端へ二発目の魂力弾が集まっていた。


 来る。


「カコ! 壁沿いに中央制御台まで進め!」


 俺は防衛個体から目を離さないまま、声を張り上げた。


「ケイは?」


「俺がこいつを引きつける!」


「でも、置いていかないって言った!」


「ああ、置いていかない! 同じ部屋にいるし、絶対そっちへ行くから、今は中央制御台を目指してくれ!」


 カコは不安そうに俺を見つめていたが、しばらくすると覚悟を決めたように力強く頷いた。


「分かった!」


《私が経路を指示します》


 コーデックスはカコの隣に浮かんだまま、黒い台へ向かって動き始めた。



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