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『時環境界と四系統の継承者』  作者: あらけい
第一部 結界の森と、帰る場所

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第25話 逃げ込んだ保管庫で、今度は喋る本が目を覚ましました

「ここは、どこ?」


 カコが暗い部屋をゆっくりと見回した。


 俺たちが中へ入ったことに反応したのか、室内の青白い光が一つずつ点灯し始める。


 一列、二列、三列と光が奥へ進むたび、部屋全体が少しずつ見えてきた。


 巨大な棚が何列も並び、部屋の奥まで続いている。


 棚には、薄い黒い板や透明な筒、小さな箱、見たこともない道具が隙間なく並べられていた。


「倉庫……いや、何かを保存してる場所みたいだな」


 正面の壁に、青白い文字が浮かび上がった。


【ᚢᛉᚾᛇᚱᚦᛁᚨ】


『記録保管庫……』


 ミメシスの声が、部屋の中へ響いた。


「お前、この文字を読めるのか?」


『我は天才だからな』


「本当に都合のいいときだけ何でもできるな」


「先生も、ここに来たのかな」


 カコは棚の奥を見つめながら、静かに呟いた。


「まだ分からない。でも、ここまで来たなら、何か手掛かりが残ってるかもしれない」


「先生の?」


「ああ。先生がこの迷宮を調べてたなら、何か記録がある可能性はある」


 部屋の奥では、棚と棚の間を一本の青白い光が、道を作るように伸びていた。


「まるで、こっちへ進めって言われてるみたいだな」


『罠かもしれんぞ』


「珍しく慎重だな」


『我は常に慎重だ!』


「結界を斬って大穴を開けた剣が言うな」


『あれは大胆かつ必要な決断だ!』


「壊しすぎただけだろ」


「行こう」


 カコが、俺の服の裾を掴んだ。


「怖くないのか?」


「怖いよ」


「それでも行く?」


「一緒だから」


「……そうか。じゃあ、離れないように進もう」


 俺はミメシスを構え直し、青白い光を追いながら、棚と棚の間をゆっくりと歩いた。


 俺たちが進むたび、前方の光が順番に点灯していく。


 通り過ぎたあとの光も消えずに残り、まるで本当に俺たちを導いているように見えた。


 やがて部屋の中ほどに、少し高くなった台が見えてきた。


 その上には、銀色の細い縁取りが施された、分厚い黒い本が一冊置かれていた。


 表紙の中央には、複雑な紋章が刻まれている。


「本?」


 カコが一歩近づいた瞬間、表紙に刻まれた紋章が青白く輝いた。


《接近する生命反応を確認》


 冷たい声が、部屋の中へ響いた。


「また迷宮の声か?」


『いや』


 ミメシスが、すぐに答えた。


『少し違う』


《血統情報を検出》


《照合処理を開始》


 青白い光が本から放たれ、カコの全身を照らした。


 驚いたカコは、すぐに俺の腕を掴んだ。


「大丈夫だ。俺もここにいる」


「でも……」


「何か変なことが起きたら、すぐ離れる。一人にはしない」


《照合率 _ _ 算出不能》


《記録領域の損傷を確認》


《管理系統との接続 _ _ 切断》


《最終起動からの経過時間 _ _ 測定不能》


 青白い光が何度も点滅したあと、黒い本がゆっくりと台を離れ、宙へ浮かび上がった。


「浮いた……」


『本のくせに生意気だな』


「お前は剣なのに喋るだろ」


『我は特別だ!』


 黒い本が空中で静かに開き、何も書かれていなかったページに青白い文字が次々と浮かび上がった。


《質問》


《現在の管理責任者は、どこにいますか》


「「管理責任者?」」


 俺とカコは、同時に首を傾げた。


「先生のこと?」


 カコは、宙に浮かぶ本を見つめた。


「分からない」


《回答を受理》


《管理責任者 _ _ 所在不明》


《次の質問》


 ページが一枚だけ、自動でめくられた。


《あなたの名称を回答してください》


 青白い光が、カコへ向けられた。


「私?」


《肯定します》


 カコは俺の腕を掴んだまま、答えた。


「カコ」


《名称 _ _ カコ》


《血統情報との仮接続を実行》


《断片記録を復元》


 黒い本から放たれる光が、突然強くなった。


「まぶしっ……!」


『何をしている!』


 青白い光が部屋全体へ広がり、棚や床、天井のすべてに複雑な文字と紋様が一斉に浮かび上がった。


 そして、本から先ほどまでとは違う声が聞こえた。


 感情は薄いが、ただの機械音ではない。


 そこには、明確な意思が感じられた。


《暫定起動を完了しました》


《初めまして、カコ》


《私は……》


 開かれたページの中央に、大きな文字が浮かび上がった。


《アエテル・コーデックス》


《アエテルヌムに関する記録を保存する全書系列端末です》


 宙に浮かぶ本を見上げながら、ミメシスが低い声で呟いた。


『……気に入らんな』


《訂正します》


《初対面の武装から嫌われる合理的な理由は存在しません》


『今ので嫌いになった!』


《非論理的です》


『なんだと!』


 黒い剣と宙に浮かぶ黒い本は、初めて出会ったその瞬間から、いきなり言い争いを始めた。


「……また、うるさいのが増えたな」


「うん」


 カコが、ほんの少しだけ笑った。

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