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『時環境界と四系統の継承者』  作者: あらけい
第一部 結界の森と、帰る場所

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第17話 一人で結界を調べていた先生の足跡を、カコとたどります

 結界の端へ続く道は、道と呼ぶにはあまりにも細かった。


 誰かが昔歩いた痕跡だけは残っているが、長い間ほとんど使われていなかったのだろう。


 伸びた草や地面から突き出した木の根が、何度も行く手を塞いでいた。


 場所によっては道そのものが森に飲み込まれ、周囲との区別すらつかなくなっている。


 それでもカコは一度も迷わず、まるで自分の庭を歩くように森の奥へ進んでいった。


「よく迷わず進めるな。俺には、どこが道なのか全然分からないぞ」


「先生と来たことがあるから」


 カコは倒木の脇から細い獣道へ入り、草に覆われた道を慣れた足取りで進んでいった。


 俺には、その先に道が続いているようには見えなかったが、カコには今でもはっきり分かるらしい。


「毎回、この道を通ってたのか?」


「うん。先生が調べに行く時は、だいたいここ」


「じゃあ結構な回数、来てるんだな」


「たぶん」


 カコは少しだけ考えてから頷いた。


「先生、一度調べ始めると長かったから」


「どのくらい?」


「朝に来て、暗くなるまで」


「それで食べ物も持ってきてたのか」


「先生、調べてると食べるの忘れるから」


「……何となく想像できるな」


 会ったこともない相手なのに、地面に道具を並べたまま何時間も結界を調べ続けている姿が浮かんだ。


「カコが持ってこなかったら?」


「食べない」


「それはカコが手伝ってたっていうより、世話してたんじゃないか?」


 カコが少し首を傾げた。


「先生は先生だから」


「答えになってないぞ」


 けれどカコは、それ以上説明することなく先へ進んでいった。


 しばらく歩いたあと、カコは足元を見つめながら、昔を思い出すように話を続けた。


「食べ物だけじゃなく、道具も運んでたよ」


「先生が何を調べてたのかは分かる?」


「全部は分からない」


 カコは少し考えながら、さらに言葉を続けた。


「黒い棒を何本も地面に刺して、それぞれを光る糸みたいなものでつないでたよ」


「普通の道具じゃなさそうだな」


「先生は、結界の流れを調べるって言ってた」


「他には何か覚えてるか?」


「地面に紙を広げてた」


「紙?」


「紙に印を書いて、何度も場所を変えてたよ」


「測ってたのかもしれないな」


「あと、たまに独り言を言ってた」


「何て?」


 カコは歩きながら少し考えた。


「昨日より弱い、とか」


「結界が?」


「たぶん」


「他には?」


「ここも違う、って」


 それを聞いて、俺は少しだけ足を緩めた。


 先生はただ結界の状態を確認していたわけではない。


 何かを探しながら、場所ごとの違いを調べていたようにも聞こえる。


 先生が探していたのは、結界の薄い場所や継ぎ目のようなものだったのかもしれない。


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