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『時環境界と四系統の継承者』  作者: あらけい
第一部 結界の森と、帰る場所

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第15話 初めて模倣した武器で、もう一度薪へ挑みます

 最初の一撃を加えた薪には、表面に浅い切れ込みが残っている。


 だが、今、俺が握っているミメシスは、先ほどの黒い基本形態ではなかった。


 オーガに折られるまで使っていた、安物の片手剣の姿を模倣している。


「もう一回やるの?」


 カコは、薪と俺を交互に見た。


「ああ。今度は模倣した形で、本当に切れ味が変わったのか確かめたい」


「一回だけだよ。痛くなったらすぐやめてね」


「分かってる。本当に一回だけにする。そこも約束する」


 俺は、模倣された片手剣を両手で構えた。


 黒い基本形態を振ったときよりも、ずっと手に馴染んでいる。


 もともと俺自身が使っていた剣の姿を、そのまま再現しているのだから当然だ。


 柄を握る位置も、刃の重さや重心も、身体が覚えている。


 俺は今度こそ、力を入れすぎないよう意識した。


「今度こそ、ちゃんと斬れてくれよ」


『見事に両断してみせろ、我が主!』


「お前が斬るみたいに言うな」


『我が刃なのだから、我が斬るのと同じだ!』


「振るのは俺だろ」


『細かいことを気にするな!』


「こういうところは大事だと思うぞ」


 足を肩幅に開き、息を深く吸ってからゆっくりと吐いた。


 右脇には僅かな違和感が残っているが、一度目ほど緊張はしていない。


 剣が折れることへの恐怖が、完全に消えたわけではなかった。


 それでも、ミメシスは実際に姿を変え、折れた剣から、元の形を再現してみせた。


 その力を目の前で見た今なら、少しだけ信じてみてもいいと思えた。


「いくぞ」


『うむ!』


 俺は薪に向けて、模倣された剣をゆっくりと振り上げた。


 少し離れた場所では、カコがじっとこちらを見守っていた。


 ミメシスも今度は余計なことを言わず、静かにしていた。


 俺は薪の中央に狙いを定め、身体ごと前へ踏み込んだ。


「はあっ!」


 そして、模倣された剣を薪へ向けて一気に振り下ろした。


 ガッ――!


 硬い手応えとともに、刃が薪へ食い込んだ。


「……おっ?」


 思わず声が漏れたが、両断には至っていなかった。


 それでも、黒い基本形態で斬りつけたときとは明らかに違っていた。


 刃は薪の三分の一ほどまで食い込み、はっきりと深い切れ込みを残している。


「斬れた……いや、斬れてはいないけど」


『そこは最後まで斬れたと言い切れ!』


「薪に刺さったままなのに、どう言い切れっていうんだよ」


 俺は両手で柄を握り、薪からミメシスを引き抜いた。


 刃には欠けも歪みもない。


 模倣した刀身の形も、振り下ろす前とまったく変わっていなかった。


「でも、さっきよりずっと深いな」


『当然だ! 我が新たな力を得た証拠よ!』


「模倣したの、俺が使ってた安物の剣だけどな」


『我が模倣すれば、もはやただの安物ではない!』


「じゃあ、なんで薪を両断できてないんだ?」


『…………』


 急に黙った。


「ミメシス?」


『我が主の腕が悪い』


「俺のせいにするな!」


 少し離れたところで見ていたカコが、薪の前まで歩いてきた。


 深く刻まれた切れ込みを覗き込み、それから俺が握っているミメシスを見た。


「さっきより、斬れてる」


「ああ。少なくとも、形だけ真似してるわけじゃなさそうだな」


 俺は改めて手の中の片手剣を見つめ、黒い基本形態よりも明らかに切れ味が増していることを実感した。


 まだ薪一本すら両断できないものの、ミメシスの『模倣』が、ただ姿を変えるだけの力ではないことは確かだった。


『どうだ、我が主! これで我が偉大なる力を理解したであろう!』


「薪一本斬れてから言おうな」


『次は斬れる!』


「今日はもう終わり」


 カコが即座に言った。


『なぜだ、小娘! あと一度! あと一度だけ我に機会を……』


「一回だけって約束した」


『我が主!』


「……約束したからな」


『我が主まで!』


 俺は騒ぐミメシスを元の黒い基本形態へ戻して鞘へ収めると、家の壁際へ立てかけた。


 結局、この日は薪一本すら両断できなかったが、武器を模倣することで、その性質まで取り込めることは分かった。


 次にこいつが何を模倣し、どんな武器へ変わるのか、俺は少しだけ楽しみになっていた。

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