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『時環境界と四系統の継承者』  作者: あらけい
第一部 結界の森と、帰る場所

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第13話 薪を斬れない模倣剣と一緒に、折れた安物の剣からやり直します

 ガッ、と想像していた鋭い斬撃音ではなく、硬い物を木へ叩きつけたような鈍い音が響いた。


「……え?」


 俺は、黒い剣を振り下ろした姿勢のまま固まった。


 薪を両断するどころか、ミメシスの刃は薪の表面へ浅く食い込んでいただけで、指一本分ほどしか入っていなかった。


「……ミメシス?」


『…………』


「おい」


『…………』


「さっき、触れた瞬間に両断するとか言ってなかったか?」


『刃の角度が悪い!』


「一瞬で俺のせいにしたな!」


『もっと腰を入れて振れ!』


「まだ傷が治ってない人間へ何を求めてるんだ!」


『そもそも、剣で薪を斬ろうとすること自体が間違っている!』


「それは試す前に言えよ!」


 俺はミメシスを薪から引き抜こうと柄を持ち上げると、薪まで一緒に持ち上がった。


 黒い剣の刃は、薪へ完全に食い込んでいた。


「斧の方が、もっと斬れるよ」


 カコが、静かに口を開いた。


『斧と比べるな!』


「先生なら、一回でもっと深く割れた」


『それは斧だからだ!』


「ミメシスは、何でも斬れるんじゃなかったの?」


『今のは、我が本来の力を出していないだけだ!』


「出さなかったのか?」


『出せなかった!』


「それを先に言えよ!」


 ミメシスが急に静かになり、さっきまで強く輝いていた青白い文字の光も少し弱くなった。


「どうした?」


『……おかしい』


 珍しく、本当に真剣な声だった。


『本来ならば、これほどまで切れ味が落ちることはない』


「見た目だけなら、刃はかなり鋭そうに見えるけどな」


『外見だけだ』


「外見だけ?」


『今の我には、武器として蓄積されている力が、ほとんど残っていない』


「……どういうことだ?」


 ミメシスの刀身に刻まれた文字が、不規則に点滅した。


『我は本来、模倣した武器の情報を、自らの内部へ蓄積している』


「剣や槍などを模倣する力のことか?」


『そうだ。武器の形状や構造、材質、宿していた性質を蓄積し、それらを組み合わせることで、より強力な武器へ至る』


「でも今は、その記録を呼び出せない?」


『呼び……出せん』


「消えたのか?」


『……分からん』


 ミメシスの声が、さらに低くなった。


『長い眠りの間に失われたのではなく、何者かに封じられたか、あるいは我自身が何らかの目的で使い切った可能性もある』


「そこも何も覚えてないんだな」


『今の我が確実に覚えているのは、我の名と人格、模倣するための核、そしてこの基本形態だけだ』


 ミメシスが、静かに答えた。


『今の我に残っているのは、それだけだ』


 俺は、薪に残った浅い傷を見つめた。


「つまり、今のお前は一度ほとんど空っぽになった状態ってことか?」


『……そのようだ』


「じゃあ今のところは、喋れるだけのあまり切れない剣?」


『その言い方はやめろ!』


 一瞬だけ、いつものミメシスに戻った。


『我は、これから再び強くなるのだ!』


「どうやって?」


『武器を模倣する』


「新しく武器の記録を、一から集め直すってことか?」


『そうだ。武器を写し取るたびに我の内部へ新たな情報が蓄積され、それを重ねれば、失われた機能も目覚めていくはずだ!』


「……また『はず』か?」


『今度は間違いない!』


「本当に大丈夫か?」


『大丈夫だ!』


 俺とカコは、同時にミメシスへ視線を向けた。


 正直、さっきまでのやり取りを思い返すと、少し不安は残った。


 それでも今は、ほかに方法がなかった。


「この近くに、何か模倣できそうな武器はあるのか?」


「ケイの剣」


 カコが、静かに言った。


「俺の?」


「折れてた剣が、家の裏に置いてあるよ」


 オーガの棍棒を受けて折れた、あの安物の剣。


「真ん中から折れてても、本当に模倣できるのか?」


『武器としての情報が残っていれば可能だ』


「でも本当に安物だぞ?」


『最初から伝説の名剣を都合よく見つけられると思うな!』


「薪を斬れなかった途端、急に考え方が現実的になったな」


『まずは一歩ずつだ!』


「さっきまで巨大な結界を斬るって騒いでた剣とは思えない」


『早く案内しろ、小娘!』


「誤魔化した」


『誤魔化してなどいない!』


 俺たちは笑いながら、カコに案内されて家の裏手へ向かった。

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