第127話 王にならずに旧王を封じたと報告したら、先生に褒められました
俺とカコは先生の身体を両側から支え、治療設備へ向かうため、牢の出口へ歩き始めた。
その途中、先生の視線が牢の入口へ向いた。
その先には、胸部が大きく陥没し、内部の魂力核まで砕かれた六眼監守機が倒れている。
「……あれを倒したのか」
「うん。みんなで倒した」
「みんなで?」
カコが俺を指さす。
「最後に砕いたのはケイ」
「おい、それだけじゃないだろ」
「ミメシスも戦った」
『当然だ!』
「コーデックスも弱点を教えてくれた」
《肯定します》
「カコもあいつの六つの目を塞いだだろ。あれがなかったら、一発もまともに当たらなかったぞ」
「でも、最後に砕いたのはケイ」
「装甲を開いたのはカコだろ!」
「砕いたのはケイ」
「だから二人でやったんだって!」
「二人とも」
先生の声で、俺たちは同時に口を閉じた。
「少し静かにしろ」
「「……はい」」
『……む』
《了解しました》
先生は倒れた六眼監守機を、しばらく見つめていた。
「なるほどな」
「何が分かったんですか?」
「カコが一人ではないということだ」
カコが先生を見る。
「先生?」
「昔のお前なら、何でも一人でどうにかしようとしていた」
「今でも、必要ならするよ」
「するな!」
思わず俺が割り込む。
先生がゆっくりとこちらを見た。
「……苦労しているようだな」
「分かるのか?」
「よく分かる」
「先生!」
「俺、先生とはかなり仲良くなれそうな気がする」
「駄目」
「何でだよ!」
「二人で私の悪口を言いそうだから」
「まだ一言も言ってないだろ!」
『これから言うのであろう』
「ミメシス!」
その時、カチン、と小さな金属音が鳴った。
「ん?」
音のした方を見る。
カコの右太腿に装着された、ノクス・ニードルの針ストックだ。
「戻ってきた」
「何が?」
「さっき使った針」
空中で黒い光が瞬き、カチン、と一本の針がストックへ収まった。
続けて、もう一度同じ音が鳴る。
六眼監守機との戦いで使ったノクス・ニードルが、効果を終えたものから次々と自動帰還していた。
「便利だな、それ。使ったあと、勝手に戻ってくるのか」
「うん。これでまた使える」
『我にも、自動で我が主の手元へ戻る機能が欲しいぞ!』
「お前は自分で喋れるんだから、遠くに行ったら呼べばいいだろ」
『投げられた先が、あまりにも遠かったらどうするのだ!』
「その時は頑張って戻ってこい」
『冷たいぞ、我が主!』
《当然の扱いです》
『紙束!』
「二人とも静かにして」
先生が少しだけ目を見開いた。
「その剣は……」
「ミメシスです」
『正式名称は、アエテル・ミメシスだ』
「……そうか」
先生の声が、ほんの少しだけ変わった。
「ミメシスを知ってるのですか?」
「実物を見たことはない。知識として知っているだけだ」
『ほう。我を知っているか』
「古代文明アエテルヌムに残された……模倣武装」
『我は残されたのではない!』
「そこを気にするのかよ!」
『重要な違いだ!』
先生の視線が、次にコーデックスへ向いた。
「そして、お前は……アエテル・コーデックスか」
《はい。本端末をご存じですか》
「名前だけなら知っている」
《そうですか》
「……その二つを、お前たちが持っているのか」
「うん。色々あったから」
「本当に色々あったな」
「その一言だけで済ませるのか?」
「説明すると長いから」
「そうか」
先生は、疲れを吐き出すように深く息をついた。
「私が知らぬ間に……本当に色々起きたらしいな」
「うん。本当に色々あった」
「では、旧王はどうした」
カコが一瞬、動きを止めた。
「旧王なら、王座室に閉じ込めたよ」
「……何?」
「だから、王座室の中に閉じ込めた」
先生が俺を見る。
俺は、それが事実だという意味で頷いた。
「本当です。外へ伸びていた命令経路を全部中へ戻して、王座室ごと隔離しました」
「どうやって……」
「外へ出てた命令の道を、全部中へ戻したの」
「……戻した?」
「それから、王座室ごと閉じた」
「……」
先生がコーデックスを見る。
《事実です》
「……王位は継いだのか」
「継いでない。私は王にならない」
「王にならずに、旧王を王座室へ押し戻したのか?」
「うん」
「そのまま閉じ込めた?」
「うん」
長い沈黙が流れた。
「先生?」
「私が教えた中に、そのような方法はなかったはずだ」
「知ってる」
「では、どうやって思いついた」
「みんなで考えた」
先生はしばらくカコを見つめ、それからほんの少しだけ笑った。
「そうか……よくやった」
カコの動きが止まった。
「今、私のこと褒めた?」
「ああ」
「もう一回言って」
「断る」
「何で!」
「もう言わない」
「先生!」
「……元気になったら、また言ってやる」
「絶対?」
「ああ」
「約束してくれる?」
「……約束だ」
その言葉を聞いた瞬間、カコが少しだけ黙った。
先生も、自分が口にした言葉の意味に気づいたようだった。
「カコ」
「今度はちゃんと、その約束を守ってね」
「……ああ」
「絶対だからね」
「努力する」
「絶対って言って」
「……善処する」
「それじゃ駄目!」
「先生も逃げたな」
「ケイは黙ってて!」




