第124話 砕甲槌に魂力反発機構ができたら、六眼監守機を倒せました
「まだ足りない! もう少しだ!」
『押し込め、我が主! もう一押しで砕ける!』
「ああ!」
槌頭後部で開いた装甲板の奥へ、再び青白い光が集まり始める。
《警告します》
「今度は何だ!」
《砕甲槌の反発機構を短時間で連続使用した場合は、ケイの両腕とミメシスに大きな反動負荷が蓄積します》
「今さら止まれるか! あと一歩なんだぞ!」
《停止を推奨します》
「無理!」
『行け、我が主!』
《剣は黙ってください》
『なぜ我だけだ!』
「二人とも、今は喧嘩するな!」
俺は血のにじむ両手で、ミメシスの柄を強く握り直す。
槌頭後部の機構へ集まった青白い魂力が、再び限界まで圧縮された。
「行けえええぇっ!」
二度目の魂力反発が、槌頭をさらに前へ押し出す。
ドンッ――!
砕甲槌が魂力核へさらに深く食い込んだ直後、硬い破砕音が響いた。
バキンッ――!
巨大な青白い魂力核が、中心から真っ二つに割れる。
あふれ出した光が、一瞬だけ六眼監守機の全身を駆け巡った。
【第一観測 _ _ 停止】
一つ目の光が消える。
【第二観測 _ _ 停止】
二つ目。
三つ目、四つ目、五つ目と、目の光が失われる。
そして最後に、胸部の最奥に残っていた第六の目だけが、まだ俺を見つめていた。
【第六観測……】
弱く明滅する。
【対象……】
もう一度。
【ケ……】
光が途切れた。
【第六観測 _ _ 停止】
六眼監守機の巨体から、完全に駆動力が失われた。
「うわっ、まずい!」
砕甲槌が胸部へめり込んだまま、五メートルもの巨体が俺の方へ倒れ始める。
「ミメシス、戻れ!」
『応!』
巨大な槌頭が分割され、一気に無銘刃へ再構成される。
変形が完了した瞬間、俺は後ろへ飛び退いた。
だが、わずかに遅かった。
倒れ込む六眼監守機の巨大な腕が、痛めていた左脇腹を掠める。
「っ……!」
服が裂け、左脇腹に焼けるような痛みが走った。
遅れて、傷口から赤い血が伝い始める。
「ケイ!」
「大丈夫! それより離れろ、こいつが倒れる!」
「でも、血が……」
「あとで見せるから、今は下がれ!」
ズゥゥゥゥンッ……!
六眼監守機の巨体が黒い床へ倒れ込み、激しい振動が広間全体を揺らした。
床へ細かな亀裂が走る。
それきり、巨体はもう動かなかった。
【第三封鎖牢外周独立防衛機構】
【六眼監守機 _ _ 機能停止確認】
「……終わったのか?」
《はい。主魂力核の破壊および六眼観測機能すべての停止を確認しました》
「本当にもう動かない?」
《停止しています》
「あとから急に起き上がったりしない?」
《その可能性は極めて低いと判断します》
「極めてじゃなくて、ゼロって言えないのか?」
《絶対的な安全は保証できません》
「そういうところだぞ!」
『我が主、我を見ろ』
「お前を?」
言われて、俺はミメシスの黒い刀身へ目を向けた。
その表面を走る青白い古代文字は、いつもより強く明滅していた。
『さっきのは何だ! 砕甲槌の後ろから突然、とてつもない力が噴き出したぞ!』
「俺が聞きたいよ! 一番驚いたのは、あれを握ってた俺だからな!」
『あの反発があれば、今までより遥かに強く砕けるではないか!』
《解析します》
コーデックスのページに、青白い文字が高速で流れ始める。
《砕甲槌形態の内部構造に変化を確認しました》
「構造そのものが変わったのか?」
《肯定します》
《直前までの構造記録には存在しなかった魂力反発機構が形成されました》
『やはり我は成長したのだな!』
《その可能性があります》
『可能性ではなく、成長したと断言しろ!』
《まだ解析中です》
「その喧嘩はあとにしてくれ!」
カコが俺へ走ってくる。
「ケイ!」
「ほら、走るな! まだ身体が完全に戻ってないだろ!」
「今それ言う!? ケイの方が血が出てる!」
「これくらいなら……」
「駄目。見せて」
「先生が先だろ」
「見せて」
「だから傷は浅いって」
「ケイ」
「……何だよ」
「座って!」
「はい!」
強い声に反射的に姿勢を正し、俺は黒い床の上へ正座した。
戦闘中の六眼監守機より、こういう時のカコの方が逃げ道はない気がする。
俺は左脇腹を押さえていた手を離した。
横へ長く裂けた服の下には、細長い傷が走り、赤い血がにじんでいる。
だが、幸い傷は深くなかった。
「ほら。見た目ほど深くないだろ?」
「血が出てる」
「そりゃ傷だからな」
「手も」
「え?」
言われて、自分の手へ目を落とす。
砕甲槌の反動を二度受けたせいか、両手のひらは裂け、ミメシスの柄にも赤い血が付着していた。
「……いつの間に、こんなに裂けたんだ?」
「戦ってたから気づかなかっただけ」
カコの目が、少しだけ細くなる。
「何だよ、その目」
「無茶する人を見る目」
『正しい評価だ』
《正確です》
「お前たちまでカコ側につくのか!」
カコが左脇腹の傷を確かめ、腰の道具袋から包帯を取り出そうとする。
だが、隣にある右腿のノクス・ニードルのケースへ目を向けたところで、その手が止まった。
「あ」
「どうした?」
「さっき使った針、まだあそこにある」
六眼監守機の胸部へ目を向ける。
装甲を内側から押し開くために使った黒い針が、砕けた装甲の奥へ刺さったままになっていた。
「取ってくる?」
「待て。何か動いてる」
黒い針がわずかに揺れた次の瞬間、その場から消えた。
「え?」
同時に、カコの右腿にあるケースから小さな金属音が鳴る。
カコはすぐに右腿へ目を向けた。
「戻ってる」
「自動で戻ってきたのか。便利だな、それ」
「うん。回収しに行かなくてもいいみたい」
『ずるいぞ!』
「何がだよ?」
『針は勝手に持ち主のもとへ戻れるのだろう!』
「そうみたいだな」
『我も戻りたい!』
「お前は何を言ってるんだ」
『我が主に投げられたあと、自動で戻れるようになりたい!』
《投擲後に放置されなければ、その必要はありません》
『我が主は我を投げるぞ!』
「必要なら投げる」
『ほら見ろ!』
「今はその話じゃない! 先生のところへ行くぞ!」
その言葉で、その場の空気が変わった。
俺たちは倒れた六眼監守機から視線を外し、その先に続く暗い通路へ目を向ける。
六眼監守機が守っていた、第三封鎖牢へ続く通路。
その最奥には、巨大な扉がそびえ立っていた。




