第123話 六眼の観測同期を斬ったので、今度こそ砕甲槌を叩き込みます
《今です》
「次はどこを狙えばいい!?」
《胸部中央を確認してください》
コーデックスから青白い解析光が伸びる。
六つの目の中心に位置する胸部装甲。そのわずかな継ぎ目を、一筋の青白い光が走っていた。
《六つの観測機能を接続し、情報を同期している統合魂力回路です》
「あれを斬れば、どうなる?」
《六眼の観測同期が崩れます。各観測機能が独立し、予測精度が大幅に低下する可能性があります》
「十分だ!」
俺は六眼監守機へ向かって走る。
巨大な腕が振るわれたが、今の六眼監守機には俺の姿が見えていない。
拳が叩きつけられたのは、俺の現在位置ではなく、先ほどまで立っていた場所だった。
「読めてない! 今なら近づける!」
『今だ、我が主!』
その瞬間、金色の結界が一枚、衝撃に耐えきれず砕け散った。
【第一観測 _ _ 再開準備】
「カコ、結界が!」
「長くは持たない! 早く!」
「分かってる!」
胸部中央にある黒い装甲には、わずかな隙間が生じていた。
その奥を、一本の青白い回路が走っている。
《切断対象を正面に確認しました》
「見えた! ミメシス!」
『応!』
刀身から魂力光刃が伸びる。
俺はそのまま一閃し、装甲の継ぎ目に沿って刃を走らせた。
【六眼統合回路 _ _ 切断】
六つの赤い目が、一斉に大きく揺れる。
一つは俺を、一つは壁を、一つは床を、そして一つはカコを捉えた。
残る二つは、誰もいない暗闇へ向けられている。
【第一観測 _ _ 正常】
【第二観測 _ _ 対象不明】
【第三観測 _ _ 同期不能】
【第四観測 _ _ 競合】
【第五観測 _ _ 予測失敗】
【第六観測 _ _ 再計算】
「六つの目が、全部ばらばらになった!」
《六眼観測同期の停止を確認しました》
「だったら今なら、砕甲槌を読まれずに当てられる!」
『砕けるぞ、我が主! 今度こそ我の砕甲槌を叩き込め!』
「ああ!」
六眼監守機が俺を見る。
いや、俺を捉えているのは一つの目だけだ。
残る五つは、それぞれ別の場所へ向けられていた。
【第一観測 _ _ 侵入者】
巨体が前へ動く。
【捕縛】
「来い! 今度はこっちから行く!」
俺も正面から駆け出す。
ミメシスは魂力光刃の姿を保ったままだが、そのぶん速く振るえる。
魂力光刃を振り上げた俺を見て、六眼監守機が横へ動こうとした。
【回避方向 _ _ 競合】
【右】
【左】
【停止】
「今度は避ける方向すら決められないだろ!」
俺は魂力光刃を振り下ろす。
「砕甲槌!」
刀身に靄に覆われて、何層もの装甲板が一気に展開する。
それらは長い柄と巨大な多面体状の槌頭へ再構成され、中央の青白い魂力コアが強く輝いた。
槌頭へ収束した衝撃力が、振り下ろす勢いへ重なる。
「おおおおおっ!」
槌頭が胸部装甲へ激突し、大轟音が広間へ響き渡った。
六眼監守機の胸部は大きく陥没し、衝撃で足元の黒い床まで放射状に割れていく。
巨体は衝撃に耐えきれず、両足が漆黒の床へ深く沈み込んだ。
【外装破損】
「効いた! 今度は避けられなかった!」
『当然だ! これこそ我の砕甲槌よ!』
だが――。
【捕縛継続】
「まだ動くのかよ! 胸があれだけ潰れてるだろ!」
六眼監守機の巨大な腕が俺へ伸びる。
敵との距離が近すぎる。しかも、砕甲槌を振り切った直後で、回避へ移れない。
「ケイ!」
カコが片手で右腿から新たなノクス・ニードルを抜き、投げ放った。
黒い針が俺の横を通り抜け、砕けた胸部装甲の隙間へ深く突き刺さる。
「カコ!」
「その装甲を内側から開いて!」
黒い針を中心に、六眼監守機の胸部内部で金色の結界が展開した。
バキッ――!
破損していた黒い装甲板が、内側から強引に押し上げられる。
【外装固定 _ _ 失敗】
「結界で装甲を内側から押し開いたのか!?」
「今なら中が見える! ケイ!」
「ああ、分かってる!」
俺は砕甲槌を無銘刃の形へ戻す。
拳を逸らした際に痛めた左脇腹は熱を持ち、両腕にも痺れが残っていた。
『我が主、二撃目は負担が大きいぞ。今の状態では……』
「それでもやる。ここで止めなきゃ、また六つの目が戻るかもしれない!」
『身体が壊れるぞ!』
「壊れる前に終わらせる!」
俺は再び無銘刃を振り上げる。
カコが開いてくれた胸部装甲の奥には、青白く輝く巨大な魂力核が露出していた。
六つの目は今もばらばらに動いている。
だが、もう俺の動きを一つの情報として捉えることはできない。
「ミメシス、もう一度行くぞ!」
『……応!』
俺は無銘刃を振り下ろす。
まだ剣の形を保ったまま、その軽さを生かして魂力核へ一気に迫る。
「砕甲槌!」
無銘刃が再び黒い靄に覆われて、巨大な砕甲槌へ変形する。
槌頭の中央にある青白い魂力コアが、目を開けていられないほど強く輝いた。
「これで……終われええぇっ!」
俺は砕甲槌を、開かれた胸部の奥へ真正面から振り下ろす。
その瞬間、ガキンッ……! と硬い音が響いた。
「え?」
俺は槌頭に起きた異変に気づいた。
打撃面とは反対側の、何層にも重なっていた黒い装甲板が一斉に外側へ開いていく。
【砕甲槌後部 _ _ 魂力反発機構作動】
「何だ、それ!? こんな機能あったのか!?」
『知らん!』
「お前の武器だろ!?」
『我も今知ったのだ!』
槌頭の後部に露出した機構へ、青白い魂力が一気に集まる。
魂力は限界まで圧縮され、次の瞬間、後方へ爆発的に放出された。
ドンッ――!
「うおっ!?」
槌頭の後方で生まれた強烈な反発力が、砕甲槌を一気に前方へ押し出す。
振り下ろした勢いと、槌頭へ収束していた衝撃力。そして、体重を乗せた力。
そこへ爆発的な魂力の反発が加わり、すべての力が一つの打撃へ重なった。
「うおおおぉっ!」
砕甲槌が魂力核へ激突し、これまでとは比べものにならない轟音が響き渡った。
ドゴォォォォォンッ――!
空気そのものが弾け、凄まじい衝撃波が周囲へ広がっていく。
「ぐっ……!」
激しい反動が柄から両腕を突き抜け、左脇腹の傷が強く引きつった。
手のひらには焼けるような痛みが走り、裂けた皮膚から血がにじむ。
それでも、俺は柄だけは離さなかった。
「このまま……押し込めええぇっ!」
砕甲槌が、巨大な魂力核へ深くめり込む。
【魂力核 _ _ 外圧超過】
【内部構造 _ _ 破損】
【第一防護層 _ _ 崩壊】
【第二防護層 _ _ 】
表示が途中で途切れ、そのまま消えた。
バキッ――。
小さな音とともに、巨大な青白い魂力核の中心へ一本の亀裂が走った。




