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『時環境界と四系統の継承者』  作者: あらけい
第一部 結界の森と、帰る場所

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123/127

第123話 六眼の観測同期を斬ったので、今度こそ砕甲槌を叩き込みます

《今です》


「次はどこを狙えばいい!?」


《胸部中央を確認してください》


 コーデックスから青白い解析光が伸びる。


 六つの目の中心に位置する胸部装甲。そのわずかな継ぎ目を、一筋の青白い光が走っていた。


《六つの観測機能を接続し、情報を同期している統合魂力回路です》


「あれを斬れば、どうなる?」


《六眼の観測同期が崩れます。各観測機能が独立し、予測精度が大幅に低下する可能性があります》


「十分だ!」


 俺は六眼監守機へ向かって走る。


 巨大な腕が振るわれたが、今の六眼監守機には俺の姿が見えていない。


 拳が叩きつけられたのは、俺の現在位置ではなく、先ほどまで立っていた場所だった。


「読めてない! 今なら近づける!」


『今だ、我が主!』


 その瞬間、金色の結界が一枚、衝撃に耐えきれず砕け散った。


【第一観測 _ _ 再開準備】


「カコ、結界が!」


「長くは持たない! 早く!」


「分かってる!」


 胸部中央にある黒い装甲には、わずかな隙間が生じていた。


 その奥を、一本の青白い回路が走っている。


《切断対象を正面に確認しました》


「見えた! ミメシス!」


『応!』


 刀身から魂力光刃が伸びる。


 俺はそのまま一閃し、装甲の継ぎ目に沿って刃を走らせた。


【六眼統合回路 _ _ 切断】


 六つの赤い目が、一斉に大きく揺れる。


 一つは俺を、一つは壁を、一つは床を、そして一つはカコを捉えた。


 残る二つは、誰もいない暗闇へ向けられている。


【第一観測 _ _ 正常】


【第二観測 _ _ 対象不明】


【第三観測 _ _ 同期不能】


【第四観測 _ _ 競合】


【第五観測 _ _ 予測失敗】


【第六観測 _ _ 再計算】


「六つの目が、全部ばらばらになった!」


《六眼観測同期の停止を確認しました》


「だったら今なら、砕甲槌を読まれずに当てられる!」


『砕けるぞ、我が主! 今度こそ我の砕甲槌を叩き込め!』


「ああ!」


 六眼監守機が俺を見る。


 いや、俺を捉えているのは一つの目だけだ。


 残る五つは、それぞれ別の場所へ向けられていた。


【第一観測 _ _ 侵入者】


 巨体が前へ動く。


【捕縛】


「来い! 今度はこっちから行く!」


 俺も正面から駆け出す。


 ミメシスは魂力光刃の姿を保ったままだが、そのぶん速く振るえる。


 魂力光刃を振り上げた俺を見て、六眼監守機が横へ動こうとした。


【回避方向 _ _ 競合】


【右】


【左】


【停止】


「今度は避ける方向すら決められないだろ!」


 俺は魂力光刃を振り下ろす。


「砕甲槌!」


 刀身に靄に覆われて、何層もの装甲板が一気に展開する。


 それらは長い柄と巨大な多面体状の槌頭へ再構成され、中央の青白い魂力コアが強く輝いた。


 槌頭へ収束した衝撃力が、振り下ろす勢いへ重なる。


「おおおおおっ!」


 槌頭が胸部装甲へ激突し、大轟音が広間へ響き渡った。


 六眼監守機の胸部は大きく陥没し、衝撃で足元の黒い床まで放射状に割れていく。


 巨体は衝撃に耐えきれず、両足が漆黒の床へ深く沈み込んだ。


【外装破損】


「効いた! 今度は避けられなかった!」


『当然だ! これこそ我の砕甲槌よ!』


 だが――。


【捕縛継続】


「まだ動くのかよ! 胸があれだけ潰れてるだろ!」


 六眼監守機の巨大な腕が俺へ伸びる。


 敵との距離が近すぎる。しかも、砕甲槌を振り切った直後で、回避へ移れない。


「ケイ!」


 カコが片手で右腿から新たなノクス・ニードルを抜き、投げ放った。


 黒い針が俺の横を通り抜け、砕けた胸部装甲の隙間へ深く突き刺さる。


「カコ!」


「その装甲を内側から開いて!」


 黒い針を中心に、六眼監守機の胸部内部で金色の結界が展開した。


 バキッ――!


 破損していた黒い装甲板が、内側から強引に押し上げられる。


【外装固定 _ _ 失敗】


「結界で装甲を内側から押し開いたのか!?」


「今なら中が見える! ケイ!」


「ああ、分かってる!」


 俺は砕甲槌を無銘刃の形へ戻す。


 拳を逸らした際に痛めた左脇腹は熱を持ち、両腕にも痺れが残っていた。


『我が主、二撃目は負担が大きいぞ。今の状態では……』


「それでもやる。ここで止めなきゃ、また六つの目が戻るかもしれない!」


『身体が壊れるぞ!』


「壊れる前に終わらせる!」


 俺は再び無銘刃を振り上げる。


 カコが開いてくれた胸部装甲の奥には、青白く輝く巨大な魂力核が露出していた。


 六つの目は今もばらばらに動いている。


 だが、もう俺の動きを一つの情報として捉えることはできない。


「ミメシス、もう一度行くぞ!」


『……応!』


 俺は無銘刃を振り下ろす。


 まだ剣の形を保ったまま、その軽さを生かして魂力核へ一気に迫る。


「砕甲槌!」


 無銘刃が再び黒い靄に覆われて、巨大な砕甲槌へ変形する。


 槌頭の中央にある青白い魂力コアが、目を開けていられないほど強く輝いた。


「これで……終われええぇっ!」


 俺は砕甲槌を、開かれた胸部の奥へ真正面から振り下ろす。


 その瞬間、ガキンッ……! と硬い音が響いた。


「え?」


 俺は槌頭に起きた異変に気づいた。


 打撃面とは反対側の、何層にも重なっていた黒い装甲板が一斉に外側へ開いていく。


【砕甲槌後部 _ _ 魂力反発機構作動】


「何だ、それ!? こんな機能あったのか!?」


『知らん!』


「お前の武器だろ!?」


『我も今知ったのだ!』


 槌頭の後部に露出した機構へ、青白い魂力が一気に集まる。


 魂力は限界まで圧縮され、次の瞬間、後方へ爆発的に放出された。


 ドンッ――!


「うおっ!?」


 槌頭の後方で生まれた強烈な反発力が、砕甲槌を一気に前方へ押し出す。


 振り下ろした勢いと、槌頭へ収束していた衝撃力。そして、体重を乗せた力。


 そこへ爆発的な魂力の反発が加わり、すべての力が一つの打撃へ重なった。


「うおおおぉっ!」


 砕甲槌が魂力核へ激突し、これまでとは比べものにならない轟音が響き渡った。


 ドゴォォォォォンッ――!


 空気そのものが弾け、凄まじい衝撃波が周囲へ広がっていく。


「ぐっ……!」


 激しい反動が柄から両腕を突き抜け、左脇腹の傷が強く引きつった。


 手のひらには焼けるような痛みが走り、裂けた皮膚から血がにじむ。


 それでも、俺は柄だけは離さなかった。


「このまま……押し込めええぇっ!」


 砕甲槌が、巨大な魂力核へ深くめり込む。


【魂力核 _ _ 外圧超過】


【内部構造 _ _ 破損】


【第一防護層 _ _ 崩壊】


【第二防護層 _ _ 】


 表示が途中で途切れ、そのまま消えた。


 バキッ――。


 小さな音とともに、巨大な青白い魂力核の中心へ一本の亀裂が走った。

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