第110話 村の監視石を止める命令線を、カコがノクス・ニードルで閉じ込めました
《北方集落監視石を解析します》
中央制御柱の前に、村の立体映像が大きく開いた。
森や畑、家々、俺たちが何度も歩いた道まで細かく映し出されている。
その周囲には、村を取り囲むようにいくつもの監視石が浮かび、青白い光を放っていた。
《現在、防護機能は正常に稼働しています》
「今のところ正常なら、村の何を助ければいいんだ?」
《旧王命令層から、防護機能を停止する命令が発行されています》
「監視石をこれから止めるつもり?」
《肯定します》
「ここで村を選ばなかったら、どうなる?」
《防護機能は停止します》
その答えを聞いた瞬間、カコの表情が険しくなった。
「それは選択じゃない」
カコが旧王の投影を睨む。
「自分で壊そうとして、どれを助けるか選べって言ってるだけ」
【選ばれぬ領域を維持する必要はない】
「やっぱり、お前が村を壊そうとしてるだけじゃないか」
俺も旧王へ鋭い視線を向けた。
【王は残すものを選ぶ】
「村には数じゃなくて、人が住んでるんだぞ」
【人は数にすぎぬ】
「違う。一人ずつ名前があって、生きている」
【王は一人ずつを見るものではない】
「それなら、やっぱり私は王にならない」
【またそれか!】
「何度言われても同じ。私は王にはならない」
「カコ、その返し、本当に気に入ったな」
「便利だから」
『拒否を拒否に続く、新たな技だな!』
《技ではありません》
そのとき、村の立体映像へ赤い文字が重なった。
【北方集落監視石】
【防護停止まで三十秒】
「今度は時間制限までつけたのかよ!」
《旧王命令層が停止処理を加速しています》
「コーデックス、監視石を止めようとしている命令線はどこだ!」
《追跡します》
コーデックスから放たれた青白い解析光が、床面に浮かぶ制御構造の上を走った。
その先で、一本の赤い旧王命令線が強く照らし出される。
ところが次の瞬間、一本だった命令線が八本へ分裂した。
「増えたぞ! どれが本物だ!」
《七本は偽装命令線です》
「残りの一本はどこだ!」
《本命令線は現在も移動しています》
八本の赤い命令線が床の上を高速で走り、中央制御柱の周囲を回り込んだ。
金色の王統制御線の隙間を蛇のようにすり抜け、何度も進む方向を変えている。
【防護停止まで二十五秒】
「ケイ、急いで!」
「分かってる。あれを止めればいいんだな!」
俺は中央制御柱を囲む段差から飛び降り、逃げる命令線を追いかけた。
《本命令線を追跡中》
「もう少し分かりやすく光らせるとか、できないのか!」
《現在も最大限努力しています》
「努力じゃなくて、今は結果が欲しいんだよ!」
《では、ケイもさらに速く走ってください》
「もう全力で走ってる!」
『紙束と喧嘩しておる場合ではないぞ、我が主!』
「お前にだけは言われたくない!」
先ほどカコの結界に弾かれた二本の制御腕が、再び左右から迫ってきた。
「ミメシス、無銘刃だ!」
『承知した!』
黒い刀身を覆っていた青白い古代文字が消え、切っ先から伸びていた光刃が縮んでいく。
王権護剣から、通常の無銘刃へ戻った。
俺は身を沈めて一本目をかわし、続けて横から迫る二本目を無銘刃で受け流した。
ガギン!
重い衝撃が刀身から両腕へ伝わる。
その勢いで身体をひねった瞬間、左脇腹の傷にも鋭い痛みが走った。
「っ……まだ動ける!」
「ケイ、そのまま止まらないで!」
【防護停止まで十九秒】
赤い旧王命令線が突然、進む方向を大きく変えた。
八本のうち七本が別方向へ散る一方で、一本だけが中央制御柱へ向かって伸びていく。
《切断対象は正面です》
「見えた。今度は逃がさない!」
俺は全力で追いかけた。
「カコ、あいつの逃げ道を塞げるか!」
「やってみる」
カコは中央制御柱へ左手を押し当てたまま、右手を赤い旧王命令線へ向けた。
三本のノクス・ニードルが続けて放たれる。
一本は右前方へ、もう一本は左側へ突き刺さり、最後の一本が命令線の進行方向へ打ち込まれた。
「そこなら閉じ込められる!」
カコが伸ばした右手を強く握る。
三本の黒い針を結ぶように金色の光が走り、三角形の結界が展開された。
逃げ続けていた赤い旧王命令線が、その内側へ閉じ込められた。
「捕まえた。ケイ、今!」
命令線は右へ左へ激しく暴れ、金色の結界へ何度も衝突した。
そのたびに結界の表面へ亀裂が広がっていく。
さらに、遅れて動き出した金属腕と二本の制御腕が、カコの結界へ一斉に殺到した。
「カコ、結界がもたないぞ!」
「私は大丈夫。ケイは止まらないで!」
【防護停止まで十三秒】
俺はカコが作ってくれたわずかな時間を無駄にしないよう、閉じ込められた命令線へ向かって走った。
「ミメシス、王権護剣だ!」
『待っていたぞ、我が主!』
無銘刃を黒い靄が包み込む。
靄が消えると同時に、黒い刀身へ青白い古代文字が走り、切っ先から透明に近い光刃が伸びた。
《切断対象を表示します》
暴れる八本の命令線のうち、本物の一本だけに青白い光点が浮かび上がった。
そのすぐ下には、傷つけてはならない金色の王統制御線が走っている。
『今だ、我が主! 斬れ!』
「分かってる!」
俺はジャンプして結界を飛び越えて、そのまま王権護剣を振り下ろした。
光刃は金色の王統制御線へ触れることなく、その上を走る赤い旧王命令線だけを正確に切断した。
【北方集落監視石】
【防護停止命令 _ _ 接続断絶】
【現行防護機能 _ _ 維持】
赤い文字の北方集落監視石が消え、同時に七本の偽装命令線が一斉に消えてた。
監視石の青白い光は途切れることなく、村とその周囲を照らし続けている。
《北方集落の防護機能を確認しました》
《正常に稼働しています》
「これで二つ守れた。あと二つ」
「ああ。次は結界だ」
中央制御柱には、まだ二つの赤い表示が残っていた。
【居住領域結界】
【異界生命体ケイ】
【排除処理継続】
【残存時間 _ _ 再計算中】
カコは一瞬だけ、俺の名前が浮かぶ表示へ視線を向けた。
すぐに助けたい気持ちを押し込めるように、小さく息を吐く。
「次は結界を直す」
それから、俺の目をまっすぐ見つめた。
「それが終わったら、絶対にケイだからね」
「分かってる。約束しただろ」




