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『時環境界と四系統の継承者』  作者: あらけい
第一部 結界の森と、帰る場所

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100/124

第100話 カコは王にはならないので、反逆継承者になりました

 カコが床へ右手を向けると、指先から金色の光が伸び、足元を走る王統導線へ流れ込んだ。


 同時に、銀白色の髪を走る金色の光も強くなる。


「ケイは私と一緒に行きます」


 カコの声が響いた直後、周囲に浮かんでいた表示が一斉に揺れた。


【王統継承者カコ _ _ 随伴同行要求】


【対象 _ _ 異界生命体ケイ】


【随伴登録情報 _ _ 無し】


【正式同行権限 _ _ 未登録】


【下層最終認証 _ _ 未完了】


【要求判定 _ _ 保留】


「保留じゃなくて、一緒に行く」


【随伴同行要求 _ _ 再確認】


【王統管理者権限 _ _ 照合】


【限定同行権限 _ _ 検討】


 俺は思わずコーデックスへ目を向けた。


「いけるのか?」


《可能性があります》


《先ほど認められた、総合制御室手前までの限定移動許可が、現在も命令記録に残っています》


「なら、それを使え!」


《実行します》


 コーデックスが黒い表紙を大きく開き、青白い文字を次々と床の王統導線へ流し込んだ。


《既存命令を引用します》


《王統継承者カコ》


《随伴異界生命体一名》


《総合制御室手前までの限定移動許可》


【既存命令 _ _ 確認】


《現在地は総合制御室手前区画です》


《王統継承者の保護および管理補助のため、随伴異界生命体ケイの同行継続を要求します》


【命令競合 _ _ 確認】


【随伴者分離規定 _ _ 競合】


【限定移動許可 _ _ 競合】


【競合命令 _ _ 照合中】


『また屁理屈か』


《既存命令の整合性確認です》


「どっちでもいいから通してくれ!」


 数秒後、床を走る金色の線が一度だけ強い光を放った。


【限定同行権限 _ _ 承認】


【対象 _ _ 異界生命体ケイ】


【適用範囲 _ _ 総合制御室前門まで】


【対王権用模倣武装 _ _ 監視継続】


【全書系列端末 _ _ 同行許可】


【随伴者分離処理 _ _ 停止】


 俺たちの横へせり上がっていた漆黒の壁が、重い音を立てながら床の中へ沈んでいく。


 二体の球体端末に灯っていた赤い光も青白く変わり、片腕を失った小型警備機はその場で動きを止めた。


 天井の砲台も照準光を消し、ゆっくりと壁の中へ戻っていった。


 少し遅れて、カコの右腿にある黒いケースの前へ金色の光が集まり始める。


 その中から、先ほど砲台へ突き刺したノクス・ニードルが姿を現した。


 黒い針は光に包まれたまま、空いていた収納部へ収まる。


《使用されたノクス・ニードルの帰還を確認しました》


「……今度は本当に通れたか?」


「一緒に行く」


 カコが俺を見る。


「ああ、一緒だ」


『当然だ。我が主を置いて進めるものか』


《ミメシスの同行は監視対象のままです》


『一言余計だ!』


     ◇


 さらに進むと、回廊の先に高さ十メートル近くもある巨大な扉が現れた。


 漆黒の表面には巨大な金色の王統紋が刻まれ、その中央には、青白い王冠を思わせる光が浮かんでいる。


 カコが扉の前へ近づいた瞬間、周囲の照明が一斉に消えた。


 次の瞬間、カコだけを照らすように、天井から金色の光が降り注ぐ。


【王統継承者カコ _ _ 確認】


【下層総合制御室前門 _ _ 到達】


【下層最終認証 _ _ 開始】


【登録状態 _ _ 王統管理者】


【王統継承者資格 _ _ 確認済み】


【最終確認 _ _ 移行】


 カコが静かに扉を見上げた。


「これが、最後の認証?」


《その可能性が高いです》


「何をさせられる?」


《不明です》


《ただし、王統継承に関する意思確認が含まれる可能性があります》


 その言葉が終わる前に、扉の中央に浮かぶ王冠が強く輝いた。


【王統継承者カコに問う】


【アエテルヌム王位を継承するか】


 カコの表情が固まり、俺もすぐには何も言えなかった。


 王位継承を求める言葉は、ここへ来るまでに何度も聞いている。


 けれど、これほど直接的に意思を問われたのは初めてだった。


【王位を受け入れよ】


【玉座を継承せよ】


【王位の責務を果たせ】


【承認すれば下層最終認証を完了する】


【総合制御室への正式進入を許可する】


【第三封鎖牢への管理権限を付与する】


 カコの瞳が大きく揺れた。


 第三封鎖牢には、今も先生が捕らえられている。


 だからこそ、その言葉はカコにとって、あまりにも大きな意味を持っていた。


「受け入れたら……先生を助けられる?」


【可能】


【王位継承完了後】


【下層全管理権限 _ _ 付与】


【第三封鎖牢拘束命令 _ _ 解除可能】


 カコは黙り込んだが、俺は何も言わなかった。


 決めるのはカコであり、俺が代わりに答えていいことではない。


 それでも、迷いを表すように、カコの手は小さく震えていた。


「先生も村も助けられる?」


 小さな声だった。


【可能】


「地上の結界も直せる?」


【可能】


【王位を継承せよ】


【すべてを統べよ】


 王となって玉座へ座れば、先生も村も助けられる。


 地上の結界を直すために必要な権限も得られる。


 この施設は、王位を受け入れれば、カコの望むすべてを実現できると告げていた。


 それは、あまりにもカコの心を揺らす問いだった。


 やがてカコは、答えを求めるように俺を見た。


「ケイ、私が王になったら、みんな助けられるって」


「うん、そう言ってるな」


「先生も、村も、私の家も」


「ああ、そうだな」


 カコはしばらく俺を見つめていた。


「ケイは、王になれって言う?」


 俺は思わず息を止めた。


 ここで俺が答えを示せば、カコはその言葉に従ってしまうかもしれない。


 先生を助けるためなら、自分が望んでいなくても王位を受け入れてしまうだろう。


 だからこそ、俺が代わりに答えるわけにはいかなかった。


「俺は何も言わない。これはカコが決めることだ」


 カコが目を見開く。


「でも……」


「先生を助けたいのは俺も同じだ」


 俺は目の前にそびえる扉を見上げた。


「でも、先生を助けるためにカコが嫌なものを押しつけられたら、先生はたぶん怒る」


「怒る?」


「絶対に怒る」


 自分を助けるためという理由で、カコが自分の望む生き方を捨てたとしても、先生は決して喜ばない。


 それどころか、きっと本気で怒るはずだ。


「だから、カコが決めろ」


 カコは静かに目を閉じた。


 金色の光が走る長い銀白色の髪が、降り注ぐ光の中でわずかに揺れる。


 しばらくして、決意を固めたようにゆっくりと顔を上げた。


「私は……」


【回答を要求】


「王にはならない」


 総合制御室前の空気が止まった。


【回答 _ _ 確認】


【王位継承 _ _ 拒否】


【回答 _ _ 再確認】


【王位を継承するか】


「しない」


【アエテルヌムを統べる意思はあるか】


「ない」


【玉座を受け入れるか】


「受け入れない!」


 最後の言葉が響いた瞬間、金色に輝いていた王統紋の外縁へ赤い線が走った。


【下層最終認証 _ _ 不成立】


【王位継承 _ _ 拒否確定】


【登録状態 _ _ 再判定】


【王統管理者権限 _ _ 維持】


【王統継承者資格 _ _ 保持】


【旧王命令層 _ _ 重大競合】


【分類 _ _ 更新】


【反逆継承者カコ】

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