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白霧と少女

翌朝から、リアの日常は完全に変わった。


王宮の馬車に乗せられ、護衛騎士という名の監視を付けられリアは毎日、農地や市場、水路など、人の集まる王都各地へ向かうことになった。


「北西、農地の霧が濃くなっています」


「南側でも視界不良が発生」


「作物への被害報告あり」


報告は毎日のように届く。


異常な濃霧は、既にコルハ王国全体へ広がっていた。


東西南北の領地については、各地の高位貴族達が何とか対応している。


リアのように完全に消すことは出来ないが、魔力で散らすことは可能だった。


少しずつ被害は出ている。


だが、まだ“統治できる範囲”だった。


異常なのは、王都フォグとその近郊だ。


ただの霧のはずなのに、肌へ触れると熱を奪われる。


まるで、何か別のものが混ざり始めているようだった。


霧が濃くなれば生活はできない。


作物が採れなければ人は飢える。


だからリアは、ただそのためだけに力を使った。


だが、その扱いを巡って王宮内では意見が割れていた。


「平民なら使い潰せばよい」


国王は、冷淡に言い放つ。


「その程度で国が保つなら安いものだ」


それを止めたのが、レイだった。


「却下する、彼女は消耗品ではない」


父である国王に対して、一切譲らなかった。


結果、リアには定期的に休日が与えられることになった。


さらに時折、誰にも知られないよう仕立て屋へ帰されていた。


当然、レイの指示だった。


「……殿下は過保護ですね」


アルヴェインが呆れたように言う。


レイは書類から目を離さない。


「倒れられたら困る」


「それだけですか?」


レイは答えない。


アルヴェインも、それ以上は聞かなかった。


リアのいた町の住民達も不安を抱えながら日々を過ごしていた。


今では、あの町も霧に包まれている。


以前のような穏やかさはない。


「あの子が頑張ってるなら」


「リアちゃんは昔からそうだ」


「自分より他人を優先する子だった」


町の人々は、彼女を知っている。


皆から愛されていた。


畑へ立ち、リアは静かに目を閉じる。


すると彼女の周囲から、白い霧がほどけるように消えていく。


「……晴れた」


農民が呆然と呟く。


冷え切っていた空気が戻り、陽光が差した。


人々が、ようやく息を吐く。


それを一日に何度も繰り返す。


当然、身体への負担は大きかった。


王宮へ戻る頃には、リアの足取りはいつも重い。


それでも“大丈夫です”そう言ってしまう。


リアは、誰かが困っているなら放っておけなかった


王都南側の町ユーグで最後の霧を消していた。


力を使い終えた瞬間、膝が崩れ落ちる。


「お姉さん!」


近くで見ていた子供が慌てて駆け寄った。


リアは困ったように笑う。


「大丈夫よ」


だが、顔色は明らかに悪かった。


その日の夜、霧を鎮め終え疲れ切ったリアが王宮へ戻る。


侍女達が慌ただしく動く廊下の先に、黒髪の青年が立っていた。


レイはリアを見ると静かに口を開く。


「……今日は南側の町ユーグまで行ったそうだな」


声をかけられ、リアは少し驚いた。


「はい……」


「無理をして倒れられても困る」


短い言葉だった。


だが、そこには確かに気遣いがあった。


リアは目を瞬かせる。


怖い人だと思っていた。

冷たい人だと思っていた。


――なのに。


(殿下って、優しい……?)


そんな感情が、初めて胸へ浮かぶ。


その一方で、王宮の奥では別の動きが始まっていた。


王宮地下――“禁書庫”


そこは、王家でも限られた者しか立ち入ることを許されない場所だった。


アルヴェインは、薄暗い石造りの空間を歩いていた。


この異常について記されたものを探すためだ。


一般書庫は既に調査済みだった。


霧が濃くなり始めた時点で、レイ直属の従者達と共に確認している。


だが、記録は曖昧だった。


“白霧は王国を守るもの”


それ以上の記述がない。


だからこそ、アルヴェインはここへ来た。


王太子レイの許可を得て、“隠された真実”を探るために古びた書架へ指を滑らせる。


封印


継承


代償


断片的な単語だけが現れる。


そして、ある一文を見つけた瞬間。


アルヴェインの手が止まった。


『白き霧は、王を封じる』


「……王を?」


眉を寄せる。


意味が逆だった。


(白霧は、王国を守るものではなかったのか?)


濃い霧の遥か先では、何かがゆっくりと蠢き始めていた。

この辺りとか、しばらく途中まで何となくで書いているので分かりにくいかもしれません…

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