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6

完璧に整えられた姿勢、一切の乱れを許さない微笑みにリアは思わず背筋を伸ばした。


“圧倒される美しさ”


それ以上に、完成されていた。


王宮に相応しい人間とは、きっとこういう存在なのだと嫌でも理解させられる。


レティシアは静かにリアを見る。


頭から足先まで、値踏みするように眺めた。


( 儚げでありながら、整った顔立ち)


(身なりは質素で、所作にも洗練はない)


(隠しきれない平民の空気)


レティシアは、小さく息を吐いた。


「……本来なら」


静かな声だが刃のように冷たい。


「あなたのような風情が、殿下へ近づき口を利けることなど、あり得ませんの」


リアは怯え小さく震えたが、気にせずにレティシアは続けた。


「さっさとお帰りなさい、と言いたいところですけれど」


ほんの少しだけ眉を寄せる。


「……貴方には役目がありますもの」


「少々、もどかしいですわ」


空気が冷えていき、リアは言葉を失った。


自分は、ここにいてはいけない存在なのだと痛感する。


「レティシア」


レイの低く、静かな制止にレティシアは即座に一礼した。


「失礼いたしました、殿下」


口調は完璧だが視線だけは、まだリアを測っている。


そのとき再び扉が開いた。


「へえ、本当に連れてきたんだ」


軽い声に、続いて落ち着いた低い足音がした。


入ってきたのは、二人の青年だった。


ルシナス・ヴァルクレイン。


そして


レオニス・ヴァルクレイン


王族に連なる名門


王家を補佐する家系


だが双子でありながら、纏う空気は正反対だった。


ルシナスは興味深そうに部屋を見回し、からかうような声音で話す。


「王宮に平民の女の子がいるなんて、珍しいね」


一方、レオニスは室内の空気を一瞬で読みレティシアに声をかける。


「……やめておけ、レティシア」


「怯えている」


レティシアは少しだけ視線を逸らした。


「分かっておりますわ」


レティシアは返事をするが、本心からではないのが分かる。


その横でルシナスの視線が、リアへ向き、そして止まった 。


(――あ…)


あの日の記憶が蘇った。


幼い頃に路地裏で出会った、不思議な少女がそこにいた。


『……ここにいていいよ』


あの声


あの目


あの、霧の動き…


本人は覚えていないかもしれないが、彼女がかけてくれた言葉に救われて今ここにいる。


(また、会えた…今度は俺が…)


ルシナスの表情が、誰にも気づかれないほど僅かに変わる。


次の瞬間にはいつもの笑みに戻っていた。


全てを胸の内へ隠し、そして軽口のように言った。


「……可愛いね」


リアが困ったように目を瞬かせる。


レイの視線が僅かに鋭くなのを見て、ルシナスは心の中で笑った。


(ああ …なるほどね)


王宮の窓の外で白い霧が、不自然に揺らぐ。


アルヴェインは、廊下の窓から外を眺め静かに目を細めた。


王宮の中で、歯車が狂い始める。


王太子


白霧の少女


王家を補佐する双子


王太子婚約者候補


役者が揃う。


千年続いた封印は、静かに軋み始めていた。

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