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完璧に整えられた姿勢、一切の乱れを許さない微笑みにリアは思わず背筋を伸ばした。
“圧倒される美しさ”
それ以上に、完成されていた。
王宮に相応しい人間とは、きっとこういう存在なのだと嫌でも理解させられる。
レティシアは静かにリアを見る。
頭から足先まで、値踏みするように眺めた。
( 儚げでありながら、整った顔立ち)
(身なりは質素で、所作にも洗練はない)
(隠しきれない平民の空気)
レティシアは、小さく息を吐いた。
「……本来なら」
静かな声だが刃のように冷たい。
「あなたのような風情が、殿下へ近づき口を利けることなど、あり得ませんの」
リアは怯え小さく震えたが、気にせずにレティシアは続けた。
「さっさとお帰りなさい、と言いたいところですけれど」
ほんの少しだけ眉を寄せる。
「……貴方には役目がありますもの」
「少々、もどかしいですわ」
空気が冷えていき、リアは言葉を失った。
自分は、ここにいてはいけない存在なのだと痛感する。
「レティシア」
レイの低く、静かな制止にレティシアは即座に一礼した。
「失礼いたしました、殿下」
口調は完璧だが視線だけは、まだリアを測っている。
そのとき再び扉が開いた。
「へえ、本当に連れてきたんだ」
軽い声に、続いて落ち着いた低い足音がした。
入ってきたのは、二人の青年だった。
ルシナス・ヴァルクレイン。
そして
レオニス・ヴァルクレイン
王族に連なる名門
王家を補佐する家系
だが双子でありながら、纏う空気は正反対だった。
ルシナスは興味深そうに部屋を見回し、からかうような声音で話す。
「王宮に平民の女の子がいるなんて、珍しいね」
一方、レオニスは室内の空気を一瞬で読みレティシアに声をかける。
「……やめておけ、レティシア」
「怯えている」
レティシアは少しだけ視線を逸らした。
「分かっておりますわ」
レティシアは返事をするが、本心からではないのが分かる。
その横でルシナスの視線が、リアへ向き、そして止まった 。
(――あ…)
あの日の記憶が蘇った。
幼い頃に路地裏で出会った、不思議な少女がそこにいた。
『……ここにいていいよ』
あの声
あの目
あの、霧の動き…
本人は覚えていないかもしれないが、彼女がかけてくれた言葉に救われて今ここにいる。
(また、会えた…今度は俺が…)
ルシナスの表情が、誰にも気づかれないほど僅かに変わる。
次の瞬間にはいつもの笑みに戻っていた。
全てを胸の内へ隠し、そして軽口のように言った。
「……可愛いね」
リアが困ったように目を瞬かせる。
レイの視線が僅かに鋭くなのを見て、ルシナスは心の中で笑った。
(ああ …なるほどね)
王宮の窓の外で白い霧が、不自然に揺らぐ。
アルヴェインは、廊下の窓から外を眺め静かに目を細めた。
王宮の中で、歯車が狂い始める。
王太子
白霧の少女
王家を補佐する双子
王太子婚約者候補
役者が揃う。
千年続いた封印は、静かに軋み始めていた。




