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レイの去った後の家の中は、静まり返っていた。
先に口を開いたのは父だった。
「リア……少し、父さんは話がある」
その後は、亡き母について語り始めた。
南にある都市へ訪れた際に、病弱のため家を離れて暮らしていた母に初めて会ったこと。
母は周囲の制止も聞かず、父に着いてきた。
北方にあるハーヴェル侯爵家は、病弱な母を連れ帰ることは出来ず。
母は、実家から使者が訪れても追い返し、送られた手紙にさえ目を通そうとはしなかったという。
「そうだったんだ……私は、この家の娘で良かった」
リアは胸の奥に込み上げるものを感じながら、静かに呟いた。
(お母さんが実家と疎遠になっていなかったら……私は侯爵家で育っていたのかな)
もしそうだったなら、父のことも知らず、ルークやミイナと出会うこともなかっただろう。
レイと知り合うことも、なかったかもしれない。
そう考えると不思議と後悔はなかった。
今の自分で良かったと、リアは心から思えた。
「……ところでリア、王太子殿下とはどういう関係なんだ?」
父が慎重な面持ちで尋ねた。
「ミイナも知りたい!」
「お、おれも……」
ルークとミイナも興味津々といった様子でリアを見つめている。
三人の視線を受け、リアは観念した。
しどろもどろになりながらも、これまでの経緯を説明していく。
そして最後に、頬を赤く染めながら小さな声で付け加えた。
「それで……その、お互いに想い合っているというか……そういう関係です」
言い終えた途端、恥ずかしさで俯いた。
再び家の中は静寂に包まれた。
父は暗い顔で押し黙り、ルークは呆然と口を開けたまま固まっている。
そんな中、ミイナだけが目を輝かせていた。
「リア姉!すごい!」
真っ先に我に返ったミイナが声を上げる。
「なんだよ、それ……」
ルークは納得がいかないというように唇を尖らせた。
やがて父もゆっくりと現実を受け入れたのか、小さく息を吐く。
「……ハーヴェル侯爵家と向き合わねばならないな」
父は腹を括ったように頷いた。
翌日、リアは食材の買い出しのためルークと共に町へ出かけた。
「……守るって、あいつと約束したから」
そう言って、ルークは周囲を警戒しながら歩いている。
昨日、リアとレイが一緒に帰ってきた姿は、あっという間に町中の噂になっていた。
そのためか、町の人々はどこかよそよそしい。
リアは不思議に思いながらも買い物を済ませていく。
ルークだけは気付いていた。
一定の距離を保ちながら、こちらの様子を窺っている者がいることに。
視線を感じて振り返るたび、人影は路地の奥へ消えていく。
(あいつの言った通りだ、しばらく姉ちゃんを外に出さない方がいいな……)
ルークは密かにそう判断した。
帰宅後、ルークはミイナにそのことを相談する。
それからレイが迎えに来る日まで、ルークとミイナは何かと理由をつけてリアを引き留め、町へ出させなかった。




