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56

レイの一声で馬車が用意され、リアは家まで送られていた。


その隣には、当然のようにレイが腰を下ろしている。


あの日、想いを伝えてから初めての二人きりの空間は、妙に落ち着かなかった。


「あの……お忙しいのでは?」


リアは膝の上で指を絡め、不安げに問いかけた。


「問題ない、リアは気にしなくて良い」


レイは優しい眼差しを向けながら言った。


(意識してしまっているのは、私だけなのかな?)


平然としたレイの姿が、リアの心を乱していく。


(もともとそういう方ではありましたが……)


レイは隣で考え込むリアを、どこか愛おしげに見つめていた。


しかし、リアはそれにまったく気づいていない。


そうしているうちに、馬車はリアの家の前に着いた。


先に馬車を降りたレイは、当然のようにリアへ手を差し出す。


仲睦まじげに馬車を降りる二人を見て、近所の人々は思わず息を呑んだ。


レイを隣に感じながら家の前に立つと、リアは扉を開く手がかすかに震えるのを感じた。


「ただいま、お父さん…ルーク、ミイナ」


中へ足を踏み入れたリアは、少し緊張した声で言った。


奥で作業をしていた父が顔を上げるなり、目を丸くした。


「中へ入らせてもらう」


レイは父に視線を向けて言った。


ルークとミイナも勢いよく駆け寄ってきたが、途中でぴたりと止まる。


皆リアの後ろにいたレイを見て、完全に固まっていた。


「なっ……なんでお前が姉ちゃんといるんだよ」


先に反応したのはルークだった。


「だ、だめ……ルーク、そんな口の聞き方っ」


ミイナが慌ててルークの口を塞ぐ。


「あ、あの……王太子殿下…我が家へは、どのようなご用でお越しに……? 娘が何か……」


父は頭を下げたまま、おそるおそる尋ねた。


「かしこまらなくていい、リアを送り届けただけだ」


「それと……少し聞きたい。ハーヴェル侯爵家について、何か知っているか?」


レイは感情を表に出さず、淡々と問いかけた。


「ハーヴェル……侯爵家」


「ああ……あの、娘の亡くなった母……私の妻の実家でございます」


父は言いにくそうに、か細い声で答えた。


今度はリアが、言葉を失ったように目を丸くした。


(まさか、お母さんが侯爵家の令嬢だったなんて……知らなかった)


「それだけ分かればいい」


レイは父に短く言い放った。


「……ハーヴェル侯爵家は、娘を迎えに来るのですか」


父は唇を噛むように呟いた。


「そうはさせない。……私が困る」


レイは迷いなく即答した。


「は……?」


父はその意図が分からず、ただ口を開けてレイを見つめていた。


ルークは何かを察したように、レイを睨みつける。


ミイナは口を押さえたまま、信じられないものを見るように目を見開いていた。


「王宮へ来るとき、何者かに後をつけられていた。家にいる間は守ってくれないか?」


レイはルークへ薄く笑みを向け、そう告げた。


「い、言われなくたって……守るし」


ルークは不満げに言った。


「頼んだ」


レイはルークをまっすぐ見据える。


「ああ……頼まれた」


ルークは強い意志を込めて答える。


レイはふっと優しく微笑んだ。


「用は済んだ、これで失礼する」


そう言うと、レイはリアを大切そうに見つめた。


「次は、迎えに来る」


そうリアに告げると、レイは静かにその場を後にした。

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