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レイの一声で馬車が用意され、リアは家まで送られていた。
その隣には、当然のようにレイが腰を下ろしている。
あの日、想いを伝えてから初めての二人きりの空間は、妙に落ち着かなかった。
「あの……お忙しいのでは?」
リアは膝の上で指を絡め、不安げに問いかけた。
「問題ない、リアは気にしなくて良い」
レイは優しい眼差しを向けながら言った。
(意識してしまっているのは、私だけなのかな?)
平然としたレイの姿が、リアの心を乱していく。
(もともとそういう方ではありましたが……)
レイは隣で考え込むリアを、どこか愛おしげに見つめていた。
しかし、リアはそれにまったく気づいていない。
そうしているうちに、馬車はリアの家の前に着いた。
先に馬車を降りたレイは、当然のようにリアへ手を差し出す。
仲睦まじげに馬車を降りる二人を見て、近所の人々は思わず息を呑んだ。
レイを隣に感じながら家の前に立つと、リアは扉を開く手がかすかに震えるのを感じた。
「ただいま、お父さん…ルーク、ミイナ」
中へ足を踏み入れたリアは、少し緊張した声で言った。
奥で作業をしていた父が顔を上げるなり、目を丸くした。
「中へ入らせてもらう」
レイは父に視線を向けて言った。
ルークとミイナも勢いよく駆け寄ってきたが、途中でぴたりと止まる。
皆リアの後ろにいたレイを見て、完全に固まっていた。
「なっ……なんでお前が姉ちゃんといるんだよ」
先に反応したのはルークだった。
「だ、だめ……ルーク、そんな口の聞き方っ」
ミイナが慌ててルークの口を塞ぐ。
「あ、あの……王太子殿下…我が家へは、どのようなご用でお越しに……? 娘が何か……」
父は頭を下げたまま、おそるおそる尋ねた。
「かしこまらなくていい、リアを送り届けただけだ」
「それと……少し聞きたい。ハーヴェル侯爵家について、何か知っているか?」
レイは感情を表に出さず、淡々と問いかけた。
「ハーヴェル……侯爵家」
「ああ……あの、娘の亡くなった母……私の妻の実家でございます」
父は言いにくそうに、か細い声で答えた。
今度はリアが、言葉を失ったように目を丸くした。
(まさか、お母さんが侯爵家の令嬢だったなんて……知らなかった)
「それだけ分かればいい」
レイは父に短く言い放った。
「……ハーヴェル侯爵家は、娘を迎えに来るのですか」
父は唇を噛むように呟いた。
「そうはさせない。……私が困る」
レイは迷いなく即答した。
「は……?」
父はその意図が分からず、ただ口を開けてレイを見つめていた。
ルークは何かを察したように、レイを睨みつける。
ミイナは口を押さえたまま、信じられないものを見るように目を見開いていた。
「王宮へ来るとき、何者かに後をつけられていた。家にいる間は守ってくれないか?」
レイはルークへ薄く笑みを向け、そう告げた。
「い、言われなくたって……守るし」
ルークは不満げに言った。
「頼んだ」
レイはルークをまっすぐ見据える。
「ああ……頼まれた」
ルークは強い意志を込めて答える。
レイはふっと優しく微笑んだ。
「用は済んだ、これで失礼する」
そう言うと、レイはリアを大切そうに見つめた。
「次は、迎えに来る」
そうリアに告げると、レイは静かにその場を後にした。




