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王宮へ向かう少女

数日後、王家の馬車が再び町へ現れた。


本来なら、王宮への召喚は使者一人でこと足りる。


実際、側近たちもそう進言した。


「殿下自ら向かわれる必要はありません」


アルヴェインが静かに言う。


「現段階では力の危険性も不明です」


「王宮へ移送するだけなら騎士でた足ります」


だが、レイは書類から目を離さずに言う。


「……私が行く」


有無を言わせない声だった。


理由は自分でも分からないが、あの少女が頭から離れない。


霧を消す異質な力、記録に存在しない現象


利用価値は高く、危険性もまた同等に高い。


国で管理し、必要なら使い、壊れたらそれまでだ。


そう判断すること自体は、正しいはずだった。


だが、説明のつかない感覚が胸の奥に残っている。


(あの怯えた目が、忘れられない)


触れれば壊れそうに儚く、それでいて人の痛みや霧そのものへ干渉する少女が何故か気になってしまう。


レイは初めての感覚に困惑していた。


小さな仕立て屋へ向かうと、町全体が息を潜めていた。


王家直属の騎士たち、そして王太子本人の訪問は平民にとっては災害に等しい。


二度目ともなれば、それは厄災そのものだ。


レイは静かに馬車を降りた。


騎士たちが周囲を固める中、静かに店の扉へ向かう。


事前通達は済んでいる。


王宮への同行命令、拒否権はない。


扉を叩くと内側から扉が開き、リアが出てきた。


レイの姿を見た瞬間、わずかに肩が震える。


レイはまた胸が中が痛んだ。


無意識に王族への恐怖、権力への警戒を感じている。


その後ろで、リアの父が静かに頭を下げていた。


仕立て屋の男は何も言わなかった。


いや、言えないのだ。


王家に逆らえばどうなるか、理解しているからだ。


静かな時が流れる。


その空気を破ったのは、幼い声だった。


「やだ……!」


小さな少女が、リアへしがみつく。


ミイナ


店を手伝う元孤児の少女


その隣では、同じ元孤児の少年――ルークが必死に涙を堪えていた。


数年前にパンを盗もうとしていた所をリアが止め、家に連れて来た元孤児達だ。


「リア姉ちゃん、行っちゃうの……?」


「帰ってこないの……?」


リアの表情が揺れる。


だがすぐに、無理やり微笑んだ。


「大丈夫よ」


しゃがみ込み、二人の頭をそっと撫で優しく声をかける。


「少し王宮へ行くだけ、また帰ってくるわ」


レイはその様子に心打たれた。


自分も不安なはずなのに、安心させるように微笑んでいた。


それでも、子供たちは不安を隠せない。


王族だと分かっていても、怖くてもルークはレイを睨んでいた。


自分を助けてくれた大切な人を連れて行ってしまう相手だった。


レイは何も言わず、その視線を受け止めた。


ただ、胸の奥に妙な感覚が残る。


リアは立ち上がり、小さく息を吸い父へ振り返った。


「……行ってきます」


父は少しだけ目を伏せる。


「……ああ」


それだけだった。


娘を守れない。


平民である以上、王家には逆らえない。


その現実を重く受け止めていた。


やがてリアは、静かにレイの隣へ並ぶ。


(私は逃げない、泣かない…)


ただ、怯えを押し込めしっかりと前を見て立っていた。


レイは一瞬だけ、その横顔を見る。


その横顔は、あまりにも頼りなく儚く見えるが、幼い二人を不安にさせないように気を張っているのが分かる。


「行くぞ」


短く告げるとリアは小さく頷いた。


レイは少女の意思の強さ、その強かさに心惹かれた。


馬車の扉が閉まり、ゆっくりと動き出す。


ルークとミイナの泣き声だけが、遠ざかっていった。


王宮へ向かう馬車の中でリアは窓の外を見ていた。


王都の町並みが流れていく。


リアは、もう元の日常には戻れない、そんな予感だけがしていた。

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